語られる。恐怖譚。
我妻俊樹『忌印恐怖譚 めくらまし』(竹書房 2018年)の話をさせて下さい。
【概要】
不気味で不思議、そして異様ーーーあぶりだされるのは日常のひび割れから滲み出す不安と恐怖の数々。危篤なった父の病室から見えるモノ「位置」、その幽霊を見るにはあることをしなくてはいけない、でも見ると報いがある「下駄幽霊」、マンションの隣室から妙な音がする。クレームを入れるのだが・・・「石の音」、飲み屋で隣にいた男たちの会話を耳にはさみ、男はとある行動を起こそうとしたが・・・「密告」など、幻惑の名手が語る奇妙な実話亜怪談64話を収録。
【読むべき人】
・不思議系の怖い話が好きな人
・梨.psdさんとか好きな人
【感想】
いや~やっぱ最高ですね。今回も。なんでみんな読まないのかわっかんない。なんで。光村図書はよ。
僕思うに、表紙のテイストがよくないと思うんですよね。
ひらがなタイトルだなーってのは分かるけど、あとはまぁ言っちゃあ悪いけど無個性じゃないですか。怖い話の本、実話怪談の本、ってことしか伝わってこない。
でも我妻氏の集める怪談って、スタンダードな実話怪談じゃないんですよ。怖い話じゃないんですよ。不思議な話。奇譚。どっちかというとそういう系に近い。
ホラー表紙で期待したらおいおいおーーーい!!!そのギャップで多くの読者が面食らって離れているのではないでしょうか。*1
僕だったら・・・そうだなぁ、予算の都合上あれかもしれないけど、思い切って西島大介先生にお願いするかなぁ。漫画家なんですけど結構多くの書籍、特に文庫本のカバー手掛けてるんですよね。てか最近になって漫画家ってことを知った。
一番有名なものだと「陽だまりの彼女」、最近話題になったものだと「いとみち」(映画化とかしたよね?)。
でも怪談系も描いてて。「かにみそ」。
図書館で借りて読んだんですよね。確かデビュー作だったと思うんですけど、結構中身が変わったホラーなんですよ。なんかカニが出てきて、カニに色々あげちゃうみたいな。人肉とか。グロテスク版犬のかがやき。
あれも、普通のホラー表紙だったら「ええ!?」ってなると思うんですけど、既に西島大介先生のイラストで「ええ!?」で一旦面食らってるから、独特な世界観にナチュラルに入って行けるんですよね。
我妻氏の怪談も結構独特で、且つ「かにみそ」同様奇譚めいた部分があるので、西島大介先生は叶わなくとも、似たようなテイストにしたらいいんじゃないかなぁ、と思う。
そうすれば、ほら、毎年山のように出ている竹書房のホラー文庫の中でも、「あ!!これは我妻先生の作品だ!!!」ってわかりやすいし。
じゃあどの実話怪談・・・実話奇譚が今回は印象に残ったのか。
毎度のごとく適当に書いていく。ネタバレ辞さない。
特に好きなのは「よく当たる占い師」、「黄色いエレベーター」、「家」、「業火」、「男」。
ベストは「ヤマシタさん」。
「ヤマシタさん」pp.13-18:呆けた元議員の父親の基に怪しい男女が来たよ~。
「どうもずんぐりして顔も体型も互いによく似た男と女が、炉の前で(略)p.17
ヤマシタ、と名乗る奇妙な男女が主人公にコンタクトを取ってくる、そしていろいろあって親父は死ぬって話である。ここまでなら別にうんともすんとも思わない。死神めいた謎の存在が体験者に接触してくる、数日後早ければ翌日親が死ぬ。よくある実話怪談のパターンである。
だけどこの話は最後。最後。
最後この2人が父が焼かれる炉の前でやっていた行為が非常に不愉快極まりないもので本当にゾッとした。意味が分からない飛び越えて怖い。本当に怖い。
このシリーズの中でも屈指の傑作だと思う。
やめろよ山P!!!!!
読んでたら無意識に叫んでたね。
今際の国で全裸になってんじゃねーーぞ!!!!!
「よく当たる占い師」pp.19-22:「黙れ!パパを侮辱するのか!?」p.22
占い師の豹変ぶりが怖い。ぎりぎり可愛げはあるけれども。でも四十歳くらいの女性かぁ・・・うーん。40かぁ・・・。ぎり厳しいか?
