🎈
🤡
ピエロはにっこりと笑って風船を一つ手渡してくれた。
p.94「赤い風船」より
一気読み実話怪談2冊目。
我妻俊樹『奇々耳草紙 呪詛』(竹書房 2015年)の話をさせて下さい。
【概要】
不安と恐怖が腸(はらわた)を捻じりあげる!
帯より
日常の歪みと暗黒の隙間から覗く誰ともわからぬ視線の先、そして大きく開けられた口からとめどなく響くのは呪いか嘆きか・・・・・・。我妻俊樹が放つ、奇妙でよじれた怪異の断片をまとめた実話怪談集。
つきあいのない女が住んでいる隣室で、いきなり壁を殴る音が響きだすのだがその正体は?「腕が垂れる」、
左目より一回り大きな右目だが、視力が極端に低い。それは毎朝会う女がやってきて・・・「女と右目」、
父親の形見の時計を間違って捨ててしまった。
そんな折、疎遠だった母親が突然やってきて時計をを見せろというが・・・「父の形見」など全64篇収録。
ふと我に返った途端に襲ってくる悪寒と鳥肌、我妻ワールドを堪能せよ。
裏表紙より
【読むべき人】
・「梨.psd」先生の怪談などが好きな方
・不思議系の実話が読みたい方
【感想】
本シリーズ1巻で述べたように、メルでカリって5冊一気読みしたうちの2冊目である。「呪詛」だって。いい感じ。
表紙もよく見たら、捻じりあがった腸が描かれていて、「よっ!!いいぞ!!竹書房!!」となった。
表紙の人もそう言ってんのかもしれない。
表紙の人「よっ!!いいぞ!!竹書房!!」
気付けば実話怪談系は、竹書房文庫(現在は竹書房怪談文庫)が圧倒的になっちゃいましたね。平山夢明・黒史郎等著名な怪談作家が参加しているのが強い。その上「これは」と思った作家には何冊も書かせることで、神薫・小田イ輔・つくね乱蔵そして我らが我妻俊樹のように、中堅どころもしっかり固めつつあるのが強い。
一昔前は角川春樹事務所の「ハルキホラー文庫」が結構このジャンルでは幅を利かせていたと思うんだけど、今はもうすっかり鳴りを潜めてますね。
「角川ホラー文庫」も中山市朗「怪談狩り」シリーズ、黒木あるじ「全国怪談」「無惨百物語」等ありますが、ホラー小説がメインですよね。実話怪談もうちょっと出してもいいと思うんですが・・・・。
まぁ実話怪談界で竹書房が天下とってるのは、気合でしょうね。気合。
というのも、「角川ホラー文庫」「ハルキホラー文庫」に対して、当時は「竹書房文庫」。竹書房の文庫レーベル全体で、この実話怪談に取り組んでいるんですよね。
出版社の片手間のホラーレーベルとは訳が違う。
ていうか自社の文庫全部実話怪談。今は「竹書房怪談文庫」と名前が変わっているものの、毎月刊行されるのは実話怪談文庫本ばかり。
冷静に考えるとなかなか頭おかしいので、ポプテピピック然り爆破されて当然の指定暴力団・竹書房なのである。
ちなみに、そんな暴力団が主催する、実話怪談を毎月募集する「怪談マンスリーコンテスト」があり、過去のグランプリ作品が数多く掲載されているのだが、良作多くて良いです。ぬるいネット怪談に飽きた人にはおススメ。最近で面白かったのは、歳末の魚屋の風習の話かなぁ・・・。
以下簡単に、特に良かった実話怪談とその感想を述べておく。
ネタバレも辞さない。
一番ぐっときたのは「ペット霊園」。圧倒的。
次点は「歯医者へ」。
「シンク下」pp.22-23
徹子さんはシンク下で発券した大きなゴキブリの死骸を片付けられなくて、何日も見ないふりをしていたら夢にゴキブリが現れた。p.22
その夢がシュール過ぎる。どういうことやねん・・・。
しかもゴキブリと握手するとか、どういうことやねん・・・。
からの目を覚まして迫りくる鮮やかな現実の怪異が、強く心に残った一編。
要するに死体の後始末も人間に任せたいってことでしょ・・・?そんな最後にどうでもいい「ありがとう」みたいな恩返し、いらんねん・・・。
とにかく家はいらないで欲しい。それが君に出来る最大の・・・「ありがとう」やねん・・・。
「歯抜け」p.58
勝治さんの部下だった男は酔っぱらって行きずりの人間と喧嘩した翌日、出勤してくるとはが五本くらい亡くなって酷い顔になっていた。p.58
からのまさかの結末。
この実話自体、話の重要な部分が「歯抜け」しているような印象を受ける。
その分、1ページにも関わらず僕に強い打撃を与えた一編。一体どういうことだってばよ・・・。要するに行きずりの「人間」じゃなかった・・・ってこと?
