小さなツナの缶詰。齧る。

小説・漫画・雑誌の感想が主です。

「BRODY 2019 DECEMBER」‐読んで結論、「能町みね子」研修生になろうと思った。-

 

 

あの時があったからこそ今がある。

 

「BRODY 2019 DECEMBER」(白夜書房 2019年)の話をさせて下さい。

 

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【概要】

やっと会えたね

坂道研修生

 

坂道合同オーディションセレクション審査において落ちた彼女達が、

研修生としてレッスンを積み重ね、この度ツアーを行う。

謎に包まれた彼女達の全貌が今、明らかに。

 

特集

●坂道研修生(遠藤光莉/大園 玲/大沼晶保/黒見明香/幸阪茉里乃/佐藤璃果/髙橋未来虹/林 瑠奈/増本綺良/松尾美佑/松岡愛美/森本茉莉/守屋麗奈/山口陽世/弓木奈於)

●賀喜遥香

欅坂46東京ドーム伝説の2DAYS:尾関梨香×小池美波

今泉佑唯

沢口愛華

高崎かなみ

MEGUMI×吉田豪

 

【読むべき人】

・元研修生の中に推しがいる人:推しの歴史として。

・ずーみん推し:グラビアが最高なので。

MEGUMIが好きだった人:過去について赤裸々に語る。

 

【感想】

2019年12月号だけれども、最近買った。

昨年2月の配属発表SHOWROOMから、

櫻坂(欅坂)新二期組箱推しになり、特に大園玲さん推しになり、

当時の彼女達がどのような気持ちで日々「坂道研修生」として過ごしていたのか・・・

気になって、ブックオフオンラインで買ってしまった。

 

2019年12月号・・・2019年11月だから、今現在(2021年4月)から見ると、1年5か月前の号ではあるが、アイドルにとってそれはもう2年・3年に匹敵する時間だと思う。

表紙を見て改めて思った。

みんな現在とは違う顔をしている。

垢抜ける前、羽化する前の顔。

我らが推し大園玲さんもふくふくしてたっけか?と思う。毎日毎日見ていたから気づかなかったけれども今大園さんはもう少しシュッとしていて色んな表情をするようになった。当時の彼女も初々しくて愛らしいのだけれども。

髙橋未来虹。日向坂3期に配属された彼女はどまんなかでにかり笑っているが、ついこの前のグラビアで魅せた美脚はため息モノだった。

林瑠奈。乃木坂4期に配属された彼女は今でこそ個性爆発しているが、こんなに自信ない表情していた時があったのか。

彼女達の歴史となった本書は、1ページめくる度に新しい発見がある。

 

 

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後列左から二番目が大園玲さん。この頃もこの頃で悪くないが今の方が圧倒的に良いのは確か。

 

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右。大沼ちゃんが今よりもぽへらとした顔をしている。

 

1年・・と3か月。の間で大園さんはじめ彼女達はこんなに成長したのに、その間僕は何をしていたのだろう。

レジがとても速く打てるようになった

・商品を売れる販売員になった

・文章を書くようになった、ブログを本格再始動しぎりぎり続けられている

・「作家になる」思春期に描いた夢を現実的に考えるようになった

ADHDの薬・ストラテラを飲むようになった

・社会に無理矢理合わせるのではない。自身がやはり社会不適合者である事実を受け入れられるようになり、そこからどのようにしたら日々生きてけるのか・・・にシフトチェンジした。

リスカをしそうになった。

・でもなんとか生きていられた。

・全身のカサブタを齧り出血が止まらなくなった。

・母親の病が少し悪化した。

・誰にも相談しなくなった。

・私は私以外私ではないので常に一人で生きていかなきゃいけないことを身にしみて感じるようになった

・30までに、と思う回数が増えた

・ぬいぐるみをたくさん買うようになった

・現実が辛くそれでもちょくちょく死にたいと思う・・・のは昔から変わらない、か。

 

思うがままにつらつら書いたが、

総じて、「社会不適合者である自分を受け入れ、とにかく書くようになった」。

書くこと、文字打つことがある限り、

欠陥を代償に脳味噌に浮かぶ無限の数々の何かをを僕が文字で全て打ち終えない限り、

まだ僕は死ねないし、まだまだ僕はたくさん書いて書いて書いて僕の書いたもの読んで読んで読んでもらいたい。

初めて自分で自分を変えたくてオーディション受けた鹿児島県の少女のように僕も、生きるために変わるために書かなければならない、のかもしれない。

文字、イラスト、絵・・・なんでもなんでもなんでも。

彼女が羽化し舞い始めたように、僕にもそういった日がいつか来ると信じて。

日々の苦しい生活・現実を嗜めながら書かなきゃならない。

 

とかいいながら、ブログの更新頻度うっかりすると落ちちゃったり、するんですけど。

 

坂道研修生のこあっちがオーディションに一回落とされ、一時期坂道から離れ涙を流していたように、

僕も多分今結構悔しい。ああそうだ、悔しいのだ。

何故僕の家族だけこのタイミングで大病に襲われなければならないのか。何故中学高校時代あんなに勉強頑張ってそこそこMARCH行けたのに仕事が全くどうしてこうも出来ないのか。何故凄く真面目に頑張っていても真面目に見られないのか。何故僕が毎日毎日一番頑張っていてもそれを見てくれないのか。何故僕がパートの身にありながらサービス残業を家でも強いられなければいけないのか。何故僕だけ今までメスの童貞であり続けなければいけないのか。何故僕だけこんなに生きるのがへたくそなのか。何故僕だけこんなパートの身に身をやつさなければならないのか。何故僕だけこんなに貧しいの何故僕だけ・・・・それを、総じて抱きしめて書いて誰かに少しでも届けば僕は報われる。

僕は作家になりたい。というかエッセイやら文章やら小説やらで食っていき痩せて「美人作家」としてほやほやされ地道にラジオをやっていくような、能町みね子のような感じで生きていきたい。

社会に上手く馴染めない自分を、総てポジティブなエネルギーにして排出して、生きて、生きて、生きていかなくてはならない。

読んで読んで読んで書いて書いてしまえよ。

それがここ最近特にうまくできていなかった、

ああそうか。

ああ、今僕は悔しいのだ。

 

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裏面は乃木坂の宣伝。

坂道研修生

・遠藤光莉:坂道研修生の者h審が公開された時は彼女が一推しだった。今は二推し。メッセで毎週金曜のダンス道が楽しみにしてたけど最近こおへん。

・大園玲:振り向きざまの三白眼は昔から変わらない。その顔が特に好き。

「以前の自分は、「自分って何なんだろう?」と思っていたけど、初めて自分の為に自分で受けたのがオーディションだったので」p.11

・大沼晶保:僕もこういうミラクル起こしちゃうほうなので常に共感してるけど、メッセで送ってくるオカリナはうるさい。

・黒見明香:未来のファンの期待に応えるために勉強するのは凄いと思った

・幸阪茉莉乃:絶対この子は櫻の方が合っていた。乃木だと埋もれて終わり。

・佐藤璃果:圧倒的顔面力。コンビニ新商品調べるのが趣味なのは凄い。

・髙橋未来虹:以下のエピソードがエモいと思った。

欅坂46さんのライブで2期生の方を見て森本が泣いてたんです。ここで私まで泣いたらダメだなと思ってギュッと抱きしめました」p.26

アザトカワイイのMVの跳び箱飛んでくるシーン凄い好き。

・林瑠奈:意外とアウトドア

・増本綺良:表現の仕方が不器用なだけで優しく真っ直ぐな人だと思う。

「(アイドルとは)人を動かす仕事かなって思います。心も体も。ライブに足を運んでくださったり、アイドルのことを活力に仕事をしたり。それって動かすって行くことですよね」p.32

・松尾美佑:この子も顔面偏差値高いよね。

「坂道グループが大好きな友達から、「オーディションを受けてみなよ」って勧められました。「平成最後の夏だから」って言われて」p.35

・松岡愛美:影山の握手会行くほどのガチだったとは知らなかった。唯一の坂道研修生からの辞退者。刑事とか警察・司法関連に行くのだろうか。

・森本茉莉:インタビューから出るすでにこいつは日向坂感。

・守屋麗奈:櫻(欅)だからこその王道・乃木坂感が映える存在。最近中身も開花してきて、その・・・選抜おめでとうございます。これは本当僕も嬉しかった。

・山口陽世:6人兄妹なのは初めて知った

・弓木奈於:芸能界齧っているだけあって、もう既に完成されている。乃木坂で早く人気になって選抜とって。乃木坂で今一番美しいと思う。

 

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研修生の色は「白」でしたね。

 

乃木坂TOKYOFILM

賀喜遥香×品川

顔面に特徴がないので、遠藤とは並ばないかなと思っていましたが、こうやって見るとやっぱ完成度高いですね。特に顔大きいのがいい。彼女の微笑みが、癒しが、切なさが、喜びがページ越しに120パーセント伝わってくる。

 

欅坂46

夏の全国アリーナツアー2019 東京ドーム公演レポート

この時平手調子よかったっぽいんですよね。あと映画で見た「角を曲がる」とか見るとああ行っておけばよかったなぁ・・・と思う。結果として平手の最後の大ステージとなったこのライブが、「欅坂のクライマックス」となりましたね。どの写真見ても平手がいい表情をしている。

円盤出たんだけど・・・買ってないんですよね。高いから。見たい。結構滅茶苦茶見たいけど・・・。

小池「(欅坂初の選抜制度で落ちているので、)私は自分の思考が固まらないままツアーを迎えたから、苦しくなることもありました。気持ちが落ちてきたんですけど、それがどんどん悔しさに変わってきて。そういう気持ちって、今まで知らなかったんです。たくさん経験をして、また頑張れたらいいなと思います」p.70

 

今泉佑唯

本当被写体力としては最強なんですよね。今泉は。卒業後もブロディとarが追っていたのもよく分かる。

小さな身体から発せられる眼力、圧倒的オーラ、存在感。

我儘で性格に何ありそうな感じと、その印象に伴う実際難有なその性質。

危うさすら感じる光。

でもそれを総て超えるファンへの愛。

全日本国民の末っ子今泉佑唯

この時は「ミリオンジョー」「左ききのエレン」等サブカル女優としての一歩踏み出したころの初々しいインタビューが掲載されています。

本当僕はこの頃の今泉は軽く推してた。初めて欅坂の「絆」を断ち切った彼女のその先の未来は明るいものが待っていると信じていた。無邪気に。

彼女のグラビアの直後には、矢作萌夏の写真集の広告が掲載されている。

・・・1年2年でアイドルは劇的に変わる。だから今日推しが無事にアイドルしていることに感謝して、本当「推すなら今しかない」ってこういうことなんだと思う。

後々「裏切られる」ことになっても、存在し続てくれていた今日が決してなくなるわけではないから。

 

沢口愛華

最近まとめサイトのグラビアの記事を見ると名前が挙がることが多いですね。

でもまぁ僕(メスの童貞)の目から見ても、十分にエロいです。

特に、胸元・・・ではなく下半身エロくないですか?どちゃくそエロいですよね?下半身。特にその・・・下半身の前半分当たり。なんでこんなにエロいんだろう。ウエストのラインの関係か?それとも位置がエロいのか?いや、そもそも位置って何だ???

