小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

我妻俊樹『忌印恐怖譚 めくらまし』-いい加減にせえよ!!!ヤマシタァ!!!!-

 

 

 

語られる。恐怖譚。

 

 

 

 

我妻俊樹『忌印恐怖譚 めくらまし』(竹書房 2018年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【概要】

不気味で不思議、そして異様ーーーあぶりだされるのは日常のひび割れから滲み出す不安と恐怖の数々。危篤なった父の病室から見えるモノ「位置」、その幽霊を見るにはあることをしなくてはいけない、でも見ると報いがある「下駄幽霊」、マンションの隣室から妙な音がする。クレームを入れるのだが・・・「石の音」、飲み屋で隣にいた男たちの会話を耳にはさみ、男はとある行動を起こそうとしたが・・・「密告」など、幻惑の名手が語る奇妙な実話亜怪談64話を収録。

 

【読むべき人】

・不思議系の怖い話が好きな人

・梨.psdさんとか好きな人

 

【感想】

いや~やっぱ最高ですね。今回も。なんでみんな読まないのかわっかんない。なんで。光村図書はよ。

僕思うに、表紙のテイストがよくないと思うんですよね。

ひらがなタイトルだなーってのは分かるけど、あとはまぁ言っちゃあ悪いけど無個性じゃないですか。怖い話の本、実話怪談の本、ってことしか伝わってこない。

でも我妻氏の集める怪談って、スタンダードな実話怪談じゃないんですよ。怖い話じゃないんですよ。不思議な話。奇譚。どっちかというとそういう系に近い。

ホラー表紙で期待したらおいおいおーーーい!!!そのギャップで多くの読者が面食らって離れているのではないでしょうか。*1

 

僕だったら・・・そうだなぁ、予算の都合上あれかもしれないけど、思い切って西島大介先生にお願いするかなぁ。漫画家なんですけど結構多くの書籍、特に文庫本のカバー手掛けてるんですよね。てか最近になって漫画家ってことを知った。

一番有名なものだと陽だまりの彼女、最近話題になったものだと「いとみち」(映画化とかしたよね?)。

でも怪談系も描いてて。「かにみそ」。

図書館で借りて読んだんですよね。確かデビュー作だったと思うんですけど、結構中身が変わったホラーなんですよ。なんかカニが出てきて、カニに色々あげちゃうみたいな。人肉とか。グロテスク版犬のかがやき。

あれも、普通のホラー表紙だったら「ええ!?」ってなると思うんですけど、既に西島大介先生のイラストで「ええ!?」で一旦面食らってるから、独特な世界観にナチュラルに入って行けるんですよね。

我妻氏の怪談も結構独特で、且つ「かにみそ」同様奇譚めいた部分があるので、西島大介先生は叶わなくとも、似たようなテイストにしたらいいんじゃないかなぁ、と思う。

そうすれば、ほら、毎年山のように出ている竹書房のホラー文庫の中でも、「あ!!これは我妻先生の作品だ!!!」ってわかりやすいし。

 

 

 

 

じゃあどの実話怪談・・・実話奇譚が今回は印象に残ったのか。

毎度のごとく適当に書いていく。ネタバレ辞さない。

特に好きなのは「よく当たる占い師」、「黄色いエレベーター」、「家」、「業火」、「男」

ベストは「ヤマシタさん」。

 

「ヤマシタさん」pp.13-18:呆けた元議員の父親の基に怪しい男女が来たよ~。

「どうもずんぐりして顔も体型も互いによく似た男と女が、炉の前で(略)p.17

ヤマシタ、と名乗る奇妙な男女が主人公にコンタクトを取ってくる、そしていろいろあって親父は死ぬって話である。ここまでなら別にうんともすんとも思わない。死神めいた謎の存在が体験者に接触してくる、数日後早ければ翌日親が死ぬ。よくある実話怪談のパターンである。

だけどこの話は最後。最後。

最後この2人が父が焼かれる炉の前でやっていた行為が非常に不愉快極まりないもので本当にゾッとした。意味が分からない飛び越えて怖い。本当に怖い。

このシリーズの中でも屈指の傑作だと思う。

やめろよ山P!!!!!

読んでたら無意識に叫んでたね。

今際の国で全裸になってんじゃねーーぞ!!!!!

 

「よく当たる占い師」pp.19-22:「黙れ!パパを侮辱するのか!?」p.22

占い師の豹変ぶりが怖い。ぎりぎり可愛げはあるけれども。でも四十歳くらいの女性かぁ・・・うーん。40かぁ・・・。ぎり厳しいか?

あとパパ、パパと呼ばせることの業の深さをなんか感じましたね。絶対肉体関係あったでしょこれ。

でもよく当たるなら僕も占ってもらいたいなぁ。

 

「焦げ跡」pp.49-51「深雪ちゃん怖くないの?」p.50

からの展開がびっくりだった。

見に行ったの彼女じゃないのに、理不尽極まりない。

花火、長らくやってないし見てないなぁ・・・。

 

「腕」pp.100-104:夫婦が炉端で口喧嘩をしている。ふ、とあるものが落ちているのが視界に入る。

腕である。この腕にまつわる後半の現象がなかなか興味深かった。

なんでそこまでして「右」と伝えたかったのか。

正確な自分の死にざまを一人でも多く人間に記憶してもらいたかったのか。生者の心理すらわからないのに死者なんて、尚更。わかるわけねーだろ。

どうでもいいけど、飛び降りは、痛い。

痛いけれど、一歩踏み出す勇気だけがあれば一瞬で、要するにロープを買ったりガソリンを被ったり薬の飲みすぎで体調が著しく悪くなることを覚悟したりする必要がないからこそ人気なのかなぁと思う。ホームセンター行ったりガソリンストア行ったりドラッグストア行ったりする必要ないわけだし。

 

「黄色いエレベーター」pp.106-113:やべえ女と別れた。

Oは三好くんの五歳上で仕事はしていないようだったが、親が土地持ちで裕福なので「遺産の前借」だと言って小遣いをもらって飲み歩いているという話だった。p.106

嫌悪感プンプンの話である。エロい、というか猥褻卑猥最悪極まりない一篇。我妻俊樹氏の比較的上品な文体ですらこんなに不快なのであるから、平山夢明氏とかが書いてたらもう読んでもられない最悪その場で文庫本ゴミ箱域不可避、な体験談。

その、上昇するエスカレーターをエクスタシーとかける発想は凄いなぁと思った。普通の人間じゃあ思いつかないでしょ。多分相当やべえ女、社会不適合者だったんだろうね。僕もどっちかと言うとそっち寄りな気もするので、死後エレベーターで自慰して気持ちよくなっているような幽霊には絶対ならないようちゃんと生きよう、って思ったね。

発達障害の本のラストに収録してもいいかもしれない。

ちゃんとしっかり人生を歩みましょう。

自己破滅願望は死語も己をまじで最悪な感じにします。

 

「家」pp.114-121:引っ越し先の物置に、小さい家があった。

平成最初の夏のことである。p.121

怖い。ゴキブリが出てくることにより不快感を醸し出す実話怪談は数あれど、ぎち・・・ぎち・・・としか動かない大量のカブトムシによって不快感を醸し出す実話怪談は初めてだったので怖かった。

くわえて、体験者の母親が亡くなるんだけれどもその後にまつわる体験も意味が分からなくて怖い。死者はカブトムシになるのだろうか。初耳である。蝶・蛾ならまだ分かるんだけれども。く、く、くクロアゲハ蝶のように・・・以下略。

あとなんとなくだけど…体験者の母親は多分今も、今もカブトムシとして大量の仲間と共にギチギチ家の中で、誰かが、それを、開けるのを・・・・待っているんじゃないかなぁ。aikoも仰天吃驚な一篇。

 

「いらない」p.125:勉さんは最近身近な人の不幸が続いた。p.125

代償がでかすぎる。あとうっかり僕もやっちゃいそうなことをやっての代償なので気を付けようと思った。

 

「業火」pp.130-131:村民の亡骸を安置するお屋敷が焼け落ちた。

恐ろしいし、これも代償がでかすぎる。パート2。

思えば、墓地での火災って確かに聞かない。火の玉ぶんぶん飛んでいる話は聞くから燃えてもよさそうなモノなのに、国内国外共に聞かない。

というか、墓場を火事という発想にすらこの話読むまで思い至らなかった。悪い人がこの話を呼んでいないことを願う。

ほら・・・なんか墓地で放火殺人しても「火の玉がやった」とかって言えそうだし・・・。

 



 

「小屋」p.149:迷い込んだ大きい墓地で、小屋を見つける。

これはちょっとかわいそう。でも思い出したら多分いけなかったんだろうね。あと、多分常日頃からこういう事やってるんだろうね。ひとを迷わせて其処に小屋を置いて電話を置いて。物凄い寂しい人なんだろうね。同情はしない。墓場で小屋遊びではなく、墓場で運動会の時代なので。かまってもらえるまで一人遊びをするのは陰キャ極まりない。ただでさえ死んでるのーに。ねえねえでもさぁ29になってこのまま魔法少女まっしぐらな私もこうなってしまいそうなんだけれども。「まぐろどん」と書いてある小屋があったら要注意!!OK!!!

 

 

 

「あんただね」p.163:駅でお婆さんが倒れた。

近年の邦画ホラーの傑作「恐怖人形」を思い出した。未だに日向坂の絶対的エースの小坂菜緒の初出演映画が「恐怖人形」だったの意味わかんないし、でも「ヒノマルソウル」より未だにファンの口にあがるのはこの映画だしもうなんかいろいろ意味わかんねぇよな。まだ見たことないので見なきゃなぁ。

 

「離れ」pp181-183:

ま、本当は何だかわからないものが棲みついてると知ってて、爺さんも内心おっそろしのさ、絶対に自分の臆病を認めようとはしないけどね。p.182

家の離れに、何だかわからないものが棲み憑いているのも恐ろしいが、それを取り巻く人間の悪意・恐れをひしひしと感じる実話怪談。片足純文学つっこんでる。

多分、何か相当恐ろしいことがあった「事後」なんでしょうね。バッドエンドの、その後の話だと思う。あとなんとなくだけど、この爺さんは亡くなっても浮かばない気がする。離れを離れられない気がする。

 

「男」p.189:

道路にチョークで落書きをしていたら、描いた覚えのない人の顔が描かれていた。p.189

怖いですね。

真夜中12時に包丁を加えて洗面器の水面を覗き込むと、の話を思い出した。

あの話はまだロマンティックなところあるけどこれは・・・。

 

紫煙の中で」pp.190-191:喫煙所で煙草をふかしていると男がやってきて同じく吸い始めた。

そういうことってあるぅ!?ってなる掌編。ちょっと笑ってしまった。

確かに紫煙の向こうは、見えにくい。相手の顔も。全身も。生死も。

令和にもなると、ぷかぷかタバコふかふかしている女なんてめったにいないからねびっくりしちゃうよね。仕方ないね。

 

「財布」pp.192-193:財布がすられた夢を見る。

どういうこと!?って思った。・・・どういうこと!?狸狐妖怪の類の話しなのかな。それとも新種のナンパ?マジシャンだった、とか?新手のてじな~にゃか!?こんちくしょう!!

にしても、最後の一行の真意が読めない。え、なんで。・・・どういうこと?

