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あーこれが現代の「にんじん」ね。
童話でにんじんって少年が出てくる話あるけど、あーまぁ現代日本人だと赤毛ってなかなかいないからね。
まーそうなるよね。
我妻俊樹『FKB怪幽録 奇々耳草紙』(竹書房 2015年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
奇妙で不可思議、そしてじんわりと迫る闇と怪。独自の怪談を紡ぎ続ける我妻俊樹の新シリーズ第一弾。
夜中に突然止まりに来た友人の不可解な話と衝撃の事実「イキシチニヒ」、バイト先のコンビニによく来る美人女性、ある夜道端で会ったら汚れた花瓶を渡そうとしてくる・・・「花瓶」、乗り合わせたタクシー運転手の奇妙な独白「カリントウ」、雪道に倒れている人を見つけたら・・・・・・「雪案山子」、大学へのバスに乗り込んでくるお面をかぶった老人の謎を明かそうとする「面の歪み」など67編。
零れ落ちる怪異の欠片はあなたの周りにも満ちている。耳をすまして聴いてごらん・・・・・・。
裏表紙より
【読むべき人】
・面白い実話怪談が読みたい人
・小説に近い実話怪談が読みたい人
・どこか「世にも奇妙な物語」、不思議テイストがある実話怪談を読みたい人
【感想】
この前読んだ「瞬殺怪談」で、圧倒的に好きな話が多かった書き手・我妻俊樹氏のシリーズが五冊全巻まとめて、メルでカリられたので、ポチって、買いました。
そして届いた瞬間即開封即読破。届いた翌々日には五冊総て読んでしまった。
そして確信する。いやぁ・・・滅茶苦茶好きですね。この人の、実話怪談。
我妻俊樹氏を知ったのは、「瞬殺怪談」シリーズで・・・という訳では無い。
「てのひら怪談」というシリーズで知った。
約2ページ余りの怪談を毎年募集するコンテストの優秀作を掲載するシリーズである。僕の高校時代、だから約10年前くらいに5回程開催された。東雅夫氏が主宰していて、くわえて加門七海氏、福澤徹三氏等が審査員に名を連ねた。
基本的に面白い作品が多かった。黒木あるじ氏、黒史郎氏等が当時そこに名を連ねていた・・・と記憶している。実家に帰って見てみないとちょっと断言できないが。
でもまぁとにかくその頃からすでに掌編短編大好きだった僕は、毎年7月くらいに出るシリーズを楽しみにしていた。
ちなみに5冊程出たなかで一番好きな掌編は「ネバーランド」。叙述トリックの怪談もので、衝撃の後半と、独特の世界観にハッとさせられた。一体どんな人が書いているのだろうと巻末の著者の肩書を慌てて見たらその人だけ「無職」でガーンとなった覚えがある。リアルネバーランドかよ。
そのコンテストに参加していた一書き手に、我妻俊樹先生がいた。
だが正直僕は彼の作品が好きではなかった。
どうもポエムが過ぎるのである。詩的表現過多。
怖さよりなんかポエム、という感じ。怖くないのがほとんどで、毎巻彼の作品が収録されるのに疑問を抱いていた。
唯一面白かったのは・・・確か同性愛者の男が片想いしている男の子供を受胎する掌編。あれは面白かったけど・・・でもあれ書き手が我妻俊樹先生かどうか断言はできず実家に帰らないと以下略。
けれど、そのポエマーな性質が、「実話」をベースにするとちょうどいい塩梅になるのである。
実話、だけれどどこか不思議、だけどいつ僕等の身におきてもそれは不思議じゃない。
ただ幽霊が出てきておどろおどろしい、ただ基地外が出てきてグログロしい、そういう実話とは一線を画す。
不思議系実話。
幽霊でもない、ヒトコワでもない。
ちょっと「不思議」系、「奇妙」系。今風に言えば「異世界」系。
控えめに言って「サイコー!」だった。「サイコー!」。
この作家の特性は恐らく、完全なるフィクションではなく、ノンフィクションを描いてこそ、輝くものがあると思う。
以下簡単に、特に印象に残った実話のあらすじと感想を毎度のごとく書いていく。好きなのは「ラーメン」「不在票」。ネタバレ辞さないので注意。
「ラーメン」pp.33-38:巨漢の友人加賀谷とドライブしていたが、気づいたらラーメン屋にいた。
「そういえば、おれたち何でラーメン食ってるんだっけ」p.33
太った友人、加賀谷が二人、しかも服を脱いで出てくるところが衝撃だった。なんで脱いでるんだよ。しかもまぁデブの男の裸であるからなかなか、まぁその気持ち悪いのである。ラーメン屋だから間違いなく臭いし。
