小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

「恋する惑星」-人間なら誰しもが、惑星だった時代がある。-

 

 

 

あなたの心に不法侵入。

 

 

 

恋する惑星」(1994年 香港 監督:ウォン・カーウァイ 主演:トニー・レオンの話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

2つのアベックの恋は、香港の夜をかき乱しながら華やかに咲く。

刑事と、薬物売人の謎の金髪女。失恋直後に出遭う女は危ういぜ!!

女性店員と、警官。・・・飛行機は進路を変えた。

 

「制服姿の方が素敵。でも私服も素敵。」

 

香港のネオン輝く夜にひらめく言葉は中国語。

ニュー・レトロチックな世界観にぶっ刺さる不器用な僕達の恋愛。

 

【見るべき人】

・最近フューチャーされるニューレトロ的な世界観が好きな人

・映像に酔いたい人

・岩本照が好きな人:後半出てくる警官がそっくりなんだぁ・・・。

 

 

 

いろいろ当時のパンフとか展示されてた。

 

【感想】

中国のどっかの有名な監督作品が映画館で上映されるぞ、ということで早速行ってきた。初日に行ってきた。というのも、物凄く公開を楽しみにしていた「女神の継承」を、公開のタイミングで見事コロナウイルスに僕がかかってしまい見に行くことが出来なかったのである。コロナの継承。

なので、ちょっと気になっていた、その中国のどっかの有名な監督の再上映、特にその監督した作品の中で名前を唯一耳にしたことのある本作は見に行かねばならない、と思って行ったのである。だってなんか初日はステッカーくれるっていうし。

 

実際行ってみると凄い人の数だった。静岡サールナートホール、まぁミニシアターなんだけれども今まで見たことのないくらいの人数だった。時間に余裕を持って行ったにもかかわらず配られた番号札には「21」(番目)と書かれており、普段僕の特等席である一列目中央はすでにとられていた。40代くらいの黒いブラウスにタイトスカートをはいた女性だった。

しぶしぶその人から一席あけて座る。入場は途絶えない。33、34、35・・・42、43・・・・。

そのほとんどが女性。若かったり年老いていたりしている。それだけの人数にそれだけの人生を背負ってきている。そして間違いなく僕もその中の一人である。恋する惑星・・・でもここにいる女全員が、かつて「恋する惑星」だったことがあるのだわ。だからわざわざここにきて1800円支払ってここに座っているのだろうし。と思うと何ともずん、としたものが胸に広がる。

僕達は恋をするともう本当にふいよふいよと彷徨って惑わされて迷ってしまう。恋する惑星。何度でも口にしたくなる日本語・・・恋する惑星

 

「1万年愛す」

 

1990年代の香港で、僕達と同じくふいよふいよと惑わされた四人の若い男女の恋愛模様が描かれている。

前編、後編はっきり分けられている。話は独立。本作を検索すると「並行して進む二つの恋物語」だのなんだの難しく描かれているけれど、簡単に言うと前編後編。どうやら本当は3つの恋愛を一作にまとめたかったらしいが、それが敵わず2作という形になったらしい。2篇構成。日本の純文学小説のような構成である。

 

・・・純文学は読み始めは退屈だって相場が決まってる。

刑事と金髪の薬物ブローカーの女の話である。前編。

冒頭刑事役である当時新人俳優の金城武のアップから始まるのだけれども、その演技がなんとまぁ大袈裟でひどかった。アメリカ人ヨロシク身振り手振りが大げさで見てられない。織りなす会話は「メイ」・・・どうやら元カノにまつわる話らしいがその他諸々難解。その後に、いきなり大音量で響く音楽と物音で揺れる画面ブレる画面、金髪の女はケツ顎でまぁ美人・・・とはいいがたく、そこで売買される薬物は「危うい女」を演出するお飾りで、取引の画面はコミカルに彩られてはいれどまあ面白くない。