 

高崎かなみ

この子はminaでモデルとしても出ていましたね。モデル・グラビア両立し手成り上がった存在に内田理央がいますが・・・この子は・・・うーん。

何がうーん、なのかというとグラビアが美しいんですよ。美しい。絵になっている。

だから僕(メスの童貞)の下半身に何も来ないんですよね。

ただ「あー可愛いなー」で終わってしまう。

何なら彼女より脱いでいない今泉佑唯の方がエロく感じられる。

でもグラビアってそれじゃあダメじゃないですか。

なんだろうなぁ・・・表情が固いのがダメなのかなぁ。

 

MEGUMI×吉田豪

僕(1993年生まれ)にとってのMEGUMIっていったらもう、「バラエティで活躍するグラビアアイドル」だったんですよね。グラビアをあまり知らない。

でも後にも先にも、彼女ほどの存在感をもってバラエティに君臨していたグラビアアイドルって、小倉優子ことゆうこりんくらいしかいないと思うんですよね。なので次は吉田さんには小倉優子りんと対談していただきたいと思います。何気なく今のアイドルに有象無象している「○○星からきたの~」系の元祖だと思うので。

閑話休題。そしてインタビュー内容は・・・凄いです。なんかグラビア誌ではなく女性ファッション誌か?ってくらいなんかここだけ違う。

バラエティを駆け抜け家庭をもちそして今事業化としても活躍する彼女の人生観に打ちのめされる。

歌手をやりたくて芸能界入ったのに実際CDが全く売れなかったことに対して「ビックリするくらい売れなかったんですよね」p.116。家庭を持ち作った子供服ブランドを「結局5年ぐらいで大赤字でやめちゃいましたね」p.117

あっけらかんと語るのが格好いい。

そしてその失敗から「(バラエティ等)求められていることを一生懸命やろうってことに会社も私もなりましたね」p.116「ひとりでやるとダメなんだなって。誰かと組まないとダメだし、ある程度のお金をかけないと市場は大きくなっていかないし」p.117と身をもって学び、そこからさらに挑戦を続けていくそのパワフルさ。

僕もへこたれてばかりではダメだなと思いました。

その彼女の挑戦の仕方も具体的に触れられているのが良かった。

「なんで芸能人って事業計画を書かないんだろうと思って。どんな小さな喫茶店だってホームページと事業計画は作るだろ、みたいな。」p.118

失敗でくよくよしている20代の日本人女性はこれ読みましょう。

 

NEW ARTIST VOICE

真っ白なキャンバス:当時(2019年12月)から今(2021年3月)にかけてもう結構メンバー変わってて悲しい。

矢崎希菜:事務所のプロフィール写真昔過ぎて涙出ますよ。もっとえちえちにしろ!

斉藤瑞季2.5次元ミュージカル中心に活躍する・・・予定だった、子ですね。コロナで公演がフイになってしまったので。これからの注目といったところでしょうか。

 

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ファンクラブのカレンダー買ったら4月から早々大園さん出てきてもう5月以降変えられないじゃんになっている。右も同じく研修生の大沼さん。

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大判カレンダーの大園玲さんと同じく研修生出身遠藤光莉。一推し二推し。

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を、無事にBANのCDでゲット。遠藤はTYPEB、大園さんはTYPECで出た。TYPEAではべりか、TYPEDではさらに遠藤を引くことに成功。でもできれば大園さんにもう一回会いたかった。

 

以上である。

推し達の歴史の記録として購入したけれども、MEGUMIのインタビューや今泉のグラビア等他のところにも結構見ごたえがあった。

これだからアイドル雑誌ってあなどれないんだよな・・・。

 

***

LINKS

文中で触れた欅の映画

tunabook03.hatenablog.com

 

 

山下和美『不思議な少年2』-一生をかけてすることは、-

 

 

 

今回も素晴らしかったです。

 

 

 

山下和美不思議な少年2』(講談社 2002年)の話をさせて下さい。

 

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【あらすじ】

人間て不思議だ。

 

戦後の日本、神に愛された声を持ちながら、誰にも理解されずに生きる男の生涯。

その飽くなき探求心で死をも知ろうとする古代ギリシアの哲学者・ソクラテス

遥かな未来、人からも神からも忘れられた土地に、二人きりで静かに生きた夫婦。

無罪を主張する青年と、妻を介護する老人が起こす、百万年に一度のキセキ。

 

人間が、ただ人間らしくあろうとする時、忽然と現れる一人の少年。

永遠の時を旅する不思議な少年が見た、「人間」の煌めく光と深い闇。

「天才 柳沢教授の生活」の山下和美が、時を超えた人間の心のひだをあざやかに描き出す新シリーズ、待望の第2巻!

 

裏表紙より

 

収録作

4 鉄雄

5 ソクラテス

6 タマラとドミトリ

7 レスリー・ヘイワードと山田正蔵

 

【読むべき人】

・人生とは何かとか考えちゃう人

・人間とは何かとか考えちゃう人

・幸せとはとか考える人(4 鉄雄)

ソクラテスに関心のある人(5 ソクラテス

ディストピアものが好きな人(6 タマラとドミトリ)

 

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【感想】

久々に読みました。一巻からだいぶ間があいてしまった。

第二巻。

第一巻を借りた貸しコミック屋で同じく借りました。久々に行った。というのも自分も買ったコミックをなかなか積んでいてな・・・。

でも、第一巻がそうだったように、今巻も開かずに延滞するところでした。

それくらい、この漫画を読むには覚悟がいるんですよ。

だって読むと絶対泣くだろうから。泣いたけど。

 

1巻と基本同じです。不思議な少年」が古今東西現在過去未来様々な人々の様々な場面のもと突如現れどうどうこうこう言って、運命が変わったり変わらなかったりする。

運命が「変わった」といえば「7 レスリーヘイワードと山田正蔵でしょうか。ある奇跡の為に少年が四苦八苦します。これだけ少年が関わろうとするのも珍しい。

運命が「変わらなかった」といえば、「5 鉄雄」「6 ソクラテス。これは少年の介入が空しいくらい効果がない。いいぞ人類。がんばれ人類。

運命が「変わらなかった」が、ある意味「変わった」というのは「7 タマラとドミトリ」でしょうか。これが一番涙腺に来た。殴られたように泣いた。

 

以下簡単に各話感想を述べていく。

ネタバレあり。

 

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第四話 鉄雄:戦後、歌の才能に恵まれた一人の青年がいた

鉄雄「結局 大事なのは僕が誰に向かって歌ったら気持ちいいかってことじゃけん」p.48

鉄雄の人生は、少年(読者)から見れば非常に悔しい一生なんですよ。世界に通用するありあまる才能があるのに活かせない、活かさない。原爆から逃げ延びたはいいものの、母親をその後遺症で失い、自分自身もその後遺症によって比較的若くして死ぬ。ただの一被爆者として死ぬ。

その短い一生の中で、

唯一歌うのを喜んでくれたのは疎開先の美少女だけで、

琴子「あたしたち いつも一緒だからね」p.24

彼女も町の青年と結婚してしまう。

要領も良くなく容姿も優れていない鉄雄はもくもくと、疎開先の牧場で労働に励む。琴子と青年が子をなし一家団欒するその真横で・・・。

なんて哀れな男の一生。

時々鉄雄は己に問う訳ですよ。

鉄雄「僕は・・・何のために歌ってるんじゃ?」p.29

唯一歌を喜んでくれた琴子も街の青年と結婚してしまった。

じゃあ一体誰のために?何のために?

