平山夢明教に入りましょう・・・入れば総てが報われます・・・・。
平山夢明『顳顬草紙 串刺し』(KADOKAWA 2021年)の話をさせて下さい。
【概要】
濃霧の湖の中、兄弟が乗るボートに近づく水音と、湖面から這い上がろうとする手「霧嫌い」。
事故で視力を失った鍼灸師が見た、人形(ひとがた)の影。
その後部屋に立ち込める異臭の正体とは「蛍火」。
八百屋の軒先につながれた奇妙な猿に掴まれると、決まって家から死人が出る。ある日、猿が裾を掴んだ相手は・・・・・・「予言猿」。
心霊現象でも人間の狂気でもない、怪談実話の新境地を拓く。
それはコメカミとコメカミの間に宿る、かつてない恐怖体験談。
裏表紙より
【読むべき人】
・比較的上質な怖い話が読みたい人
・ストレスたまってる人
【感想】
皆さん、もう平山夢明教に入りましょう。
ネットで少しでも「マシ」な怪談を探すくらいなら、平山夢明教に入りましょう。
noteやTwitterで素人のしょーもない怪談に辟易するなら今すぐにでも古本屋で平山夢明先生の本を山程かってたくさん読みましょう。
そして毎日胸に手を当てて祈るのです。
「ああ・・・平山夢明教徒・・・・本日も素晴らしい実話怪談をありがとうございます」
僕の中のひろゆき「なんか、よくわかんないネット怪談を漁って読むよりも、百発百中の実話怪談本を古本屋で何百円かで買って読んだ方が時間的にもSDGS的にもよくないですか?」
僕の中のほりえもん「野菜食べてる暇あるんだったらこれを読め!!!」
僕の中の池上彰「平山先生の本を読めば世界の総てが分かるという訳なんですね」
僕の中の細木数子「読まないと地獄におちるわよ!」
僕の中のキリスト「汝、隣人を愛しなさい そして夢明を愛しなさい」
ああ・・・平山夢明教祖・・・・。
となる一冊だった。すでに二巻は読破済みである。ちなみに本書は2冊しか出ていないので、これで全巻読破と言うことになる。
惜しい。惜しすぎる。
2021年夏、新静岡セノバのジュンク堂で表紙を見せた状態でこの本が置かれているのを発見した。お、教祖の新作か?と思ったら2015年の本だった。チェーン店なのに2015年の本って表紙見せて売っていいんだていうかこんな何冊も入荷していいんだはえーさすがオカルトに精通しているジュンク堂新静岡店、だからジュンク堂はやめられないぜ。
閑話休題。恐らく僕と同じ気持ちの人間がいるということだろう。というかそのおかげでこのシリーズを知ったというのもあるんですが。
だってさ、まずさ、この表紙、最高~!!!!じゃないですか?
めっちゃカッコいい。
平山夢明先生の作品ってときどき怪談本とは思えないくらいのクールな表紙があるんですけど・・・昨日書いた「東京伝説」シリーズとか「他人事」とか「独白するユニバーサル横メルカトル」とか・・・その最たる感じ。よくわかんねえ洋楽のCDジャケットみたい。クール。褒めてる。
そして中身も「幽霊」でも「ヒトコワ」でもない中途半端な塩梅を狙った・・・ってこれも最高じゃないですか?飽きずに読めちゃう。一気読み。「あ~はいはいこれどうせ死霊でしょ」「あ~はいはいこれはどうせにんげんでしょ」パターンがないということですからね。オチが最後まで読めない。最高ですよ。
いろんなジャンルがライトに読めるのと、「倅解体」が入っている大傑作。
特に印象に残った話を記しておく。ネタバレ気にしないので注意。
ベストは「つらい記憶」。次点で「夜の蟬」「雛と抽斗」。
「雛と抽斗(ひきだし)」pp.11-13:実家の寝室で寝ているとふと引き出しが気になって・・・。
トップバッターにふさわしい一話。よくあるといえばよくある、過去の自分が予言するパターン。
だけど、今回は的中率120%なのに、後半読めずの さいご』p.13で終わるのが最悪。
冒頭にして一気にパンチ食らったかのような一話。
「霧嫌い」pp.20-26:中学生と小学生の兄妹は夜明けに宿を抜け出しボートに乗った。
え?え?と怒涛の後半の展開がたまらん一話。
絶対これ怖い女が乗ってくる奴やんけと思ったら違った。貞子パターン化と思ったら違った。
ハッピーエンドの実話は怖くない、の法則を壊す。
「叩いて、流せ」p.25
この一言で話の流れが一気に逆転するのも見事だと思った。ネット怪談にはない巧みな技術。夢が明ける瞬間を捉える筆致。
あと進撃の巨人思い出した。終盤に出てくるあのもじゃもじゃの奴を思い出した。
「傷口」pp.42-49
「でも高田君のことはよく知ってたでしょう。すきなひとのことはよく教えてくれる」p.47
沙織かわいいかわいいをする実話怪談。
沙織と言うのはこの話で出てくる所謂メンヘラヒロインなのだけれども、彼女の無防備な愛らしさと起こる部無惨な怪奇現象のコントラストが恐ろしい。
最後の場面はまるでありありと、目に浮かぶ。
ホラーコミックチックな一話。てか漫画化してほしい。そして沙織かわいいかわいいをするんや・・・。てかドラマ化してほしい。櫻坂46の増本、お前がやるんやで・・・。
「ハカナメ」pp.76-80:ある日ヒロコちゃんはスプーン曲げが出来るようになると言い・・・。
ハカナメ。
儚め?
