小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

中島らも『人体模型の夜』-善人面した小説は、つまんない。先生。-

 

 

 

人体模型曰く。

 

 

 

 

孤独の嫌いな女もいるんだわ。死ぬのさえ独りじゃ我慢できない、そんな女もいるんだわ。

 

 

 

 

中島らも『人体模型の夜』(集英社 1995年)の話をさせて下さい。

 

 

 

【あらすじ】

一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。

その胸元に耳を押し当てて聴いた、現用と畏怖の12の物語。

18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声正体は(耳飢え)。

人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密(膝)。

眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。

愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・ホラー系の話が好きな人

・比較的面白い短編集が読みたい人

・ホラー苦手だけどホラー短編集が読みたい人

 

 

 

 

【感想】

本書を知ったのは朝宮運河氏編纂アンソロジー『家が呼ぶ』で、本書掲載短編の「はなびえ」が掲載されていたからだ。

中島らも、といったらなんだか知らんけど「お気楽おじさん」みたいなイメージがあったので、こういう短編書くんだと意外だった。

また、「はなびえ」自体が掲載されている本書の「人体模型が語る話」という設定も面白いと思ったし、他にどんな話を聞かせたのだろうと気になった。

ので、さっそくメルでカリって検索し・・・本書を購入した次第。

 

 

 

表紙がめちゃくちゃレトロかわいい。

今の文庫本ではまず見られないようなタイトルの文体と、あと顔と胴体のバランスがなんともいえない、よく見ると蠅?の翅のようなものが生えてるドールちゃん。

たまらねぇ表紙だぜ・・・。

イラストレーターはひきうちみちお先生というらしい。どうやらガロ系で活躍した漫画家との旨。どんな作品化描いてんだか・・・とアマゾンで見てみると、結構頭おかしくて面白そうな話ばっかり。トムブラウンといいやっぱり平仮名で「みちお」と名乗る奴は頭やべえヤツが多いのかな。もっと増えろ。

 

短編集の感想としては、まぁ正直期待よりちょっと下。掲載されていた「はなびえ」が一番良かった。

その他も悪くはないけど、多分一年後僕が明確に覚えている短編はこの「はなびえ」以外ないだろうな・・・って感じ。

もともとが怪奇小説メインの作家ではないというのもあるけれど、全体的に薄味の印象を受けた。もっとおどろおどろしくても良かった。

ただその分、さくっと読める「ライトさ」があるのは事実だし、多分ホラー小説苦手な人はこれくらいが一番いいんじゃないかなあとも思う。

 

 

 

 

以下簡単にあらすじと感想を簡単に述べておく。

 

「邪眼」pp.17-33

イスラム圏・そして主人公夫妻が住むスリランカでは、邪眼・・・「イーブル・アイズ」の言い伝えがあった。

ハーリティ「だんなさまのためにお祈りしているのです。それがいけませんか?」p.25

解説でも田辺聖子先生が触れていたが、ローズマリーの赤ちゃんを思い出す一篇。

妻が宿しているのは人間の子か悪魔の子か・・・という不安に翻弄される話。

まぁ結局今回は■■の子でしたよ~という話で、それ以上でもそれ以下でもなかった。宗教とか習わしとかそういうのに興味があればまた響くような気もしないこともないけど・・・。

本書が単行本として発表されたのは1991年。30年も前である。その時にはまず「スリランカ」という国が未知で、そこから読者は別の恐怖をくみ取っていたのかもしれない。今じゃあ紅茶の産地ですが。

 

「セルフィネの血」pp.33-50

「地上最後の楽園」を求めて船旅を続けてきて主人公は、とうとうその名にふさわしい島を見つける。セルフィネ島・・・。

コモイ「セルフィネは天国でも楽園でもない、ただの人間の住む島だよ」p.47

地上最後の楽園・・・ただ楽していれば歌って暮らしていけるような楽園・・・まぁそんな都合のいいお話なんてないよね~という話。

絶対なんかあるわ絶対なんかあるわ・・・・って思ってたらはいやっぱりありました~感。正直その”何か”の伏線か何かあればよかったのだけれど、そこが全くないのがちょっと残念だった。

にしても、「邪眼」といい本編といい、本書は全体を通して異国の島を舞台にした作品が多い。らも先生が旅行好きだったのだろうか。それとも、旅行嫌いだったのだろうか。それとも1991年・・・バブル真っ盛りの時代が故の舞台設定なのだろうか。

 

「はなびえ」pp.51-72

調香師である梨恵子は、元カレの泉から、広さ・設備共に充実しているにもかかわらず家賃が低めの所謂「穴場」的物件を紹介される。

梨恵子「孤独の嫌いな女もいるんだわ。死ぬのさえ独りじゃ我慢できない、そんな女もいるんだわ」p.71

生来ぼっちのまぐろどん、そんな人なんておらんやろ~(笑)と思っていたけど、案外そうでもないのかなと思う。

例えば他店の社員の子は、一緒に帰る人を待つがために45分も店舗で作業が終わるのを待っていたりする。休日にわざわざ僕が務めている店舗に友達と一緒によってきたりとか。え、休日に会社行こうと思う?

