やっぱアウトロー実話より、怪談実話のがおもろいな。
福澤徹三『S霊園 怪談実話集』(KADOKAWA 2019年)の話をさせて下さい。
【概要】
教師が命を絶つ直前に黒板に書いた記号が蘇る「先生踏切」、
廃屋で見つけた謎の木箱が恐怖をもたらす「あにもの」、
ある滝にまつわる怪談実話が時を経てシンクロする「滝の帰りに」、
通夜の会食のあと記憶が消える「お斎のあと」、
真夜中に鳴るインターホンの秘密が恐ろしい「黒い縦線」、
心霊スポットとして名高い霊園にまつわる怪異を描く「S霊園」など40篇。
平凡な日常生活に忍び込む怪異の数々に、じわじわと背筋が寒くなる。
裏表紙より
【読むべき人】
・実話系怪談が好きな人
・怖い話が好きな人
【感想】
200ページ足らずの実話怪談集である。福澤先生の文章力も相まってサクッと読めてサクッと怖かった。
結構一つ一つの実話怪談の密度が高い。ページ数が少ないことで、逆にその一話一話の鋭利さが増す。
「忌談」も悪くないけれど、ぼかぁやっぱり「怪談」のが、好き。
生きて居る人間の方が怖いと言うのは十分わかるんだけれども死んでいる人間の方が、やることなすことバリエーションあるので。
人間だとどうしてもさ、ほらグロテスク一色になる傾向があるから。
以下簡単に特に怖かった話を挙げて感想やあらすじを書く。ネタバレも注意。
一番好きなのは「黒い縦線」。次点「カンカン女」。僕の日常に近い実話怪談なので。
「失踪」pp.16-21
なにもおぼえてないのは
あなたのほうです p.20
記憶のすれ違いが恐ろしい一篇。そのすれ違いを引きずり、10年以上もUさんは入院しているというのだから、本当に彼女のことを愛していたのだろう。
その愛しさのあまり、多分Uさんは彼女のことを■そうとしたのではないか。でもそれを覚えていたらUさん自身が自■しかねないから本能的に、忘れたんじゃないのか。
うすうす気づいているけれどもそこに無理矢理蓋をするから入院する羽目になったんじゃないのか。
そう思わざるを得ないけれども、でももしかしたら人智を越えた存在が絡んでいるのかもしれない。
妙な後味の悪さが、厭。
「カンカン女」pp.31-33
ある時期から、夜になると耳障りな靴音がするようになった。p.31
深夜、アパートの階段を上がり続ける霊の話である。その足音から「カンカン女」。
僕も結構ありえない深夜に外出したりするので、出くわしたくないなぁと思ってランクイン。福澤先生の巧みな文章力でイメージがありありと浮かぶのもグッドポイント。
ネット怪談にも、団地でしたっけ?らせん状になっている怪談を女が笑顔で全速力で追いかけてくるみたいな怪談ありますよね。確か白昼だったか。あれも結構レベル高くて嫌いじゃないです。
ネット怪談の女は白昼ニコニコ全速力。カンカン女は真夜中姿見せずただ淡々と階段を上る。
対ですね。
ネット怪談の女が「動」なら、このカンカン女は「静」。
ネット怪談の女が「エーフィ」なら、カンカン女は「ブラッキー」。
ネット怪談の女が「キュアブラック」なら、カンカン女は「キュアホワイト」。
「傘をさす女」pp.70-73
すれちがいざまに眼をやると、髪はぼさぼさでペンキを塗ったように真っ白な顔だった。p.72
怨念で女の霊が男を永遠と追いかけるタイプの話ですね。常に追いかけてくるわけじゃない。ふと、気が緩んだ瞬間に姿を見せるっていうのがこれまた恐ろしい。
ずっと肌身離れずついてくるんだったらこっちも気がくるって精神病院入院すりゃあ住む話だけど、生活が軌道に乗ったあたりでようやく出てくる、っていうのは性質悪いっすね。素直に精神狂わせてくれよ。
あとこちらもネット怪談の「ワンボックスか」「もうやめて」を思い出した。
「トイレのなか」pp.87-91
トイレで用を足して便座から腰を浮かせたとき、どんッ、とドアが鳴った。p.87
ひとり暮らしなのに、なんでトイレのドアからノック音!?という話である。困難起きたら出かけたうんちもぶりぶり引っ込む。
やっぱりひとり暮らしのトイレはフルオープンに限りますね。解放感あるし。万が一トイレットペーパーなくってもすぐ取りに行けるし。
あと過去に死者が出た過去形事故物件の話は数多く読めど、未来に死者が出る未来形事故物件の話は初めて読んだ。そんな、将来事故物件確定とかもう知りようがないしどうすることもできないじゃん・・・。
ただ気になるのは、その死んだ男がノック音を叩いた側なのか、叩かれた側要するにうんちをしていた側なのか気になる。自殺だったらまぁ叩いた側だろうと推測できるけれども変死となると不明瞭で、話の見通しが悪くなって、怖い。
「たき」pp.92-95
「いまから、いく」p.93
同棲中の彼女に電話をしたら様子がおかしい、というより彼女ではない・・・!?な一篇。彼女ではない・・・!?