かと思えば気づけば金城武が雨の中ランニングをしている。

「僕は失恋をするとランニングをする。涙になる水分を、汗として流して泣かないようにするためだ」

知らんがな。いきなり伏線なしにそんなロマンチックぶっこまれても知らんがな。大人しく部屋で「メイ・・・メイ・・・」言いながら自慰でもしてた方がマシなんじゃないの。眠くなる。

いや1800円支払ってるねんぞ!!!・・・はっ!!と気付けば、金城武は何十缶もののパインアップルの缶詰を食べている。

チケットと一緒に渡されたパインアメはこれにちなんだものだったのか。そういえば沙村広明の短編集にもパイナップル出てきた気がする。中国と意外と縁が深いフルーツなのかもしれません、ギネコグラシィ。あ。うわ。なんかビーフシチューみたいなソースをかけてる。それはない。酢豚のパインは赦せるが、さすがにそれは赦さない。

気付けば金城武は女とベッドを共にしている。

個々が何でかよく分からない。ぶつ切り。僕も雨の中は知ってパイナップル食べてゐれば運命の相手に出遭えるのだろうか。いやぁ、そんな気はしない・・・・あ。

靴。

ベッドから落ちる女の靴。

このワンシーンが強烈で、麻薬よりも雨の中のランニングよりも五苦汁に重なったパイン間よりも、一番格好良かった。パインアメじゃなくてハイヒールを片方一足配るべきだったんじゃないの。

 

うん、映像は確かに良かった。

マクドナルド、コカ・コーラ、公衆電話、水槽、ネオンライト、ビル、「一万年愛す」、・・・19999999999999990年代の中国のクールがぎゅっと凝縮されている。

揺れる画面。ブレる画面。スローになったり早くなったり、昼になっても天候は悪いままで太陽光とは無縁。演出も斬新。

そこに大音量で流れる当時の音楽。ママス・パパス「夢のカリフォルニア」。喧噪。電話の呼びだし音。留守電音。薬物を取引する女とアジア系ブローカー達の下衆い笑い声。

すべて初めて。

当時の香港の「格好いい」ってこう言う事だったんだ。

短い時間に詰め込みたいものすべてが詰まっていて監督の作品に対する愛やら現地に対する幻想やらなにやら全部がぎゅっとなっていて、ああだから、あれは靴が床に置かれるシーン、何気ない場面がこんなに心を残るんだ。

ストーリー単体で見れば拙くて超絶退屈だけれども、映像作品として見ればまぁ上出来なんじゃなかろうか。まぁ映画ペーペーの僕には、わかりませんが・・・ばきゅーん。

とうとうなる銃撃音。

慌てて目を覚ますと、金髪の女が暗い中で誰かを殺してた。

 

 

貰ったやつ。
左上はウォンカーウァイ監督の作品を視聴ごとに1つスタンプがもらえるカード。

 

「・・・飛行機は進路を変えた」

・・・純文学小説は前半に収録された表題作より後半に収録された作品の方が傑作であることも多い。

脇役のレジのヤベー女がいきなり主役に躍り出てきた時はビックリして、え!?後半お前の恋愛話やるん!?となってなんだかいきなり目が醒めた。

そしてポスターはじめ、今作再上映に当たったプロモーションは、この後編から主に抜粋していることを知る。

 

「部屋の模様替えをね」(おめぇのな!!!)

ヤベー女はマジでヤベー女である。

だから片想いしている男の部屋も、たまたま入手した鍵で毎日毎日不法侵入。だけならいいものの、そのうち物を勝手に捨てたり勝手に変えたり、挙句の果てには金魚も入れ替えたりする。