 

「ガソリンスタンド」p.199-203:の心霊写真をブログのトップに表示するようにした。

え、まじでどういうこと!?って思った。謎が起きてさらに謎が起きてさらに謎が起きた挙句に、知り切り蜻蛉のように話が終わって何処にも着地しないのが気持ち悪い。

じゃあその画像はどこで?ガソリンスタンドは実在したの?してないの?そのタクシーは本物?偽物?信州はSHINSHUという表記になるが、日本にある地域?それとも外国にある地域?宗教はあったの?なかった?嬲り殺された女はいた?嬲り殺した男はいた?それは本当の話?そもそもこんな話は実在した?ブログはあった?ないの?ねぇどっち。

こんな体験したらアイデンティティやら自意識やら自分やらを、ぜーんぶ見失って、ふらふら自殺不可避。ガソリン被るのはカンベン。怖いし痛いし熱いから。怖い詩痛い死だけですむ、やっぱりここは主流の飛び降りで。

 

「表札」pp.204-208:住処跡には、変な名前の表札が山ほど見つかった。

その亡きホームレスの生活が世界が垣間見える不思議な一篇。猫とカラスは友達で、人間は近寄ってこないけれども、夜な夜な幽霊が家の前で行列を作るから、名前を考えてあげないといけない。与えると満足そうに去っていく。お金はいらないと言っても何かしら彼等はおいていくからそれに金額をマジックで、書いてみる。本物のお金だったらと思う。

そして夜明け頃にようやっと行列の最後の一人迄を名付けて、仮眠をとる。3740円也。日が完全に上ると公園の水郷で頭を洗う。公園のトイレで下半身などを拭く。

そして日中は猫とカラスを遊ばせながらゆっくりまどろんで、講演に訪れる人々を遠めから眺めるのである。平和。幸福。の。はて。

 

「鈴」pp.209-213:居酒屋からカラオケの移動の途中はぐれて、仲間とイチョウの木の下で何となく遊ぶ。

これも謎極まる現象が起きている一篇。途中で姿を一人くらませたときは死んだかな?と思ったけど無事でよかった。

というか、銀杏、鈴、といいそこにガチの悪意は感じられない・・・気がする。多分誰かの大掛かりな冗談にもならない悪戯、といったところか。狐狸の類の話な気もする。

 



 

以上である。

今回比較的掌編が面白かったかなぁ、という印象。長い話も面白かったけど、「豪火」「男」なんかはよく1ページ2ページでこんなに人を怖がらせるものなのだなぁと感心。

このシリーズは全4冊なので残り2冊。大切に。一気読みしたいですね。

 

***

 

LINKS

「表札」で思い出した随筆。

 

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他、我妻俊樹氏の単著の感想を書いた記事。

 

 

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***

 

20230510

これもかなり昔に書いた記事。

ついでに、2023年5月10日現在、29歳の私は魔法少女に慣れないことが確定したことだけこの場を借りて報告しよう。

*1:これは新しいシリーズではちょっぴり改善されております

我妻俊樹『忌印恐怖譚 くちけむり』-マッチョなヌード。-

 

 

我妻俊樹氏のシリーズ2つ目読むよ~。

 

我妻俊樹『忌印恐怖譚 くちけむり』(竹書房 2018年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【概要】

その話を口に出せば、あの世の爪が突き刺さる!

いじめを苦にして自殺未遂した妹、その入院中に事故に遭ったいじめの首謀者。妹が不思議なことを言うーーー「こういうこと」、怪異が起こり住む人がすぐ出ていくく事故物件。不動産担当者が本気でお祓いをしたのだが・・・「お祓い」、海外絵d殺されたであろう夫のことを夢に見続ける妻は・・・「夢野続き」など48話収録。

奇妙な話の名手が新たな怪異と不可思議を追究した新シリーズ!死者が遺した思いはけむりのように儚くーーー怖い。

 

【読むべき人】

・梨.psd先生のように、所謂不可思議系実話怪談が好きな人

・奇譚、不思議、等の言葉に惹かれる実話怪談好きな人

 

【感想】

我妻俊樹に飢えていた。

単著のシリーズ「実話怪談覚書」を読んだはいいものの、その後ちょっと訳あって入手した同じく竹書房文庫の実話怪談がとてもいまいち*1すぎて、「あがつまぁ・・・あがつまぁ・・・おまえのはなしをきかせてくれよぉ・・・」という状態になっていた。しかしメルカリをいくら覗いても、本シリーズで手ごろな値段はなかなかない。

というわけで、ダメ元でアクセスしたブックオフオンライン・・・「あるじゃん!」

あった。今のとこ出ているこの「忌印恐怖譚」シリーズ4冊、全部あった。ご存じの通り、ブックオフオンラインは1500円以上で送料無料になる。

これは、と思い全巻購入した。

・・・分かる。

ああ、わかるさ。そんなに好きな作家であるならば新品で買え、分かる。

でも僕はフリーターの身・・・10万そこそこで一人暮らしをしなくてはならないしアイドルも追いかけなくてはならないまぁそこは・・・うん・・・2018年の本だし・・・うん・・・あと僕は、まぁでも僕は・・・我妻俊樹も大好きだけどブックオフも大好きだから!!つぶれちゃったら元も子もないからぁ!!寺田心の成長!!!愛でたい!!!ブックオフのCMなくなったら何を介して寺田心の成長を体感すればいいんだよ!!!あああああああ!!!!!!あああああ!!!近所に店がない為、オンラインでしか応援できない!!!買うっきゃない!!!!!!

 

閑話休題

そして読んだわけですが・・・今回も面白いですね。

ただ収録話数は前シリーズより少ない、ため一話一話は長め。

まぁ個人的には短めの方が好みだけど~、でもそれを抜きにしても最高。今回もぐいぐい読み進めた。10万そこそこの仕事がどんなに大変でも、どんなに辛くとも、社会不適合極まりああああああになっても、ベッドの上で著者の集めた怪談を読む瞬間を想像すると、ちょっとだけ、もうちょっとだけ頑張れた。

 

我妻氏の集める怪談は、怖い、だけじゃないんですよね。

不思議、奇妙、なところが多々あって。「怖いぞ~怖いぞ~」だけだと正直読んでて疲れてくるし、それ優先で実話感より創作感が酷いと醒めてきたりもしちゃうんですよ。

だけど我妻氏の怪談は不思議、奇妙がベースだから読んでいて疲れないんですよね。

むしろちょっと癒されるくらい。

だからね、僕が言いたいのはですね、

全日本国民の家庭に我妻俊樹のシリーズを置け。

そうすることでですね、疲れた死ぬ⇒我妻俊樹で癒される⇒元気になる!⇒強くなる!!!、で、コロナにですね、日本国民はですね、勝てるのではないかと・・・。

 

 

 

 

以下簡単に特に印象に残った話の感想書いておく。

ネタバレもするから注意。

特に好きなのは「夢の家族」「死んでるんでしょ?」「手首」、あとまぁ「マッチョなヌード」

 

 

「カジノモト」pp.7-10:深夜、店の前を通ると、Tさんの音痴な歌が聞こえてきて・・・。

締まっている筈の時間に、人気がない店内で歌う客。

その店が火事になり、歌ってた客が意識不明、になるのはまぁ予想がつくし、まぁどっかで読んだ怪談と同じパターンだなぁで終わっていたと思う。

ところが、本編は

「マッチイッポンカジノモト」

鼻にあっかったような奇妙な訛りのある声がそう聞こえたという。p.9

これが最高に気味悪かった。

想像がつく。生々しく。恐らく女の声で低くて、耳元間近でそれなりの声量で言っていて・・・。

あと妙に語感がいいせいか、一度読むと忘れられない。

マッチ一本火事のもと。

よくよく読むと火事の要因に関係なかったマッチが出てくるのも結構な謎なんだけれども、そんなことはどうでもいい。マッチイッポンカジノモト・・・。

絶対表紙に写ってる女が言っとると思うわ。こわこわ。

 

「マンションの話」pp.20-29

①ある部屋の家具・荷物が山積みになって、共用通路を度々塞ぐ・・・。

②酒の勢いで除霊が出来ると言ってしまった。それに興味を示した美女の部屋に行くことに・・・。

③弟夫婦の部屋に遊びに行く。奥さんがごちそうを作ってくれるとのことで買い出しに行くが帰ってこず・・・。

3つの話が10ページに収録された話である。そして最後に、この3つの怪談が起きた場所の共通点が2つ挙げられ、本編は終わる。

①と③はもうそれ単体でも十分通用するような結構インパクト強い実話怪談。①はどれだけパワフルやねんという話だし、理由もわからんし気味が悪い。③はもう3編の中で最悪of最悪みたいな話で、なかなかクる。いやいや何買ってんねんというかそもそもそれ買ってないでしょ。拾いものでしょ。あと被害者が弟、とバリバリ血縁が繋がっているのがまたね・・・。絶対ろくなことは怒らないだろうなぁと確信させる結末。

で、③の後味でうわぁ・・・ってなったところに、3つの実話の共通点が2つ書かれる。

その一つが「どの部屋も部屋番号が■■■号室」であること。

その階その番号の部屋に、僕は今まで住んだことは無いけれど、それでも今後何があろうとも、その番号の部屋だけは住むのはやめようと思ったね。だってさぁ、買い物と称してさぁ、拾ってごちそう作るのは・・・頭おかしくなりたくないもん・・・。

 

「出口」pp.39-42熱があるがどうしても今日中に資料をしあげなければならない。なんとか出勤し、しあげたはいいものの、オフィスの出口が分からず・・・。

まさしく現代の白馬の王子怪奇譚。仕事を頑張っている全キャリアウーマンの希望みたいな存在が出てくる。

上川隆也似、とのことではあるが、僕の元にいつか現れる時は中村倫也似でお願いしたい。まぁ10万そこそこしか稼げない社会不適合者のもとには・・・来てもジョイマンとかノンスタイル井上とかそこらへんかな・・・。

 

「夢の家族」pp.49-53:小4の弟は深夜に寝床からいなくなって、一家総出で探したら、陸橋の下にしゃがみこんでいた。その弟が言うには・・・。

一番怖かったです。気味が悪い。分からない。怖い。

人間の家族になりたかったモノの話なのかなぁ・・・人間に取り憑いて本物の家族になる機会を伺っていた、そして成功した、ということなのだろうか。大食いなのは夢と現実共通しているし。・・・まぁ完全推測だけれども。

中盤弟が語る、その「家族」が出てきた夢の描写が物凄く気味が悪い。最近YouTubeで活躍しているバーバパパさんの動画をぐっちゃぐっちゃに丸めて無理くり広げてそこに「家族」というキーワードを散りばめたかのような・・・。

「なかればれん、なくやさめがか、とにかくよかった・・・心配したんだぞ」p.51

僕も読んでて心からそう思った。

 

「お守り」pp.60-64:電車で居眠りをしていて、気が付くと膝の上に御守りが乗っていた。それを何気なく拾ってから、ろくなことがない。

その御守りの中身は・・・といった話。

御守りと言えばネット怪談で有名な話がある。

【「母の御守り」母子家庭で支え合って支え合って生きてきた親子。病気に倒れた母親が、死ぬ直前娘に御守りを渡す。後日その中身を見ると・・・】

と言った具合の話である。細部は多少違えど、中に「死ね」と書かれた紙が入っていた、っていうのはだいたい共通してたと思う。

家族からもらった御守りは怖い。

じゃあ、他人からもらった御守りは怖くないのか?