それを上品な文体で書いているギャップがなかなか面白かった。
後半の唐突な結末と、そして最後の一行も良い。
つまり、こっちの加賀谷で正しかったのだろう。p.38
「ラジカセ」pp.39-41:地元の地下街の一角で、奇妙なものを見た。古くて大きいラジカセが7-8台輪をなすように置かれている。
怪異の主役が「ラジカセ」かと思いきや、え、そっち!?になった。
完全に予想外。
「ラーメン」の次に収録された作品であるが、同じく最後の一行が鮮やかな一編。
「菊耳」pp.57-58
マチコさんは一人でバスを待っている時にふと「菊耳」という言葉が頭に浮かんだ。p.57
日常のふとした瞬間を切り取ったかのような掌編。前の二つと比べるとだいぶリアル度が高い。だからその分、最後の胸騒ぎが妙にリアル。
所謂直感・デジャヴを扱った作品である。僕もちらほらそういった経験がある。「あ、邪悪なものが今事務所にいるな」と思ったら職場のクソババアがいたりとか。
こういうの磨いていったら人生拓けそうな気がするんですけど、どうなんですかね。
あと、「マチコさん」と主人公が明確に女性なのも良かった。「高橋さん」とか「Fさん」とか苗字やイニシャルだと女性かどうか途中まで分からないこと多々あるので。
それにやっぱ女性のが、僕含め直感だとかシックスセンスだとかこういうの、優れていると思うので。主人公が女性だからこそ、生々しく感じられた。
「カリントウ」pp.71-85:転がり込んだ彼女の家には、祭壇があった。
「トイレの神様」っていう歌が流行ったことがありましたが、まさにそれですよ。トイレにほんとうに神様がいたんです。p.74
吉祥寺を舞台にしたちょっと長めの実話怪談である。新興宗教モノ。ちなみにこの「カリントウ」というのは、その彼女が崇拝する神様の姿を現す。あくまで「う○こ」と表現せず「カリントウ」と表現するのはやはりそこは、神様だからだろうか。
この「カリントウ」関連で起きる現象がなかなか辻褄が合わず不気味で厭だった。たまたまだったのに、一生ついてくるとか厭すぎる。あと発生の経緯も厭。
こういう、「厭な宗教」って日本にいったいどれだけ実在するのだろうか。ヤオヨロズの神様がいる分、また日本国憲法で「信教の自由」が保証されている分、なかなかナイーブな話題であるが、そういったところにずかずか踏み込んだ書籍があったら是非読みたい。
うんこきょ・・・カリントウ教というのが衝撃の一遍。
「指輪」p.104
貴也さんが二年くらい前に上司に連れられて高そうな店で吞んでいたとき、店の女性たちのそれぞれの肩の上に指輪だらけの皺の多い女の手が載っているのが見えたという。p.104
え、その店の霊だったってこと?それとも守り神?
いやいや、それとも貴也さんの守護霊とか?
後半はえっ!!??となる展開で、ますます手に関わる謎が深くなる一編。
この話もそうだけれども、我妻先生の実話怪談は後半至極あっさり予想を裏切って来るので、その切れ味がいいですね。予想GUY・我妻。
「自撮りと無縁墓」p.106-111:出会い系であった男はまぁまぁ好みではあったが、着信画面がキメ顔の自撮りであり・・・更に携帯の画像フォルダには無縁仏の写真がたくさん入っていて・・・。
「ね、おもしろいでしょう?今度現地に連れて行ってあげるから楽しみにしてて」p.108
いやいいです・・・な一編。
ただ後半の、かかってくる不気味な電話や、明らかになるホテルで起きた事件、そして別の場所での男の目撃譚など・・・。妙に繋がりそうで繋がらない。怖い。
そもそも男は生きている人間なのか。幽霊なのか。何なのか。
僕は憑かれた人間ではないかと踏んでいる。だから、無縁仏にナチュラルに執着するし、男自体見える人見えない人が出てきているのではないか。
ホテルで死んだ女と痴情のもつれがあって、その女に憑かれているのではないか。
いやぁ・・・でもちょっとキモい「自撮り」といい、もともとの人間性がなかなか気持ち悪そうだけれども。でもぶっとんでる人間って結構そこらじゅういっぱいいるからなぁ。
「人造湖」p.116-122:湖で彼女といちゃついていると、皺の無い人々が二人の元へ寄ってきて・・・。
単に若いというのではなく、顔立ちはむしろ老人的でもあるのだが、肌が不自然にぴんと張っていてメリハリがなかった。p.117
