小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

我妻俊樹『忌印恐怖譚 くちけむり』-マッチョなヌード。-

 

 

我妻俊樹氏のシリーズ2つ目読むよ~。

 

我妻俊樹『忌印恐怖譚 くちけむり』(竹書房 2018年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【概要】

その話を口に出せば、あの世の爪が突き刺さる!

いじめを苦にして自殺未遂した妹、その入院中に事故に遭ったいじめの首謀者。妹が不思議なことを言うーーー「こういうこと」、怪異が起こり住む人がすぐ出ていくく事故物件。不動産担当者が本気でお祓いをしたのだが・・・「お祓い」、海外絵d殺されたであろう夫のことを夢に見続ける妻は・・・「夢野続き」など48話収録。

奇妙な話の名手が新たな怪異と不可思議を追究した新シリーズ!死者が遺した思いはけむりのように儚くーーー怖い。

 

【読むべき人】

・梨.psd先生のように、所謂不可思議系実話怪談が好きな人

・奇譚、不思議、等の言葉に惹かれる実話怪談好きな人

 

【感想】

我妻俊樹に飢えていた。

単著のシリーズ「実話怪談覚書」を読んだはいいものの、その後ちょっと訳あって入手した同じく竹書房文庫の実話怪談がとてもいまいち*1すぎて、「あがつまぁ・・・あがつまぁ・・・おまえのはなしをきかせてくれよぉ・・・」という状態になっていた。しかしメルカリをいくら覗いても、本シリーズで手ごろな値段はなかなかない。

というわけで、ダメ元でアクセスしたブックオフオンライン・・・「あるじゃん!」

あった。今のとこ出ているこの「忌印恐怖譚」シリーズ4冊、全部あった。ご存じの通り、ブックオフオンラインは1500円以上で送料無料になる。

これは、と思い全巻購入した。

・・・分かる。

ああ、わかるさ。そんなに好きな作家であるならば新品で買え、分かる。

でも僕はフリーターの身・・・10万そこそこで一人暮らしをしなくてはならないしアイドルも追いかけなくてはならないまぁそこは・・・うん・・・2018年の本だし・・・うん・・・あと僕は、まぁでも僕は・・・我妻俊樹も大好きだけどブックオフも大好きだから!!つぶれちゃったら元も子もないからぁ!!寺田心の成長!!!愛でたい!!!ブックオフのCMなくなったら何を介して寺田心の成長を体感すればいいんだよ!!!あああああああ!!!!!!あああああ!!!近所に店がない為、オンラインでしか応援できない!!!買うっきゃない!!!!!!

 

閑話休題

そして読んだわけですが・・・今回も面白いですね。

ただ収録話数は前シリーズより少ない、ため一話一話は長め。

まぁ個人的には短めの方が好みだけど~、でもそれを抜きにしても最高。今回もぐいぐい読み進めた。10万そこそこの仕事がどんなに大変でも、どんなに辛くとも、社会不適合極まりああああああになっても、ベッドの上で著者の集めた怪談を読む瞬間を想像すると、ちょっとだけ、もうちょっとだけ頑張れた。

 

我妻氏の集める怪談は、怖い、だけじゃないんですよね。

不思議、奇妙、なところが多々あって。「怖いぞ~怖いぞ~」だけだと正直読んでて疲れてくるし、それ優先で実話感より創作感が酷いと醒めてきたりもしちゃうんですよ。

だけど我妻氏の怪談は不思議、奇妙がベースだから読んでいて疲れないんですよね。

むしろちょっと癒されるくらい。

だからね、僕が言いたいのはですね、

全日本国民の家庭に我妻俊樹のシリーズを置け。

そうすることでですね、疲れた死ぬ⇒我妻俊樹で癒される⇒元気になる!⇒強くなる!!!、で、コロナにですね、日本国民はですね、勝てるのではないかと・・・。

 

 

 

 

以下簡単に特に印象に残った話の感想書いておく。

ネタバレもするから注意。

特に好きなのは「夢の家族」「死んでるんでしょ?」「手首」、あとまぁ「マッチョなヌード」

 

 