そういうわけじゃないんだよ~逆に誰からか分からないことで恐怖感マシマシってこともあるんだよ~ためになったね~ためになったよ~と啓発する実話怪談。

【アンチ・母の御守り】談、といってもいいかもしれない。

 

「ナンパした女の子」pp.102-107:女の子をナンパしているとじっと見てくる男がいて・・・。

正直話自体はそんなにインパクトない。男、どころかその女の子自体もよく分からない存在、という展開は読めた。

ただ最後。体験者は昨日と同じバーを訪れるが、マスターに昨日は来てないでしょと言われる。その後の、

カウンターがあきらかに昨日より短くなっている。具体的には向こう端の席が一つ減っているようだ。つまりじっとこちらを見ていた男が座っていたはずの空間がカウンター事壁に埋もれたように消滅していたのである。 p.107

このカウンターのテーブルが伸び縮みする部分だけ妙に記憶に残ってる。まるで初めて星新一「ボッコちゃん」を読んだあの時のような・・・。喪黒福蔵の行きつけのあのフクロウm血合いな老人がいるあの・・・。バーの話はなぜこんなに魅力的なのだろう。薄暗いからかな。ほとんど行ったこともないけど。

 



 

「死んでるんでしょ?」pp.113-120

「どうせ婆さんの死体で抜きたかったんでしょ?残念でした。うちは健全な店なんでそういうのないから」p.119

郊外のレンタルビデオ店、道路に転がる犬の死体、ババア、明らかにダメダメな模試の結果、うまく再生されないAV、ババア(パステルジャージ)、曇天、再生された巨乳、腐敗する犬の死体、ババア(パステルジャージで小柄)、乾いたアスファルト、へらへら笑う店員、骨になる犬の死体、ババア、郊外のレンタルビデオ店、喜ぶ犬、ババア、レンタル、ババア、犬、模試、郊外、アスファルト、犬、ババア、ビデオ、死体、ババア、志望大学お前はいけないです、AV、レンタル、死体、腐乱、パステルジャージ、巨乳、模擬、レンタルビデオ店、犬、死体、ババア、ビデオ店、犬の死体、レンタル、犬、、道路、レンタルビデオ、骨、犬、レンタル、ババア、レ、バ、レ、バ、レ、レ、レ、レ、ババア、ババババ生レバー。「ワン!!!!!」

謎の映像はもう再生されませんピーーーーー。

レンタルビデオ店、受付の、若い女の店員は言いました。

「私ボッコちゃん、犬の骨シャブって生きているの」

郊外のレンタルビデオ店の乾いた雰囲気が大好きです。

 

 

 

 

「お祓い」pp.129-134:

手首と首から血が流れてて、片手にカッターナイフ握った小太りの女の人がうつろな目で宙を見たままお湯に浮かんでるんだって。p.130

ダイイングメッセージものは、ミステリだと興ざめするけど実話怪談だと怖いよね。

あとこれだけの自己PR力があれば就活とかも楽勝なんだろうなぁってちょっと羨ましくなった。

 

「手首」pp.144-147:彼女の手首には口がある。

一昔前なら人面瘡というやつか。

この口から出てくる言葉が〈死ね〉〈不幸になればいい〉〈殺してやる〉〈呪う〉系だったら、別に印象に残らなかった。

〈ごめんなさい〉

手首から聞こえた声は、女児のような小さな声でとても申し訳なさそうに震えていたという。pp.146-147一部省略

そんな声でそんなことを言われちゃあ・・・である。

思うに彼女の根幹、みたいなものが、そこにいるのではないか。生きていてごめんなさい。ここにいてごめんなさい。だから怖いことしないで。怖いことしないで。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。

いたいけな一篇。

 

「マッチョなヌード」pp.165-169:職場の地下の食堂が、和風で美味しいけれど全てがちぐはぐ。

マッチョなヌード。良い日本語である。自然とマッチョは脱いでいるイメージがある。わざわざ裸の、みたいな修飾詞をつける必要はない。だから「マッチョなヌード」という言葉は、なんか当たり前に思っていた物事を全然別の角度から切り取ったかのような・・・とても新鮮な感じがあって良い。マッチョなヌード。マッチョなヌード。マッチョなヌード。べっちょりラード。

怪奇現象自体はまぁ・・・なぜか店員が家のこと知っているのは確かに怖かったかな、マッチョなヌード。今年の流行語大賞決定です。

 

「夢の続き」pp.170-175:外国で拷問を受け続ける夫の夢を見る。

まぁ、死体になってその後もずっと延々と流れてくるんだろうなって言うのは予想できた。でもその後がまぁ・・・ちょっと予想を超えてくるド迫力の展開でどうしようかと思った。どうしようもないけど。

最後、残虐極まりない夫の死に様を見た、妻なりの行動がなんとも涙ぐましく痛ましく美しい。前半のグロテスクと、終盤の純粋たる寂しさ愛しさの対比が美しい一篇。

 

「防犯カメラ」p.202:人影が映っているというが・・・。

えそっちぃ!?ってなった。そっちぃ!?予想外のあっさり掌編。

 

「話しかけて下さい」pp.203-208:アンケート用紙を配布しに訪問すると、玄関先に出てきた女が瓜二つの女を車椅子に乗せていた。

最悪な双子モノですね。怖い怖くないの前にどういうこと!?となるけれど、後味の悪さはなかなか。日々どういう暮らしをしているんだろうって想像巡らせるとね・・・。絶対ろくな生活送ってないわ。

何気なく通り過ぎる住宅街の一角一室でこういう悪夢がめくるめく日々展開されていたら嫌だなぁって思った。

あとこういう老後送らないようにしたい。

でもなんか体験者全部全部そう全てが夢のような気もするんですけどね。どうなんだろう。でもこういう老後は絶対嫌だ。

 

「よくないところ」pp.212-219:引っ越してきた部屋を大叔母が「よくないところ」と言っている、と実家から直接来た母親は言う。

最後の一篇。発言した大叔母が倒れたり、すぐ空室に鳴ったり、それでも声が聞こえたり、仕事が入ってくるようで入ってこなかったりと、結構踏んだり蹴ったりだけれども、引っ越しを予算の都合上でしない体験者は、もうもはやその場所に呑み込まれているも同然では?と思う。貧乏になるのも向こうの計算済みなのでは?実家からわざわざ忠告しに来るくらいだから母親が出してくれそうなものだけれども・・。

実は家賃も滞りがちになっているのだが、大家から督促がきたことは一度もなく、それがかえって不気味な気もするんですよとUさんは語っていた。p.219

特に最後の一行が何気なく怖い。大家も関わりたくないという事では。

 



 

以上である。

今回も結構僕好みの話が多くてすぐ一気読みしてしまった。

これを機会にもう我妻氏の単著は全部コンプリートしてやろうと思っている。

 

ところが近年、我妻氏は単著で実話怪談発表されていないんですよね・・・なんで!!Twitterではよく分からん短歌ばっかり・・・なんで!!

彼の不思議な世界観は実話ベースだからこそ輝くのであって、創作べーすだとふわふわしすぎちゃってイマイチ入ってこないんですよね。だから三十一文字数えている暇あるんだったら一刻も早く一つでも多く怪談の取材に赴いていただきたいなーと思う今日この頃。

 

***

 

20221228

ところがどっこい今年の10月なんと!!!我妻氏の実話怪談単著が発売されたんですよ!!!ちょー最高だった。ちょー最高!!!めっちゃいいです。本当いいです。発売日に買って即読んだんですけど・・・え?2冊目まだ???

 

***

 

20230610

下書きでとまっている記事が多数あるので、しっかり写真撮ってあげれるものからあげていこうかなと思っている。

多分1年くらい前に書いた文章かなぁ・・・。今まではこれだけの文章量書ける気はしなかったけど、最近ようやっとなんかそういう気力戻って来た。気がする。

 

 

LINKS

他の我妻俊樹氏の単著!!!の感想!!!

 

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*1:これもいつか感想書きたいね。

中島らも『人体模型の夜』-善人面した小説は、つまんない。先生。-

 

 

 

人体模型曰く。

 

 

 

 

孤独の嫌いな女もいるんだわ。死ぬのさえ独りじゃ我慢できない、そんな女もいるんだわ。

 

 

 

 

中島らも『人体模型の夜』(集英社 1995年)の話をさせて下さい。

 

 

 

【あらすじ】

一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。

その胸元に耳を押し当てて聴いた、現用と畏怖の12の物語。

18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声正体は(耳飢え)。

人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密(膝)。

眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。

愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・ホラー系の話が好きな人

・比較的面白い短編集が読みたい人

・ホラー苦手だけどホラー短編集が読みたい人

 

 

 

 

【感想】

本書を知ったのは朝宮運河氏編纂アンソロジー『家が呼ぶ』で、本書掲載短編の「はなびえ」が掲載されていたからだ。

中島らも、といったらなんだか知らんけど「お気楽おじさん」みたいなイメージがあったので、こういう短編書くんだと意外だった。

また、「はなびえ」自体が掲載されている本書の「人体模型が語る話」という設定も面白いと思ったし、他にどんな話を聞かせたのだろうと気になった。

ので、さっそくメルでカリって検索し・・・本書を購入した次第。

 

 

 

表紙がめちゃくちゃレトロかわいい。

今の文庫本ではまず見られないようなタイトルの文体と、あと顔と胴体のバランスがなんともいえない、よく見ると蠅?の翅のようなものが生えてるドールちゃん。

たまらねぇ表紙だぜ・・・。

イラストレーターはひきうちみちお先生というらしい。どうやらガロ系で活躍した漫画家との旨。どんな作品化描いてんだか・・・とアマゾンで見てみると、結構頭おかしくて面白そうな話ばっかり。トムブラウンといいやっぱり平仮名で「みちお」と名乗る奴は頭やべえヤツが多いのかな。もっと増えろ。

 

短編集の感想としては、まぁ正直期待よりちょっと下。掲載されていた「はなびえ」が一番良かった。

その他も悪くはないけど、多分一年後僕が明確に覚えている短編はこの「はなびえ」以外ないだろうな・・・って感じ。

もともとが怪奇小説メインの作家ではないというのもあるけれど、全体的に薄味の印象を受けた。もっとおどろおどろしくても良かった。

ただその分、さくっと読める「ライトさ」があるのは事実だし、多分ホラー小説苦手な人はこれくらいが一番いいんじゃないかなあとも思う。

 

 

 

 

以下簡単にあらすじと感想を簡単に述べておく。

 

「邪眼」pp.17-33

イスラム圏・そして主人公夫妻が住むスリランカでは、邪眼・・・「イーブル・アイズ」の言い伝えがあった。

ハーリティ「だんなさまのためにお祈りしているのです。それがいけませんか?」p.25

解説でも田辺聖子先生が触れていたが、ローズマリーの赤ちゃんを思い出す一篇。

妻が宿しているのは人間の子か悪魔の子か・・・という不安に翻弄される話。

まぁ結局今回は■■の子でしたよ~という話で、それ以上でもそれ以下でもなかった。宗教とか習わしとかそういうのに興味があればまた響くような気もしないこともないけど・・・。

本書が単行本として発表されたのは1991年。30年も前である。その時にはまず「スリランカ」という国が未知で、そこから読者は別の恐怖をくみ取っていたのかもしれない。今じゃあ紅茶の産地ですが。

 

「セルフィネの血」pp.33-50

「地上最後の楽園」を求めて船旅を続けてきて主人公は、とうとうその名にふさわしい島を見つける。セルフィネ島・・・。

コモイ「セルフィネは天国でも楽園でもない、ただの人間の住む島だよ」p.47

地上最後の楽園・・・ただ楽していれば歌って暮らしていけるような楽園・・・まぁそんな都合のいいお話なんてないよね~という話。

絶対なんかあるわ絶対なんかあるわ・・・・って思ってたらはいやっぱりありました~感。正直その”何か”の伏線か何かあればよかったのだけれど、そこが全くないのがちょっと残念だった。

にしても、「邪眼」といい本編といい、本書は全体を通して異国の島を舞台にした作品が多い。らも先生が旅行好きだったのだろうか。それとも、旅行嫌いだったのだろうか。それとも1991年・・・バブル真っ盛りの時代が故の舞台設定なのだろうか。

 

「はなびえ」pp.51-72

調香師である梨恵子は、元カレの泉から、広さ・設備共に充実しているにもかかわらず家賃が低めの所謂「穴場」的物件を紹介される。

梨恵子「孤独の嫌いな女もいるんだわ。死ぬのさえ独りじゃ我慢できない、そんな女もいるんだわ」p.71

生来ぼっちのまぐろどん、そんな人なんておらんやろ~(笑)と思っていたけど、案外そうでもないのかなと思う。

例えば他店の社員の子は、一緒に帰る人を待つがために45分も店舗で作業が終わるのを待っていたりする。休日にわざわざ僕が務めている店舗に友達と一緒によってきたりとか。え、休日に会社行こうと思う?