「炎昼」pp.81-82
週末に遊びにいた姪の顔を思い出し、あの子と同じくらいの子かもしれないと胸が痛む。p,82
から、恐らく怪異に襲われたのだろう。寂しいから、自分を気にかけてくれた人間にふっと寄り添いたくなっちゃったのだろう。展開自体はよく分かる。
その「寄り添い方」が、結構独特で、不気味だった。物理的にもツイてっちゃうんだ・・・うわあみたいな。
けれど結末の、ささやかなる微笑ましさには、ほっとする。我妻先生にしては珍しい、ちょっと感動系の一篇。
あと「炎昼」というタイトル秀逸だと思った。クソ暑い真夏の日中が用意想像できるため。
「赤い風船」pp.94-98
砂場で遊んでいると、少し離れた場所に、色とりどりの風船を頭上に雲のように浮かせている人が立っていることに気づいた。p.94
エドワード・ゴーリー。IT。
のような、ロマンチックなピエロ像がざらりとした感触を残す実話怪談。やっぱピエロに碌なヤツはいないな。ピエロには死の匂いが溢れてる。
後半、ホームレスが亡くなったことが明かされるが、やっぱりその人はピエロなんかではなくて、風船だったってことなんだろう。
哀しいが人が亡くなる瞬間てきっとこうなんだろうなと思う。
・・・さようならさようならありがとうありがとう、おげんきで。
ピエロの手を離れて、ふわりと飛んで、遠く遠く、小さく小さく、風船が姿を消すまで少年は、ずっと目を離せなかった。
「足を落とす」p.99-100
終電で帰って来た市雄さんが近道をしようと思って夜中だし、ばれないだろうと畑の中の道でもないところを突っ切ろうとしたら、何歩目かで右足がずぼっと土中に落ち込んでしまった。p.99
からの、後半の展開には思わず合宿免許、ワオ!!になった。
2ページだからこその鮮やかな切れ味の実話怪談。まぁちょっと汚い逆シンデレラと思えば・・・まぁ・・・。
「詰まっている」p.100と、最後の一行が現在形なのも良かった。
「池のほとり」pp.108-111
夜、滋郎さんが池のほとりの遊歩道を散歩していると対岸に青白い火の玉が浮いていた。p.108
意味が「わからない」ように書かれているが、要するに女の幽霊が、滋郎さんにホの字という話なんだと思う。誰だって自分の顔が浮かぶ火の玉をじっと見ている異性がいたら、意識せずにはいられないと思う。だって火の玉、ってことはある意味裸より裸ってワケだし。
「あれは私です、」p.111ってわざわざ教えてあげたくなるのは当然の理、とも思える。ある意味わざわざ脱いでるわけだし。
「ひげ人形」pp.119-121
その際夢にその〈ひげ人形〉にそっくりの男が現れ、しつこく求婚されたのだという。p.119
奇妙な人形の奇妙な話。僕も個人的にドールが趣味なので、とても印象に残った一編。
何度も求婚したり、「ごめんね」とでも言うように姿を変えてわざわざ指輪を持ってきたり・・・行動もどこかユーモラスで愛らしい。
にしても気にかかるのは、人形を捨てた日の夜に、土下座して非礼を詫びて殺すのだけはがまんしてくれ、と泣かんばかりの声でp.120訴えたこと。
やっぱり目と口があるものは、少なからず魂があるものなのかしら。捨てられたくないと思うものなのかしら。〈ひげ人形〉のひげの毛が、本物の人間の毛で、そこに魂が宿っていた、という可能性もなきにしもあらずですが。
「ペット霊園」pp.131-139
単身赴任先で、散歩をしているとよく道を聞かれた。美術館への道も多かったが、ペット霊園への行き方を聞かれることも多かった。しかし近くにそのような施設はない。帰宅するとポストに入っていた投げ込みチラシには以下のように書かれていた。
〈ペット霊園建設中〉p.133
本書の中で一番怖いし一番好き。比較的長めではあるが、紙幅を割く程の価値がある実話だと僕も思う。
まず〈ペット霊園〉というのが怖い。墓じゃなくペット。墓建設中だったらダイレクトに怖いけど、ペット、というところが絶妙に距離感があって気持ちが悪い。
そして単身赴任先にも、家族が住む自宅にも同じ旨のチラシがポスティングされる現象。人間なのか幽霊なのか生きているのか死んでいるのかマジかイタズラか。相手の実体自体がいきなりつかめなくなってそれも怖い