あとパパ、パパと呼ばせることの業の深さをなんか感じましたね。絶対肉体関係あったでしょこれ。
でもよく当たるなら僕も占ってもらいたいなぁ。
「焦げ跡」pp.49-51:「深雪ちゃん怖くないの?」p.50
からの展開がびっくりだった。
見に行ったの彼女じゃないのに、理不尽極まりない。
花火、長らくやってないし見てないなぁ・・・。
「腕」pp.100-104:夫婦が炉端で口喧嘩をしている。ふ、とあるものが落ちているのが視界に入る。
腕である。この腕にまつわる後半の現象がなかなか興味深かった。
なんでそこまでして「右」と伝えたかったのか。
正確な自分の死にざまを一人でも多く人間に記憶してもらいたかったのか。生者の心理すらわからないのに死者なんて、尚更。わかるわけねーだろ。
どうでもいいけど、飛び降りは、痛い。
痛いけれど、一歩踏み出す勇気だけがあれば一瞬で、要するにロープを買ったりガソリンを被ったり薬の飲みすぎで体調が著しく悪くなることを覚悟したりする必要がないからこそ人気なのかなぁと思う。ホームセンター行ったりガソリンストア行ったりドラッグストア行ったりする必要ないわけだし。
「黄色いエレベーター」pp.106-113:やべえ女と別れた。
Oは三好くんの五歳上で仕事はしていないようだったが、親が土地持ちで裕福なので「遺産の前借」だと言って小遣いをもらって飲み歩いているという話だった。p.106
嫌悪感プンプンの話である。エロい、というか猥褻卑猥最悪極まりない一篇。我妻俊樹氏の比較的上品な文体ですらこんなに不快なのであるから、平山夢明氏とかが書いてたらもう読んでもられない最悪その場で文庫本ゴミ箱域不可避、な体験談。
その、上昇するエスカレーターをエクスタシーとかける発想は凄いなぁと思った。普通の人間じゃあ思いつかないでしょ。多分相当やべえ女、社会不適合者だったんだろうね。僕もどっちかと言うとそっち寄りな気もするので、死後エレベーターで自慰して気持ちよくなっているような幽霊には絶対ならないようちゃんと生きよう、って思ったね。
発達障害の本のラストに収録してもいいかもしれない。
ちゃんとしっかり人生を歩みましょう。
自己破滅願望は死語も己をまじで最悪な感じにします。
「家」pp.114-121:引っ越し先の物置に、小さい家があった。
平成最初の夏のことである。p.121
怖い。ゴキブリが出てくることにより不快感を醸し出す実話怪談は数あれど、ぎち・・・ぎち・・・としか動かない大量のカブトムシによって不快感を醸し出す実話怪談は初めてだったので怖かった。
くわえて、体験者の母親が亡くなるんだけれどもその後にまつわる体験も意味が分からなくて怖い。死者はカブトムシになるのだろうか。初耳である。蝶・蛾ならまだ分かるんだけれども。く、く、くクロアゲハ蝶のように・・・以下略。
あとなんとなくだけど…体験者の母親は多分今も、今もカブトムシとして大量の仲間と共にギチギチ家の中で、誰かが、それを、開けるのを・・・・待っているんじゃないかなぁ。aikoも仰天吃驚な一篇。
「いらない」p.125:勉さんは最近身近な人の不幸が続いた。p.125
代償がでかすぎる。あとうっかり僕もやっちゃいそうなことをやっての代償なので気を付けようと思った。
「業火」pp.130-131:村民の亡骸を安置するお屋敷が焼け落ちた。
恐ろしいし、これも代償がでかすぎる。パート2。
思えば、墓地での火災って確かに聞かない。火の玉ぶんぶん飛んでいる話は聞くから燃えてもよさそうなモノなのに、国内国外共に聞かない。
というか、墓場を火事という発想にすらこの話読むまで思い至らなかった。悪い人がこの話を呼んでいないことを願う。
ほら・・・なんか墓地で放火殺人しても「火の玉がやった」とかって言えそうだし・・・。
「小屋」p.149:迷い込んだ大きい墓地で、小屋を見つける。
これはちょっとかわいそう。でも思い出したら多分いけなかったんだろうね。あと、多分常日頃からこういう事やってるんだろうね。ひとを迷わせて其処に小屋を置いて電話を置いて。物凄い寂しい人なんだろうね。同情はしない。墓場で小屋遊びではなく、墓場で運動会の時代なので。かまってもらえるまで一人遊びをするのは陰キャ極まりない。ただでさえ死んでるのーに。ねえねえでもさぁ29になってこのまま魔法少女まっしぐらな私もこうなってしまいそうなんだけれども。「まぐろどん」と書いてある小屋があったら要注意!!OK!!!