孤独が嫌い、ってああいう人のことなのかなと思う。

ああいう人が、恋したらどうなるんだろ。

にしても、梨恵子の上記の台詞は何回読んでも最高。口に出して読みたい日本語ですね。

 

「耳飢え」pp.74-95

盗聴マニアが住んだ部屋の隣室からは、女がずっと穏やかな語り口調で話し続けている声が聴こえて・・・。

マンションにはつまり「横」という空間はないのだ。p.81

いかにも古い世にも妙な物語の再放送にありそうな話。残念ながら今では、結構陳腐だけど・・・30年前はもっと本編のもつ味が鋭かったんだろうなあと思う。

でも主人公である盗聴マニアの男が語る盗聴の魅力は結構面白かった。もうさあ、こんなん間違ってレオパレス住んじゃったら毎日絶頂してそう。今風に本編にタイトルつけるとしたら「耳飢え」(笑)なんかではなく、ミスターレオパレス」

ちなみに、「世にも」で思い出したけど、逆に音が無い状態にこだわる男の短編「Be silent」という作品も昔ありましたね。当時怖くて布団から出たり出なかったりしながら見た覚えがある。あれも極端な話だったけど・・・。あれも今風につけるとしたら「ミスターアンチレオパレス。隣に配信者とかいたら容赦なく殺しに行きそう。

 

「健脚行ー43号線の怪」pp.100-120

「知人」である14歳の少年・里志の亡き兄は、競輪選手志望だったが・・・。

主人公「そうか、里志。君は、きっとトップクラスの選手になれる」p.120

多分ちょっと泣かせる怪談・・・なんだろうけれども涙腺にびくとも来なかった。多分らも先生自身が、そういう美談を信じていないから。

らも先生の文章力だからさくさく読めるけれど、これだけ圧倒的に群を抜いてつまらなかった。絶対らも先生自身が、そういう美談を信じていないから。「膝」とか「骨食う調べ」とか、ああいうクソみたいな人間描いている作品の方が何倍も何十倍も面白い。多分らも先生自身が、そういうクソ人間以下略。

作家に道徳を求めるなよ。

・・・善人面した作家程気持ちの悪いものはない。

 

 

 

「膝」pp.121-142

遺産によって財はある男がなんちゃって「人面瘡専門家」を名のって10年、人面犬・人面魚ブームに則って仕事が来るようになり・・・。

主人公「あ、もうお腹かくしていいから。Tシャツおろして」p127

オチは陳腐だけれども、其処に至るまでの主人公の日常の描写がめちゃくちゃ面白かった。人面瘡を信じていないからなんちゃって専門家を名乗ったのであって、ツッコミに回ったりあっと言わされたり、中盤までが神。

多分らも先生の本領ってこういうところなんでしょうね。「骨食う調べ」もそうでしたが・・・。相手をあっと言わせるなんちゃって悪人を描かせると一級品。ブラックユーモア。黙れ道徳。目指せ怠惰。迸る悪徳。ずっと読んでいたくなる。名作と名高いガダラの豚とかもうこういう感じなのかしら。

終盤の展開はまぁ・・・何となく読めてはいましたが、中盤までの素っ頓狂ゲラゲラ笑える展開からのグロテスクな結末の落差は、分かっていながらも啞然。

 

「ピラミッドのヘソ」pp.142-162

実業家は、一人娘の夫を試すため、新宿一等地に土地を与えて自由に建造物を作らせてみた。そしたらピラミッド、作っちゃった。

若松一政「なるほどな。”死”や”老い”と逆のものをもたらすのがピラミッド・パワーだということか」p.160

なんだかとても勉強になった一篇。確かにそうなのかもなぁ、とか思ってしまった。非現実的ではあるけれども、数学的なる論理。現実≠数学。超絶。まぁそんなにピラミッドに関心ないけど。でも生まれ変わり先の時代を選べるなら十分古代エジプト、アリ。奴隷と言っても奴隷じゃないと聞くし。

あとピラミッド・パワーを詰めました!!!」と空のペットボトル売ったら凄い儲かりそう。そのラベルにこの話の活字を印刷しようぜ。

 

「EIGHT ARMS TO HOLD YOU」pp.166-186

日本のミュージシャンのトップに立った、族永作(やから えいさく)がクルーザーで豪遊中、「ジョンレノンの未発表曲がある」という男がやって来て・・・?

ジョン「ぼくは出ていってもいいけど、誰がギターを弾くんだい」p.178

クルーザー、且つタイトルが「EIGHT ARMS」でオチが分かりそうなものだけれどもそのままのオチである。要するに、タコに巻かれて死ぬ。

でも多分この短編のメインはストーリーじゃない。「ジョンレノンの未発表曲の音源」という設定を楽しむ話なんだと思う。録音前の会話とか、どの時期に作られた音楽なのかとかもきちんと練られていて、らもちゃんまじビートルズ好きなんだな~ッてのが分かる。

多分同じくビートルズファンだったら、この架空の音源を取り巻く物語を楽しめたんだと思う。僕はビートルズファンじゃない。

あー、あと。矢沢永吉をもじったと思われる「族永作」のユーモア。

今じゃあ渋カッコいい大人の男最前線を日産の車で突っ走ってるイメージですが、刊行当時1994年はまた違ったイメージだったのかな。

 

「骨喰う調べ」pp.188-202

霊園・墓関連を担当する不動産会社社員俺の日常。

(お坊さんの説法について)女たちは十万円出せば十万円分の、百万出せば百万分の「なぐさめと安心」を自分の心の中から買いとっているのだ。p.302

クズ不動産会社社員(営業)の日常をユーモラスに描いた一編。やっぱり変な道徳ものより、こういう死人も生者もクソクラエみたいな文章の方がらも先生は圧倒的に輝いておられる。めちゃくちゃ面白い。クライマックスの「七月二十日」の結末には爆笑した。

クソ野郎は強い。

強すぎる。

その中に上記のようにはっとさせるような一行があって、ヒヤリとさせられるのも心地よい。

クソ野郎は真実を突く。

鋭いナイフで。

 

「貴子の胃袋」p.209-236

娘が肉を食べなくなりベジタリアンとなったが、やがて植物にも命があると気づきはじめると・・・?

それも牛のように力強くおだやかな感性ではなく、いつも耳を立てている兎のように、弱くて憶病なところがある。p.225

拒食症を描いた一篇。とうとう挙句の果てにはちょっと狂って、父親母親に殺意を向けてしまう。なんとなく始まった時からそこまでは予想はついていましたが・・・。

でもそこからが勝負。さぁどうなる貴子はどうなる。死ぬのか殺すのかもしくはなんでも食べるようになるのか父母バキバキ食べるようになるのかこっちが本当の「骨喰う調べ」ってか・・・!!???

とワクワクした割には、何も起こらなくて肩透かしを食らった。

恐らく、漫画やドラマなど視覚的メディアの方が映えるであろう一篇。

 

「乳房」pp.239-249

福永教授は、アメリカで開催されている降霊会に半信半疑で参加することに・・・。

福永教授「おやおや。この連中はまだこんなことやっとるのか。何とも古色蒼然たる降霊会だな」p.240

「乳房」、って上品ぶるよりかは「おっぱい」って名前にした方がいいんじゃないか。それくらいしょーもないオチに笑ってしまった。

いくらでも幻想文学・・・ゴシックを極められそうな題材であってもらも節にかかればおっぱい!おっぱい!!

 

性器

「翼と性器」p.251-260

とある産婦人科医は、「天使の性別」について妄想に囚われて・・・。とうとう己の性器を切除するがそれではあきたらず・・・・。

連絡もせずにすまなかった。三か月ぶりの手紙だ。p.252

「おっぱい」とは違った上品な文体、上品、上品、上品・・・からのど・下品なオチに笑ってしまった。いやいや、こんなんいくら人体模型とはいえど小学生に話しちゃダメでしょ。

あと、実はタイトルに巧妙な伏線が張られていることに気付く。

 

 

「プロローグ」pp.9-15

「エピローグ」pp.261-262

少年は、人体模型の胸から耳を離した。

すべての話を聞き終えたのだ。p.261

人体模型、といったら普通の人体模型を想像していたので、それをはるかにしのぐ幻想的でゴシックな人体模型が出てきたときはちょっとビックリした。皆川博子先生を思わせるような、人体模型もいいけれど・・・。これだけビビッドな色とりどりの短編が並んでいたのであれば、僕等が想像する普通の人体模型に語ってもらいたかったなぁ・・・これらの話を。

こんな上品な人体模型から「膝」「骨喰う調べ」「おっぱい」みたいな短編聞きたくないよ。なんかもっと上品でロマンチックなことを語ってくれよ。

 

 

 

 

以上である。

概ね面白かったが、ホラーとして期待すると肩透かしを食らう。

表紙が可愛くて、ちょっぴりこわくて面白い短編集、くらいの気持ちで読んだ方がいいの「らも」しれない。

 

 

 

 

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***

 

20230219

最近また表紙を新しくて刊行されましたね。

1年以上前に書いた記事でしたがまぁみごとに「はなびえ」しか内容覚えていなかったよね・・・。

あと「孤独が苦手な女」くらいか。

 

「恋する惑星」-人間なら誰しもが、惑星だった時代がある。-

 

 

 

あなたの心に不法侵入。

 

 

 

恋する惑星」(1994年 香港 監督:ウォン・カーウァイ 主演:トニー・レオンの話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

2つのアベックの恋は、香港の夜をかき乱しながら華やかに咲く。

刑事と、薬物売人の謎の金髪女。失恋直後に出遭う女は危ういぜ!!

女性店員と、警官。・・・飛行機は進路を変えた。

 

「制服姿の方が素敵。でも私服も素敵。」

 

香港のネオン輝く夜にひらめく言葉は中国語。

ニュー・レトロチックな世界観にぶっ刺さる不器用な僕達の恋愛。

 

【見るべき人】

・最近フューチャーされるニューレトロ的な世界観が好きな人

・映像に酔いたい人

・岩本照が好きな人:後半出てくる警官がそっくりなんだぁ・・・。

 

 

 

いろいろ当時のパンフとか展示されてた。

 

【感想】

中国のどっかの有名な監督作品が映画館で上映されるぞ、ということで早速行ってきた。初日に行ってきた。というのも、物凄く公開を楽しみにしていた「女神の継承」を、公開のタイミングで見事コロナウイルスに僕がかかってしまい見に行くことが出来なかったのである。コロナの継承。

なので、ちょっと気になっていた、その中国のどっかの有名な監督の再上映、特にその監督した作品の中で名前を唯一耳にしたことのある本作は見に行かねばならない、と思って行ったのである。だってなんか初日はステッカーくれるっていうし。

 

実際行ってみると凄い人の数だった。静岡サールナートホール、まぁミニシアターなんだけれども今まで見たことのないくらいの人数だった。時間に余裕を持って行ったにもかかわらず配られた番号札には「21」(番目)と書かれており、普段僕の特等席である一列目中央はすでにとられていた。40代くらいの黒いブラウスにタイトスカートをはいた女性だった。

しぶしぶその人から一席あけて座る。入場は途絶えない。33、34、35・・・42、43・・・・。

そのほとんどが女性。若かったり年老いていたりしている。それだけの人数にそれだけの人生を背負ってきている。そして間違いなく僕もその中の一人である。恋する惑星・・・でもここにいる女全員が、かつて「恋する惑星」だったことがあるのだわ。だからわざわざここにきて1800円支払ってここに座っているのだろうし。と思うと何ともずん、としたものが胸に広がる。

僕達は恋をするともう本当にふいよふいよと彷徨って惑わされて迷ってしまう。恋する惑星。何度でも口にしたくなる日本語・・・恋する惑星

 

「1万年愛す」

 

1990年代の香港で、僕達と同じくふいよふいよと惑わされた四人の若い男女の恋愛模様が描かれている。

前編、後編はっきり分けられている。話は独立。本作を検索すると「並行して進む二つの恋物語」だのなんだの難しく描かれているけれど、簡単に言うと前編後編。どうやら本当は3つの恋愛を一作にまとめたかったらしいが、それが敵わず2作という形になったらしい。2篇構成。日本の純文学小説のような構成である。

 

・・・純文学は読み始めは退屈だって相場が決まってる。

刑事と金髪の薬物ブローカーの女の話である。前編。

冒頭刑事役である当時新人俳優の金城武のアップから始まるのだけれども、その演技がなんとまぁ大袈裟でひどかった。アメリカ人ヨロシク身振り手振りが大げさで見てられない。織りなす会話は「メイ」・・・どうやら元カノにまつわる話らしいがその他諸々難解。その後に、いきなり大音量で響く音楽と物音で揺れる画面ブレる画面、金髪の女はケツ顎でまぁ美人・・・とはいいがたく、そこで売買される薬物は「危うい女」を演出するお飾りで、取引の画面はコミカルに彩られてはいれどまあ面白くない。