「カジノモト」pp.7-10:深夜、店の前を通ると、Tさんの音痴な歌が聞こえてきて・・・。

締まっている筈の時間に、人気がない店内で歌う客。

その店が火事になり、歌ってた客が意識不明、になるのはまぁ予想がつくし、まぁどっかで読んだ怪談と同じパターンだなぁで終わっていたと思う。

ところが、本編は

「マッチイッポンカジノモト」

鼻にあっかったような奇妙な訛りのある声がそう聞こえたという。p.9

これが最高に気味悪かった。

想像がつく。生々しく。恐らく女の声で低くて、耳元間近でそれなりの声量で言っていて・・・。

あと妙に語感がいいせいか、一度読むと忘れられない。

マッチ一本火事のもと。

よくよく読むと火事の要因に関係なかったマッチが出てくるのも結構な謎なんだけれども、そんなことはどうでもいい。マッチイッポンカジノモト・・・。

絶対表紙に写ってる女が言っとると思うわ。こわこわ。

 

「マンションの話」pp.20-29

①ある部屋の家具・荷物が山積みになって、共用通路を度々塞ぐ・・・。

②酒の勢いで除霊が出来ると言ってしまった。それに興味を示した美女の部屋に行くことに・・・。

③弟夫婦の部屋に遊びに行く。奥さんがごちそうを作ってくれるとのことで買い出しに行くが帰ってこず・・・。

3つの話が10ページに収録された話である。そして最後に、この3つの怪談が起きた場所の共通点が2つ挙げられ、本編は終わる。

①と③はもうそれ単体でも十分通用するような結構インパクト強い実話怪談。①はどれだけパワフルやねんという話だし、理由もわからんし気味が悪い。③はもう3編の中で最悪of最悪みたいな話で、なかなかクる。いやいや何買ってんねんというかそもそもそれ買ってないでしょ。拾いものでしょ。あと被害者が弟、とバリバリ血縁が繋がっているのがまたね・・・。絶対ろくなことは怒らないだろうなぁと確信させる結末。

で、③の後味でうわぁ・・・ってなったところに、3つの実話の共通点が2つ書かれる。

その一つが「どの部屋も部屋番号が■■■号室」であること。

その階その番号の部屋に、僕は今まで住んだことは無いけれど、それでも今後何があろうとも、その番号の部屋だけは住むのはやめようと思ったね。だってさぁ、買い物と称してさぁ、拾ってごちそう作るのは・・・頭おかしくなりたくないもん・・・。

 

「出口」pp.39-42熱があるがどうしても今日中に資料をしあげなければならない。なんとか出勤し、しあげたはいいものの、オフィスの出口が分からず・・・。

まさしく現代の白馬の王子怪奇譚。仕事を頑張っている全キャリアウーマンの希望みたいな存在が出てくる。

上川隆也似、とのことではあるが、僕の元にいつか現れる時は中村倫也似でお願いしたい。まぁ10万そこそこしか稼げない社会不適合者のもとには・・・来てもジョイマンとかノンスタイル井上とかそこらへんかな・・・。

 

「夢の家族」pp.49-53:小4の弟は深夜に寝床からいなくなって、一家総出で探したら、陸橋の下にしゃがみこんでいた。その弟が言うには・・・。

一番怖かったです。気味が悪い。分からない。怖い。

人間の家族になりたかったモノの話なのかなぁ・・・人間に取り憑いて本物の家族になる機会を伺っていた、そして成功した、ということなのだろうか。大食いなのは夢と現実共通しているし。・・・まぁ完全推測だけれども。

中盤弟が語る、その「家族」が出てきた夢の描写が物凄く気味が悪い。最近YouTubeで活躍しているバーバパパさんの動画をぐっちゃぐっちゃに丸めて無理くり広げてそこに「家族」というキーワードを散りばめたかのような・・・。

「なかればれん、なくやさめがか、とにかくよかった・・・心配したんだぞ」p.51

僕も読んでて心からそう思った。

 

「お守り」pp.60-64:電車で居眠りをしていて、気が付くと膝の上に御守りが乗っていた。それを何気なく拾ってから、ろくなことがない。

その御守りの中身は・・・といった話。

御守りと言えばネット怪談で有名な話がある。

【「母の御守り」母子家庭で支え合って支え合って生きてきた親子。病気に倒れた母親が、死ぬ直前娘に御守りを渡す。後日その中身を見ると・・・】

と言った具合の話である。細部は多少違えど、中に「死ね」と書かれた紙が入っていた、っていうのはだいたい共通してたと思う。

家族からもらった御守りは怖い。

じゃあ、他人からもらった御守りは怖くないのか?