この後、人生に地味な不幸が降り続けるのがなんか不気味で怖かった。遭遇しただけで不幸になるとか代償がデカすぎる。そしてその場に一緒にいた彼女・・・元カノの意味不明な行動も・・・。
恐らく会ってはいけないものだったのだ。でも会ってしまった。ということは読者僕達もいつこういう現象と遭遇して、不幸な人生歩むことになってもそれはおかしくない、ということになる。それが怖い。
そして最後のまさかの展開も不気味で怖かった。元カノ、絶対最期湖で入水自殺して死にそう(小並感)
「相部屋」p.139
会社の新人研修の夜、金縛りにあった末男さんは同室の新人が寝言を言いながら起き上がって取れナース型で部屋を出ていくのを見た。p.139
ええ・・・になる一編。ええ・・・。
別人と入れ替わる系は結構見て来たけれど、それが14年前の出来事でそのままずっと続いてきたという現象が気味悪い。しかも仕事できるんかーいっていう・・・。
僕が知らないだけで、僕の身近な人は結構入れ替わっているものなのかもしれない。
もしくは、今日の僕は昨日の僕と同じ人間か・・・?というと小林泰三「酔歩する男」問題になってくる。
「達磨」pp.143-147:達磨の願掛けに憧れた少年は、カブトムシの雌で代替して願を掛ける。結果・・・。
部屋に持って帰って、爪きりで足を一本ずつ根元から切った。p.144
最期の虫の死に物狂いの怨みが凄まじい一編。やっぱ虫も生きてるんだよな。人生、らしからぬ虫生馬鹿にされるようなことがあったらそりゃあ恨むよな、って思った。
罪の意識から来る幻覚か?と思ったら明らかに、祟り現象起きてる描写があるのがなかなかポイント高いですね。
あと、子供特有の虫に対する残酷さ。実話怪談等でも時々見ますけど、何回読んでもやっぱこういうことってするもんじゃないなって思いますね。虫も生きてる。無駄な殺生は、やめよう!!ただしG、おめーはダメだ。
この話も、最後の締めの言葉がなかなか良い。
当時主人公の母親は長く入院していたという。しかしその治癒を「虫達磨」には願わなかった。
そういうことは、虫なんかに願掛けちゃいけないって思ったんじゃないのかな。
バカな子供なりにね、わきまえてたんだと思いますよ。p.142
「踏切に立つ」p.157-160:全裸の幽霊目撃譚。
僕思うに、この世には二種類の霊がいると思うんですよ。
一つはシンプルに死んで思いが残って現存している幽霊。所謂一般的な幽霊。ひゅーどろー。うらめしやーとか言ってるのはこのタイプ。
もう一つはどこかで拗らせて、怪物的存在となった幽霊。例えば「不安の種」に出てくるあれこれとか。悪魔とか。
じゃあ、何が要因で死後どっちかになるか決まるのか、というと・・・なかなか難しいけれど、それは「天に召されるべき」「地へ落ちるべき」の違いじゃないかなぁ・・・とも思う訳です。すると後者は尚更触れたくない、さわりたくないものでして・・・。
と、僕の中の下ヨシ子が言っております。
そしてこの話に出てきた霊は後者だった。それにすぎない話だと思います。
「猫カフェ」pp.163-165:自分だけ、猫カフェの猫が小さな狛犬のようなものに見えて・・・?
恨みつらみ憎しみ・・・恐らくひんどいことがあったんでしょうね。恐らく猫に対する残虐な行為が。カフェでそれが現在進行形で行われていた可能性すらある。
そしてその業が積もりに積もって、その土地に穢れをもたらした結果の現象だったのではないでしょうか。
と僕の中の下ヨシ子が言っております。
犬より圧倒的に猫の怪談が多いのはあれなんでだろうね。
「年賀」p.166-167:不気味な、差出人不明の年賀状が届いたよ!!
書いてある文面がとにかく怖い。意味が分からない分余計に怖い。ストーカーだったってこと?5000円わざとトイレに落としてずっと遠くからそれを見ていたってこと?それとも幽霊?いややっぱ糖質的ストーカーの仕業?
謎が多くて厭な一編。こんなんめでたくもなんもないし、何ならこれが届いた年は厭なことが起きそう。年賀らしからぬ年禍。
「膝枕」pp.182-185:隣の部屋から、女の声で呼ばれている。行ってみると、そこには見たことない男に膝枕された母親がいて・・・。
男は髭の剃り跡が青くて何だか顔がぬるっとした印象だった。p182
え~どういうこと~?となる一編。え~どういうこと~??