かと思えば気づけば金城武が雨の中ランニングをしている。

「僕は失恋をするとランニングをする。涙になる水分を、汗として流して泣かないようにするためだ」

知らんがな。いきなり伏線なしにそんなロマンチックぶっこまれても知らんがな。大人しく部屋で「メイ・・・メイ・・・」言いながら自慰でもしてた方がマシなんじゃないの。眠くなる。

いや1800円支払ってるねんぞ!!!・・・はっ!!と気付けば、金城武は何十缶もののパインアップルの缶詰を食べている。

チケットと一緒に渡されたパインアメはこれにちなんだものだったのか。そういえば沙村広明の短編集にもパイナップル出てきた気がする。中国と意外と縁が深いフルーツなのかもしれません、ギネコグラシィ。あ。うわ。なんかビーフシチューみたいなソースをかけてる。それはない。酢豚のパインは赦せるが、さすがにそれは赦さない。

気付けば金城武は女とベッドを共にしている。

個々が何でかよく分からない。ぶつ切り。僕も雨の中は知ってパイナップル食べてゐれば運命の相手に出遭えるのだろうか。いやぁ、そんな気はしない・・・・あ。

靴。

ベッドから落ちる女の靴。

このワンシーンが強烈で、麻薬よりも雨の中のランニングよりも五苦汁に重なったパイン間よりも、一番格好良かった。パインアメじゃなくてハイヒールを片方一足配るべきだったんじゃないの。

 

うん、映像は確かに良かった。

マクドナルド、コカ・コーラ、公衆電話、水槽、ネオンライト、ビル、「一万年愛す」、・・・19999999999999990年代の中国のクールがぎゅっと凝縮されている。

揺れる画面。ブレる画面。スローになったり早くなったり、昼になっても天候は悪いままで太陽光とは無縁。演出も斬新。

そこに大音量で流れる当時の音楽。ママス・パパス「夢のカリフォルニア」。喧噪。電話の呼びだし音。留守電音。薬物を取引する女とアジア系ブローカー達の下衆い笑い声。

すべて初めて。

当時の香港の「格好いい」ってこう言う事だったんだ。

短い時間に詰め込みたいものすべてが詰まっていて監督の作品に対する愛やら現地に対する幻想やらなにやら全部がぎゅっとなっていて、ああだから、あれは靴が床に置かれるシーン、何気ない場面がこんなに心を残るんだ。

ストーリー単体で見れば拙くて超絶退屈だけれども、映像作品として見ればまぁ上出来なんじゃなかろうか。まぁ映画ペーペーの僕には、わかりませんが・・・ばきゅーん。

とうとうなる銃撃音。

慌てて目を覚ますと、金髪の女が暗い中で誰かを殺してた。

 

 

貰ったやつ。
左上はウォンカーウァイ監督の作品を視聴ごとに1つスタンプがもらえるカード。

 

「・・・飛行機は進路を変えた」

・・・純文学小説は前半に収録された表題作より後半に収録された作品の方が傑作であることも多い。

脇役のレジのヤベー女がいきなり主役に躍り出てきた時はビックリして、え!?後半お前の恋愛話やるん!?となってなんだかいきなり目が醒めた。

そしてポスターはじめ、今作再上映に当たったプロモーションは、この後編から主に抜粋していることを知る。

 

「部屋の模様替えをね」(おめぇのな!!!)

ヤベー女はマジでヤベー女である。

だから片想いしている男の部屋も、たまたま入手した鍵で毎日毎日不法侵入。だけならいいものの、そのうち物を勝手に捨てたり勝手に変えたり、挙句の果てには金魚も入れ替えたりする。

男は毎晩返ってくるが気づかないのか何なのか、金城同様失恋を引きずって毎日ぬいぐるみやせっけんに話しかけている。

もう一歩間違えれば、人間深層心理ホラーサスペンス一直線。

なのだけれども、本作はラブ。ラブもの。

その不法侵入が、たまらなく可愛いんだ。

飛行機のおもちゃで遊んだり、缶詰のラベルを全て張り替えたり、お札をこっそり入れ替えてみたり、好きな音楽ぶちかましたり、そして窓からは憧れの彼をじっと見たり。

そしてこんなにこんなに好きなのに、終盤いざ男が振り向きそうになると「お金をためて海外旅行するのが趣味なの」ふい、と逃げてしまう。カリフォルニアへ。

その不器用さ初々しさ。

ああ分かる。分かるよ。僕にもそういう時代がありました。というかまでもそういう時代です。28です。そんなことしてる場合じゃないんです。

作品のクライマックスに差し掛かると気づけば僕等はヤベー女に完全に感情移入して、実れ実れと恋愛の成就を願う。

「制服素敵だね」

元カノの仕事着を勝手に着ていっちゃうくらいのヤベーヤベー女なのに。

 

恐らく本作が愛される理由は、この後編のヒロインの不器用極まってヤベーながらもたまらないキュートさに、あるんだと思う。恋に翻弄される。自分が何をしたいのか分からない。序盤は青いハートのTシャツだったのに気づけば黄色い花柄のシャツ。好きななあなたがいるだけでとても楽しいの。そしてもう恋に溺れてしまえば花さえもなくなってシンプルな黄色いシャツ。あなた一色に染まってしまう自分が怖いの。

他の「恋する惑星」。失恋を引きずる男達。一人はランニング、一人は独り言に昇華。なんともだせぇ奴等なんだけれども役者のイケメン具合やらフレッシュ具合やらも相まって可愛く見えてしまう。ただしイケメンに限るってこういうことか。

恋。

そこに惑星の重力やら何やらが絡まって、くっついたり、離れたりしていく。

彼等は、恋する惑星

だし、人間だれしも恋する惑星だった時代がある。

 

ちなみに僕は今現在恋する惑星で、店に来る常連客の一人をちらちらちらちら見てしまう。パート労働で必要な資格を取るためにカードゲームを以前教えてもらったのだけれどもそこからもう完全にちらちらチラチラ見てしまう。

目が合いそうになると、つい下を見る。職場のリノリウムの床に、落ちてないか探す。鍵・・・鍵・・・鍵はありませんか。いや何の鍵だよ。ショーケースの鍵だわ。ポケットにあるわ。・・・28にもなってそういう自分が堪らなく厭で若干うんざりすらしていたのだけれども、でも本作を見て、ああまぁそんなもんなんだと思った。

僕は惑星。恋する惑星

でも太陽系に繋ぎ止めておくために、連絡をしようか。

公衆電話で?

いいえSNSで。

「一万年愛す」

とまではさすがに言わないけれど。

 

 

ここに貼った。

 

 

以上である。

後半の話がたまらなくキュートで最高だった。

映像がどの場面を切り取っても格好良くて、ああこれが映画なんだあぁ公開から30年近くたって再上映される映画の力なんだぁと思った。

同時にこれだけクールに2022年の日本を切り取れる監督がどれだけいるものか、と思う。公衆電話はスマホに。マックはスターバックスコーヒーに。僕達が生きている毎日も切り取り方を変えれば、とってもクールでとってもキュートはずなのだ。でもその証明を僕は未だに目にしていない。

 

あまりにも良かったので、後日メルカリでサウンドトラック&主題歌のCDを買いました。
ウォークマンにも入ってる。

 

***

 

台詞は視聴後書いているので記憶頼り。細かいところは恐らく違うと思います。赦してほしい。

 

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多分この漫画が好きな人は好き。

 

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***

 

20230214

これは昨年の夏の終わりにウォンカーウァイ監督の作品が4Kで上映された時に見に行った時の文章ですね。バレンタインということで、数ある下書きの中でまぁこれがいいだろう、と蔵出ししてきました。

毎度よろしく惑星は太陽系の果て、宇宙の隅のブラックホールに呑み込まれてしまうのかなぁ、って思ったけれどそれは嫌だった。今読み返すと、この映画の影響も少なからずあるかもしれない。

現在、お付き合いしています。

 

 

中島たい子『この人と結婚するかも』-台風は危機。-

 

 

あ、読むなら今だし、多分今・・・、逃したら私はこの本を二度と読まないだろうと思った。

 

中島たい子『この人と結婚するかも』(集英社 2010年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

気になる男性と出会うたび、「この人と結婚するかも」って直感する。けど、結果はいつも外れ。このままじゃ私、ただのイタい妄想独身女!?二度と変な直感は抱かないと反省したのもつかの間、英会話教室で出会ったケンのことが早速気になって・・・・・・(『この人と結婚するかも』)。

その他、迷走する男の勘ちがいを描く『ケイタリング・ドライブ』を同時収録。

女も男も恋をしたら妄想がとまらない!

裏表紙より

 

【読むべき人】

・イタい妄想独身女勢

少女小説が好きな人

★女性作家の割に文章が淡々としていてさっぱりして読み易いです。女性作家特有の湿気が苦手な文体が苦手な人にはお勧めです。

 

 

 

【感想】

初読ではない。初めて読んだのは多分24かそこらの時。

本書は「anan」の読書特集・・・確かお笑いコンビのピースが表紙の号の特集・・・で掲載されていて気になってはいて、ブックオフとかの中古屋で見つけて購入した、んだと思う。そこは少しあやふや。

読んだ当時は、「この人と結婚するかも」に関しては「ああ・・・私もこうなるのかなぁ・・・」と思ったのと、『ケイタリング・ドライブ」に関しては「ケイタリング」の意味がわからなくてそれも調べず突っ切った結果、「なんかつまらん・・・」と思った覚えがある。

今なら分かる。全部わかる。し、不安は無事的中。28歳の時実際私は「そう」だったよ。「そう」なったよ。イタい妄想独身女・・・いや、今もだ。今もイタい妄想独身女。

イタくていいです。

 

 

 

 

「この人と結婚するかも」

私、あの人と結婚するかも。p.12

と、第一印象直感で少しでも気になる男性がいたらそう思っちゃう28歳女性の話です。

え、これめっちゃ分かる!!と思った。

例えば、大学の大教室で隣に座ったちょっと顔の良い男子。例えば、一ヶ月に一度本社で行われる新人研修に赴き全新卒社員の中で一番顔の良い院卒2歳年上の青年が私と同じく「世界史」を大学で専攻しているときいた時。例えば、大学のサークルTwitter垢で妙に意気投合して向こうからわざわざ東京から静岡にやってきて「一緒に飲みましょうよ!」と言われた時。例えば、小売店で働いていて毎週木曜日の午後に珈琲豆を買いに来るさわやかな雰囲気のサラリーマンと目が合った時。例えば例えば例えば・・・。

と、少しでも気になると妄想しちゃうんですよね。

この人と、結婚するかも。

で、思い描くわけですよ。この人と結婚したらどんな夫婦生活が待っているだろう。

多分大学でも割と「イケてる」彼は高校時代は運動部でうわそこは引け目感じちゃうけれどもあーよかった、中高時代放送部とかじゃなくてちゃんとオーケストラ部に入っててて。多分彼はイケメンで高身長でちやほやされることには慣れているけれども世界史大好き女子が新鮮に感じられて博物館とか図書館とかアカデミックな場所に行ってなんか帰りにはスタバでフラペチーノを飲むのかしら。多分彼とは楽しく話が合ってアニメとか漫画とかバリバリ話が合って友達の延長線みたいな楽しい家庭が築けるだろうな。多分彼はマメを購入するから毎朝私はミルをこうぐるぐるさせて。多分多分多分・・・。

でもそれはあくまで妄想で、妄想でしかない。

大教室でちょっと顔の良い男子が同じくちょっと顔の良い男子女子と集って年明けのスノボー旅行の話をはじめた時。1年通じた新人研修で特に何も話すことがなく別々の教室は無論別々の部門に配属されそれに特に感慨深くも悲しくも寂しくもなかったとき。わざわざ東京からやってきて楽しくのんだはいいけれどカラオケでいきなり距離を詰められた挙句、最後は終電が来るローカル線の駅構内の改札前にて「お願いします!!抱かせて下さい!!!」と頭を下げられ最終的には土下座までされた時。ある木曜からぱたりと、音沙汰なく、仕事は愚か趣味は愚か名前は愚か苗字すら知る前にこなくなった時。