死の直前に出した鉄雄の答えとは・・・。

僕は、ある程度鉄雄は自分の人生に満足していたと思うんですよね。

人並みに愛情厚き母親の元で育ち、ようやっと流れ着いた疎開先の北海道でも好感もって受け入れられ、自身の日々の勤労ぶりもある程度認められている。確かに琴子との初恋は惜しいけれども、もともと容姿が醜い自分と彼女が結びつく未来なんて想像できなかったから、仕方のないことだった。

そして最期、生涯自問自答していたこと・・・自分が歌う意味を見つけることが出来た。

凄いいい人生・・・とまではいかないかもしれませんが、身分相応のそれなりの幸福な人生だったと思います。少なくとも彼にとっては。

その人生につべこべ言うのはやはり不思議な少年のエゴに過ぎず、それを自覚していたからこそ、少年は最後悔しかったのでしょうね。

少年「僕は君の歌を本気で愛してたんだ」p.52

でもそれがエゴだとしても介入せざるをえなかったんだ。

それくらい、君の歌声は素晴らしいものだったんだ。

僕の心に響いたんだ。

悔しいんだ、悔しいんだよ、鉄雄・・・。

 

第五話 ソクラテス:少年が降り立ったのは、処刑を待つソクラテスだった。

ソクラテス「話し合わないと意味がないのだ 見ただけでは・・・・・・分からないのです・・・・・」p.101

ここでまさかのソクラテス!?に驚いたし、

ソクラテスそんな顔してたの!?で驚いた。めっちゃおめめきゅるきゅるやんけ。

まぁでも無知の知とか平気で言っちゃうんだから、これくらいピュアっピュアだったのかなぁ。

にしても対照的なプラトン馬鹿真面目っぷりもいいですね。

 

後半、現代日本に飛んできたときは「????」と思いましたが、要するに彼の考えが現在でも十分に通じることを描きたかったのでしょう。

中盤カントが出てきて対話を試みるソクラテスを無視するシーンがありましたが、それもソクラテスが唯一「対話」を試みる哲学者であったことを強調するためでしょう。著名な哲学者は数いれど、そのほとんどの哲学が一人で完結する学問だった。しかしソクラテスが取り組んだ学問は、他者の会話をベースとしたものだった。非常に奇異で特殊な存在。哲学よく知らんけど。

途中に出てくる弁論家ゴルギアスの存在といい、毒人参の服用の仕方といい、恐らくこの一編を書くのに相当な量の資料を読み込んだと思います。

ある意味「不思議な少年」の一遍、よりかは西洋史の「ソクラテス」の漫画として面白い中編かなあと思う。ソクラテスの特徴、当時の詳細、時代考察から、現在にも通じる「無知の知」の実用まで、全部網羅しているわけだし。

 プラトン「あなたの無実を晴らしてみせます ソクラテス先生」p.85

 にしてもやっぱりプラトン(笑)

生前は「先生」ついてないのに、死後「先生」ついてた、ってことはやっぱりアテナイの法に従って死を選んだことに対して敬意があるんでしょうね。自分には到底真似できないとでも思ったんでしょう。

 

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表紙もよく見ると「タマラとドミトリ」仕様の少年



 

第六話 タマラとドミトリ:森の果てで滅びゆく民族・ララ族の夫婦の軌跡。

タマラ(14)「私をどこかに連れて逃げて お願いっ」p.151

森のはてて、滅びゆくララ族の唯一の若い女であるタマラ(14)が、唯一の若い男であるドミトリ(36)*1と結婚するところから物語は始まります。

22も歳が離れていて無口で動作は乱暴目付きも鋭いドミトリを、タマラは勿論嫌で嫌で仕方なく、突如現れた不思議な少年に縋り付く。

すると少年は

少年「10年たったらまだ出たかったら”北”へ向かうんだ」p.160

 これ結論から言うと、タマラは森を出ず一生を終えるんですが、それがまた凄くいいんですよね。もう涙腺にきて延々泣いてしまった。

 

初めの10年間タマラは逃げたくて逃げたくてたまらないわけで、実際10年後逃げようともするんですが、結局ドミトリに見つかってしまいます。でも彼は叱らなかった。

分かっていたんでしょうね。彼なりに。

22歳下の花嫁の気持ちを。*2

二回りも年上の自分と森の中で暮らすより、年齢の近い金髪の美青年と一緒になって逃げたいであろうし、、そしてそれは彼女にとっての幸福となりうるだろう。

だから叱らなかったし、その彼女の我儘を受け入れるほかなかった。

そしてそのドミトリの優しさを、初めてタマラも実感した・・・。

タマラ(24)(何故怒らないの?怒ってよ・・・ねえ・・・・・・)p.192

タマラはその優しさを受け入れ、

物静かな二人の暮らしが続いていくわけです。

 

それは決して恵まれた環境とは言えないけれど、

タマラ(60くらい)「よいしょーーーーーっと。まったくもうドミトリが無口なもんだから独り言が増えちゃったわ」p.195

幸福な日々だったと思います。

それでもタマラは、

タマラ(60くらい)「私はこのまま一生終わるのかしら・・・・・そんな人生もある・・・・・・と思えばそれでいい」p.196

最後に森から出ることを決意、

そしてそれを年老いたドミトリは

ドミトリ(82くらい)「送ろう」p.198

受け入れて、送り出すんですよね。

 

そこでタマラは少年と三度目の遭遇をするわけですが、

タマラ(60くらい)「帰るわ あの人最近動くの大変なの」p.105

自分で帰っていくわけです。

 

なんかもうこのシーンが本当に涙腺に来て!!!めっちゃ泣いてます。てか今も泣きながら打ってます。

多分二人は結婚した時は形上の「夫婦」に過ぎなかったんですけど、長い年月がそして少年の悪戯が彼等を内実共に「夫婦」にしたんだなぁ・・・と。

 

最後タマラがドミトリの墓に語り掛けます。

タマラ(90くらい)「えっ 何処にも行きゃあしないわよ めんどくさいもの ふふふ」p.208

 

私が私の一生でしたことは・・・・・・

たった一つだけ・・・・・・

たった一人の人に出逢ったということだけだった 

それでいい

それで十分 pp,209-210

 

涙腺崩壊です。ありがとうございます。

でも冷静に考えると、「たった一人の人に出逢う」ことすら現代ではなかなか難しいわけで、そういった意味でもタマラは本当に幸福だったのだと思います。

そしてそれを彼女に自覚させるために、少年は茶々をいれたのでしょうね。

少年「君は光の中にいるときに暗闇しかさがさない人間だからね」p.204

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第七話:レスリー・ヘイワードと山田正蔵:ハリウッドで活躍する俳優は銃弾から逃げていた。そして山田正蔵は介護している妻を・・・。

全く関係ないように見えた話が最後のページでがっつり結びつく。

その最後のページの偉大さ・尊大さに胸が打たれる、という旨の中編だと思うんですが、いやまあ正直全く頭に入ってこない。

いやこの第七話も素晴らしいんですよ。

山田正蔵の葛藤とかね、レスリーの真実とかね、何ならレスリーを撃とうとした黒人青年の心境とかね、読みどころいっぱいあるんですけど、第六話でガツンとやられちまって、

最後

少年「今日は人類が誕生して最初で最後の奇跡の日になったんだ

世界中で殺人が一件もなかった奇跡の日に・・・」pp.259-260

いわれても

ほおん

しか思わないんですよ!!いやもうこれは順番が悪い!!順番が悪いとしか言えない!!なぜこれを最後に持ってきた!!レスリーグラミー賞とか正蔵の家族間の問題とかもうほんとへの河童に思えちゃうわけですよ!!あんな美しい夫婦の物語を見せられたら!!!でもこれも良作!!秀作!!凄いいい作品なんですよ!!!でも頭に全く入ってこないんですよ!!!だってその前がこれを凌ぐ名作だったから!!名作だったから!!!

あークソ!!!あークソ!!!順番が惜しい!!あークソ!!!!!

全然頭に入ってこねえよ!!!殺人が起きない日とかどうでもいいよ!!!どうでもよくないよ!!!世界平和万歳だよ!!!!!!

 

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相変わらずの厚さ



 

以上である。

今回もなかなか良かった。

強いて言うなら収録順が残念だった。

これに尽きる。

 

あとやっぱこの作品の主題って人生なんでしょうね。

不老不死の美少年が主人公だからこそ、その反対・・・老いて死なざるをえない登場人物(と僕達読者)の人生について考えさせる。

どのように生きてどのように死ぬのか。

その対照として配置されたのがこの少年ってことなんだと思います。

 

いやー、3巻もね、早く読みたいけど読みたくないかな。

だってまてこんなに殴られたように衝撃受けて、泣いたら、疲れちゃうし。

とりあえず、たまっている積み漫画片づけてから考えます。

 

***

 

LINKS

収録された「ソクラテス」は哲学の実用を試みた作品でしたが、

それで延々やっている名作学園漫画の感想。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

*1:高橋ジョージ三船美佳元夫妻の年齢差が24です。

*2:でも高橋ジョージは分からなかったみたいですね。現実は甘くないんだ・・・。

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス1-2』-恋は彗星直下のように。-

 

 

台湾・中国って可愛いよね。

 

 

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス1-2』(集英社 2020年)の話をさせて下さい。

 

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てか、今これ出版社見て思ったけどヤングジャンプなのか。ハルタとか絶対そっち系だと思ってた。てか調べたら「恋は雨上がりのように」も小学館で週刊だったんだ・・・それでこれって天才でしょ。

 

【あらすじ】

此処は東洋の庵窟、九龍城塞。(クーロンじょうさい)

ノスタルジー溢れる人々が暮らし、

街並みに過去・現在・未来が交差するディストピア

はたらく30代男女の

非日常で贈る日常と

密かな想いと関係性を

あざやかに描き出す

理想的なラヴロマンスを貴方にーーー。

 

1巻あらすじ より

 

工藤「俺はこのなつかしいって感情は恋と同じだと思ってる。ここに暮らす住人たちだって同じさ、みんなクーロンに恋をしているんだ。なつかしい、このクーロンに。」1巻pp.35-37

 

【読むべき人】

・台湾・中華的世界観が好きな人

・近未来もの・ディストピアものが好きな人

・煙草を吸う女が好きな人

・純粋な「ロマンス」ものが読みたい人

 

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【感想】

作者の前作恋は雨上がりのようには、アニメ1話だけ見た。

確かノイタミナでそこそこ質も良かったけれど、別に続きが気になるわけではないかなと思いばっさり切った。

後の実写化された際の小松奈々・大泉洋というキャスティングは素晴らしいと思ったし、風の噂で聞いた「くっつかない」という結末も素晴らしいと思った。

けどまあなんとなく読まなかったし見なかった。

 

時は流れて一昨日。仕事を通院のため早退し、その病院が意外と早く終わった宙ぶらりんな昼下がり、久々に近所の貸しコミック屋に行った。

そこで目についたのが本作。

ああ、恋は雨上がりのようにの人の新作だ。名前だけは小耳にはさんだことあるけれども一体どんな話かしら。

と何とはなしに手に取ったのがこの2冊。

 

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だけどまぁ・・・いやぁ・・・こんな話だったとは思わなかった。

一気読みしたよね。一気読み!!!