そういうわけじゃないんだよ~逆に誰からか分からないことで恐怖感マシマシってこともあるんだよ~ためになったね~ためになったよ~と啓発する実話怪談。

【アンチ・母の御守り】談、といってもいいかもしれない。

 

「ナンパした女の子」pp.102-107:女の子をナンパしているとじっと見てくる男がいて・・・。

正直話自体はそんなにインパクトない。男、どころかその女の子自体もよく分からない存在、という展開は読めた。

ただ最後。体験者は昨日と同じバーを訪れるが、マスターに昨日は来てないでしょと言われる。その後の、

カウンターがあきらかに昨日より短くなっている。具体的には向こう端の席が一つ減っているようだ。つまりじっとこちらを見ていた男が座っていたはずの空間がカウンター事壁に埋もれたように消滅していたのである。 p.107

このカウンターのテーブルが伸び縮みする部分だけ妙に記憶に残ってる。まるで初めて星新一「ボッコちゃん」を読んだあの時のような・・・。喪黒福蔵の行きつけのあのフクロウm血合いな老人がいるあの・・・。バーの話はなぜこんなに魅力的なのだろう。薄暗いからかな。ほとんど行ったこともないけど。

 



 

「死んでるんでしょ?」pp.113-120

「どうせ婆さんの死体で抜きたかったんでしょ?残念でした。うちは健全な店なんでそういうのないから」p.119

郊外のレンタルビデオ店、道路に転がる犬の死体、ババア、明らかにダメダメな模試の結果、うまく再生されないAV、ババア(パステルジャージ)、曇天、再生された巨乳、腐敗する犬の死体、ババア(パステルジャージで小柄)、乾いたアスファルト、へらへら笑う店員、骨になる犬の死体、ババア、郊外のレンタルビデオ店、喜ぶ犬、ババア、レンタル、ババア、犬、模試、郊外、アスファルト、犬、ババア、ビデオ、死体、ババア、志望大学お前はいけないです、AV、レンタル、死体、腐乱、パステルジャージ、巨乳、模擬、レンタルビデオ店、犬、死体、ババア、ビデオ店、犬の死体、レンタル、犬、、道路、レンタルビデオ、骨、犬、レンタル、ババア、レ、バ、レ、バ、レ、レ、レ、レ、ババア、ババババ生レバー。「ワン!!!!!」

謎の映像はもう再生されませんピーーーーー。

レンタルビデオ店、受付の、若い女の店員は言いました。

「私ボッコちゃん、犬の骨シャブって生きているの」

郊外のレンタルビデオ店の乾いた雰囲気が大好きです。

 

 

 

 

「お祓い」pp.129-134:

手首と首から血が流れてて、片手にカッターナイフ握った小太りの女の人がうつろな目で宙を見たままお湯に浮かんでるんだって。p.130

ダイイングメッセージものは、ミステリだと興ざめするけど実話怪談だと怖いよね。

あとこれだけの自己PR力があれば就活とかも楽勝なんだろうなぁってちょっと羨ましくなった。

 

「手首」pp.144-147:彼女の手首には口がある。

一昔前なら人面瘡というやつか。

この口から出てくる言葉が〈死ね〉〈不幸になればいい〉〈殺してやる〉〈呪う〉系だったら、別に印象に残らなかった。

〈ごめんなさい〉

手首から聞こえた声は、女児のような小さな声でとても申し訳なさそうに震えていたという。pp.146-147一部省略

そんな声でそんなことを言われちゃあ・・・である。

思うに彼女の根幹、みたいなものが、そこにいるのではないか。生きていてごめんなさい。ここにいてごめんなさい。だから怖いことしないで。怖いことしないで。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。

いたいけな一篇。

 

