あ、読むなら今だし、多分今・・・、逃したら私はこの本を二度と読まないだろうと思った。
中島たい子『この人と結婚するかも』(集英社 2010年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
気になる男性と出会うたび、「この人と結婚するかも」って直感する。けど、結果はいつも外れ。このままじゃ私、ただのイタい妄想独身女!?二度と変な直感は抱かないと反省したのもつかの間、英会話教室で出会ったケンのことが早速気になって・・・・・・(『この人と結婚するかも』)。
その他、迷走する男の勘ちがいを描く『ケイタリング・ドライブ』を同時収録。
女も男も恋をしたら妄想がとまらない!
裏表紙より
【読むべき人】
・イタい妄想独身女勢
・少女小説が好きな人
★女性作家の割に文章が淡々としていてさっぱりして読み易いです。女性作家特有の湿気が苦手な文体が苦手な人にはお勧めです。
【感想】
初読ではない。初めて読んだのは多分24かそこらの時。
本書は「anan」の読書特集・・・確かお笑いコンビのピースが表紙の号の特集・・・で掲載されていて気になってはいて、ブックオフとかの中古屋で見つけて購入した、んだと思う。そこは少しあやふや。
読んだ当時は、「この人と結婚するかも」に関しては「ああ・・・私もこうなるのかなぁ・・・」と思ったのと、『ケイタリング・ドライブ」に関しては「ケイタリング」の意味がわからなくてそれも調べず突っ切った結果、「なんかつまらん・・・」と思った覚えがある。
今なら分かる。全部わかる。し、不安は無事的中。28歳の時実際私は「そう」だったよ。「そう」なったよ。イタい妄想独身女・・・いや、今もだ。今もイタい妄想独身女。
イタくていいです。
「この人と結婚するかも」
私、あの人と結婚するかも。p.12
と、第一印象直感で少しでも気になる男性がいたらそう思っちゃう28歳女性の話です。
え、これめっちゃ分かる!!と思った。
例えば、大学の大教室で隣に座ったちょっと顔の良い男子。例えば、一ヶ月に一度本社で行われる新人研修に赴き全新卒社員の中で一番顔の良い院卒2歳年上の青年が私と同じく「世界史」を大学で専攻しているときいた時。例えば、大学のサークルTwitter垢で妙に意気投合して向こうからわざわざ東京から静岡にやってきて「一緒に飲みましょうよ!」と言われた時。例えば、小売店で働いていて毎週木曜日の午後に珈琲豆を買いに来るさわやかな雰囲気のサラリーマンと目が合った時。例えば例えば例えば・・・。
と、少しでも気になると妄想しちゃうんですよね。
この人と、結婚するかも。
で、思い描くわけですよ。この人と結婚したらどんな夫婦生活が待っているだろう。
多分大学でも割と「イケてる」彼は高校時代は運動部でうわそこは引け目感じちゃうけれどもあーよかった、中高時代放送部とかじゃなくてちゃんとオーケストラ部に入っててて。多分彼はイケメンで高身長でちやほやされることには慣れているけれども世界史大好き女子が新鮮に感じられて博物館とか図書館とかアカデミックな場所に行ってなんか帰りにはスタバでフラペチーノを飲むのかしら。多分彼とは楽しく話が合ってアニメとか漫画とかバリバリ話が合って友達の延長線みたいな楽しい家庭が築けるだろうな。多分彼はマメを購入するから毎朝私はミルをこうぐるぐるさせて。多分多分多分・・・。
でもそれはあくまで妄想で、妄想でしかない。
大教室でちょっと顔の良い男子が同じくちょっと顔の良い男子女子と集って年明けのスノボー旅行の話をはじめた時。1年通じた新人研修で特に何も話すことがなく別々の教室は無論別々の部門に配属されそれに特に感慨深くも悲しくも寂しくもなかったとき。わざわざ東京からやってきて楽しくのんだはいいけれどカラオケでいきなり距離を詰められた挙句、最後は終電が来るローカル線の駅構内の改札前にて「お願いします!!抱かせて下さい!!!」と頭を下げられ最終的には土下座までされた時。ある木曜からぱたりと、音沙汰なく、仕事は愚か趣味は愚か名前は愚か苗字すら知る前にこなくなった時。
いや知ってたし。
そう言い訳して、寝る前に少し「くそーう」と思いながら眠りにつく。泣いたりもしないし眠れなくなる、なんてこともない。普通に寝れる。ちょっと悔しいけれど。
同じようなことを繰り返す主人公に24歳の時は、共感するだけ、だった。
29歳、改めて2回目読んだが、ああそうか。何故それらが妄想で妄想のまま終わってしまったのか。本編を読んで理解した。
やがて主人公は、英会話教室に通っているケンという同年代の青年に同じく淡い想いを寄せるようになる。
以下そのケンについて書かれた部分である。
嬉しい結果だったが、電子書籍で単語を調べている彼の顔を見て、あれ、こんな顔だったかな?と思った。妄想の中で過度に爽やかな男に作り上げてしまっていたようで、生のケンは意外と彫りが深くて若干濃かった。p.39