いい意味で、裏切られた。秀作。

 

世界観。

中国・台湾のあの独特な感じの「カワイイ」が注目されて久しいが、意外とああいうのをベースにした漫画って少なくないですか?

僕の知っている限りDr.リンにきいてみて!史上最強の弟子ケンイチくらいしか浮かばない。しかもその二作もそんながっつり中国中国してるわけじゃないし。つか結構古いし。

ところがどっこい、この作品は「九龍(クーロン)」と名前に入っている通り、ガッツリ中国してくれています。ガッツリ中国。

毎日繰り広げられる露店や、あの薄汚い路地裏。チャイナドレス。漢字。商店街。迷宮のように入り組んだビルの隙間道。騒音。電灯は切れかかってる。小汚い爺さん。きゅるきゅる瞳の中華娘。口調は勿論「~アル!」どぎつい色彩。うさん臭さは華。

そしてそこに無理矢理食い込むSF的世界観。

この九龍は現実の九龍と一味違う。

なんといっても、この九龍の空には、浮いてるんですよね。

もう一つの地球が。

 

アナウンサー「人類の新天地となるジェネリック地球(テラ)。安全と高度な技術のもと、今日も建設作業はすすんでいます。」1巻p.50

 

そこで繰り広げられるのは、30代男女のラヴロマンス。

32歳の主人公・鯨井令子(くじらい れいこ)と、34歳の工藤発(くどう はじめ)

小さい不動産屋の事務所で働く2人。

令子はやがて工藤を意識し始めて・・・!?

から始まるめくるめく、ラヴ・ロマンス。

「あー、はいはい。所謂幼馴染ものねー。それをこのがっつりSF×中華的世界観背景にやっちゃおーってことなのねー。前作が現実に即したファミレスが舞台だったように、今度はファンタジー舞台に純愛なるラヴを描こうってわけねー」

・・・って思うじゃん?

もっと言えば、まぁそれでもある程度満足はする訳じゃん?なんつったっておっさん×女子高生をあんなにキラキラ描いた漫画家ですよ?読んだことないけど。絶対上質なラヴ読めそうじゃんね。

と思ったら、1巻の最後、

「は?」

声出たよね。

思わず。

 

鯨井「工藤さん、あなたがキスをしたのは一体誰?」p.202

 

ここで僕達読者は本作が、「九龍ロマンス」ではなく、

「九龍ジェネリックロマンス」たる所以を知る。

 

以下簡単に各巻の感想を述べていく。

ネタバレを含む。

 

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1巻。

まさかラブロマンスの起承転結の「起」かと思ったらそんなんじゃなかった。もっと壮大な話だった。

所謂舞台となる九龍の世界説明巻だったとは。随所に出てきた過去の鯨井のシーンがまさか伏線だったとは。

最後のページを読むと全部意味合いが変わってくるのが面白いですね。

そして工藤の言っていた、

工藤「俺はこのなつかしいって感情は恋と同じだと思ってる。」p.35

これが物語の柱となろうとは。

どうりでこの一言に、1ページも割いていた訳ですね。凄い。

 

ページで思い出しましたが、この作者さんは1ページまるまる使う大きいシーンの使い方が上手いなあと思います。

典型的なのがまぁ最後最後になっちゃうんですけど、最後のp.197の金魚の死体のシーンから始まる。pp.198-201のシーン。兄化を思い出そうとする鯨井の、「頭痛」と、それ以上主出してはいけないという「禁忌」「本能」、全てがひしひしと伝わってきます。

あとの塗装に汗をかいたp.35の鯨井のシーン。こここんなにどすけべエロエロ1ページにする必要ないとは思うんですが、でもこの1ページぐう抜ける。そしてこの下品なページがあることで、煙草といい九龍という舞台といい、この物語を「上品なラヴロマンス」から、「等身大の小汚いロマンス」にこき下ろすことに成功している。

そしてその「等身大の小汚いロマンス」にSFが食い込むからなかなか面白いんですけど。

「上品なラヴロマンス」に食いこむSFも面白いけれどほら・・・そこは・・・漫画というジャンルでは萩尾望都大先生が突き詰めちゃってるから・・・。

でもこの1シーンがあまりにもエロかったので作者の性別を調べたら、まさかの女性だったのですね。多分絵柄とは裏腹に、ごっつい骨太の青年漫画とかたくさん読んできたんだろうなあと思う。カイジとか間違いなく読んでそう。女子の鼻基本高いし。

閑話休題

あと、p.118の鯨井の微笑×廃れたピンク映画とか、pp.178-179のキスシーンであるとか、pp.74-75の鯨井が工藤のスーツのジャケットくんかくんかするところとか、色々語りたくなるページが多いんですけどまあそこは割愛。でもpp.74-75、あのコマの連続は非常に美しいと思ったね僕は。

 

鯨井「工藤さん”なつかしい”って感情は恋と同じ”と言ってましたけど、それって元々あった物や風景以外にも感じますか?例えば新しく出会ったものでもかつて恋した面影が見えたら」pp.155-156

 

あと台詞を抜粋して気づいたのですが、この作品は漫画にしては珍しく句読点がちゃんと置かれていますね。好き。句読点省略するの僕もあんま好きじゃなかったので。

 

あとこの作者はおっぱい大きい人がチャイナドレスやスーツのワイシャツ着た時の、胸に現れる横の皺にこだわりがありますね。好き。僕もその皺現れるくらいおっぱいはあるので。

 

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2巻

1巻最後の怒涛の展開からの2巻ですよ2巻!!

序盤はそれこそほーんのふーん。工藤目線の物語。1巻でばらまかれた伏線を見事に回収。そうか工藤・・・お前・・・お前ってやつはいい奴だなあ(涙目)となる。

 

楊明「全身整形してるんだ、私。

私は過去を捨てたの。全部。

(中略)

どれが私で私じゃないかは私が決める」pp.34-35

 

そして衝撃の事実にぶちのめされた鯨井の、もとに現れたのは1巻騒音の主・楊明(ようめい)。分かる。分かるよ。「理想的ラヴロマンス」には理想的女友達が必須。

そしてこの楊明ちゃんがまた可愛いんだよね~。

確かに映画やドラマでは整形した女ってキャラクター見たことあるけど、漫画だとあんまりないかも。しかもその大半が「整形で失敗した女」「整形で堕落した女」「金」「風俗」「あああああ!!!」みたいな話だし(偏見)

いそうでいない凄い新鮮味のあるキャラクターだなーと思う。

 

鯨井「ピアスじゃなくてイヤリングです。」

工藤「くだらねーことしてんなよ」pp.110-112

 

物語の展開で言えば、後半の鯨井と工藤のすれ違いがこれまたぐう切ない。

そして「です」に強調する点(傍点)がついてたんですよね。「イヤリング」にではなく。

敬語の有無。恐らくそこが工藤の中での2人の鯨井の引っ掛かりなんじゃないでしょうか。

 

鯨井「あんな顔が見たかった訳じゃないし、こんなことで見てもらったって意味ないのに・・・!」p.117

 

そんな・・・そんな・・・

最高な泣き顔しないでよ。

そんな最高で美しい泣き顔したら・・・

 

蛇沼「素晴らしすぎてどうにかなりそうだ」p.156

 

終盤まさかの生・蛇沼が現れるとは!!!思わなかった!!!

物語に絡んでくるだろうとは思ってたけどまさかこんなに早くまさかこんなにサイコパスにまさかこんなに第一印象最悪に絡んでくるなんて!!

でもこれは・・・漫画だけでなく、現実にも言えることなのですが、第一印象最悪な人は思ったより最悪ではない。

意外と第一印象が最高な人が結構最悪だったりする。

なので僕は、このラブロマンスの黒幕は、事務所の支店長だと思ってます。

だって何も知らないなんて絶対おかしいし、蛇沼を呼んだのも「いい仕事」とかぬかしやがってるわけだし。

そして蛇沼は中盤意外と純情にストレートに今の鯨井に恋しちゃうと予想。私は今のあなたをずっとずーっと見てるんですよ~!!とかぬかしそう。キモ。

 

蛇沼「今貴女がここに存在している。この事実が何よりも素晴らしいんですよ。」p.151

 

ただ、ここで蛇沼が与えたのは林檎味のリップ・・・。

待って。

蛇沼が、アダムとイヴに林檎を与えたヘビ、だとして、

イヴが鯨井だとするならば、

アダムは誰だ。

やっぱり工藤発(くどう はじめ)。

はじめ。

お前なのか・・・?

 

うわああああああ気になるううう。

 

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よく見ると1-2巻ともに耳元隠されてるんですよね

以上である。

何気はなしに手に取った漫画だったけれどもその先が予想以上に気になる1冊だった。いやはやこの後どうなるんだろ。まさかアダムとイヴまで絡めてくるとは思わなかった。

 

まさかの衝撃SFラブロマンス。これは3-4巻借りる日も、そう遠く・・・なさそうだ(遠い目)

 

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これは最近飲んだ台湾っぽいお茶です。めちゃくちゃ美味しかった。

 

***

 

LINKS

萩尾望都先生の作品はこの前初めて読んだ。

凄いですね。凄い。もうマンガじゃなくて半分少女小説じゃん、って思った。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

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唯一持ってる中華コスメ。

 

ムーミン展 THE ART AND STORY-物語から見るムーミン。-

 

 

一生分のカバの妖精見てきた。

 

 

ムーミン展 THE ART AND STORY(巡回・静岡県立美術館1月23日~3月14日)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

これまでにないムーミン原画展

 

フィンランドを代表する芸術家トーベ・ヤンソン(1914~2001年)が生み出した、

愛らしい姿とユーモアあふれる言葉で世界中のファンを魅了するムーミンとその仲間達。

本展ではその多彩なアートと奥深い物語の魅力を約500の展示品で紹介します。

 

公式ホームページより 要約

 

【行くべきだった人】

ムーミンの原作ファン

ムーミンガチ勢

ムーミン過激派

 