「マッチョなヌード」pp.165-169:職場の地下の食堂が、和風で美味しいけれど全てがちぐはぐ。

マッチョなヌード。良い日本語である。自然とマッチョは脱いでいるイメージがある。わざわざ裸の、みたいな修飾詞をつける必要はない。だから「マッチョなヌード」という言葉は、なんか当たり前に思っていた物事を全然別の角度から切り取ったかのような・・・とても新鮮な感じがあって良い。マッチョなヌード。マッチョなヌード。マッチョなヌード。べっちょりラード。

怪奇現象自体はまぁ・・・なぜか店員が家のこと知っているのは確かに怖かったかな、マッチョなヌード。今年の流行語大賞決定です。

 

「夢の続き」pp.170-175:外国で拷問を受け続ける夫の夢を見る。

まぁ、死体になってその後もずっと延々と流れてくるんだろうなって言うのは予想できた。でもその後がまぁ・・・ちょっと予想を超えてくるド迫力の展開でどうしようかと思った。どうしようもないけど。

最後、残虐極まりない夫の死に様を見た、妻なりの行動がなんとも涙ぐましく痛ましく美しい。前半のグロテスクと、終盤の純粋たる寂しさ愛しさの対比が美しい一篇。

 

「防犯カメラ」p.202:人影が映っているというが・・・。

えそっちぃ!?ってなった。そっちぃ!?予想外のあっさり掌編。

 

「話しかけて下さい」pp.203-208:アンケート用紙を配布しに訪問すると、玄関先に出てきた女が瓜二つの女を車椅子に乗せていた。

最悪な双子モノですね。怖い怖くないの前にどういうこと!?となるけれど、後味の悪さはなかなか。日々どういう暮らしをしているんだろうって想像巡らせるとね・・・。絶対ろくな生活送ってないわ。

何気なく通り過ぎる住宅街の一角一室でこういう悪夢がめくるめく日々展開されていたら嫌だなぁって思った。

あとこういう老後送らないようにしたい。

でもなんか体験者全部全部そう全てが夢のような気もするんですけどね。どうなんだろう。でもこういう老後は絶対嫌だ。

 

「よくないところ」pp.212-219:引っ越してきた部屋を大叔母が「よくないところ」と言っている、と実家から直接来た母親は言う。

最後の一篇。発言した大叔母が倒れたり、すぐ空室に鳴ったり、それでも声が聞こえたり、仕事が入ってくるようで入ってこなかったりと、結構踏んだり蹴ったりだけれども、引っ越しを予算の都合上でしない体験者は、もうもはやその場所に呑み込まれているも同然では?と思う。貧乏になるのも向こうの計算済みなのでは?実家からわざわざ忠告しに来るくらいだから母親が出してくれそうなものだけれども・・。

実は家賃も滞りがちになっているのだが、大家から督促がきたことは一度もなく、それがかえって不気味な気もするんですよとUさんは語っていた。p.219

特に最後の一行が何気なく怖い。大家も関わりたくないという事では。

 



 

以上である。

今回も結構僕好みの話が多くてすぐ一気読みしてしまった。

これを機会にもう我妻氏の単著は全部コンプリートしてやろうと思っている。

 

ところが近年、我妻氏は単著で実話怪談発表されていないんですよね・・・なんで!!Twitterではよく分からん短歌ばっかり・・・なんで!!

彼の不思議な世界観は実話ベースだからこそ輝くのであって、創作べーすだとふわふわしすぎちゃってイマイチ入ってこないんですよね。だから三十一文字数えている暇あるんだったら一刻も早く一つでも多く怪談の取材に赴いていただきたいなーと思う今日この頃。

 

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20221228

ところがどっこい今年の10月なんと!!!我妻氏の実話怪談単著が発売されたんですよ!!!ちょー最高だった。ちょー最高!!!めっちゃいいです。本当いいです。発売日に買って即読んだんですけど・・・え?2冊目まだ???

 

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20230610

下書きでとまっている記事が多数あるので、しっかり写真撮ってあげれるものからあげていこうかなと思っている。

多分1年くらい前に書いた文章かなぁ・・・。今まではこれだけの文章量書ける気はしなかったけど、最近ようやっとなんかそういう気力戻って来た。気がする。

 

 

LINKS

他の我妻俊樹氏の単著!!!の感想!!!

 

tunabook03.hatenablog.com

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*1:これもいつか感想書きたいね。