じゃあ誰や!?っていうのも怖いけど、
「いまから、いく」p.93
いまから、くる のはもっと怖い。
そして逃げた後戻って来た家での怪奇現象・・・。
いつづけてたらどうなっていたのか。想像力が掻き立てられる。怖い。
「お斎のあと」pp.127-129
「ブリの握りがやけに脂っこくて生臭かったのはおぼえてるんですけどーーー」p.127
その後一週間程記憶ない。健忘症だと思ったが・・・?
謎怖い一篇。
1週間前の自分と現在の自分は違う自分なのかもしれない。でも一体何故そのようなことが起きたのか。
パラレルワールドに移動したのかそれとも自分の記憶違いか?
いや、それとも私は本物の「私」ではない?
膝の傷について、母親に確認をとってほしかった。そこでパラレルワールドか記憶違いかそれとも肉体がどこかで入れ替わったのか・・・なんとなく謎に見当がつきそうだけども。
「深夜の電話」pp.139-141
「あのときの電車の音は、いまのうちから聞こえる音に似てる気がしたんです」p.141
未来の自分が過去の自分に、「深夜の電話」をする一篇。
僕はこの話を読んで、髙橋克彦『緋い記憶』所収の「ねじれた記憶」を思い出した。あと世にも奇妙な物語で映像化もされた朱川湊人『都市伝説セピア』所収の「昨日公園」。
こういうタイムリープ系の話は大好きです。オタクなので・・・。
「黒い縦線」pp.151-153
ただ画面を見たとき、ちらちらと黒い縦線が見えたからインターホンの誤作動かと思った。p.152
本書の中で一番怖かった一篇。引っ越し不可避。黒い縦線の正体がまさかそんなものだとは・・・。
福澤先生が文章力凄いからありありと映像のようにその姿が浮かぶ。「ほんとうにあった怖い話」で映えそう。吾郎ちゃんを囲むあの子供たちをぴぇんぴぇん泣かしてやろーぜ!深夜はその子供たちの家駆け巡ってピンポンダッシュで永遠にトラウマ刻み付けてやる!!!
「ブランド品の指輪」pp.160-162
それだけならまだしもリングの裏側に「2011.1.14 RtoK」と刻印があった。p.160
リサイクルショップに持って行くが、店員の顔がこわばり、買取を断られる。その店員の名札を見るとRから始まる名前で・・・。
まぁ指輪に刻まれた「R」はこの店員でしょうね。
きっといくら縁を切りたくてもこの指輪が追いかけてくるんでしょうね。
で今回は、勤め先のリサイクルショップで客が持ってきた、と。
主人公自身が恐怖体験する側、ではなく誰かの恐怖体験に加担する側という立場なのが新鮮で良い。
2011年1月14日かぁ・・・。大震災直前。修学旅行直後。高校二年の冬・・・。昔のことのような凄く最近のことのような。
あとヤフオク?を使った怪談というのもポイントが高い。僕もユーザーなので・・・。今んとこそういう怪しいものにあたったことはないですが。
以上である。
さくっと読めてさくっと怖い。
名作・傑作とまでは言わないが、なかなか良質な実話怪談集だった。
過剰におどろおどろしくない。市井の人々の日常生活に近いところで起こったリアリティよりの怪談が多いのも好感触。
角川ホラー文庫から出ている実話本は比較的レベルが高い。気がする。特に文章力において。あと著名な作家が書いていることが多いので。
竹書房だと結構当たり外れは博打みたいなところあるけれども、角川はまぁ基本外さない。その分数が少ないのが残念。変なライトノベルもどきの作品ばっかり出していないで、実話怪談こそもっと力入れて取り組んでほしい。
お墓自体あんまり行かないし近くにもないし車も運転しないので、
そこまで響かなかった
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同時に購入したのは忌談1巻2巻でした。
全巻のリンクが掲載されている5巻(最終巻)の感想。
同じ作者のホラー短編集。結構玉石混合な一冊。