【行かないべき人】

・子連れ:キャラクター展覧会ですが、メインは原画(ペン画)なので、子供半本当につまらないしぐずるし周りにも迷惑をかけるからマジで連れてこないで。

 

【感想】

 

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ライト層なので家にあるムーミングッズがこれくらいしかない。可愛さの割に安かったけど買ったその日に壊れた。

 

行ってきました。ムーミン展。

ああだこうだしていたらもう終わってしまうやんけ!と慌てて行ってまいりました。

まあまあ良かったです。まあまあ。

思ったより、ガチ勢向けの展覧会でした。僕みたいなムーミンライト層がメインのターゲットではどうやらなかったようだぜ・・・。

 

ムーミンは、一番好きなキャラクターものです。

スヌーピームーミンかと言われれば即座にムーミンをとりますし、

ミッフィームーミンかと言われれば即座にムーミンをとりますし、

キティ率いるサンリオ軍団かムーミン率いる少数精鋭かと聞かれればちょっと悩んでムーミンをとりますし、

ミッキー率いるディズニー帝国かムーミンかと言われれば、まぁまぁ悩んでムーミンをとることでしょう。

人生で初めて買ったマグカップムーミンで、ヒビ入るまでだいたい15年くらい使っておりました。

ただガチかと言われると、そうでもない。

名前といえばムーミン」「ムーミンパパ」「ムーミンママ」「ミィ」「スナフキン」「ニョロニョロ」くらいしか知らないし、

後は「前髪」「ミィ(大)」「カンガルー」くらいの認識しかない。

原作も無論読んだことがない。人生においてムーミン接触してくることもなかったし、読もうと思ったこともなかった。おしゃんだけどなんかつまんなそうだし・・・。

埼玉飯能の所謂「ムーミンランド」も行ったことがない。行ってみたいけどコロナだし、アベックの巣窟になっていそうで飯能彗星直下祈願不可避になりそうだし・・・。

フィンランドが原作であることくらいは昔から知っていたけれど、原作者の「トーベヤンソン」氏が女性であることを知ったのは最近。まじで最近。今年。

あ、でもアニメ版のムーミンの声が高山みなみであることも知ってる。見たことないけど。

まぁ、それくらいのライト層である。

だから行って初めて原作の流れを知った。ええ・・・お前たち最後移住するのか・・・。

 

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原作ファンからしてみれば、非常に見ごたえのある展覧会だったと思う。

というのも、展覧会の約半分が原作原画を占めており、さらに残りの半分はヤーベの他作品の原画、そして残りの四分の一がムーミンイラスト他・・・といった具合で構成されているからである。

なのでまぁ、びっくりした。

イラストとかポスターとか広告とかそういうカラームーミン期待してたら、ペン画の白黒ムーミンメインだったので結構初めは面食らった。

あ、そういう感じ?ってなった。そういう感じ?

 

ところがまぁ実際に見てみるとなかなか面白い。

ムーミンは1巻から9巻で完結しているらしいのだけれども、その9冊総ての原画がやって来ている。数に多少差はあれど(1巻にあたる「彗星」は比較的少なく感じ、「仲間達」はとても多く感じた)なかなかこんなに揃えて展示って、ない気がする。

そして各巻のあらすじを1冊ずつ丁寧に入れて、「1→2→3→4→・・・」といった具合に順番に並べてくれるから、ムーミンの大まかなストーリーは初めて来た人でも把握出来るつくりになっている。

だからまぁその・・・「ミィ(大)」とか「カンガルー」「しましまのヤツ」とか、ここ10年くらいで追加された新キャラかと思っていましたがそうではないんですね。いたんですね、初めから。

そしてムーミン達はずっと谷にいるわけでもないし、ムーミン「前髪」と結婚するわけでもない。

何なら「前髪」は、スノークのお嬢さん」と名前ですらないんですね。初めて知った。誰だよスノーク

 

なのでまぁ、思ったのは・・・原作小説1冊くらい読んでから行っておけばよかった。これに尽きます。

読まなくても十分楽しめる展覧会ではあったけれども、読んでた方が間違いなく楽しめる展覧会であった、そんな印象。

でもこの展覧会きっかけに、原作に興味沸いたので見かけたら買って読もうと思う。

そして万が一子供が生まれたら、積極的にムーミンをそいつの人生に積極的に接近させてやろうと思う。それくらい物語、意外と面白そうで良かったので。

 

 

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「前髪」ってこいつな。

 

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2.5次元ミュージカル図解。え?そこ切り抜いちゃうんだっていう

 

でもまぁ一番良かった展示物は?と言われると、

カラーのポスター原画だったんですけど。平和活動のやつ。

やっぱ色ついた方が可愛いわ~。

あと一番衝撃的だったものは?と聞かれると、

昔のムーミン2.5次元ミュージカルの写真ですね。

着ぐるみじゃなくて、人間の目元むき出しムーミンやるんですよ。なのですっごいシュール。当時フィンランドでは凄い人気だったらしいんだけど、喜劇なのか本気なのか何なのか本当意味が分からないレベルのシュール具合。

PCで「ムーミン ミュージカル」と幾度検索しても出てこない、あのえげつない写真を見られただけでも行った甲斐はあったかもしれない。

 

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図録。右端に「ミイ(大)」と、ムーミンの背後に「カンガルー」がいる。

 

あとその他トーベ・ヤンソン氏の作品が展示されていて、彼女自身・彼女の生涯についても紹介するコーナーがあった。

アトリエの写真や老後の写真、ムーミン以外に手掛けた作品や来日した時のエピソード、翻訳者達との交流について等々。日本のホテルのメモにささっと描いたムーミンの原画も展示されていて、あれはちょっと凄かった。だって当時のホテルのロゴが入ったままだったもの。

彼女のアトリエは広々していた。そこで四つん這いになり笑顔で映っている彼女の写真が印象的だった。原作は小説もイラストも彼女が手掛けている。原作が完結した後も、積極的にムーミンのメディア展開に積極的に関わる。ポスターや広告の原画を手掛けたり、人形の監修をしたり、ムーミンオペラのパンフレットの原画を描いた、アドベントカレンダー、その他諸々。ついでに長寿も全う。

あー。いいなあと思った。

大抵こういう有名作品の作者って短命であったり戦争で喪失経験があったり何かしら辛いバックボーンが期待されるけれども、彼女の生涯は幸福感に溢れていた。それが良かった。

 

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美術館全景。結構古く、ガタがきている。展示室の壁紙ボロボロなのはマジでなんとかしてほしい。

今回股間大好き美術館長でおなじみの、静岡県立美術館に行った訳なんだけれども・・・混んでましたね。

3月7日(展覧会終了一週間前)の11時くらいに到着したんだけれども、既に人がいっぱい来てて、1時間くらい待たされたもんね。椅子に座って番号で呼ぶ病院方式なのが本当助かった。寝られるので。

こんなに県立美術館に人が集まるの初めて見たかもしれない。バウハウスミュシャ行った時は絶対間違いなくこんなに、人、いなかったて!!

いやぁー・・・それにしても、良くも悪くも「バウハウス」「ミュシャ」「ムーミン」と、かれこれ20年以上は行ってなかった美術館に、3回は足を運んでいる。

股間大好き美術館長発信かどうか知らないが、今年度は特にメジャーな芸術を扱って来客数を増やそうとする意思がひしひしと感じられた。今までは、一体誰が行くんだ・・・と言いたくなるような結構謎な展覧会ばっかやっていたのだけれども、今年度のラインナップはなかなか良かった気がする。ミュシャムーミンの合間にガンダムなんかもやっていたし。

股間大好き美術館長率いる静岡県立美術館、どれどれ。来年度の展覧会はどうだろ・・・と期待込めて年間スケジュールを探す。けど見当たらなかった。

でもああ、どうか頼みます。股間大好き美術館長!なんか今年度みたくちゃんと来る人がいそうな展覧会をまたどうか、来年度もよろしくお願い致します!!

 

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昨年の五月に行ったバウハウス展。すっごいすいてた。僕はこの展覧会で「バウハウス」が人名でないことを知った。

 

以上である。

なかなか良い展覧会であった。混雑を除けば。

でもまぁそれは展覧会末期の週末という日程にしてしまった僕が一方的に悪いわけだし、ムーミンの物語も大まかに把握できたし、

あとまぁやっぱりいくら点と線のイラストといえども生で見るとやっぱ興奮しちゃうよね。カラーは無論もう股間ばっきばきですよ神。

 

 

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***

 

LINKS

静岡県立美術館長が「股間若衆」という造語を作り長年芸術作品の股間研究やっている方だと芸術新潮で知った。なんだそのネーミングセンス。

tunabook03.hatenablog.com

 

他に静岡県立美術館で開催されたミュシャ展の感想。何度見てもミュシャはいいよね~。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

 

角田光代『あしたはうんと遠くへ行こう』-たすけて。-

 

 

「たすけて」

 

主人公は時々だれもいないところで、そのように呟いたり、思ったりする。

 

そしてその度に、僕は、震えるのだった。

 

ああ、彼女は僕だ。

 その瞬間だけ僕は野崎泉なのだ。

 

角田光代『あしたはうんと遠くへ行こう』(角川書店 2005年)の話をさせて下さい。

 

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【あらすじ】

泉は田舎の温泉町から東京に出てきた女の子。

「今度こそ幸せになりたい」ーーーそう願って恋愛しているだけなのに。

なんでこんなに失敗ばかりするんだろ。

アイルランドを自転車で旅したり、ニュー・エイジにはまったり、ストーカーに追いかけられた莉、子供を誘拐したり・・・。

波乱万丈な恋愛生活の果てに泉は幸せな”あした”に辿り着くことができるのだろうか?

直木賞作家がはじめて描いた”直球”恋愛小説!!