孤独が嫌い、ってああいう人のことなのかなと思う。

ああいう人が、恋したらどうなるんだろ。

にしても、梨恵子の上記の台詞は何回読んでも最高。口に出して読みたい日本語ですね。

 

「耳飢え」pp.74-95

盗聴マニアが住んだ部屋の隣室からは、女がずっと穏やかな語り口調で話し続けている声が聴こえて・・・。

マンションにはつまり「横」という空間はないのだ。p.81

いかにも古い世にも妙な物語の再放送にありそうな話。残念ながら今では、結構陳腐だけど・・・30年前はもっと本編のもつ味が鋭かったんだろうなあと思う。

でも主人公である盗聴マニアの男が語る盗聴の魅力は結構面白かった。もうさあ、こんなん間違ってレオパレス住んじゃったら毎日絶頂してそう。今風に本編にタイトルつけるとしたら「耳飢え」(笑)なんかではなく、ミスターレオパレス」

ちなみに、「世にも」で思い出したけど、逆に音が無い状態にこだわる男の短編「Be silent」という作品も昔ありましたね。当時怖くて布団から出たり出なかったりしながら見た覚えがある。あれも極端な話だったけど・・・。あれも今風につけるとしたら「ミスターアンチレオパレス。隣に配信者とかいたら容赦なく殺しに行きそう。

 

「健脚行ー43号線の怪」pp.100-120

「知人」である14歳の少年・里志の亡き兄は、競輪選手志望だったが・・・。

主人公「そうか、里志。君は、きっとトップクラスの選手になれる」p.120

多分ちょっと泣かせる怪談・・・なんだろうけれども涙腺にびくとも来なかった。多分らも先生自身が、そういう美談を信じていないから。

らも先生の文章力だからさくさく読めるけれど、これだけ圧倒的に群を抜いてつまらなかった。絶対らも先生自身が、そういう美談を信じていないから。「膝」とか「骨食う調べ」とか、ああいうクソみたいな人間描いている作品の方が何倍も何十倍も面白い。多分らも先生自身が、そういうクソ人間以下略。

作家に道徳を求めるなよ。

・・・善人面した作家程気持ちの悪いものはない。

 

 

 

「膝」pp.121-142

遺産によって財はある男がなんちゃって「人面瘡専門家」を名のって10年、人面犬・人面魚ブームに則って仕事が来るようになり・・・。

主人公「あ、もうお腹かくしていいから。Tシャツおろして」p127

オチは陳腐だけれども、其処に至るまでの主人公の日常の描写がめちゃくちゃ面白かった。人面瘡を信じていないからなんちゃって専門家を名乗ったのであって、ツッコミに回ったりあっと言わされたり、中盤までが神。

多分らも先生の本領ってこういうところなんでしょうね。「骨食う調べ」もそうでしたが・・・。相手をあっと言わせるなんちゃって悪人を描かせると一級品。ブラックユーモア。黙れ道徳。目指せ怠惰。迸る悪徳。ずっと読んでいたくなる。名作と名高いガダラの豚とかもうこういう感じなのかしら。

終盤の展開はまぁ・・・何となく読めてはいましたが、中盤までの素っ頓狂ゲラゲラ笑える展開からのグロテスクな結末の落差は、分かっていながらも啞然。

 

「ピラミッドのヘソ」pp.142-162

実業家は、一人娘の夫を試すため、新宿一等地に土地を与えて自由に建造物を作らせてみた。そしたらピラミッド、作っちゃった。

若松一政「なるほどな。”死”や”老い”と逆のものをもたらすのがピラミッド・パワーだということか」p.160

なんだかとても勉強になった一篇。確かにそうなのかもなぁ、とか思ってしまった。非現実的ではあるけれども、数学的なる論理。現実≠数学。超絶。まぁそんなにピラミッドに関心ないけど。でも生まれ変わり先の時代を選べるなら十分古代エジプト、アリ。奴隷と言っても奴隷じゃないと聞くし。

あとピラミッド・パワーを詰めました!!!」と空のペットボトル売ったら凄い儲かりそう。そのラベルにこの話の活字を印刷しようぜ。

 

「EIGHT ARMS TO HOLD YOU」pp.166-186

日本のミュージシャンのトップに立った、族永作(やから えいさく)がクルーザーで豪遊中、「ジョンレノンの未発表曲がある」という男がやって来て・・・?

