小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

我妻俊樹『奇々耳草紙 祟り場』-痛シーツにもほどがある。-

 

 

 

🍅

 

ご注文は、トマトですか?

 

 

 

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 祟り場』(竹書房 2016年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

五感がねじれる奇妙で落ち着かない恐怖。我妻の実話怪談は気づけばすぐ後ろで黒い影が嗤う。

焼けたスーパーにいる人影「小火のスーパー」、クレーマー住人が伝えたかったこと「賃貸物件三題」、肝試しの場にやって来た警官の行動「廃墟の警官」など、踏み込んだら逃れられない恐怖の45篇。

裏表紙より

 

【読むべき人】

・1-2巻面白く読めた人

・比較的長めの実話怪談が好きな人

 

 

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さん・・・?

 

【感想】

我妻俊樹「奇々草紙耳シリーズ」第三弾★である。第三弾★

よく見ると表紙の真ん中の手もおやゆび人差し指中指で「3」を作っている風に見えなくもない。

 

1巻・2巻と大きく違うのは掲載されている話数。厚さは大して変わらないが、1-2巻が60篇以上収録されているのに対して、本書は45篇とある。

がーん。

短さ重視の僕としては残念だった。

やっぱ実話怪談≒短さ重視という人が多かったのか何なのか、4-5巻は1-2巻と同じく60篇越え収録されている。

なので、本書だけほんの少し異色と言えば異色。

ただまぁ全5巻ということを考慮すると、3巻だけ長めの実話怪談が多いというのはちょっと祟り場らしからぬ「山場」感があってバランスがいいのかもしれない。知らんけど。

ただまぁ収録数が少ないのもあって、印象に残った話は1-2巻と比較すると少な目ではあった。分母が少ないから自然と分子も少なくなる。自然の摂理である。

 

 

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以下簡単に、それでも忘れがたいい否、忘れたくない実話怪談のあらすじと感想をネタバレ恐れず書いていく。

特に🍅だったのは、「子供たち」「ホテル再訪」。

 

 

「犬が飛ぶ」pp.10-11

駐車中の車からいきなり火が上がる。通りすがりの散歩中だった小型犬が、そこに飛び込んでいき真っ黒になって死んでしまった。しかし・・・。

2篇目にあたる2ページの怪談だけれども、いつ起こってもおかしくない怪異で、なかなか気味が悪かった。

冷静に読むと、まず駐車中の車から火があがる、というのも怖いし、そこから手が伸びて犬を連れ去っていく、となればそれはもはや火事ではなくファンタスティックビーストの世界である。日本だぞ。

通勤時もしくは外出時、駐車中の車総てに火が上がる可能性があって、そこから手が伸びてくる可能性があって、そして僕を連れ去っていく可能性がある・・・と思うと怖かった。でもまぁファンタスティックがビーストできるならいいか。

 

 

「子供たち」pp.17-19

明け方、タバコを切らしてコンビニに買いに行くと子供達の声が聞こえる。

携帯の時刻を見ると午前四時四十四分である。p.19

の最後の一行が何とも言えない余韻を残す一篇。

あと、僕もよく明け方に向かいのセブンイレブンに行くので他人事じゃないな、と思った。

ちなみに明け方のセブンはなかなかたまらない。明け方にもかかわらず外国人の女性店員はそこそこ丁寧に接客してくれるし、時々トラックがとまっていて、そこからパンが仕入れられたりしている。外に出るとほんのり肌寒い。手前の交差点では誰も信号を待っていなくて一人、吹いてくる風に郷愁を感じながらあと数分で、このセブンイレブンは通勤通学する人々が寄ってくる、異国の店員も主婦の40代50代のおばちゃんにバトンタッチして、たったあと2-3時間で健全たるセブンイレブンになるのだわと思うと何ともいえない感覚に、胸がきゅっとなる。

そんな時間地にいないはずの子供たちの声が聞こえたらと思うと・・・怖いというか泣いちゃうかもしれないな。切なくて、懐かしくて。極まって。

 

 

「ホテル再訪」pp,38-40

信郎さんは十年ほど前に上京した時泊ったビジネスホテルが安くて駅に近くて便利だったので、最近ひさしぶりの上京に際してまた予約しようと思った。p.38

突然予想外の結末に、「え」となる一篇。「え」。要するに、並行世界ということだろうか。多分どこかで分岐してしまったのだろう。でも知らず知らずのうち分岐してしまったルートの記憶を所持したまま、僕達は生きている可能性が常にあって、そうすると記憶総てが曖昧模糊となり、昔会った人昔行った場所昔あった出来事全部確認したい衝動に駆られるべきなのだけれども、多分其処は何らかの本能で「まぁいいや」と思うように僕達の脳味噌は細工されている。

なんて思うのは僕だけ?

一歩間違えればアルミホイル案件なのでもうこれ以上は考えませんが。

世界は常に分岐している。

 

 

「トマト」pp.42-46

頭が痛いので頭痛薬を飲もうと思い、那美さんは薬箱代わりにしている空き箱の蓋をあけた。p.42

すると、トマトがあった。

トマトは、感染する・・・!!!といった一篇。

そもそも何でトマトなんだよ。あーなんかグロい系の比喩か?と思ったけれど、描写的にもどうやらリアルのトマトっぽい。え。なんでトマトが。こわ。アルミホイル案件か?

でもトマトって、結構高くて一人暮らしだとなかなか買えないので、毎日僕のところにほしいですね。トマト。そして毎日キューピーのイタリアンドレッシングドバドバかけてリコピン摂取するんや・・・!!!