しかもトラウマ必至な現象なのが嫌だ。主人公の少女は当時12歳。この「男のようなもの」が明らか少女を「女」として観ているような動きをしているのも気持ちが悪い。
その後母親がマンションから落ちて亡くなっていたら、現象に理由がつきそうだけれども、母親どうやら健在っぽいしなぁ。
逆に主人公のような見える少女の存在が、母親の死を食い止めた可能性すらある。
ちなみに実写化ならワッキー希望。
「病院公園」pp186-195:古い病院の横にあったから「病院公園」と呼ばれていた公園。その公園にはホームレスがいて、時々色のついた綺麗な石を見せてくれた。
ただ、すべり台に貼られた注連縄のことはなぜか語られた記憶がないという。p.194
ホームレス、すべり台、そして青い服を着た女・・・等、我妻先生特有の「分からないが怖い」が極まった比較的長めの実話怪談。
この話を読んで、「え??要するにどういうこと??」ってなったら我妻俊樹先生の実話怪談は残念ながら合わない。けれど、「え、わかんないけどこわー」となったら我妻先生の怪談は一話一話一つ一つ君の心の薄暗い部分をくすぐるように突くだろう。
終盤のクライマックスにして、最も著者らしい実話怪談・・・だと思った。
「不在票」pp.196-197:宅配便の配達員が、いくら声をあげても、気配がするのに表になかなか出てこない。
「ここがぁとなりがぁ、きのつけたれぇになんなる」p.191
本書の中で一番怖い一編。なかなか出てこない部屋から来るのか来るのか・・・!?と思ったら、まさかのそこからかよ!!っていう。
「目も鼻も口もないニンジンのような真っ赤な顔」p.198とその正体が書かれているが、もうこの数文字でゾッとする。開いたドアからにょっきと覗く。あるべきところがない。切れ込みだけがあるような・・・。
そいつと出くわさないようにタイミングを計っていたから、なかなか住民も出てこなかったのか、なるほど。道理でね。と妙に納得がいくのも良かった。
瞬発力といい、展開といい、どちらもバランスが取れていて、本書の中で最も優れた実話怪談だと思う。
「妹の恐怖」pp.202-205:
栗田君の妹は人見知りだが、ある日外出先の交差点で信号待ち中、しらないおじさんに駆け寄ってすがりつくうようにして話しかけていた。p.202
縁、というか、運命、というか・・・初めから妹が大人になった時に事故に遭うことが運命づけられていたのかと思うと、なかなか怖かった。
「お、おじさん殺人犯なのか?」「お、おじさんが事故起こした車を運転していたのか?」の予想を鮮やかに裏切って、少し遠いところにひらりと見事に着地する実話。
まぁ実話なんで、「事実は小説よりも奇なり」、予想を裏切るもクソもないんですけど・・・。
「息子の友達」pp.213-217:7歳になる息子が毎日のように友達を連れてきた。名前はシンくんというが・・・・。
「ああ分かった。殺されちゃった子のことか」p.216
ページをめくって一行目にこの言葉があったのでむぎゅっと心を掴まれた気分。むぎゅっ。まさか死んでるとは思わなかったから。
そして明らかになる息子との記憶の相違・・・。多分シンくんは姿を消さなきゃいけないことが分かっていたけれど、どうしても出来た唯一の「友達の家」に自分以外の子を入れたくないから、そういう悪戯をしたんじゃなかろうか。
見方を変えるとちょっと泣ける実話になるけれど、スパッと恐怖心を衝くような見方で展開させているのが良かった。感動系の実話怪談程クソはないからね。
以上である。
なかなか読み易くて面白い実話怪談集だった。
結構「わからない=怖い」と捉えて書かれている作品が多いので、合わない人は合わないかもしれない。けれどそこが合えば絶対面白いと思う。
最近「わからない=怖い」で有名なのは、梨.psdさん。
今までは、「わからない=怖い」を、辻褄が合わなくなった展開・怪異の正体が思いつかなかった苦肉の策、と言った具合で「逃げ」に使う書き手が多かった印象がある。現象にしか焦点を置かず要因は二の次、みたいな。
けれど梨先生は「わからない」を「逃げ」に使わない。むしろ徹底して読者が「何がわかって」「何がわからないのか」を計算して書いているような印象すら受ける。
恐らくそれはSCPという土壌があったからそういう怪談に行きついたと思うのだけれど・・・。
梨氏、程ではないが(失礼)、我妻氏の実話怪談も「わからない」を逃げに使っていないからこそ、こんなに面白いのかな、って思った。
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LINKS
瞬殺怪談シリーズはいろんな蒐集家の話を読めて、好みの蒐集家が分かるのでおススメ。
20220412 長年放置していた感想記事をようやっと挙げた。半年以上は立ってる。けれど、どの話の感想読んでも明確に思い出せるんですよね。この後我妻氏の単著実話怪談本は全部読みましたが、このシリーズが一番読み易いかなとは思います。無論他2シリーズも最高ですが。