小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス1-2』-恋は彗星直下のように。-

 

 

台湾・中国って可愛いよね。

 

 

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス1-2』(集英社 2020年)の話をさせて下さい。

 

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てか、今これ出版社見て思ったけどヤングジャンプなのか。ハルタとか絶対そっち系だと思ってた。てか調べたら「恋は雨上がりのように」も小学館で週刊だったんだ・・・それでこれって天才でしょ。

 

【あらすじ】

此処は東洋の庵窟、九龍城塞。(クーロンじょうさい)

ノスタルジー溢れる人々が暮らし、

街並みに過去・現在・未来が交差するディストピア

はたらく30代男女の

非日常で贈る日常と

密かな想いと関係性を

あざやかに描き出す

理想的なラヴロマンスを貴方にーーー。

 

1巻あらすじ より

 

工藤「俺はこのなつかしいって感情は恋と同じだと思ってる。ここに暮らす住人たちだって同じさ、みんなクーロンに恋をしているんだ。なつかしい、このクーロンに。」1巻pp.35-37

 

【読むべき人】

・台湾・中華的世界観が好きな人

・近未来もの・ディストピアものが好きな人

・煙草を吸う女が好きな人

・純粋な「ロマンス」ものが読みたい人

 

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【感想】

作者の前作恋は雨上がりのようには、アニメ1話だけ見た。

確かノイタミナでそこそこ質も良かったけれど、別に続きが気になるわけではないかなと思いばっさり切った。

後の実写化された際の小松奈々・大泉洋というキャスティングは素晴らしいと思ったし、風の噂で聞いた「くっつかない」という結末も素晴らしいと思った。

けどまあなんとなく読まなかったし見なかった。

 

時は流れて一昨日。仕事を通院のため早退し、その病院が意外と早く終わった宙ぶらりんな昼下がり、久々に近所の貸しコミック屋に行った。

そこで目についたのが本作。

ああ、恋は雨上がりのようにの人の新作だ。名前だけは小耳にはさんだことあるけれども一体どんな話かしら。

と何とはなしに手に取ったのがこの2冊。

 

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だけどまぁ・・・いやぁ・・・こんな話だったとは思わなかった。

一気読みしたよね。一気読み!!!

いい意味で、裏切られた。秀作。

 

世界観。

中国・台湾のあの独特な感じの「カワイイ」が注目されて久しいが、意外とああいうのをベースにした漫画って少なくないですか?

僕の知っている限りDr.リンにきいてみて!史上最強の弟子ケンイチくらいしか浮かばない。しかもその二作もそんながっつり中国中国してるわけじゃないし。つか結構古いし。

ところがどっこい、この作品は「九龍(クーロン)」と名前に入っている通り、ガッツリ中国してくれています。ガッツリ中国。

毎日繰り広げられる露店や、あの薄汚い路地裏。チャイナドレス。漢字。商店街。迷宮のように入り組んだビルの隙間道。騒音。電灯は切れかかってる。小汚い爺さん。きゅるきゅる瞳の中華娘。口調は勿論「~アル!」どぎつい色彩。うさん臭さは華。

そしてそこに無理矢理食い込むSF的世界観。

この九龍は現実の九龍と一味違う。

なんといっても、この九龍の空には、浮いてるんですよね。

もう一つの地球が。

 

アナウンサー「人類の新天地となるジェネリック地球(テラ)。安全と高度な技術のもと、今日も建設作業はすすんでいます。」1巻p.50

 

そこで繰り広げられるのは、30代男女のラヴロマンス。

32歳の主人公・鯨井令子(くじらい れいこ)と、34歳の工藤発(くどう はじめ)

小さい不動産屋の事務所で働く2人。

令子はやがて工藤を意識し始めて・・・!?