いや知ってたし。

そう言い訳して、寝る前に少し「くそーう」と思いながら眠りにつく。泣いたりもしないし眠れなくなる、なんてこともない。普通に寝れる。ちょっと悔しいけれど。

同じようなことを繰り返す主人公に24歳の時は、共感するだけ、だった。

29歳、改めて2回目読んだが、ああそうか。何故それらが妄想で妄想のまま終わってしまったのか。本編を読んで理解した。

やがて主人公は、英会話教室に通っているケンという同年代の青年に同じく淡い想いを寄せるようになる。

以下そのケンについて書かれた部分である。

嬉しい結果だったが、電子書籍で単語を調べている彼の顔を見て、あれ、こんな顔だったかな?と思った。妄想の中で過度に爽やかな男に作り上げてしまっていたようで、生のケンは意外と彫りが深くて若干濃かった。p.39

英語でそう言って、ケンの顔を見た。

でも、私この人のこと、好きかも。

以前のようなドキドキする感じではないけれど、みょうがのお吸物のように温かい感じで、思った。p.94(本編最後の頁)

相手を、見ていないからだ。

現在の相手を見ていない。

相手の顔を見ていない。

数々に繰り広げられた妄想での相手は、私が妄想した相手。現実の相手じゃない。妄想した相手。ということはもはやそれは私の分身。脳内存在。要するにその時私は私しか見ていない。私による私の為の私のアバンチュール。私は私しか見ていない。一人で何度も繰り返す輪舞。大教室のホワイトボード、研修のプリント、カラフルな光の下薄暗いカラオケルーム、ぽろぽろとレジの引き出しから零れるコーヒー豆。脳内にいっぱいに広がる良い珈琲の香りの向こうにもう一度。ホワイトボード、プリントのホチキス、ミラーボール、「これは唯一苦いカネフォラ種という少し苦い種類のものが混ざっている深煎りで人気」の豆。本社、教室、悪い酒癖、ショッピングモールの清潔。ホチキス、室内、ビール、店。全てが混ざって混ざって、台風。

そうか。

一人では成立しないのだ。

私と、相手があって、はじめて成立するのだ。

だから私は見てしまう。

何度も何度も、今月初めに人生で初めて出来た彼氏の顔をついつい見てしまう。

不思議だなぁと思う。

好きな相手が私を好きだなんて。

不思議だ・・・不思議、そしてそれはなんたる幸せ。

幸せだな・・・と思う。

結婚したら、とか、浮気されたらどうしよう、とか思わないこともないけれども、一瞬でそれらは収束する。

と同時に湧き上がるのは、この前は楽しかったああ来週のバレンタインどうしよう。酒入チョコが苦手なのは把握しているが果たしてチョコが嫌いなのか。それとも酒入りチョコが嫌いなのか。後者と睨んでいるけれど。とか。

なんか今とか来週・・・・要するに現在のことを考えちゃう。

するとそこにいるのは、2023年現在の30そこそこの相手と29の私。

ああそうだ、別になんでもいいんだ。まずはちゃんと「好きです」って想いとあとちゃんと相手の名前を呼ぶことそれを第一目標にしよう。

といっても、四半世紀以上独り妄想で妄想の中であっちこっち生きてきた人間である。他人と目を合わせるのは勿論苦手。

でも、彼氏となった相手の目くらい顔くらいしっかりと、超しっかりと、見よう。そして目をそらさずにいよう。と、思うのだった。

 

 

 

 

コミュニケーションとは、積極的に人に情報を与えてこそ、初めて自分にも情報が返ってくるものなのだ。情報を与えず、乞うだけだから、結局乏しい情報の中で皆はただ教室をうろうろしていることになる。p.52

 

 

2編収録の本書。両方とも食事の描写にこだわりがあります。

 

「ケイタリング・ドライブ」

時間、温度、素材。これって恋愛にも、あてはめることができるかも。p.113

友達の妹に失恋した、20代後半の男の小説である。

男目線ではあるけれども、女性漫画によくいる「女性が描いた男性像」なのでそこは注意して読みたいところ。

25そこそこの時は「ケイタリング」ときいてもピンとこなかったけれど、29歳現在もっぱら元気に櫻坂46のオタクをやっている身からするとその意味はとても分かる。あれだね。パーティーとかロケとか撮影地とかに運ばれる試食の超豪華版みたいなやつでしょ?良く美味しいそうな料理画像が彼女達のブログやメッセージアプリに掲載されているもの。うまそう。あれ本当にうまそう。

時間、温度、素材。男は恋愛に当てはめたけれども、私は人生のありとあらゆることに通じると思うな。せめて少しでも良い素材であるように、と思ってうんまぁこうして連日ブログを投稿しているのであります。

 

ちなみに、巻末を見ると・・・本書が書かれたのは2007年との旨。

16年前。とは思えない、鮮度フレッシュな小説だった。恐らく携帯とかパソコンとか時代を感じさせるものがほとんど出てこなかったからだと思う。

というか、いつの時代もイタい妄想独身女だとか台風だとか恋愛だとか云々、こういう感覚って時代を越えても共通するもんなんだなぁ・・・。

 

13年前の文庫本とは思えない、素晴らしいデザインの表紙だと思います。

 

以上である。

再読に当たって、特にタイトルにもなっている中編には大きい発見があった。初めて読んだ時はただ共感するだけだったけど、29で、特に人生で初めて彼氏が出来た現在はああこういうことなんだなぁってつくづくはっきりしっかりめっきりいろいろTHE☆再発見があった。直感は当たる。間違いなく今読んで正解だった。

とかいいながら、結局こんなことをこんなところでだらだらと書いている地点で私は一歩あの台風の中にまた足を踏み入れているのかも。でも今こう思っていること考えているをここに残しておきたい。

 

***

 

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皆さんお元気ですか・・・ここでは一切触れられていませんが・・・1月中旬に母親を亡くしました・・・親の生死をまたいで読んでいた本の一つです・・・感慨深いね・・・。

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2023冬のはなし。-大丈夫、といえたから多分大丈夫。-

 

 

人生における最大の理解者を失ってしまった。

 

会えるけど会えない。

から、

会えないけど会えない。

 

 

「2023冬のはなし。-大丈夫、といえたから多分大丈夫。-」の話をさせて下さい。

 

 

火葬場ででたお寿司。意外と美味しかった。

 

先月、2023年1月17日朝9時18分頃。母親が亡くなった。

最後、最後に間近で目を見て「大丈夫だよ・・・大丈夫だよ・・・」と言う事ができ、其処に悔いはなかった。

その時こそ涙を流したが、その後は淡々とありとあらゆることが物凄いスピードで進んで行った。午後には妹と恋バナに花を咲かせ、マックを食べ、翌日には北海道来てくれた叔母と葬式の準備や打ち合わせを淡々と進め、そして通夜にはたくさんの人が来て、葬式にはそこそこの人が来て、幕を閉じた。

あっという間だった。

拍子抜けした。

58歳だった。

 

その日(1月17日)のマック。包み紙が違いますが、サムライマックでした。

「肺癌だって」というラインを受け取ったのは、静岡駅前の葵タワーのサンマルクカフェだった。そこで呑気にチョコクロワッサンを食べながら就活の紙だかを書いていた時にLINEが来たのだった。

違和感はあるといっていた。2-3か月。

なんか肺の方に違和感があると。咳も止まらないと。

病院行きなよ。

いやいや、大丈夫だよ。

その往復が何度かされて、何度かされていくうちに有耶無耶になって、有耶無耶になった末でのこれだった。ステージ3のBだった。

癌。

最寄駅から家派の帰り道の途中、白いボタンのような大きい花が道端に落ちていた。その片鱗から茶色く腐食していた。雨が降った後の暗い藍色のアスファルトによく映えた。忘れられない。

その数日後に最終面接を受けた会社があったが、その日もう私はしどろもどろで、実質蹴ってしまった。自分の漠然と描いた将来プランには当たり前のように母親がいて、当たり前のように私は支えられ、当たり前のように孫の顔を見せ、当たり前のように当たり前のように当たり前・・・が当たり前でないことを知る。

泣いた。泣いてしまった。

 

数か月後手術を受けることになった。

母親がかかることになった病院は巨大で、手術のための棟があった。

そこに「ばいばーい」とでもいうように手を振って、入っていく手術着を着た母親はとても小さく見えた。

1時間半で終わる、と告げられていた手術が実際は6時間近くかかった。

癌が推測以上に肺に転移していた為だった。

小さい部屋で、父親と私は主治医の話を聞いていた。

「これですね」

ピンク色の肉塊が「癌」といわれてもぴんとこず、またこれが今後母親の全身をむしばむのもイメージがつかったけども蝕んで、蝕んで、もうだめ、もうだめになるかと思うと、涙が止まらず嗚咽もおさまらず、途中退席したのだった。

帰り、吉野家に寄ったのを覚えている。泣きながら食べる私に父親はいらだっているようでなるべく泣かないように泣かないようにと思って耐えた。

 

けれどそこから数年は、普通にしていた。

何度か抗がん剤の為に入院、また脳にも転移した為藤枝の病院に行くことがあったけれども、普通に話せたし車も運転した。

就職した際は喜んでくれたし、アルバイトになってしまった際はしょうがないよと肩を叩いてくれたし、そのアルバイト先が変わる時も「まぁあんたにはレンタルビデオの方が似合うと思うよ」と言ってくれた。

父親も何を思ったのか、エアコンを買い替え掃除機を買い替え、そして母親が長年使っていた中古の軽自動車さえ買い替えた。カーディーラーが妹の職ということもあるが、新車を買ったと聞いたときは驚いた。赤いトヨタの中型車でピカピカだった。

その車で、一人暮らしの部屋から実家まで何度も送ってもらった。

途中にジョリーパスタというチェーンのパスタ屋さんがある。

其処に寄るのが定番で、とても安心でキラキラの味がした。

 

でも同時に、それがいつまでも続くはずがないというのも知っている。

いつか母親は死ぬ。自分も社会不適合者でこの先うまくやっていけるかわかんない。将来の希望がない。将来の希望がない。

一時期、特に就職した会社の小売店の一店舗目の店長とそりが合わなくなった時、本当本当に死のうかと思った時がある。

死んだらいったいどうなるんだろう。

私は一人。どうなるんだろう。

そう思うと堪えられなくて、説教中バックヤードで思わずカッターを手首にあてたら、社員労働からパート労働になったのだった。

本気ではなかったと思う。実際リスカの一つもしたことない。

衝動的だった。

けれどもストレスか、手足に蚊に刺されのようなカサブタが無数にできた。その度に齧って捲って血を出した。それでどうにかメンタルを保っていた時期もある。

今現在も私の手足には無数のその跡がある。結構グロいなと思う。当時治そうとは思わなかった。自分が今生きて居る証だと思った。血を流さないとやってられなかった。

 

でも店を変えれば少しマシになり、更に今のバイト先にくればもっとマシになった。

というか、なんかもう、どうでもよくなっちゃたのである。

正規雇用で将来心配云々とか色々あるけれど、母親は言っていた。

特に大学生になっても実家で大声で泣くことのあった私に言っていた。

「過去は生ゴミ

「今しかない」

そう、私には「今」しかない。

じゃあ「今」を少しでも密度上げて一瞬一瞬紡いでいけば、その見えない将来未来とやらは少しはましになるのではないか。

たまりはじめていた貯金をじょきじょきとかした。本。アイドル雑誌。美術館。遠征費。人形。諸々。おかげで今金がなくて所謂「貧困女子」である。でも後悔はない。だってそれは今の私がいるために必要なお金だったから。

今私が生きて居るために必要不可欠なお金だったから。

 

母親と食べた数々の食事の一つ。これは実家の近所のうどん屋さん。

母親と食べた数々の食事の一つ。これは三保のちょっとしゃれた定食屋。

 

様子が変、と連絡がきたのは10月の末だった。

父親からのLINEだった。

「お母さん調子悪いからなるべく来た方がいいかもしれない」

それまで月1程度には帰っていたが、9月末は停電や私自身の怪我もあって帰ってなかった。2か月近く帰ってなかった。

慌てて帰ると、母親はとろんとした顔をしていた。

言っていることもおかしかった。

「あれ?なんであんたがいるの?」

昨日帰って来たからだよ。

と何度も説明しても、ぽかんとした顔をしている。

一番つらかったのは、背中の上着のフリースから白いシャツがでていたことだった。

母親はとてもきちんとした人で、特にそういう腰回りのインナーに関しては口酸っぱくして私を注意したものだった。カットソーの裾がずれている。下のシャツが出てる。めくれてる。はみでてる。云々。もう昔から言われすぎてトラウマだった。

それが、あれ?