ジョン「ぼくは出ていってもいいけど、誰がギターを弾くんだい」p.178

クルーザー、且つタイトルが「EIGHT ARMS」でオチが分かりそうなものだけれどもそのままのオチである。要するに、タコに巻かれて死ぬ。

でも多分この短編のメインはストーリーじゃない。「ジョンレノンの未発表曲の音源」という設定を楽しむ話なんだと思う。録音前の会話とか、どの時期に作られた音楽なのかとかもきちんと練られていて、らもちゃんまじビートルズ好きなんだな~ッてのが分かる。

多分同じくビートルズファンだったら、この架空の音源を取り巻く物語を楽しめたんだと思う。僕はビートルズファンじゃない。

あー、あと。矢沢永吉をもじったと思われる「族永作」のユーモア。

今じゃあ渋カッコいい大人の男最前線を日産の車で突っ走ってるイメージですが、刊行当時1994年はまた違ったイメージだったのかな。

 

「骨喰う調べ」pp.188-202

霊園・墓関連を担当する不動産会社社員俺の日常。

(お坊さんの説法について)女たちは十万円出せば十万円分の、百万出せば百万分の「なぐさめと安心」を自分の心の中から買いとっているのだ。p.302

クズ不動産会社社員(営業)の日常をユーモラスに描いた一編。やっぱり変な道徳ものより、こういう死人も生者もクソクラエみたいな文章の方がらも先生は圧倒的に輝いておられる。めちゃくちゃ面白い。クライマックスの「七月二十日」の結末には爆笑した。

クソ野郎は強い。

強すぎる。

その中に上記のようにはっとさせるような一行があって、ヒヤリとさせられるのも心地よい。

クソ野郎は真実を突く。

鋭いナイフで。

 

「貴子の胃袋」p.209-236

娘が肉を食べなくなりベジタリアンとなったが、やがて植物にも命があると気づきはじめると・・・?

それも牛のように力強くおだやかな感性ではなく、いつも耳を立てている兎のように、弱くて憶病なところがある。p.225

拒食症を描いた一篇。とうとう挙句の果てにはちょっと狂って、父親母親に殺意を向けてしまう。なんとなく始まった時からそこまでは予想はついていましたが・・・。

でもそこからが勝負。さぁどうなる貴子はどうなる。死ぬのか殺すのかもしくはなんでも食べるようになるのか父母バキバキ食べるようになるのかこっちが本当の「骨喰う調べ」ってか・・・!!???

とワクワクした割には、何も起こらなくて肩透かしを食らった。

恐らく、漫画やドラマなど視覚的メディアの方が映えるであろう一篇。

 

「乳房」pp.239-249

福永教授は、アメリカで開催されている降霊会に半信半疑で参加することに・・・。

福永教授「おやおや。この連中はまだこんなことやっとるのか。何とも古色蒼然たる降霊会だな」p.240

「乳房」、って上品ぶるよりかは「おっぱい」って名前にした方がいいんじゃないか。それくらいしょーもないオチに笑ってしまった。

いくらでも幻想文学・・・ゴシックを極められそうな題材であってもらも節にかかればおっぱい!おっぱい!!

 

性器

「翼と性器」p.251-260

とある産婦人科医は、「天使の性別」について妄想に囚われて・・・。とうとう己の性器を切除するがそれではあきたらず・・・・。

連絡もせずにすまなかった。三か月ぶりの手紙だ。p.252

「おっぱい」とは違った上品な文体、上品、上品、上品・・・からのど・下品なオチに笑ってしまった。いやいや、こんなんいくら人体模型とはいえど小学生に話しちゃダメでしょ。

あと、実はタイトルに巧妙な伏線が張られていることに気付く。

 

 

「プロローグ」pp.9-15

「エピローグ」pp.261-262

少年は、人体模型の胸から耳を離した。

すべての話を聞き終えたのだ。p.261

人体模型、といったら普通の人体模型を想像していたので、それをはるかにしのぐ幻想的でゴシックな人体模型が出てきたときはちょっとビックリした。皆川博子先生を思わせるような、人体模型もいいけれど・・・。これだけビビッドな色とりどりの短編が並んでいたのであれば、僕等が想像する普通の人体模型に語ってもらいたかったなぁ・・・これらの話を。

こんな上品な人体模型から「膝」「骨喰う調べ」「おっぱい」みたいな短編聞きたくないよ。なんかもっと上品でロマンチックなことを語ってくれよ。

 

 

 

 

以上である。

概ね面白かったが、ホラーとして期待すると肩透かしを食らう。

表紙が可愛くて、ちょっぴりこわくて面白い短編集、くらいの気持ちで読んだ方がいいの「らも」しれない。

 

 

 

 

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20230219

最近また表紙を新しくて刊行されましたね。

1年以上前に書いた記事でしたがまぁみごとに「はなびえ」しか内容覚えていなかったよね・・・。

あと「孤独が苦手な女」くらいか。