から始まるめくるめく、ラヴ・ロマンス。

「あー、はいはい。所謂幼馴染ものねー。それをこのがっつりSF×中華的世界観背景にやっちゃおーってことなのねー。前作が現実に即したファミレスが舞台だったように、今度はファンタジー舞台に純愛なるラヴを描こうってわけねー」

・・・って思うじゃん?

もっと言えば、まぁそれでもある程度満足はする訳じゃん?なんつったっておっさん×女子高生をあんなにキラキラ描いた漫画家ですよ?読んだことないけど。絶対上質なラヴ読めそうじゃんね。

と思ったら、1巻の最後、

「は?」

声出たよね。

思わず。

 

鯨井「工藤さん、あなたがキスをしたのは一体誰?」p.202

 

ここで僕達読者は本作が、「九龍ロマンス」ではなく、

「九龍ジェネリックロマンス」たる所以を知る。

 

以下簡単に各巻の感想を述べていく。

ネタバレを含む。

 

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1巻。

まさかラブロマンスの起承転結の「起」かと思ったらそんなんじゃなかった。もっと壮大な話だった。

所謂舞台となる九龍の世界説明巻だったとは。随所に出てきた過去の鯨井のシーンがまさか伏線だったとは。

最後のページを読むと全部意味合いが変わってくるのが面白いですね。

そして工藤の言っていた、

工藤「俺はこのなつかしいって感情は恋と同じだと思ってる。」p.35

これが物語の柱となろうとは。

どうりでこの一言に、1ページも割いていた訳ですね。凄い。

 

ページで思い出しましたが、この作者さんは1ページまるまる使う大きいシーンの使い方が上手いなあと思います。

典型的なのがまぁ最後最後になっちゃうんですけど、最後のp.197の金魚の死体のシーンから始まる。pp.198-201のシーン。兄化を思い出そうとする鯨井の、「頭痛」と、それ以上主出してはいけないという「禁忌」「本能」、全てがひしひしと伝わってきます。

あとの塗装に汗をかいたp.35の鯨井のシーン。こここんなにどすけべエロエロ1ページにする必要ないとは思うんですが、でもこの1ページぐう抜ける。そしてこの下品なページがあることで、煙草といい九龍という舞台といい、この物語を「上品なラヴロマンス」から、「等身大の小汚いロマンス」にこき下ろすことに成功している。

そしてその「等身大の小汚いロマンス」にSFが食い込むからなかなか面白いんですけど。

「上品なラヴロマンス」に食いこむSFも面白いけれどほら・・・そこは・・・漫画というジャンルでは萩尾望都大先生が突き詰めちゃってるから・・・。

でもこの1シーンがあまりにもエロかったので作者の性別を調べたら、まさかの女性だったのですね。多分絵柄とは裏腹に、ごっつい骨太の青年漫画とかたくさん読んできたんだろうなあと思う。カイジとか間違いなく読んでそう。女子の鼻基本高いし。

閑話休題

あと、p.118の鯨井の微笑×廃れたピンク映画とか、pp.178-179のキスシーンであるとか、pp.74-75の鯨井が工藤のスーツのジャケットくんかくんかするところとか、色々語りたくなるページが多いんですけどまあそこは割愛。でもpp.74-75、あのコマの連続は非常に美しいと思ったね僕は。

 

鯨井「工藤さん”なつかしい”って感情は恋と同じ”と言ってましたけど、それって元々あった物や風景以外にも感じますか?例えば新しく出会ったものでもかつて恋した面影が見えたら」pp.155-156

 

あと台詞を抜粋して気づいたのですが、この作品は漫画にしては珍しく句読点がちゃんと置かれていますね。好き。句読点省略するの僕もあんま好きじゃなかったので。

 

あとこの作者はおっぱい大きい人がチャイナドレスやスーツのワイシャツ着た時の、胸に現れる横の皺にこだわりがありますね。好き。僕もその皺現れるくらいおっぱいはあるので。

 

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2巻

1巻最後の怒涛の展開からの2巻ですよ2巻!!