あんなに白いシャツがフリースの下から、見えてるのに。

 

「余命が1ヵ月」

と父親から珍しくLINE通話できたのは11月の8日だった。仕事終わり常連さんとカードゲームをしていたその合間だった。一人暮らしの狭い世界と実家の危機が直結して一瞬くらりとした。

慌てて実家行くと、母親はもっと訳がわからなくなっていた。

「今、何時だか分からないの。朝だか夜だかわからないの」

時計をみせて何度も「○○時だよ」と伝えても、分からない分からないと愚図をこねた。

でもテレビはまていた。特に、元気だったころと変わらず録画した月曜から夜ふかしを私の後ろでソファーで見ていた時の安心感といったらなかった。

夕方の、静岡ローカル情報番組の1コーナー「ペコリーノ」もまだ内容が分かるようで、視界のずん飯尾さんのゆるいぎゃぐにゆるく笑っていた。

 

しかし、この頃から帰る度にどんどん悪くなる。

一週間前に出来ていたことが、どんどんできなくなっていく。

歩くのに介護が必要だったが、ソファまで歩くことは出来た。

けれどそれもやがて出来なくなった。

ベッドからテレビを眺めるようになった。

けれどもやがてベッド横野テレビの電源がついていることはなくなった。

宅配弁当を残しつつもなんとか食べていた。

けれどやがてそれは謎の液体「メイバランス」になり、それを口にするのも嫌がるようになった。

 

この人は誰?

まぐろどん。

これ(飼い犬)は何?

・・・あれ?

この人は誰?

・・・ああ、まぐろどん。

これは何?

・・・。

この人は誰?

・・・。

・・・。

・・・。

 

12月1月は週1は行くようにしたが、行く度にどんどん弱っていくのが本当にしんどくて、私自身もめげそうになった。

けれども23の時の盲腸、24の時のチョコレート嚢胞。入院した時、ほとんど毎日来てくれたのは誰だったか。盲腸の時なんか横浜の下宿先に泊りこんでくれたんだぞ。

そのことを思い出すとどうしても行かなくては、と思った。気が進まないまま、実家に赴くのが夕方夜になったとしても、なるべく一度でも多く顔を覗かせるようにした。

アルバイトと言うこともあり出勤日数を減らし、週1は行かなくてよい休日を作った。残り2日は行くようにした。

メンタルは危うくなりそうだったが、仕事をしながら介護をしている父がいる手前ここで崩しちゃいられない。ニート時代から世話になってるメンタルクリニックだけは普通に通って薬だけは普通に飲んだ。効いてくれ。効いてくれ。ここで私も倒れるわけにはいかないんだ。効いてくれ。効いてくれ。・・・頼むよ。

 

この頃、時々朦朧とした意識の中で、時節「まぐろどんは2階にいる?」と聞いていたらしい。

私はどちらかというとインドアで、特に実家では1階でテレビ視聴か2階にひきこもって睡眠か読書しかしなかった。

無論一人暮らしで週5のパート労働の為私はその場にいないのだけれども、「よくそう聞いてたじゃん、この人は誰?」

「・・・。」

父親から母親への問いかけでそのことを知って、今もそのことを思うと、胸が詰まる。

私は愛されてる。

私は愛されてた。

 

最後に母親とキャトルエピスというケーキ屋に行った時の写真。
いちごミルクは美味しい。

無事に年はこせた。

お年玉をくれた。

「まぐろどん」よれよれの字で書かれてる。

「なんども書き直したんだよね」

という父親の問いかけに「なぜかうまくかけなくて」と母親は気まずそうに笑った。

その後七草がゆの日、14日に帰省した。

そして16日。月曜日。

帰ろうかどうか迷った。

14日に行ったばかりだし。

けれども、叔母が「行ける時になるべく多く行った方がいい」と言っていたから、17日の昼に1階に降りて会って帰るか、のつもりで16日の夜に帰って来たのだった。

その翌朝だった。

 

その頃の母親はもう完全に寝たきりで、行っても意識がある時のが少なかった。だから行っても手を握ることしかできなかったのだけれども、物凄く苦しそうに息をしている。時々うっすら瞼が開けば、ぎゅるぎゅると眼球が上を向く。

慄いた。慄いて一度は飼い犬を吸ったが

「お母さんの近くにいた方がいいと思うけどね!」

父親に叱咤されもう一度向かう。

寝た切りでは鼻からチューブがつながっている。鼻くそがたまっている。年明けからたまっている。

手をさする。

こんなに手は細かったか。

こんなに脚は細かったか

ぜえぜえ、苦しい息が続く。看護師が来る。呼吸が落ち着いてくる。吸って。はいて。吸って。はいて。「■■子さーん」すって、はいて。すって、はいて。

妹がようやっと到着する。

すって、はいて。すって、はいて。

見届ける。

見届けるんだ。

ベッドの縁越しに母親と目があう。

間近で目が合う。

すって、はいて。

すって、はいて。

「大丈夫だよ」

心配性の母親のことだから。

でも自然と口をついてでた。

「大丈夫だよ。大丈夫。大丈夫だから」

 

実際、何も大丈夫じゃない。

私はフリーターで金がないし、将来のこととか考えただけで不安でもう気絶できちゃう。卵巣に嚢胞は抱えているけれど産婦人科は金かかるから行けてないし。しばらく。

でも、今の仕事は賃金こそ低いがなかなか面白いところがある。将来云々未来うんうん不安だけれど、それは「今」の蓄積、結局「今」を紡ぎだすしかない。一瞬一瞬一生懸命生きるしかない。皮膚科にも行くようになった。「今」を踏みしめるにはこの脚は汚い。少しでも綺麗な脚で今、今を踏みしめたい。ねぇ、何より数年ぶりに好きな人が出来たんだよ。そりゃ短足で太いけど少しでも綺麗にしておきたいよね?ねぇ、クリスマスに告白だってしたんだよ。

信じらんないよ。

信じらんない。

一時期まじでもう無理だったのに、でも今こんなに。こんなに。こんなに。

話を聞いてくれる人だってたくさんいる。前の職場の「先輩」(エリアマネージャー)、行きつけの店の店主、Twitter上での薄い関係だからこそなんでも話が出来た人達、職場の態度は凄いバッチバチだから厳しく見られがちだけど言ってることはすべて正しいでお馴染みの「姉御」(パートリーダー)、中高からの付き合いで今も年1で必ず会う親友、友達、職場、一応家族、あとその好きな人・・・彼氏、とか。

友達は少ないけれど、こんなにこんなにたくさんの人がいる。

だから大丈夫。もう大丈夫。

・・・大丈夫だから。

 

 

葬式云々は私も手伝ったけれども、カーディーラーの営業職が板についてきた妹と、北海道からきた叔母が主体となって淡々と片付けた。合間合間に手を差し入れたり差し抜いたりした。さっさっ。

父親は連絡や葬儀場の人と打ち合わせ等の信仰を進める中で、合間に仕事をしたりしている。

3人とも、24日から仕事を始めると聞いて驚いた。

「えっ!そんな早く1?」

「え!逆に(2月)5日まで休みを取ったの!?」

 

だって20代の後半ずっと脳裏から離れなくて。

いなくなったらどうしよういなくなったらどうしようって、思ってたから。

私の最大の理解者だったから。

でも結局は、私はその休みを持て余した。

今だから言おう。

ほっとんどごろごろしていた。

別に理解者でなくても、私の言葉を大切にしてくれる人が私自身をも大切にしてくれる人が、こんなにこんなにいるんだなって思ったら、そこまで悲しくなくて。寂しくなくて。

母親が死んだらもっと決定的に私は、壊れるかと思っていた。

崩れるかと思っていた。

でも実際はそうじゃなかった。

 

振り返ると、

会える状態から、「会えるけど会えない」状態になった去年の秋暮れの方が辛かった気がする。どんどん呆けていってできないことが増えていって知っている母親の姿が遠くなり生きて居てもそれは私の理解者であった母親ではない。

そしてその「会えるけど会えない」状態から、「会えないけど会えない」・・・ここに骨を残して旅立った時の方がまだ、心は保てた。同じ時間場所空間にいてくれるだけでも成立する救済があることを知る。意識朦朧でも今何時か分からなくとも私が私と認知しなくとも、そこにいてくれるだけで全てがまるくなる。けれど肺に水が溜まって、最後は、最期は苦しそうだった。

・・・もうこれ以上苦しそうな母親の姿を見に実家に行かなくていいんだ。

肩の力が抜けた自分が板の確かだった。

 

長い休みの間、途中泣き崩れることもなかった。後半になっていきなり崩れるのではないか、びくびくしていたが私は私を見くびっていたようである。

じゃあなぜの今頃夜明けに泣き崩れながらこんな文章打ち込んでいるのか。

金がないからである。

やばい。ガスとまる。

そりゃ実家に幾分減った出勤分の給与がパートタイマーだから反映されるわけで。

っておい、これ長い怠惰も反映されちゃうパターンじゃん。

というかまずガス。本当にガス代がやばい。

クレジットの引き落としが入って預金口座1000円ちょっとしかない。

しぬ。しぬしぬしぬって。

 

そしてそういう時に限って父親の父(祖父)も死ぬという・・・。

 

こういう時、いつも母親に連絡していた。

「馬鹿だねあんたは!」の言葉と共にその日中に対応してくれた。

さすがに父にはまずいかと思って母の母(祖母)に連絡をする。

「明日振り込んでおくからね」

からの振り込まれていない・・・!!忘れてやがる・・!!!

しゃあない、90も近い。しゃあないけれども・・・!!!

・・・だからといって90近い祖母に、もう一度催促の電話も憚られる。

ガス代が・・・ガス代が・・・!!!

当時

「お母さん大変だからなるべく多くの時間いてあげてね」

と言ってはのは誰だよ・・・!!!正論である。セイロンティーであるがその分の賃金は誰も保証しない。自分でケツを拭くしかない。これは「あまりにも辛かったら仕事をやめちゃえば」理論にもつながる部分があるなと思った・・・、

 

ああ・・・人生。

 

なので私は苦渋の決断をする。

気まずく今でも仲が悪い父親に、ラインをする。

「やばい・・・お金なくてガス代払えない」

返信は、まだ来てない。

まだ四十九日は明けていない。

頼む頼むよ、母親。父親の夢枕にぽつんと立ってくれないか・・・?

1万、否できれば2万ほしいけれども・・・!!

 

「生きる力」。カロリーメイト

以上である。ああ。

なんかざっくり振り返ると涙も乾いて落ち着いてきた。

何、ガスがとまれば実家に帰ればいい話なのである。父親は父方の実家、北海道にいるわけだし。

大きいテレビでYoutubeだって見れちゃうんだから。

そう思うと、なんだか安心してきた。

さぁ、寝よう。もう、寝よう。

おやすみ私。明日に備えて。

 

人生における最大の理解者を失っても、一時期地の底までおちた気持ちをここまで持ってこれた私ならば、なんとかどうにかなる。

とりあえず私の掌には今しかないから、今を抱きしめて生きていくしかない。

・・・過去は生ゴミ。「今」しかない。

「会えるけど会えない」から「会えないけど会えない」になってしまったけれども、お母さんの言葉は、生きているから。胸に携え私は「今」を生きていく。

 

***

 

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田口翔太郎『裏バイト 逃亡禁止4』-zexy,zexy-

 

 

 

何と結婚したい?