花カメ?(花カメラの略)
鼻亀?
花澤亀子?
と思ったら、墓舐めでした。
成程ね。成程。
本書の中では結構グロテスク。ヒトコワに近いかもしれない。
けれどその墓の正体であったりだとか、ヒロコちゃんの顛末だとかが結構悲惨で厭だった。まぁ実話なら途中でご両親が気づき病院直行しそうなものだけれども・・・まぁでも実話だからきっと何か事情があられたんだろうなぁ。
お約束通り、ヒロコちゃんはクラスから「転校」という形で去った訳だけれども・・・その後彼女はどうなったのだろう。死んだのだろうか。生きているのだろうか。生きているならまともか?それとも・・・まだ、舐めているのか
「怖いから・・・・・・。」pp.91-97:マンションに人だかりが出来ていた。どうも、同じフロアから自殺者が出たらしい。
生々しくて存在感めっちゃあある幽霊というのは、今まで結構懐疑的だったんですけど、YouTubeの「YamaQ」さんの動画を見てから、あやっぱいるんだこういうのとなったんですよね。
「YamaQ」さんというのは、千葉県の事故物件に引っ越した方で、其処に起きる現象を度々アップしてくださってたんですけど・・・ポルターガイスト当たり前、誰もいないトイレ普通に音鳴る。
そして何といっても・・・
「あぁ・・・・あああああ」
って声が聴こえるんですよ!!!道路から!!地面から!!!ええ!?ええ!!??ってなるくらいはっきり聞こえるんですよね。しかも何回も。
是非見てみてください。めっちゃびっくりするあれ。いや不気味だし。怖いし。
閑話休題。
この話はまぁ事故物件ものではないんですが・・・あれだけはっきり発声できる者がいるのであれば、まるで生きているかのように存在し続けることが出来る者もいるんじゃないかと思う訳です。
いやいや、怖い怖い。
「四日間」pp.104-108:特養ホームに知的障害+盲目の老人が入って来た。少ない持ち物の一つに、パーマをかけた女性の写真があった・・・。
とても切なくなる一篇。
ここで彼が知的障害だけ、患っていたのであれば、アウトサイダーアートの美談に過ぎないが、目が見えないのに何故・・・。けれどこの「不思議」は今までの「不思議」とは違う、どこか温かい「不思議」。
きっと最期に、還りたかったんだろう。
同時にそこにしか還るところがない彼の孤独さを想わずにはいられない。
けれど同時に、
「あ、でもこれ他人事じゃねぇな・・・」
なんとフリーターでも時々メンタル不調で病んじゃう僕。28歳無事喪女童貞(メス)魔法使い目指して、街道直行中。魔女っ娘まぐろどん。
最期に還る場所を全力で描くだけの体力があった、というだけでも彼はかなり幸せな部類に入るのかもしれない。
「怖かったんだよ」pp.119-121
船井さんは幼い頃から『見える人』だった。p.119
自分がされなかったことを子にする、って言う話ってめっちゃいいよね・・・。
「四日間」に続き、ちょっと心が緩んでしまう一篇。平山夢明先生は緩急がうまいのよ。緩急が。もうそのテクに僕は何度イッたことか・・・。
「東京伝説」もとい、急だけの書籍は結構あるので、逆にこういう緩だけの話を集めた一冊が読みたいですね。
その時は「ひらやまゆめあき」名義にしましょう。
・ひらやまゆめあき『やさしいほん あなたのそばに』
・ひらやまゆめあき『やさしいほん ずっと・・・』
・ひらやまゆめあき『やさしいほん つなぐ』
・ひらやまゆめあき『やさしいほん こわくないよ』
多分、身近に亡くした人や、もしくは老後幾ばくも無い老人・病人、等の心の癒しになるんじゃないかなぁ・・・。
まぁ嫌な話、怖い話を聞くと興奮するような平山先生がそんな一冊を出すとは思えませんが・・・でも恐らく日本で一番恐ろしい実話怪談を知っている彼だからこそ、できる一冊でもあると思うんですよね。おいKADOKAWA、お前に言ってるんだぞ。
竹書房はダメです。そこらへんうさんくさいヤクザ事務所なので。
「予言猿」pp.127-131:顔を失った猿が、裾をつかんだ人の家からは必ず死人が出る。