「あんただね」p.163:駅でお婆さんが倒れた。
近年の邦画ホラーの傑作「恐怖人形」を思い出した。未だに日向坂の絶対的エースの小坂菜緒の初出演映画が「恐怖人形」だったの意味わかんないし、でも「ヒノマルソウル」より未だにファンの口にあがるのはこの映画だしもうなんかいろいろ意味わかんねぇよな。まだ見たことないので見なきゃなぁ。
「離れ」pp181-183:
ま、本当は何だかわからないものが棲みついてると知ってて、爺さんも内心おっそろしのさ、絶対に自分の臆病を認めようとはしないけどね。p.182
家の離れに、何だかわからないものが棲み憑いているのも恐ろしいが、それを取り巻く人間の悪意・恐れをひしひしと感じる実話怪談。片足純文学つっこんでる。
多分、何か相当恐ろしいことがあった「事後」なんでしょうね。バッドエンドの、その後の話だと思う。あとなんとなくだけど、この爺さんは亡くなっても浮かばない気がする。離れを離れられない気がする。
「男」p.189:
道路にチョークで落書きをしていたら、描いた覚えのない人の顔が描かれていた。p.189
怖いですね。
真夜中12時に包丁を加えて洗面器の水面を覗き込むと、の話を思い出した。
あの話はまだロマンティックなところあるけどこれは・・・。
「紫煙の中で」pp.190-191:喫煙所で煙草をふかしていると男がやってきて同じく吸い始めた。
そういうことってあるぅ!?ってなる掌編。ちょっと笑ってしまった。
確かに紫煙の向こうは、見えにくい。相手の顔も。全身も。生死も。
令和にもなると、ぷかぷかタバコふかふかしている女なんてめったにいないからねびっくりしちゃうよね。仕方ないね。
「財布」pp.192-193:財布がすられた夢を見る。
どういうこと!?って思った。・・・どういうこと!?狸狐妖怪の類の話しなのかな。それとも新種のナンパ?マジシャンだった、とか?新手のてじな~にゃか!?こんちくしょう!!
にしても、最後の一行の真意が読めない。え、なんで。・・・どういうこと?
「ガソリンスタンド」p.199-203:の心霊写真をブログのトップに表示するようにした。
え、まじでどういうこと!?って思った。謎が起きてさらに謎が起きてさらに謎が起きた挙句に、知り切り蜻蛉のように話が終わって何処にも着地しないのが気持ち悪い。
じゃあその画像はどこで?ガソリンスタンドは実在したの?してないの?そのタクシーは本物?偽物?信州はSHINSHUという表記になるが、日本にある地域?それとも外国にある地域?宗教はあったの?なかった?嬲り殺された女はいた?嬲り殺した男はいた?それは本当の話?そもそもこんな話は実在した?ブログはあった?ないの?ねぇどっち。
こんな体験したらアイデンティティやら自意識やら自分やらを、ぜーんぶ見失って、ふらふら自殺不可避。ガソリン被るのはカンベン。怖いし痛いし熱いから。怖い詩痛い死だけですむ、やっぱりここは主流の飛び降りで。
「表札」pp.204-208:住処跡には、変な名前の表札が山ほど見つかった。
その亡きホームレスの生活が世界が垣間見える不思議な一篇。猫とカラスは友達で、人間は近寄ってこないけれども、夜な夜な幽霊が家の前で行列を作るから、名前を考えてあげないといけない。与えると満足そうに去っていく。お金はいらないと言っても何かしら彼等はおいていくからそれに金額をマジックで、書いてみる。本物のお金だったらと思う。
そして夜明け頃にようやっと行列の最後の一人迄を名付けて、仮眠をとる。3740円也。日が完全に上ると公園の水郷で頭を洗う。公園のトイレで下半身などを拭く。
そして日中は猫とカラスを遊ばせながらゆっくりまどろんで、講演に訪れる人々を遠めから眺めるのである。平和。幸福。の。はて。
「鈴」pp.209-213:居酒屋からカラオケの移動の途中はぐれて、仲間とイチョウの木の下で何となく遊ぶ。
これも謎極まる現象が起きている一篇。途中で姿を一人くらませたときは死んだかな?と思ったけど無事でよかった。
というか、銀杏、鈴、といいそこにガチの悪意は感じられない・・・気がする。多分誰かの大掛かりな冗談にもならない悪戯、といったところか。狐狸の類の話な気もする。
以上である。
今回比較的掌編が面白かったかなぁ、という印象。長い話も面白かったけど、「豪火」「男」なんかはよく1ページ2ページでこんなに人を怖がらせるものなのだなぁと感心。
このシリーズは全4冊なので残り2冊。大切に。一気読みしたいですね。
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LINKS
「表札」で思い出した随筆。
他、我妻俊樹氏の単著の感想を書いた記事。
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20230510
これもかなり昔に書いた記事。
ついでに、2023年5月10日現在、29歳の私は魔法少女に慣れないことが確定したことだけこの場を借りて報告しよう。
*1:これは新しいシリーズではちょっぴり改善されております