英語でそう言って、ケンの顔を見た。
でも、私この人のこと、好きかも。
以前のようなドキドキする感じではないけれど、みょうがのお吸物のように温かい感じで、思った。p.94(本編最後の頁)
相手を、見ていないからだ。
現在の相手を見ていない。
相手の顔を見ていない。
数々に繰り広げられた妄想での相手は、私が妄想した相手。現実の相手じゃない。妄想した相手。ということはもはやそれは私の分身。脳内存在。要するにその時私は私しか見ていない。私による私の為の私のアバンチュール。私は私しか見ていない。一人で何度も繰り返す輪舞。大教室のホワイトボード、研修のプリント、カラフルな光の下薄暗いカラオケルーム、ぽろぽろとレジの引き出しから零れるコーヒー豆。脳内にいっぱいに広がる良い珈琲の香りの向こうにもう一度。ホワイトボード、プリントのホチキス、ミラーボール、「これは唯一苦いカネフォラ種という少し苦い種類のものが混ざっている深煎りで人気」の豆。本社、教室、悪い酒癖、ショッピングモールの清潔。ホチキス、室内、ビール、店。全てが混ざって混ざって、台風。
そうか。
一人では成立しないのだ。
私と、相手があって、はじめて成立するのだ。
だから私は見てしまう。
何度も何度も、今月初めに人生で初めて出来た彼氏の顔をついつい見てしまう。
不思議だなぁと思う。
好きな相手が私を好きだなんて。
不思議だ・・・不思議、そしてそれはなんたる幸せ。
幸せだな・・・と思う。
結婚したら、とか、浮気されたらどうしよう、とか思わないこともないけれども、一瞬でそれらは収束する。
と同時に湧き上がるのは、この前は楽しかったああ来週のバレンタインどうしよう。酒入チョコが苦手なのは把握しているが果たしてチョコが嫌いなのか。それとも酒入りチョコが嫌いなのか。後者と睨んでいるけれど。とか。
なんか今とか来週・・・・要するに現在のことを考えちゃう。
するとそこにいるのは、2023年現在の30そこそこの相手と29の私。
ああそうだ、別になんでもいいんだ。まずはちゃんと「好きです」って想いとあとちゃんと相手の名前を呼ぶことそれを第一目標にしよう。
といっても、四半世紀以上独り妄想で妄想の中であっちこっち生きてきた人間である。他人と目を合わせるのは勿論苦手。
でも、彼氏となった相手の目くらい顔くらいしっかりと、超しっかりと、見よう。そして目をそらさずにいよう。と、思うのだった。
コミュニケーションとは、積極的に人に情報を与えてこそ、初めて自分にも情報が返ってくるものなのだ。情報を与えず、乞うだけだから、結局乏しい情報の中で皆はただ教室をうろうろしていることになる。p.52
「ケイタリング・ドライブ」
時間、温度、素材。これって恋愛にも、あてはめることができるかも。p.113
友達の妹に失恋した、20代後半の男の小説である。
男目線ではあるけれども、女性漫画によくいる「女性が描いた男性像」なのでそこは注意して読みたいところ。
25そこそこの時は「ケイタリング」ときいてもピンとこなかったけれど、29歳現在もっぱら元気に櫻坂46のオタクをやっている身からするとその意味はとても分かる。あれだね。パーティーとかロケとか撮影地とかに運ばれる試食の超豪華版みたいなやつでしょ?良く美味しいそうな料理画像が彼女達のブログやメッセージアプリに掲載されているもの。うまそう。あれ本当にうまそう。
時間、温度、素材。男は恋愛に当てはめたけれども、私は人生のありとあらゆることに通じると思うな。せめて少しでも良い素材であるように、と思ってうんまぁこうして連日ブログを投稿しているのであります。
ちなみに、巻末を見ると・・・本書が書かれたのは2007年との旨。
16年前。とは思えない、鮮度フレッシュな小説だった。恐らく携帯とかパソコンとか時代を感じさせるものがほとんど出てこなかったからだと思う。
というか、いつの時代もイタい妄想独身女だとか台風だとか恋愛だとか云々、こういう感覚って時代を越えても共通するもんなんだなぁ・・・。
以上である。
再読に当たって、特にタイトルにもなっている中編には大きい発見があった。初めて読んだ時はただ共感するだけだったけど、29で、特に人生で初めて彼氏が出来た現在はああこういうことなんだなぁってつくづくはっきりしっかりめっきりいろいろTHE☆再発見があった。直感は当たる。間違いなく今読んで正解だった。
とかいいながら、結局こんなことをこんなところでだらだらと書いている地点で私は一歩あの台風の中にまた足を踏み入れているのかも。でも今こう思っていること考えているをここに残しておきたい。
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皆さんお元気ですか・・・ここでは一切触れられていませんが・・・1月中旬に母親を亡くしました・・・親の生死をまたいで読んでいた本の一つです・・・感慨深いね・・・。