落語家が話た昭和の話。
なので実話、よりかはちょっと落語に近い、というと怖くないように聞こえるが、けれども怖い。ちょー怖い。
顛末が何とも言えない。最期の最期の「猿の手」の結末には唸らされる。
是非これは実話怪談ではなく落語で聞きたい。狂った八百屋のおやじさんの演技を見たい。ないのかな。
「串刺し」pp.138-143:教授のもとに書生として住み込んで勉強していた若者は勉強をしている変な音・気配に悩まされ・・・。
表題作。確かに、起こる現象は他に類を見ないものだし、独特の後味も素晴らしい。ただ表題作に選ばれたのはタイトルの語感メインかな、と思う。
だって読者の心を串刺しにするような話が多い中で、これは比較的「ひらやまゆめあき」の微笑を感じられる実話怪談だったから・・・。
ゆめあきてんてぇ・・・・。
というか現象よりも、前半の教授のヒトコワの方が結構怖い。え。理系の大学教授ってこんなんばっかなの?そっちに目線串刺しなんですけれども。
「詛」(そ)pp.144-147:ある日突然指先から出血した。ケガもしていないのに。しかしその出血は止まらず・・・。
「詛」の意味は呪と同義であるらしい。p.146 勉強になった一話。呪詛とかいうし。
にしても、ドアにいきなりこんな漢字書かれていたらたまんないな。
呪い云々生霊云々女の呪い云々よりも、ドアにいきなり「詛」が書かれているというのが怖かった。
「思い出」pp.148-154:彼と旅行に行くつもりが、おじゃんになってしまった。腹立った彼女は、登山をすることに決めた。
『・・・・・・子の墓。・・・・・・子はとってもかわいそう』p.152
「まぐろどんの墓。まぐろどんはとってもかわいそう」
山で自分の名前がこうやって彫られてたらいやあもう僕だったら間違いなく下山できないね。その場で卒倒だよ。
絶対これバッドエンドじゃん・・・と思ったら、後ろからぎゅっと、ひらやまゆめあきてんてぇが抱きしめてくれる。
てんてぇ・・・てんてぇ・・・!!!
僕にとっての神はてんてぇでしゅ・・・!!
「叫び」pp.167-174:引っ越したボロアパート。隣室はなんと事故物件とのことで・・!?
平山夢明の実話怪談って怖いですよねええ、誰だよ。てんてぇとか言って崇めてたやつ。結構怖かった。
まず悲鳴上げてたのが実は自分だったんやで~パターンは慣れてるんですけど、そこから畳みかけるように起きる現象がなんとも不気味で怖くて厭だったですね。僕は。たまらんよ。やめてくれ。なんでそんなグロテスク描写巧みなんだよ。見たことないのに生々しく浮かぶだろ。やめてくれ。
あとその女、っていうのがフィリピン女性というのも妙に生々しくて厭でした。
「傷」pp.175-178:身寄りのない老人。全身麻痺と意識不明。だが時々身体をふくために包帯を外すと、傷がついていることがあり・・・・。
ぞっ、とした。色々。
NO飲酒運転。絶対。
「携帯」pp.179-181:ドライブ前日、突然電話がかかってきて・・・!?
予言系実話。
『だめなんだよ!』p.180
且つ妙にヒステリックなのが良い。
でもかけてきたのは一体誰。って思うと・・・バタフライ・エフェクト。
「尻餅」pp.182-185:容態が急変したお祖母ちゃんの家に向かう途中、車がパンクした。
父親「危ないから、降りな」p.184
からの怒涛の展開にあっけらかん。そして最後にもあっけらかん。4ページの怪談だけれども読後感はあっけらかん。
え、どういうこと?になる。え、どういうこと。
お祖母ちゃんが最後の自分の寿命と引き換えに、孫の無事を祈ったってことなのかな。
にしても、上記の一行は、最高だなぁ・・・と思った。なんかリアルじゃないですか?「降りろよ」でもなく「降りて」でもなく、「、」の後に「降りな」。父親の声で僕は聞こえた。
「パグ」pp.186-192:
ワンちゃん(パグ)が無事でよかった。
「実験」pp.193-196:幽霊の足をとる、霊拓をやるよ~~~!!