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・転職を繰り返してたり恋愛がうまくいかなかったりフリーターだったり死にたくなったりしている20代

・1990年代に20代を生きた人

恋愛依存症

・田舎から東京出てきた人

 

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【感想】

静岡の週末古本屋琵琶舎で会った。

この本屋は若干書籍の値段が高いのが欠点なのだけれど、本書は古いからか、ページ上部にシミがついているからか、なぜか一冊だけ150円だった。

ストーリーも悪くなさそうだし、初期の角田光代だし(≒テーマが重くないし、)ということでなんとなく買った。

その「なんとなく」が、こんなに大正解だったとは。

 

本書は泉という女の子(女性)の15年間を描いた作品である。

高校3年生の1985年から始まって、32歳の2000年までの期間を、おおよそ1章1年のスピードで11の章に分けて書いていく。

1勝1章は20-30ページ足らずの短編であり、一年を網羅するような内容ではなく、彼女の人生に大きく影響を及ぼしたワンシーンを切り取っているのが特徴。

泉はそこで「絶対」「永遠」を信じきったり、ドラッグをキメて知らない男の家々を歩き回ったり、年下の男の子にはピュアになったり、二股かけたり、ストーカーに悩まされたり、女児誘拐に加担したり、する。

1年1年、住んでいる場所や環境、職業も変わっていることが多く、所謂「安定」していることも少ない。しかし泉はへばりつきながら祈りながら、力強く生きていく。

 

 

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「どこかで見たことのあるカップルが向こうから近づいてくると思ってよく見ると、目の前にあるファッションビルのショーウィンドウに、並んで歩く私とのぶちんが映っているのだった。」p.88

 

 

 

 

ああ、嵐でいいんだと思った。

僕が本書を閉じて抱いた感想はそれだった。

嵐でいい。

20を超えてから思えば、僕はずっと腰を据えたことがない。ずっと嵐。大学在学中の重い片想いは無残にも散り、親友の鬱病と難航する就活に大学四年は踏みにじられる。卒業して入社した塾は見事な真っ黒であり、1年半でへばって退職。その後は引きこもり気味になり、1年ニートをする。でもニートをしていると暇だから週末は試食のアルバイトに出向く生活を送る。評価は上々で調子に乗って就職するが上司が鬼仕様でありまた悪化する母親の癌も相まって思わず職場で手首にカッターを当てる。結局パートの身になってしまい勤務先の店舗も変わることになる。心療内科で「鬱もあるかもだけどADHDかもね」と言われ青い錠剤を貰う。飲むとメンタルは安定し、今度は職場の人間関係は良好であるがとにかく低い賃金が問題になってきた。ストレスのあまり身体を掻きむしっていると手足はデコボコ汚くなった。おいおいまだ処女なのに。ちなみにこの間に盲腸と婦人科系の病をやっており、二回入院している。子宮頸がん検査は経験済みである。処女なのに。

僕なりに波乱万丈である。まさしく嵐。本当に嵐。

20代がこんなに嵐とは思いもしなかった。

だけど、インスタグラムを見ると皆が皆嵐という訳ではないらしい。可愛い先輩は新卒で就職したサグラダファミリアATMで有名な青い銀行を勤めつつもムーミングッズをアップし、週末は楽器演奏リモート飲み会と非常に充実しているようだ。高校の可愛かったクラスメイトは、千葉で看護師をやっていると聞いたが「夜勤最後」と言っていた。恐らくやめるのだろうと思った。同棲している彼氏と結婚するのだろう。でも看護師の資格があるから小路級のパートなんて山ほどあるんだしホワイトの社員だって山ほどあるんだろうし安牌。証拠として、血統書がついていそうな猫がケージの中でにゃんにゃんころころする動画がストーリーに挙がっていた。同じ部活だったあの子は新卒入社した会社をやめはしたものの、大学一年からずっと秘密にしていた片想いを実らせ2つ上の先輩と結婚をする。SNSの「はよ帰ってこいー」といったような言葉が無意識に僕に障る。しんこんこんこんこん。彼等に血統書付きのネコか犬か人間が加わる未来が見える。

それなのに私は精神を身体もボロボロにして一体どこに向かうのか。ねえ。

そうやって、他人の人生を羨みだすとキリがないから、

「私には私の地獄がある」

宇垣美里元アナウンサーの名言を思い出すようにしている。

思えばインスタグラムなんて私生活のうわばみofうわばみを撮影して、「充実した私」を演出するツールなのだから、他人の方が幸せそうに見えるのは当たり前。きっと彼等も僕には見せないところで泣いたり怒ったり死のうと思ったりしているのだ。あいつらにもあいつらの地獄があるはずだ。

でも、僕の今の生活のうわばみofをうわばみをいくらうまく掬い取ったたところで、「職場の同僚とリモート飲みをしました♥」「愛しい人と暮らす新居のネコ」「ご飯がさめる!せっかく作ったのに!!」に、勝てない。

せいぜい「コンビニの新商品を食べたよ」「静岡県立美術館の展覧会に行ったよ」「スタバの新作を飲んだよ」この程度である。女子高生かよ。

27歳。仕事、恋愛。気づけば皆そのどちらかは安定したものを手にしていて、「アラサー」をする準備が出来ている。あわよくば「アラフォー」も。その後も。

それなのに僕は僕は。

皆の生き方が僕を否定する。

いや、僕が僕を否定しているだけなんですけど。

 

だから、泉の15年間を読んだ時に「ああこれでいいんだ」とちょっと思ったのだ。

別に一年単位で職場が変わったっていいし、アルバイトでもいいし。何なら「たすけて」自分を救ってくれる存在を期待したっていい。そんなのいないと知っておきながらも「たすけて」期待したっていい。

振り回されて振り回されて安定が築けなくたって、20代が嵐だって、そういうのも有りなんだって。それでも生きてくんだって。

うまく・・・うまく言えないけれど、僕がずっと感じていた「どうして僕だけ」が何もかも肯定、されたような気がするのだ。

大学卒業しときながらフリーターでも。

就職活動がたとえうまくいかなくても。

なんかもう全部うまくいかなくっても。

いいじゃないかよ。それがお前なんだよ。それが20代っていうことなんだよ。

僕は僕の地獄を生き抜かなければならない。

 

 

 

「ワイルドサイドを歩くよ」小さく呟いた。p.42

 

 

 

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それでも押しつぶされそうになったら「あしたはうんと遠くへ行こう」。

 

 

 

 

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実際僕は泉のような恋愛体質でないし、彼女程エネルギッシュに生きている訳でもない。

のぶちん、ポチ、シノザキさん、山口、その他大勢と彼女の20代にはたくさんの男が出てくる。が、僕の20代には、彼らのような男はひとりも出てこなかった。なんつったって僕処女だし。

じゃあ、彼女は恋愛で20代を振り回されたわけだけれども、僕は一体何でふりまわされているんだろう。

 

 

 

 

町子「でも最近わかったことあんの。男の子にね、なんであの人と結婚したのとか訊くでしょ?じつに多くの男が、あいつは弱い、って言うのよ妻のこと。弱いから一緒にいなきゃと思った、って。で、同じことを女に訊くじゃない、そうすると、彼は信用できると思った、だから彼を選んだって言うの。だけどね、この世の中に、弱い女なんてものは存在しないし、おんなじように信用できる男なんてものも存在しないと思わない?彼女が弱いって言う男は自分が弱いんだし、彼は信用できるって言う女は自分が人を裏切らないたちなのよ。人は、相手のなかに自分を見つけたいんだよ」p.190-191

 

 

 

 

それは自分、なのかもしれない。

上記は本書で一番印象に残った台詞である。主人公・泉の友人の町子の台詞だ。

泉は15年間、相手の男達の中・・・のぶちん・ポチ・シノザキさん・山口の中に泉自身を探しているにすぎないのかもしれない。

するとそれは僕の、1年単位で職場を転々とし錠剤飲みながら生きてる日々とほぼ同義なのかもしれない。

なんとかして生きてける自分を手に入れたい。

泉も僕も自分捜しの旅をしているのだ。だからこんなに嵐で嵐で嵐で嵐なのだ。だからこんなに地獄なのだ。だから銀行員・妻等確立した居場所を見つけた他者がうらやましく見えるのだ。だから日々ついつい「たすけて」なんて思うのだ。だから・・・。

 

 

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みて。つやつやしているね、



 

 

「私はいったい何をやってるんだろう?こんな場所で」

(中略)疑問はヤバい。想像はヤバい。私たちは、自分自身からも身を守らなくてはいけない。p.81

 

 

 

 

以上である。

なんか、大学卒業してからずっとワアワアしてきた僕だけれどもそれを総て肯定してくれるような気がした、気がしただけかもしれないけれどまぁもうそれでいい。結局僕は僕を探しているんだ。だからこんなに辛いんだ、と思った一冊だった。

刺さった。胸を穿った

150円とは思えない程の鋭利さで僕の心を刺した。

 

 

***

 

LINKS

 

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角田光代(初期)×角川文庫で読んだことあるのはこれ。確かデビュー作だったと思うんですがこれもめちゃくちゃよかった。

ブログさぼってた頃に読んだんだけれどもまた読み直そうかなあ。

 

***

 

 20210408 今日からまたブログ更新続きます。書き溜めていたので。ただ編集が面倒だた。でもサボっている間にもたくさんの人に見てもらったみたいでとても感謝致します。ありがとうございます。

穂村弘『もうおうちへかえりましょう』-現実に屈する夢想家に僕もーなりーたーいーなー-

 

(つかれたおうちへかえりたい) 

 

 

もうおうちへ帰ろうよ。

現実は情報量が多すぎる。

僕達は眼鏡をかけているから、見え過ぎちゃうんだ。

だからさあ、しんどい。うん、しんどくなっちゃうんだ。

そういうことなんだと思う。

 

 

 

 

 

 

そういうことにしといてくれないか?

 

 

 

 

穂村弘『もうおうちへかえりましょう』(小学館 2004年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

白馬に乗った姫様はまだ?

スギタニが、ふっと顔を挙げて、「お前と付き合うと女の子はブスになるよな」と云った。ぎくっとする。胸がどきどきしてくる。腹は立たない。やっぱり、そうか、と思う。

カバー表より p.20「反美人製造機」より抜粋

 

正義の味方はもういない。金利はまったくゼロに近い。高度経済成長期に育ち、バブル期に青春を過ごした41歳独身歌人は、デフレとスタバとケータイに囲まれて、ぼろぼろの21世紀を生きている。永遠の女性は、きらきらした「今」は、いつ目の前にあらわれるのか?

