小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

カラスヤサトシ『いんへるの 第一巻』-ピーヒョロォーーーオーーーー-

 

ホラー漫画というよりかは、

奇譚漫画というべきか。

 

カラスヤサトシ『いんへるの 第一巻』(講談社 2019年)の話をさせて下さい。

 

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【あらすじ】

 

江戸末期-昭和初期を舞台に次々語られる、

厭な話。

恐れ悲しみ恐怖絶望、

人間あらば、そこに奇譚あり。

人間ならば、そこに地獄あり。

 

エッセイ漫画の名手が綴る、

全十五噺の奇譚集。

 

【読むべき人】

蟲師が好きな人

・江戸末期ー昭和初期←この時代にキュンとくる人

・妖怪が好きな人

・怪談が好きな人

 

【ためらうべき人】

・「不安の種」のような、キレッキレの現代ホラーを望む人

 

【感想】

雑誌で紹介されていたから買った。

 

ホラーや不思議、奇妙、オカルトはなんでも好きで、

そういう文字を見るとついつい手が伸びてしまうのだけれど、

とある雑誌で紹介されていて、

「お??これはどうやら種以来のキレッキレのホラーかな?」

と思って買った。

 

買ったけど・・・思ったのと違った。

 

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表紙が悪いと思う。

見てくれこの表紙。

この表紙からどのような内容を想像する?

怪奇現象、ホラー、短編、どうしようもなく恐ろしいもの・・・。

恐らく「不安の種」のような内容を想像する人が過半数だと思うのだ。

だが内容はすっとこどっこい、

まぁほぼ蟲師ピーヒョロォーーーオーーーー。

いや、蟲は出てこないけどほとんど蟲師ピーヒョロォーーーオーーーー。

 

時代は江戸ー明治初期のいかにも「民俗学」的な時期。

出てくる怪異も大半がひとの恨み嫉み悲しみ寂しさからくるもの。

こんなんやっぱ蟲師ピーヒョロォーーーオーーーー。

 

正直冒頭、がっかりだった。

僕等が望んだような単純なホラーは一話もない。

多分某巨大通販サイトの評価が★5つ中3つと妙に低いのは多分このせい。

表紙と内容がリンクしてない。

 

タイトルも悪いと思う。

いんへるの。

このタイトルから僕等はどんな時代の話を想像するか。

いんへるの、英語、意味:地獄。

多分、多分だけれど・・・、

大半の人が現代を想像するのではないか。

ただまあ本を開けばすっとこどっこい、

登場人物はみんな着物を着ている。

舞台は江戸ー昭和初期。

絵柄も児童書。

確かに、雑誌の紹介分でも「不穏なタイムトラベル」とか言ってたわあ・・・と思い出すけど後の祭り。ピーヒョロォーーーオーーーー。

 

キレッキレの現代ホラーを望んで手に取ってはいけない。

蟲師ほとんどこれは蟲師だと思って手に取ると本作はきっと読者の心を穿つ秀作になる。ピーヒョロォーーーオーーーー。

こういう…読者と作者をつなげるのって出版社の仕事だと思うのだけれど・・・どうもそこが作用していない気がする。読者が読みたいものと作者が描きたいもの、表紙とタイトルが遮っている。

本作が気になっている人は、ピクシブで立ち読みをすることを勧める。

最新話から数話はネットで無料で読めるので、

それが少しでも刺さったら、読んで正解買って正解。

 

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裏表紙には各話タイトル。この仕様は珍しい。

 

第一話 手足尻髪

想像と違った内容に肩透かしを食らったが、

「こういう作品だ」と分かってて読めばすごくいい。

怪談レストランとかに掲載されてそう。

第二話 蛸と観世音

最後まで笑ってら。

第三話 暗渠

一番完成度低い気がする。

 

第四話 大人形

自由の女神らしからぬ「地獄の女神」像の話。

不穏なもの不吉なものというのは多分この世にあって、

それに触ってはいけない。怒らせてはいけない。

静かに災厄が終わるのを待っているのが正解なのかもしれない。

終盤の、地獄を凌ぐ地獄と、

それを嗤う大人形の堂々たる立ち姿が良い。

 

大人形のような不吉な存在は、僕の周囲に山ほどある。

例えば隣人。

僕の部屋の電気が深夜までついていることを告げ口してくる。(ともに一軒家)

騒音に五月蠅いくせに4時5時あたりに車の発信音を立てたりする。

昔は若々しく元気なイメージがあったが、

最近は暗くどんよりしている。鬱病患者特有のあの澱んだ雰囲気は何なのだろう。

不吉だ。すごく不吉だ。

でも不吉だからと言って「○○」とか「○○○○〇」とか思っては、

いけないということなのかもしれない。

隣には大人形がたっている。

常にそう思いながら目をつぶって日々の生活にいそしむほうが、

「まだマシ」なのかもしれない。

 

多分、大人形はどの人にも、

存在してこっち向いて悠然と立って、

嗤っている。

 

第五話  護国様

主人公が一番怖い作品だけれど、案外僕等もこんなもんなのかもしれない。

へらへらと笑ってら。

第六話  子守と飛行船

雰囲気だけ。多分一番中身がない。

第七話 自霊

どうしてこのような現象が起きたのか。

一番心に残った作品。

女への恨みが重いあまり自分に自分がとりついたということか?

でも何故・・・何故・・・昔の文学作品にありそう。

第八話 春が来る

春は人を狂わせる。

第九話 針の髪

一番怪談。この男が一番悪いと思う。多分出られないでしょう、このいんへるのから。

第十話 狼の祀り

良かれと思ったことがいんへるのの引き金ってもうこれ絶望しかないじゃん。

迂闊に手を合わせるのはやめましょう(教訓)。

第十一話 ひとめ

初めて出てくる「怪異」が登場しない話。

「第五話 護国様」から続いて戦争噺をまさかここまでがっつりフォローして来るとは思わないじゃん・・・。

第十二話 三世相

「怪異」が登場しない話その2。

今でもよくある話だわね。さりげない悪意は鋭利なナイフ。

第十三話 阿弥陀堂の怪

怖いシーンが怖くない。

第十四話 落下節

昔噺。正直、第十一話-第十四話はネタ切れ感が酷い。

第十五話 西郷首

多分既存の言い伝えの漫画化?絵柄のインパクトが強い。

番外 まがさる

教養がないので面白さが分からなかった。

 

以上である。

現代ホラーを期待して買ったら痛い目を見る。

民俗学的な奇譚を期待するのであればおススメ。

良作が多いが、後半の息切れ感が目立つ。

こんな感じ。

 

それでも10ページほどで次々と奇譚が開かれて閉じるのは、

読んでいて面白かったし、

大人形。この一編と出会えただけでも本作を買う価値はあった。

2巻も出たら買おうかな。

 

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でもやっぱ僕は種派ですね。

 

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