終盤もびっちり恐怖は続く。体験者が飼ってきたペット・・・猫3匹犬1匹、金魚とミドリガメ、全て短期間で行方不明になっている。ええじゃあ相手は幽霊なのか。何なのか。
不気味な上に深まる謎。
凄く好きな一編。
投げ込みチラシ、見ずに即座に棄ててるけど、こんなことも起こりかねないからやっぱり見ていた方がいいよね~。
「二十歳の死」
信介さんの高校時代の親友Kは二十歳のときにバイク事故を出なくなり、その一年後の同じ日にKのおとうとがやはりバイク事故を起こして二十歳で亡くなった。p.144
法要後のファミレスの集まりで、其処に参加していた霊感の強い久保という女子が、この現象について語ることには・・・。
頼む!!なんちゃって霊感であってくれ~~~!!を祈らざるをえない一篇。「お前の親友死後こうなってるで!!」と言われる話なのだけれど、その姿がなんとまぁ・・・。
有名なネット怪談「あなたの娘さんは地獄におちました」もそうだけれども、こういう大切に想っていた人が死後××になりましたよ~系って独特の後味があるよね。
そーいう話、凄い厭だ。凄い怖い。そして多分凄い好き。
でも絶対体験したくない実話圧倒的ナンバーワンですね・・・・。
「リュウジの家」pp.163-164
三十年ほど前、菱野さんが子供の頃、友達のリュウジの家に電話を掛けたら知らない人が出た。p.163
何だよ・・・ほのぼの系かよ・・・好きじゃないけどまぁ嫌いじゃないぜ・・・からのまさかの後味の悪さにええ・・・になった。
ええ・・・どういうことやねん。
声の主はてっきりリュウジの亡くなった父親かそれとも先祖かと思ってた矢先の出来事だから、あまりの落差にクラクラした。ハッピーエンド、とみせかけて・・・・系は何度読んでもいいものですね。
「プレハブ」pp.165-167
絶望した美穂さんがバーで泥酔して店員に愚痴っていたとき近くにいた若い男が「よかったらここに行ってみてください」と紙を置いて店を出て行った。p.165
我妻先生にしては珍しくけっこう直球にホラーな一編。最後までひえっ・・・となる。にしても何でマネキンはこんなにも怪奇現象と相性がいいのか。
どこで愚痴をこぼしたら、このプレハブ小屋に行けるのだろう。主人公のように、再訪する愚行は犯さないから、どうやったら行けるのか知りたい。
あと、絶対これ、「あなたの上司は地獄に落ちました」だね・・・。
「犬を叩く」pp.170-171
理不尽な上司と顔そっくりの犬が夢に出てくる。叩いてイジメていると翌日ケガをして出勤してきた。
終盤がとてつもなく怖い一篇。
夢、というのは一番身近にある宇宙。
毎日体感する宇宙。
しばらくネット怪談界では「猿夢」が胡坐をかいてましたが、もっともっと面白い夢怪談出てきてほしいわね。
あと、どうでもいい話ですが、夏目漱石「夢十夜」読みてぇ~になってからかれこれ10年たとうとしています。
「上陸者」pp.172-173
海岸で遊んでいたら、海からボロ布をまとったような人が「上陸」してきた。その正体は。
正体、意外だった。絶対人間か妖怪化と思ってた。違った。というか人間食べたらそんな知恵がつくってたまったもんじゃないな。
あとこの前読んだ漫画。田口翔太郎「裏バイト 逃亡禁止」の水族館の話思い出した。ざっくり、あれの実話版って感じ。
「魚はない」pp.185-189
来年喜寿(七十七歳)を迎える篤夫さんが中学生の頃、四つ下の弟とと近くの川へ遊びに行った。p.185
こちらはカラスヤサトシ「いんへるの」風実話。ひょおおおひょおおおお。
こういう妖怪譚実話は単純に興味があるので、とても印象に残った。僕も是非こういう日本古来の現象と遭ってあわよくばその恩恵に授かりたいものだけれども、なかなかどうして遭遇しない。やっぱり令和にもなると、時代と共に消えていくのかしら。
まだ山に、この魚を求める妖怪は、いるのかしら。
ひょおおお。ひょおお。
ちなみに「いんへるの」そういえば2巻!!と思ったら、まさかの電子書籍でしか出てないという・・・どうしてや!!!講談社!!!どうしてや!!!!講談社ァ!!!!