実験結果がちょっと予想外過ぎましたね・・・。血までならまぁ分かる・・・んだけれども、その後うわぁそうきたか・・・になった。うわぁそうきたか・・・。
しかもその後追いをするかのような・・・さりげない死・・・100点。
やっぱこんな実験を許可するくらいだから日頃ろくでもないことばっかしていたのかなぁ。
「蠟石」pp.225-226:仲間外れにされた少年は一人で道路に線を書き始めた。
短くあっさり怖い短編。ひょえ・・・っになる。まさしく「瞬殺怪談」、出版社違うので収録されないでしょうが。
ちなみに「蠟石」というのはチョークのことかな?と思ってたらそうでもないみたいですね。「詛」の意味と言い、勉強になるずぇ・・・。
「て」pp.229-231
放ったらかしの親だったという。p.229
その子供の霊が・・・と言ったお話。こういう後遺症が残るのはね、僕はね、良くないと思うよ。仲良くやろうよ・・・。
タイトルが「て」なのが秀逸。ひらがなにすることで、その主が子供であることを暗示させている。
「隣の家」pp.243-250:両親が亡くなり、実家に戻って来た。すると隣の家族がある日一家心中をして・・・。
ホラー映画さながらの緊迫感の一篇。クライマックス、シンプルに怖かった。こういうスリリングな展開を確かな筆致で描ける作家は意外に少ない。平山夢明先生と三津田信三先生くらいしか僕も知らない。小池真理子ちゃんのスリリングも嫌いじゃないけど郷愁とか寂しさとかで誤魔化している部分があるので・・・。
顛末もさらっと恐ろしかった。不憫すぎる。
この一篇で、長編ホラー映画が撮れそうなボリューム。撮って。
「つらい記憶」p.251
あのね、三行にも満たない一番ね、短いお話だったんだけどね、これがね、一番怖かった。
「電話」pp.252-255
??『きょう、ゆみちゃんとならんではだめよ!』p.254
予言系実話その2。
実話怪談あるある:未来の自分から電話かかってきがち
「つぐみ」pp.256-257:進藤さんは小学三年の時に母親を亡くした。
ひらやまゆめあきてんてぇの作品である。
これまた最高なんですわ・・・。
ホラー映画とか残酷性とかそういうとこばかりフォーカスされがちなてんてぇだけど、こういうところももっとフォーカスしてほしい。そして単行本を出せ。KADOKAWA。
「夜の蟬」pp.258-261:夜に携帯のバイブ音が鳴り・・・。
本書で二番目に怖かった話。
女の形相も派手で怖いけれども、その女の正体が・・・っていうのが恐ろしかった。
あと本編で出てくる携帯の色が僕といっしょなのも怖かった。
福澤徹三『怪談歳時記』の「9月」の話も思い出した。あれも厭な話だったな・・・。
ちなみに僕は9月生まれである。さいあくだよ。
「イタ電」pp.272-275:電話がかかって来た。
『ちずるちゃんが!落ちちゃったぁ!』
『あんたがアイスを買いに行ってる間にぃぃぃ』p.272
実話怪談あるある:未来の自分から電話かかってきがち
の、変化球。
その正体がちょっと予想外だった。まぁ確かに、本人の声・自分の声よりは本人に身近な人の声を借りる方が、本人も信じるわな。
「自転車」pp.280-283
オチ草。
以上である。
数年前に刊行されたにもかかわらずやっぱ押し出されているだけある。
非常に面白かった。
また、平山夢明先生の新しい側面・・・「ひらやまゆめあきてんてぇ」という新しい側面を確信させる一冊でもあったように思う。
これからも、教祖の実話怪談本は追っていきたい。
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「他人事」はよんだのが多分7-8年前、大学時代だったと思うのですが、その時に読んだ「倅解体」の衝撃を越える短編に未だ僕はあれから、出会っていない。
その後東京で行われたスゴ本の読書会で文庫本は放流しちゃってちょっと後悔たのですが、単行本の表紙がばちばちにかわいくて所有欲を満たすためだけに入手したという経緯がある。帯とかめったにこだわらない人間なのですが、この「他人事」は帯も大切にしたいと思っている。
朝宮運河氏の子のアンソロジーにも「倅解体」は収録。ああこの短編が脳髄ぶっ刺さったのは私だけではなかったと感極まった。
文中でとりあげた作品。
「他人事」と土井用ライトな短編がギュッと集まった一冊。いろんなジャンルのホラーが楽しめる。悪く言えば玉石なんとやら。
作者の同じく実話怪談本。東京伝説はヒトコワです。綾辻行人先生のグロテスクホラーが好きな人には間違いなくおススメ。