 

 

「先輩の家」pp.51-57

先輩の家に行くと、部屋に三十代くらいの女が転がっていた。

敷居のところに裸足のつま先がそろっていて、見上げるとさっきの女だった。p.53

普通に怖い実話怪談。我妻先生の作品は謎を残して終わって、そこに余韻が・・・という感じのものが多いのだけれど、この話はシンプルに出てくる女が怖い。

特に先ほど挙げたp.53の一行では背筋が凍りつくかと思った。

加えて意味わからない現象が続く。え?なんでこどおじの先輩のご家族は談笑できるの?え?結婚したの?え?とりあえずそのシーツ悪趣味じゃね?

ただ終盤の年賀状の下りは怖いと言えば、怖いんですけど、カットしても良いような気がする。途端に読者へ怪談が逼迫し、よりリアル感が増す・・・ように思う。年賀状の展開含めて8ページにして長めにしてもいいが、後半カットして4-5ページ程に短く鋭くしてもいい気がする。若干、後半冗長感は否めない。完全に好みの問題ですが。

ただ我妻俊樹氏の実話怪談はリアル感よりかは、不思議さ・余韻・謎をワインがごとく丹念に丁寧に長く楽しむモノ。怪談新耳袋の中山氏や木原氏、川奈まり子氏等、本当にあったこと感を重視して楽しむような実話怪談蒐集家がこの怪談にもしめぐりあってたらどのように書き残すか。多分間違いなく一部カットがあって短くなるとは思うんだけど・・・それは少し気になるところ。

 

 

「カラテ」pp.62-67

外国でインチキセミナーをやっていた男のもとに、昔男からカラテを習ったという絶世の美女がやって来て・・・?しかしその美女に見覚えはない。

「気をつけて。この女にあんた、もう一度だけ会うことになるよ」p.65

会えればそれは死、ということなのだろうか。じゃあ会わずに不幸極まった人生送っている詐欺師範代(詐欺師と師範代をかけた超絶面白ワード)は、もう即座に会うべきなのでは。

辻褄が、合いそうで合わない。わかりそう、でわからない。

とにかく何かしら運命、とでも呼ばれるような大きい流れが関わっているの判となく分かるのだけれども・・・。

けれどそれが意味することはよく分からない。

まるで異国の言葉を聞いてる。みたいだ。

 

 

「賃貸物件・三題」pp.76-85

空室であるはずの部屋から物音がして、目が覚める。原因を突き止めるため、外に出てベランダの方を見ると、ベニヤ板が横に自然とずれているようだった。翌日、外国人の女が子供を連れてその部屋を訪れていた。

畳一枚より少し大きいくらいの板で、なぜか人間の形にくりぬかれた穴があいていた。p.83

賃貸物件「三題」なので、一話に3話収録されていることになる。1話目ではおばあちゃんのご冥福をお祈り申し上げた。2話目は一体何がしたかったんだよとツッコミたい。人と少しでも長い時間会話していたかったのか・・・?そしてこの3話目ときたわけだが・・・この話が結構奇妙で怖かった。

まずアパートの空室に、人型にくりぬかれたベニヤ板が置かれている、っていうだけでもう嫌だ。

どういうことだよって思う。どういうことだよ。しかも動く。どういうことだよ。

まだ死体とかダイレクトに子供の幽霊とかいたほうが怖くなかったけれど、このベニヤ板が得体知れない極まって怖かった。

そしてその翌日に訪れる女性と、最後に明らかになるちょっとぞっとする展開。どういう、ことなのだろう。空室に憑いた子供の幽霊が母親となる女性を求めて毎日もしゃもしゃ食っているということなのだろうか・・・。

あ、あと、人型のベニヤ板・・・。

昨日Gyao!で見た、水曜日のダウンタウン「30-1グランプリ」ジェラードンの2回戦目のネタを思い出した。海野はよ戻ってこい。

 

 

「俺が行く」pp.194-199

男子中学生達の帰り道、踏切前に黒い高級外車が一台とまっていた。そこにはひとりの老女が乗っていて・・・?

「お願いだから、線路に横たわってくださらないかしら」p.196

これも謎が深い一篇。え?老婆は幽霊だったってこと?にしては妙に実体伴いすぎているし、でも幽霊でないと説明がつかないような出来事が起きている訳だし。

うーん。

要するに老婆の孫か子供か中学生くらいの時にその踏切で亡くなってて、そいつの供養のために誰か死んでくれないか?といったことなのだろうか。「蹴飛ばした花束から白い花びら地面に散った」p.198とあるように、その踏切で誰かが死んだのは確かなようだし。

あとなんとなく、なんとなくだけどほのかにエロスを感じる。

 

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裏表紙色ついてるの珍しい。

以上である。

我妻氏の集めた実話は余韻のある謎を残す話が多くって、自然と僕達は名探偵○○○になってしまう。だからこそ、面白いんですけど。

ただまぁ収録本数が少なかったのもあって、刺さった話は1-2巻と比べると少なくなるが・・・ページ数を見てもらうと分かるが、特に後半は響く話があんまりなかったかなぁ・・・。

それでも「気づいたら読み終わっていた」、そこは変わりない一冊だった。

 

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1-3巻揃えるとライブ会場になる。
「とうとい・・・」とか言って泣いてるやつ、全力でコールしてるやつ、
手だけ挙げて盛り上がる奴をやってるやつ。

 

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「FKB」は平山夢明先生が編纂した書籍という意。
竹書房文庫の初期作品はだいたいこのチーム?団体?がついてる。

 

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LINKS

キキララ草紙、奇々耳草紙の1-2巻の感想。

 

tunabook03.hatenablog.com

tunabook03.hatenablog.com

 

20220415 同じく記事自体を書いたの半年以上前。

どうでもいいんだけど、本シリーズは全五冊ですが「奇々耳草紙」と正式なタイトルをかけている記事は一つもなかった。呪いか?

 

 

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