序盤はそれこそほーんのふーん。工藤目線の物語。1巻でばらまかれた伏線を見事に回収。そうか工藤・・・お前・・・お前ってやつはいい奴だなあ(涙目)となる。

 

楊明「全身整形してるんだ、私。

私は過去を捨てたの。全部。

(中略)

どれが私で私じゃないかは私が決める」pp.34-35

 

そして衝撃の事実にぶちのめされた鯨井の、もとに現れたのは1巻騒音の主・楊明(ようめい)。分かる。分かるよ。「理想的ラヴロマンス」には理想的女友達が必須。

そしてこの楊明ちゃんがまた可愛いんだよね~。

確かに映画やドラマでは整形した女ってキャラクター見たことあるけど、漫画だとあんまりないかも。しかもその大半が「整形で失敗した女」「整形で堕落した女」「金」「風俗」「あああああ!!!」みたいな話だし(偏見)

いそうでいない凄い新鮮味のあるキャラクターだなーと思う。

 

鯨井「ピアスじゃなくてイヤリングです。」

工藤「くだらねーことしてんなよ」pp.110-112

 

物語の展開で言えば、後半の鯨井と工藤のすれ違いがこれまたぐう切ない。

そして「です」に強調する点(傍点)がついてたんですよね。「イヤリング」にではなく。

敬語の有無。恐らくそこが工藤の中での2人の鯨井の引っ掛かりなんじゃないでしょうか。

 

鯨井「あんな顔が見たかった訳じゃないし、こんなことで見てもらったって意味ないのに・・・!」p.117

 

そんな・・・そんな・・・

最高な泣き顔しないでよ。

そんな最高で美しい泣き顔したら・・・

 

蛇沼「素晴らしすぎてどうにかなりそうだ」p.156

 

終盤まさかの生・蛇沼が現れるとは!!!思わなかった!!!

物語に絡んでくるだろうとは思ってたけどまさかこんなに早くまさかこんなにサイコパスにまさかこんなに第一印象最悪に絡んでくるなんて!!

でもこれは・・・漫画だけでなく、現実にも言えることなのですが、第一印象最悪な人は思ったより最悪ではない。

意外と第一印象が最高な人が結構最悪だったりする。

なので僕は、このラブロマンスの黒幕は、事務所の支店長だと思ってます。

だって何も知らないなんて絶対おかしいし、蛇沼を呼んだのも「いい仕事」とかぬかしやがってるわけだし。

そして蛇沼は中盤意外と純情にストレートに今の鯨井に恋しちゃうと予想。私は今のあなたをずっとずーっと見てるんですよ~!!とかぬかしそう。キモ。

 

蛇沼「今貴女がここに存在している。この事実が何よりも素晴らしいんですよ。」p.151

 

ただ、ここで蛇沼が与えたのは林檎味のリップ・・・。

待って。

蛇沼が、アダムとイヴに林檎を与えたヘビ、だとして、

イヴが鯨井だとするならば、

アダムは誰だ。

やっぱり工藤発(くどう はじめ)。

はじめ。

お前なのか・・・?

 

うわああああああ気になるううう。

 

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よく見ると1-2巻ともに耳元隠されてるんですよね

以上である。

何気はなしに手に取った漫画だったけれどもその先が予想以上に気になる1冊だった。いやはやこの後どうなるんだろ。まさかアダムとイヴまで絡めてくるとは思わなかった。

 

まさかの衝撃SFラブロマンス。これは3-4巻借りる日も、そう遠く・・・なさそうだ(遠い目)

 

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これは最近飲んだ台湾っぽいお茶です。めちゃくちゃ美味しかった。

 

***

 

LINKS

萩尾望都先生の作品はこの前初めて読んだ。

凄いですね。凄い。もうマンガじゃなくて半分少女小説じゃん、って思った。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

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唯一持ってる中華コスメ。