「裏バイト」「僕が死ぬだけの百物語」とホラーを小学館が席巻していて悔しくないんかぁ!???
「山間の町」pp.190-191
「何だかここの牛、みんな怖い顔だな」p.191
北海道を思い出した。
僕の父親の実家は北海道の北部の田舎町で、そこまで行くのにフェリーの港がある苫小牧から、ずっと山間の道を車で走らせる必要があった。。度々町っぽいものが現れてはまた山になり、町、山、人里・・・といった具合。道路は太く一本線で父はそれをただひたすら真っ直ぐに走らせていく。
時々一気に山が拓けて、牧場が見えることがあった。そこには悠々自適に牛が放たれていてもさもさと草を食べている。
その牧場のはるか遠くに、この話同様紫色の奇妙な建造物が見えても、おかしくないな、と思った。
15歳の時に祖母が亡くなってから、北海道に家族で行った覚えはない。今もし家族で行くならば、60近い父親ではなく自動車のディーラーになった妹が運転担当するのかもしれない。
怖い、よりかはちょっとノスタルジックな気持ちになった。
「歯医者へ」pp.195-207
気が付いたら山塚さんは、十年後の妻と娘と共に暮らしていた。
雑然としてそれなりにくたびれた我が家に、それなりに老けた妻と自分がいる。p.204
クライマックスに収録された奇妙な長編実話。
創作か、と思ったが、創作にしてはどうも辻褄が合わなすぎる。
だからやっぱり、実話ベースなのか、と思ったけれども、現実にしてもどうも辻褄が合わなすぎる。
途中記憶があいまいになり、何ルートかに記憶が分離したようではあるが、主人公が感じたその奇妙な感覚がそのまま、読者の肌にぞぞぞと這う。
歯医者へ。
歯医者へ行けば、全てがわかるかもしれない。
歯医者へ。
歯医者へ行けば、今の辛いこの現実も早送りできる?
歯医者へ。
歯医者へ。
「漫画を捨てる」pp.211-219
克之さんのお姉さんは七歳年上で、彼が中学生のときには結婚して家を出ていた。p.212
その姉が置いていった漫画にまつわる一篇。ラスト。恐らく呪われたのは主人公ではなく姉の方と思われる。結構怖かったけれど、主人公の優しさで物語はなんとか、まぁるく幕を閉じる。
高校時代からブックオフで、今現在は主にメルカリで、中古漫画を躊躇い無く買う僕にとってはなかなか怖い一篇だった。買ったなかにこんなん一冊でも入ってたらと思うと怖すぎる。というか、たまった蔵書自体も迂闊に捨てられないじゃないか。
一度、300冊余りをブックオフに総て売ったことがあるけれど、やっぱりブックオフの海ですくった漫画はブックオフの海に還すのが正解なのかもしれないな。
以上である。
なかなか今巻も面白かった。
特に後半に、面白い話が詰まっていた印象。特に本書は「赤い風船」「ペット霊園」「歯医者へ」と鮮烈なイメージを残す週稲奇妙な話が多かった・・・と思う。
前半は「おや・・・やっぱ一巻が至高ってやつか?」と思ったら全然そんなことはなかったでござる。
ぜってぇ本書は「大好きだよー!!!」とか叫んでると思う。
それを無視する1巻・・・。
もうこれ半分ラブコメだろ。
***
LINKS
前巻
我妻先生の参加されてる瞬殺怪談シリーズの感想
文中で上げた漫画の感想
20220413
半年以上前になりますね・・・記事書いたの。寝かせすぎだろっていう。
「ペット霊園」は、副題そのまま掲載しましたが、このシリーズ(全5冊)を通しても一番好きな怪談です。我妻先生の作品の中でもトップ3に入るくらい。
本当に怖い、というか不思議、というか底知れない、というか。
これが掲載されている、という一点のみで本書は特におすすめ。