 

カバー裏より

 

【読むべき人】

・現実に対する感度が高い(と思っており)日々生きるのにぜえぜえしている人

・世界音痴な人

・眼鏡をかけている人

・菓子パンが好きな人

・短歌が好きな人

・現実の純度より己の夢想の純度の方が高い人

 

【感想】

穂村弘、通称ほむほむ(おっさん)の言葉はどうしてこんなに心地が良く刺さるのだろうか。

文章力思考力夢想力童貞力青春欠乏力総てにおいてほむほむ最強だからというのもるんだろうけど、

それは僕もほむほむも「世界音痴」側・・・、要するに「ちょっと人と変わってる」「個性的」側だからのように思うのだ。

 

 

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「あ、ほむほむじゃん」

久々にほむほむのエッセイ単行本の背表紙を見たのは、沼津・片浜の古書店ハニカム堂」においてだった。

僕が読んだほむほむの名エッセイ「世界音痴」の横に、本作が並んでいた。価格は思い出せないが、(レジにて値札をとってくれるタイプの古書店であるため)、300-400円だったと記憶している。安いと思った。ぱっと見た感じ初期エッセイ。「世界音痴」「現実入門」、今まで読んできた2s津のエッセイ本はともに初期でどちらもとても面白かったからこれもきっと面白いだろう、漢字四字じゃないのが気になるけどといった具合に手に取る。

もう一冊並んでいる。同じような単行本であるが、前述した3冊が2000年前後に対して、これが刊行されているのはどうやら2010年を超えていた。会社もNHK出版とある。無縁だ。世界音痴もこれも現実入門も小学館・光文社と「なんか地味な出版社」のイメージだったが、NHK出版はダメだ。怖い。N・H・Kアルファベットが3つも入っていて派手だもの。ああ怖い。私の知らないほむほむがきっとここにはいるのだ。でもこれも300-400円。ひ・・・ひえええ・・・と言いながら手に取る。

 

ほむほむのいいところは、現実に屈する夢想家であるところだ。

ほむほむは童貞さながらのキラキラした夢を見ている。多くの人々が20代前半に棄てたであろう夢や幻を、ほむほむは41歳になってもずっとキラキラ見ている。

私はナンパをしたことがない。ああ、一度でいいから、してみたいなあ、ナンパ、と思いながら、食後の林檎をくるくると剥く。p.59

壁がひび割れて蔦が絡みついているようなぼろぼろのアパートの前で、いつも私は立ち止まってしまう。

窓を見上げて考える。

あの灯りのなかにはいったい何があるんだろう。p.64 p.72

ところが今ではどうだ、ミヤザワリエやハブキリオナのヘアヌード写真集が町の本屋で売られている。撮影はシノヤマキシン。下着だってすべすべだ。p.91

多分普通の41歳独身男性は今更「ナンパしてみたいなぁ」と心の底から思わないと思うし、団地の一つの灯りにそこで繰り広げられるであろう男女のえちえちに思いを馳せる暇もないと思う。ヘアヌード写真集には多少ぼっきぼきするかもしれないが、下着の感触を「すべすべ」とは言わないと思う。篠山紀信をわざわざカタカナで言わないと思う。

だってそんなところまでに頭使ってたら現実を受け止めきれないから。いちいち夢想していたら潰れてしまうから。夢想している時間がもったいないから。それくらい現実は情報量が多くて、重くて、忙しいであろうから。

(だから現実を受け止め過ぎた人間は、眼の老化から始まって、腰を悪くし足を悪くし、身体諸々にボロがでて、ただでさえ現実重いのに身体のボロが出ちゃあ辛いから己の認知を歪めるところから始まり・・・となるのだと思う。長年現実を受け止めた分だけ身体・脳にボロが出るのだ。辛い現実を受け止め続けた結果が老化なのだ。だからお年寄りは敬わなければならないのだ。僕達より過酷な現実を耐え抜いてきたのであるから。)

 

閑話休題

多くの人にとって現実は、重く処理するのに忙しく、団地の灯りや下着の触感まで見て、思いを巡らせていたらきりがない。

でもそうやって、多くの人が見逃す・あるいは意図して見ようとしない部分にあえて夢見るのがほむほむなのである。

その多くの人がこぼした現実を三十一文字にまとめて謳うのがほむほむの短歌なのであり、そうまく文章に落とし込んだのが本書含む数々の名エッセイなのだと思う。

 

じゃあなんでそういった、多くの人が見逃す・見ようとしない部分まで、

ほむほむには見えてしまうのか。

 

 

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簡単だ。

眼鏡をかけているからだ。

黒ぶちの、その、でっかい、いけてない眼鏡・・・

 

 

を、僕もかけている。

ああ、そうか。

だから僕は外れちゃってるんだな。

早起きから始まる規則正しい生活がとても苦手で、

口を開けば「あえいうえおあお!じゃーん!」自然な会話をすることが出来ず、

「いてっ!」自動ドアに何度もぶつかり、

(あはは!)

「ABCD?ADHD?」錠剤を貰い、

(あはは!)

MARCH卒でフリーターになってしまった。

(あはは!)

ああそうか。

この、眼鏡、のせいか。

じゃあコンタクトにしようか?新しい眼鏡を買おうか?

にもフリーターの僕にはお金が足りず今日もこの眼鏡をかけて、いるんですけど。

 

そーりの菅ちゃん「しょうがないなぁ、じゃぁ、十万円あげるよ!」

ふりーたーの僕「やったぁ!ドール買って本買って漫画買って貯金するぞお!」

 

でも僕の眼鏡の西洋とほむほむの眼鏡の性能には差があるようで、

僕はほむほむ程現実しっかり見られていないし、

僕の脳味噌(MARCH)とほむほむの脳味噌(上智卒・北大中退)の性能にもやっぱり差があるようで、
僕はほむほむのようにうまく現実からきらきらを掬い上げることが出来ない。どろどろしている。きたねぇな。

更に言えばほむほむは会社の経理を長年勤めあげているけれども、僕は今まで仕事は2年も持ったことがない。

 

要するに中途半端なんだな。僕は。

学歴も職歴も眼鏡の精度も人間としても何もかもが中途半端。

だからその欠けた部分を埋めるように、本読んで漫画読んでアニメ見て映画見てドール愛でて外に出て、ブログを、書くんですけど。

 

かけても1.0もみえない眼鏡じゃ、明日も見えません。

 

 

 

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だから、僕にとってほむほむは、一つの「憧れ」なんだと思う。

長年サラリーマンという現実に身を置きながら、

31文字に果てしない自由を描き、

執筆で夢見るキラキラを余すことなく放出する。

現実に屈する夢想家ほむほむ。

 

一方で僕は、

サラリーマン(OL)という現実に身を置き続けられず、

ブログ・noteの更新はついつい滞りがちで、

現実からはキラキラよりかはどろどろしか掬えない。きたねぇな。

 

(何もかも中途半端なんだーあーいやだー。だから僕は今日も腕や脚のカサブタを、めくることがやめられない。血が出るその瞬間だけに現実逃避と自由が凝縮されていて、その瞬間だけ僕は総てから解放されている気がするから。こうしないとやってけない時がある。多分リスカとかもそう。生きるためには、嫌いな自分を傷つけないと気が済まないから、切っちゃう。生きるためにリスカする。)

 

ああなんて僕は脆弱で愚かなんだろう。

そしてなんてほむほむはこんなに完全無欠なんだろう。

 幾千万ワープした魔法少女よろしく「ほむほむは強い」。

 

うつろで、極端で、壊れていて、永遠で、本当はいない、ということが関係しているのだろうか。p.40

 

 

(僕が僕と認めたい僕は僕ではありません。 )

 

 

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以上である。

なんかほむほむって強いなー。読み終えた瞬間反射的に思ったそんな一冊だった。

 

深夜2時、チョコパイをワンルームの中で齧る。

ああなんて甘くておいしいんだろうと思う。ここでは誰も咎めないし左手はこうやってナマケモノのぬいぐるみ(名前はジジ)をぎゅっとしてるわけだけれども、それに誰もツッコまない。

おうちは自由。

果てしなく自由。

中途半端な僕でもここでは僕しかいないから完全無欠だから。

ほむほむも、おうちが好きなのは一緒のようだ。

「もうおうちへかえりましょう」

そこでは世界音痴で中途半端で弱くてもカサブタめくってもリスカしても、大丈夫だから。自由だから。

眼鏡をかけたまま生きて生きて現実耐えて、毎日おうちへかえりましょう。

 

***

 

LINKS

ほむほむのエッセイは以下の2冊を読んだ。

この2冊、そして本作も独身時代のものであるが、

買ったもう一冊は結婚後、しかもそれからだいぶたった後の一冊なので、

メスの童貞である僕は何が書いてあるのか、そこがちょっと怖いのです。

ほむほむの女の子に対する憧れやジェラシーや妄想云々抱いて行動しない、所謂青春ゾンビ的文章に非常に共感していた節があるので。

 

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ボルへ・ルイス・ボルヘス(柳瀬尚紀訳)『幻獣辞典』-文化史入門。-

 

 

その難解さが、癖になる。

 

 

ボルへ・ルイス・ボルヘス柳瀬尚紀訳)『幻獣辞典』(河出書房新社 2015年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

一角獣、セイレーン、ゴーレム、八岐大蛇・・・・・・。

豊かな想像力が産みだした奇妙な存在たちを、知の怪物ボルヘスが集成した最良の異世界案内本。

イーリアス」「オデュッセイア」から、

プリニウス「博物誌」、「千夜一夜物語」、ダンテ「神曲」、

カフカ、C・S・ルイス等の著作まで、

古今東西・森羅万象120項目を収録。

 

裏表紙より

 