男は毎晩返ってくるが気づかないのか何なのか、金城同様失恋を引きずって毎日ぬいぐるみやせっけんに話しかけている。

もう一歩間違えれば、人間深層心理ホラーサスペンス一直線。

なのだけれども、本作はラブ。ラブもの。

その不法侵入が、たまらなく可愛いんだ。

飛行機のおもちゃで遊んだり、缶詰のラベルを全て張り替えたり、お札をこっそり入れ替えてみたり、好きな音楽ぶちかましたり、そして窓からは憧れの彼をじっと見たり。

そしてこんなにこんなに好きなのに、終盤いざ男が振り向きそうになると「お金をためて海外旅行するのが趣味なの」ふい、と逃げてしまう。カリフォルニアへ。

その不器用さ初々しさ。

ああ分かる。分かるよ。僕にもそういう時代がありました。というかまでもそういう時代です。28です。そんなことしてる場合じゃないんです。

作品のクライマックスに差し掛かると気づけば僕等はヤベー女に完全に感情移入して、実れ実れと恋愛の成就を願う。

「制服素敵だね」

元カノの仕事着を勝手に着ていっちゃうくらいのヤベーヤベー女なのに。

 

恐らく本作が愛される理由は、この後編のヒロインの不器用極まってヤベーながらもたまらないキュートさに、あるんだと思う。恋に翻弄される。自分が何をしたいのか分からない。序盤は青いハートのTシャツだったのに気づけば黄色い花柄のシャツ。好きななあなたがいるだけでとても楽しいの。そしてもう恋に溺れてしまえば花さえもなくなってシンプルな黄色いシャツ。あなた一色に染まってしまう自分が怖いの。

他の「恋する惑星」。失恋を引きずる男達。一人はランニング、一人は独り言に昇華。なんともだせぇ奴等なんだけれども役者のイケメン具合やらフレッシュ具合やらも相まって可愛く見えてしまう。ただしイケメンに限るってこういうことか。

恋。

そこに惑星の重力やら何やらが絡まって、くっついたり、離れたりしていく。

彼等は、恋する惑星

だし、人間だれしも恋する惑星だった時代がある。

 

ちなみに僕は今現在恋する惑星で、店に来る常連客の一人をちらちらちらちら見てしまう。パート労働で必要な資格を取るためにカードゲームを以前教えてもらったのだけれどもそこからもう完全にちらちらチラチラ見てしまう。

目が合いそうになると、つい下を見る。職場のリノリウムの床に、落ちてないか探す。鍵・・・鍵・・・鍵はありませんか。いや何の鍵だよ。ショーケースの鍵だわ。ポケットにあるわ。・・・28にもなってそういう自分が堪らなく厭で若干うんざりすらしていたのだけれども、でも本作を見て、ああまぁそんなもんなんだと思った。

僕は惑星。恋する惑星

でも太陽系に繋ぎ止めておくために、連絡をしようか。

公衆電話で?

いいえSNSで。

「一万年愛す」

とまではさすがに言わないけれど。

 

 

ここに貼った。

 

 

以上である。

後半の話がたまらなくキュートで最高だった。

映像がどの場面を切り取っても格好良くて、ああこれが映画なんだあぁ公開から30年近くたって再上映される映画の力なんだぁと思った。

同時にこれだけクールに2022年の日本を切り取れる監督がどれだけいるものか、と思う。公衆電話はスマホに。マックはスターバックスコーヒーに。僕達が生きている毎日も切り取り方を変えれば、とってもクールでとってもキュートはずなのだ。でもその証明を僕は未だに目にしていない。

 

あまりにも良かったので、後日メルカリでサウンドトラック&主題歌のCDを買いました。
ウォークマンにも入ってる。

 

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台詞は視聴後書いているので記憶頼り。細かいところは恐らく違うと思います。赦してほしい。

 

LINKS

多分この漫画が好きな人は好き。

 

tunabook03.hatenablog.com

tunabook03.hatenablog.com

 

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20230214

これは昨年の夏の終わりにウォンカーウァイ監督の作品が4Kで上映された時に見に行った時の文章ですね。バレンタインということで、数ある下書きの中でまぁこれがいいだろう、と蔵出ししてきました。

毎度よろしく惑星は太陽系の果て、宇宙の隅のブラックホールに呑み込まれてしまうのかなぁ、って思ったけれどそれは嫌だった。今読み返すと、この映画の影響も少なからずあるかもしれない。

現在、お付き合いしています。