 

 

 

田口翔太郎『裏バイト 逃亡禁止4』(小学館 2021年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

白浜和美、黒嶺ユメ、2人んは裏バイトを生業とし、

健やかなるときも、病めるときも、

喜びのときも、悲しみのときも、

富めるときも、貧しいときも、

仕事を愛し、敬い、慰め合い、

共に助け合い、

その命ある限り仕事に尽くすことを誓います。

 

※本作品は心身に多大な影響を与える可能性がございます。

閲覧は自己の責任において、十分に注意して行ってください。

これによって生じるいかなる損害について、一切の責任を負いかねます。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・人以外と結婚したい人

・ファミレスバイト

 

 

 

 

【感想】

今回もめちゃくちゃ面白かったです。

3巻と比べて、4巻の方が好きかなあ。

派手にホラー!!1-2巻の裏バイトらしい謎かかったホラー!!ギャグ!!!!からの考察ホラー!!!

一話ごとに結構派手で、緩めるところが一つもないというか。

表紙がウエディングドレスな当たり、作者は「ブライダルスタッフ」が気に入っているようですが、僕は絶対「ファミレス店員」が一番ですね。これが一番。

何なら1~4巻の中で一番好きな仕事・・・あ~でも被検のやつもよかったなぁ~。1巻の。

 

 

 

 

以下簡単に各仕事について感想を書いていきます。一番好きなのは圧倒的に、ファミレス。ネタバレありです。

 

「ブライダルスタッフ」(第37-39話)

労働帰還2日 賃金8000000円

今「アレじゃない、新郎様でしょ」p.11

今「え、見えたの?」p.30

今「現実は最低!9割が汚物で構成されているなり!」p.50

ユメちゃん「黙ってればそんなにはクサくないの。でも・・・”そういう事”をハッキリ言おうとするとすっごくクサくなって。」p.29

冥婚の話ですね。死者の結婚。

今さんという、独身中年女性の式場のウエディングプランナーが暴れる話でもあります。

作者が血みどろスプラッターをやりたかったんだろうなぁというのがひしひし伝わりますが、どうですかね?

冥婚×スプラッター・・・微妙にかみ合っていない印象。

スプラッターやりたいのであれば、他の要因は最低限にしないといけないと思うんですよね。

例えば、本作では西さんが見た結婚式の「幻想」であるとか、所謂あの世がただの黒く塗った壁であるとか。筆者の癖で、謎が残るような幻覚のようなホラー描写があるのですが、そこはいらなかったかな、と思う。

個人的に、スプラッターって生者にフォーカスしてこそだと思うんですよ。

「完璧な結婚式を遂行するために、人を殺すのは仕方なかった」

なんで「完璧な結婚式を遂行」したかったのか。

今さんのそこが見たかった。

今さんの内面について一切書かれていない代わり、裏バイターの脊椎が伸びたり、でっけえやべえ肖像画が出てきたりしてしまっている。

怖がらせよう怖がらせようと思ったがために、最後の惨劇が軽くなってしまっている。話中で随所随所で怖がらせようとしてくるから、最後にスプラッター!!やられても、え・・・?感。

最後の最後まで今さんの心理描写に徹底し、ホラー要素をあえて我慢することで、最後のスプラッター描写がどっと押し寄せてくるんじゃないですかね。知ら「笑ゥせぇるすまん」とかその典型例だと思う。

ちなみに僕の職場にも未だに母親と暮らしてパートを掛け持ちしている40代50代の、未婚のおばさん、いますけど、ああまだできることなら結婚したいんだろうなと感じるところがちょびちょびあります。でも己の性格の悪さからできなかったんでしょう。その日とも今さんと同じく太ってます。

子供部屋おじさんらしからぬ、子供部屋おばさんにも、どろどろした、もう目も当てられないような醜い感情が渦巻いているはず。

それを全て散らしてこそ、叶えてこそ、華が舞う理想のブライダルではないですか?知らんけど。

でもそういうちまちました不満抜きにしても、今さんのビジュアルは強烈です。マスコットを思わせる体型からの、中盤の表情の豹変ぶりはなかなか。ネットに「キャラクター単体で人気がある」と書かれていましたがそれも頷けます。

一方で、西さんはまだしも田所さんはいらなかったかなぁ。ただの気弱で顔がいい裏バイターは、もう本作で10000人は見てきたので・・・。だったらそこに割いたページで、煮詰まる今さんのうっそうとした内なる狂気が見たかった。

あと西さんもせっかくなら、もっと病室で正気を失ってもっととち狂ってほしかったですね。人生壊滅的人格壊滅的になってほしかった。出来ることなら最後の「今さんの結婚式」を見たのはどこの馬の骨か分からん警官ではなくて、西さんであってほしかった。

今さんのカリスマ性ではカバーしきれないところがある。

そういう話でした。そういう話だったか?

 

 

 

 

「ファミレス店員」(第40-42話)

労働期間:1週間 賃金:2100000円

青木「僕ら、この仕事が終わったら結婚するんです。」p.64

白浜「気づかなかったなー。15年前の惨殺事件このファイレスで起こってたなんて。」p.77

爆竜真拳「死は・・・とっ突じぇん・・・訪れる・・・!(中略)

説得力のある死なじょない!(説得力ある死などない!)」pp.90-91

こういう事件が起きては絶対にならない。

突発的な無差別殺戮事件による被害者、亡くなった側、の気持ちにこれだけ寄り添って描けるのは、凄いなと思う。

本来、彼等には明日があり否一時間後否一分後否一秒後があり、保証されており、それらを全うして生きることを疑うことは一切無かった。

僕達は無意識に明日が否一時間否一分後否一秒後、自分には未来があると思い込んでいる。

でも明日には自動車に撥ねられるかもしれないし、熱中症で倒れるかもしれない。突発的心臓麻痺が起きるかもしれない。今だってこうやってたらたら文章を打っている間に隕石が部屋に落ちてきてもおかしくないわけだし。いつ無差別殺戮事件に巻き込まれてもおかしくない。

のに、未来があると、明るい未来があると、思い込んでいる。

だからそれが絶たれた時、どうしたらいい。どうすればいい。

何故僕にだけ明日が用意されなかったのか。

憎い憎い憎い・・・!!!

何故僕だけが殺されなくてはならなかったのか。

憎い憎い憎い・・・・・・・・!!!

僕達に未来がないのであれば、未来があると信じ込んでいた過去に戻りたい。

例えば、一週間前、とか・・・。

当時そのファミレスで、食事をしていたとしたら僕もそう思っていただろうし、その時間の維持であるためならば、一人でも多くの犠牲者を出すことを厭わなかったでしょう。というか「何故僕が(この日突発的に殺されなくてはならなかったか?)」。シンプルにそれを慰めるために生者をも巻き込む気持ちとても分かる。

本編では更地になっていましたが、現実で心霊スポットと称されている場所も、そういうことなのかもしれません。だから時々死者出ちゃう。

でもさぁ。

見たいじゃん。

マーカーぐしゃぐしゃよろしく時空が歪んだ人とかさ。

化け物とかさ。

怖いけど、見たいじゃん。

だから心霊スポットに足を運ぶ聖者は絶えないんでしょう。

 

また、15年前と気づくように伏線も巧妙に張られていますね。

ファミレスのテーブルに今や普通にあるタッチパネル・チャイムがないのは典型的。

《♪素敵なお時間、みんなの思い出♪マストが提供♪みんなのマ~スト家族のマスト♪》p.55

また、青木達は泣いている子供に飴ちゃんをあげている。(≒あのファミレスにすでに組み込まれている)が、主人公達がお客さんと積極的に接触している場面はない。

ファミレスの外観がよく見ると古風、バンドマンの格好がも古風等々・・・。

基本どの話も、『裏バイト』は再読すると再発見があるのですが、この話は特に色々再発見があって面白い。

 

あとこの話で好きなのは、表現です。

オバケをマーカーでがしがし描く、という表現。今までありそうでなかったじゃないですか。そこがめちゃくっちゃ凄い!!ってなった。

数々の怪異現象を恐ろしく描いてきた本作ですが、このファミレスの怪異の表現が一番インパクトあって好きですね。特に最後の女の腹部のあたりとかね。

 

色々考えさせられたり、伏線が丁寧に張られていたり、あと今まで見たことのない怪異の表現技法が駆使されていたりと、一周年記念にふさわしい裏バイトだと思います。

また、「2周年があると思うなよ」という筆者による筆者自身への戒めをも込めた話、と考えるのは勘ぐりすぎでしょうか。

 

 

 

 

「家政婦」(第43-44話)

労働期間:9日間(週休2日) 賃金:6320000円

赤川「な・・・!?ん、だと・・・!?ウチを通さず・・・勝手に募集を見付けた・・・だと・・・!?」p.109

面白いですね。

前半の43話でこれでもかっ!!!というホラー要素を散りばめておいて、後半の44話でこれでもかっ!!!という具合の回収するという。

まさかのギャグ回。

しかも改めて読むとこの仕事だけ、がもってきているんですよね。

いつもの赤川を介していないんですよ。

そりゃあ、いつもと違うお仕事がやってきてもおかしくないなって・・・。

ただ後半は結構メッセージ性があるなと思った。相手に勝手に見切りをつけのではなく、言いたいことをハッキリ言ってみよう、みたいな。口にしないと伝わらないぞ、みたいな。普段からのコミュニケーションを考えさせられるところが盛り込まれていてそこも含めて面白かったです。

 

 

「空き地さがし」(第45-47話)

労働期間:1日 賃金:2000000円

朱美「知ってる道が悉く塞がれてて・・・この仕事に応募しないと、入れなかったんだ」p.149

崎村「どうでも良くね!?私らの目的は金じゃんか。」p.170

宝潤「話の中に真実を混ぜるのがコツよ・・・このバーガー超ウメェな!?」p.192

考察ホラーですね。

二度、三度読んだんですけど僕にはわからなかった。

ただ、本当はハンバーガー大好きアメリカン★宝潤先生の上記の台詞が、重要なのかなぁ、とうっすら思う。嘘に真実を混ぜるのがコツ。

ただ最大の謎は、この話が「単行本の4話目」に収録されている事なんですよね。

今まで4話目は白浜とユメちゃんに関することが描かれていたのですが、その割には今回は2人があまりにも関係ない。関係がなさすぎる。

いや、あるのか?ならばいったいどこに関係がある?

あと気になったのは八木の最後の台詞。

八木「「ユメちゃん」についてだ」p.190

そもそも、話の進行上、この作品に探偵っていうポジションはいらないんですよ。

関与して来るのは赤川ポジションで十分間に合うはずです。ファミレスの電話とか、巻における温泉宿の話とか、あとまぁ事務所云々含めて。

だけど彼女にあえて「探偵の弟」を設けたのは、多分何らかの謎があってそれに切り込むには必要不可欠だったからと思うんですよね。

要するに「裏バイト 逃亡禁止」物語全体の謎を究明するキャラクターが必要だった。

「ユメちゃん」という存在の謎を究明するキャラクターが必要だった。

絶対何らかの伏線張られていると思うんですけどね。分からない。

話単体。雰囲気は住宅街ホラーですね。筆者のお得意の独特な雰囲気がよく合ってた。出てきたアルバイターも崎村と名前に色がねぇなぁと思ってましたが、多分「さきむら」→「むらさき」ってことでいいんだよね?

 

 

おまけ

~番外編~八木琢磨の闇事件簿FileNo.089:「断裂」

私を・・・どうするつもり・・・?p.207

上半身下半身入れ替えて完全体の個体を2つ生成する、に一票。

話は、まぁ、うん。考察ホラーに考察ホラーを重ねるのは東京都では条例で禁止されていないんですかね?静岡ではすでに禁止されていますよ。混乱をきたすので。

最後の場面は圧巻ですね。最近数見るTwitterマチュアホラー漫画家と一線を画す一場面。

 

 

 

 

 

 

goodsmile!!

 

 

 

 

 

 

 

以上である。今回も滅茶苦茶面白かったです。

うんまぁやっぱファミレス。ファミレスの話が素晴らしかったな。

あとやっぱりうすうす気づいていましたが、ユメちゃんに何の秘密があるんでしょうか。

あとカバー裏の漫画がどんどん展開カオスになってきていて嫌いじゃないです。

田所「脛骨が伸ばされずに済みました」

口に出したい日本語ですね。

 

 

 

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