誰しも知るように、むだに横道にそれた知識には一種のけだるい喜びがある。p.9

 

【読むべき人】

・世界の民話・口伝伝承等に興味がある人

・外国のガチめのファンタジー小説が好きな人

・もしくは、ファンタジー小説を書こうと思っている人

・歴史(特に西洋史東洋史)、外国文学が専攻の学生

 

 

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【感想】

ホルヘ・ルイス・ボルヘス

1899-1986年。詩人・小説家。アルゼンチン生まれ。幼少から古今東西の書物に親しむ。「鏡」「迷宮」といったモチーフを主とする詩や小説のほか、独自の視点であんなアンソロジーも数多い。代表作に短編集『伝奇集』『砂の本』、詩文集『創造者』『夢の本』など

カバー裏より

 

彼の存在を知ったのは、多分3年前くらいだったように思う。

BRUTUS「危険な読書」特集だった。

ホラー・オカルト好きの僕としては、「奇妙な話・奇怪な話を集める世界的に有名な作家」という地点でもかなり惹かれたし、後に彼がヨーロッパの作家ではなく南米の作家であることを知り更に興味がわいた。

以降、ずっと読んでみたいとは思っていたものの、何百何千とある「読んでみたい」本に埋もれて行った。

多くが実現せず僕が先に死ぬであろう、高く高く積まれた本の山・・・。

 

しかしじゃあなんで本作が、数少ない「実現した、読んでみたい」本になったのかというと、まぁこれのおかげである。

 奇書が読みたいアライさん『奇書が読みたいアライさんの空想図鑑文学ガイド』。

奇書が読みたいアライさんというのは、日々ツイッターに読破した「奇書」を中心に紹介する、本屋務めのアライグマである。書店員なだけあってなかなかに「奇書」くツイッターで言及する書物は新刊から古本まで多種多様。

かなり好きなツイッタラーで、めっちゃフォローしている。6つあるツイッターのアカウントのうち3つくらいフォローして、彼女(?)の最新ツイートは常に見逃さないようにしている。

そしてそのアライさんが、この度同人で出版した読書ガイドに掲載されていたのが本作『幻獣辞典』なのである。あ、ボルヘスだ。はえー、なんか面白そう。いつか読んでみたいなあ・・・と思った直後、

いやこれは読まなきゃ、と思った。

このセカンド・ボルヘス・チャンス(意味:人生の二度目に、ボルヘスの本を「読んでみたい~」)と思うこと)を逃したら、ボルヘス永遠に読まない気がする!!

そういえば新静岡ジュンク堂でもずっと背表紙ではなく表紙が面するように並べられていた!ていうかまずこのアライさんがおススメする本には外れがない!!少なくとも静岡とジャパリパークの書店員二人(一人と一匹)が紹介しているということは間違いなく読んで正解パターンではないか!?

買おう!買って、読もう!

思い立ったが吉日、僕は気づけばジュンク堂の本屋のレジに並んでおり、

「1210円です」

文庫本にしえてゃめちゃクソ高いお値段に卒倒アンド失禁寸前になったのであった。はわわ・・・じょぼぼ・・・。

 

そしてその本を、今日読み終えたのである。

いやー・・・かかった。実にかかった。

時間が。

本日めでたき雛祭り・3月3日なのだけれども、この本を読み始めたのは1月末。結構寝る前に頻繁に開いてはいたつもりなのだけれども1か月はまるまるかかっている。

文体が硬いというのもある。1970年代に訳されたものを同じ訳者が手を加えたのが本作である。基盤が古い訳なので、まずそこに慣れるのに苦労した。

でも文体が硬いだけでそんなに時間かかったの?・・・というと、違う。

内容が濃い。濃すぎる。これに尽きる。

まず凄いのが参考文献の量。1幻獣あたりの説明は2ページー4ページ余りが多いが、そこに出てくる文献が5から10あって当たり前。しかも時代も地域も多種多様。古代ギリシア・ローマの書物から、中世ヨーロッパで書かれた歴史書・解説書、アラビアン・ナイトなど著名な書物から、ケルト民話等民族間で口伝で継がれる民話まで。文献の書かれた地域もヨーロッパが多いのは仕方ないといえど、中東やアフリカ・アジアまで網羅。プリニウス、ヘシオドス・・・と古代の詩人の名前が並んだかと思えば次の行では20世紀初頭の学者の説が書かれているなんてこともザラ。時代も世界も縦横無尽に駆け巡る。

そのため基本「流し読み」ができない。ふっと一瞬でも目を離したすきに、一体いつの話だったのかどこの話だったのか、そもそも何の幻獣の話をしていたのか分からなくなる。常に頭を整理して読んで行かなければならない。

そのため思ったより結構時間がかかってしまった。

 

けれど、その1ページ1ページ噛みしめて読んでいく感覚は独特の愉悦があった。

中世の文献が出てくれば、それが書かれた著者・時代想像を巡らせ、

聖書の話が出てくれば、それに関連する美術作品を想起した。

ボルヘスの、巨大な知の迷宮のなかを彷徨っているかのような。

同時に、僕自身の記憶の迷宮を彷徨っているかのような。

他の書物では味わえない、この辞典だからしか味わえない独特の、この感覚・・・これこそ冒頭の一文にある「けだるい喜び」なのだろうか。

 

巻末には訳者が著者ボルヘス「幻獣」として扱って書いた、ユニークな「解説」があり以下のように書かれている。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスは(中略)ブエノスアイエスに生まれた巨大な怪物であるp.315

概ね同意。膨大な知識量・多種多様の国々時代に対する飽くなき関心・・・多分そもそも一人の人間で書けうる書物ではない。書ける書物であってはならない。ボルへ・ルイス・ボルヘスは恐らく人間を超越してしまった何かだったのだろうと思う。

 

 

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こうした馬鹿げた憶説は、キマイラが人々を退屈させ始めたことの証しである。p.70

 

 

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また、なんとなく知っている・名前だけは知っているような幻獣についても、その歴史や背景が知られて、「辞典」としても面白かった。

例えばリリス」。「ワルキューレ」「ラミア」「サラマンドラ」。名前だけは知っている。しかしこれが一体どんな姿をしていてどこに住んでいてな何食べていてどんなな生物なのか、分かりそうで分からない。

そういった幻獣についても、ちゃんと文献込々で解説してくれるからとってもありがたい。「辞典」としての実用も少なからずある訳だ。

硬派なファンタジー小説が好きな人は、本書を「教養」として読んでおいたほうがより小説を楽しめるだろう。フェアリー、小人、ユニコーン・・・作中に出てくる生物一つ一つの背景を知っているだけで、作中の世界は何重にも幾層にも厚くなっていくはずだ。まぁ僕は全く読まないんですけど。

 

以下簡単に、僕の推し幻獣推しポイントを記しておく。

 

クジャタ:イスラム教の宇宙論に出てくる巨大な牛 p.76

・とにかく大きいのが良い。夢がある

・こういう牛とか魚の上に我々が住む大地が広がっている~系には個人的にめちゃめちゃ弱い。闇の中球体が回っているだけよりだいぶ夢があるので。

・あと、その怪物が恐らく孤独で世界を支え続けていることに対して、その怪物の気持ちを考えるとなかなかエモくなるので。きっと長年一匹で生きているから寂しい・苦しいとか知ないんだろうなーとか。

 

チェシャ猫とキルケニー猫:笑ってる猫と、喧嘩している猫p.158

チェシャ猫がなんで笑っているのか、の所説の解説がタメになった

・キルケニー猫に対しては1行程度の記述しかなく、なんでこの猫を収録するに至ったのか。聞いたことすらないし。

・でも猫は1匹ならかわいい、2匹ならかわいいかわいいなので仕方ないことなのかもしれない(?)

 

スクォンク(溶ける涙体):ずっと泣いていて、涙に身体がとけてしまう生物 p.139

・ずっと泣いているのが基本という状態が良い

僕も基本ずっと泣いているので共感した

・最後は涙に溶けてしまうというのも切ない

・もしかしたら自分は人間ではなくスクォンクなのかもしれない。

 

ラミアー:下半身が蛇の女 p.294

・ロバート・バートン先生によって書かれる伝説があまりにも悲しい

FFTAをやっていた時に頻繁に出てきた怪物なので個人的な思い入れも強い

・ザコかったので、コラッタよろしくばっしばっし倒していた

・でもコラッタ一匹一匹に、人間の抱く「恋心」のようなものがあったとすると思うとなかなかエグいものがある

・下半身が魚か蛇かでどうしてこうも印象が違うのか。

・FFはエグい。

 

 

こういう文学的な衰退は詩人の信仰の哀頽と一体である。p.233

 

 

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以上である。

一通り読み終わった訳だけれども・・・つくづく思うのは、「幻獣辞典」よりかは「幻獣文化史」の方が近いかもしれない。

文化史は基本生活やこれからの学問に大いに役立つわけではないが深堀をすればする程何かが満たされてゆく感覚がある・・・、そういった学問だと僕は認識している。要するに「けだるい喜び」が詰まった学問である。その入口として「幻獣」という形をとったものが本作・・・といったところか。

是非外国文学専攻・歴史学専攻の学生に読んでもらいたい一冊である。

 

いやはや、にしても軽い気持ちで読む本ではなかった。おかげさまで2月で読めた本はこれ含めて2冊。(もう一冊は小川洋子『不時着する流星たち』)すくねぇ・・・。

でも間違いなく1210円分の価値はあった。1210円分の時間はあった。書店員が薦める本に間違いなし。

 

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ファービー、ぴんくの謎のモンスターはともかく、ツチノコは収録されてなかったのちょっと悲しい。

 

***

 

LINKS

文学ガイドの感想 

tunabook03.hatenablog.com

 

文学ガイドに掲載されていたこの漫画は控えめに言って神でしたね。芋虫の話が最高なんだ。あざす
tunabook03.hatenablog.com

 

***

 

2月に読んだもう1冊の感想。これは結構「当たり」でした。洋子ちゃん、しゅき。

 

tunabook03.hatenablog.com