小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

平山夢明ほか『瞬殺怪談 刺』(竹書房 2018年)-短く鋭く、刺す。-

 

 

さくっ!!ぶしゅっ!!!ぞわーっ!!

 

 

平山夢明ほか『瞬殺怪談 刺』(竹書房 2018年)の話をさせて下さい。

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220221234707j:plain

 

 

【あらすじ】

あっという間に読める、極上極短の怪談がそろった究極の一冊。

平山夢明、我妻俊樹、伊計翼、小田イ輔、神薫、川奈まり子、黒木あるじ、黒史郎、鈴木呂亜、つくね乱蔵、真白圭、丸山政也といった人気の書き手が、数行から2ページ以内の実話怪談をすべて書き下ろす。瞬きする間に脳裡に焼き付けられる恐怖の数々を堪能せよ!

裏表紙より

 

【読むべき人】

ショートショート好き

・ホラー好き

・実話怪談好き

・さくっと怖い思いしたい人

・ホラー「小説」を読むのにはためらいがあるが、「怖いコピペ」等が大好きな人(ひとつひとつが短いため小説嫌いでも読めるのではないか、という提案)

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220221234704j:plain

 

 

【感想】

いや~やっぱ最高ですね。このシリーズ。長々していなくてサクッと怖いし、且ついろんな作家が参加しているからマンネリ化もしない。

神じゃん。

 

真夜中、憂鬱な気持ちが溢れる真夜中にリストカット代わりにさくっと読んで、

「よし、今俺の周りにはこういう怖いのがいないな!ということは私は今間違いなくこの小説の主人公よりもランクが「上」の人間なんや・・・」

と幸福になれます。間違いなく神。竹書房は神会社。

 

現実ではもうマウントをとる相手がいないから小説相手にマウントをとる現実。地方在住大卒フリーター、夏越えたら29になるってよ。みさえだよ。みさえと同い年だよ。死にたくなるね。

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220221234659j:plain

 

 

死にたくなったので、特に良かった怪談を前回と同じく挙げて行こうと思う。

極力ネタバレは避ける。

 

我妻俊樹「相客」p.18:混んでるから、旅館で相部屋に通されたが・・・

後味が物凄く悪い一編。え?何なの?になる。え?何なの?どゆこと?

それには骨が入ってた・・・てこと!?え!?じゃあどうして!?

結構考え込んでしまい長く引きずる余韻、ヨシ!

 

神薫「ちだまり」p.28:大学構内で女子大生が飛び降り自殺した。

ちょっとした恋愛の痛切な想いも感じられて・・・なかなか味わい深い一編。この話のタイトルを「ちだまり」と総てひらがなにした作者・・・語り部にもセンスを感じる。

多分日光に反射して一瞬鮮烈な赤に見えたことでしょう、刺さる想い、ヨシ!

 

つくね乱蔵「ナチュラリスト」p.30:植物の声が分かるという迷惑な隣人撃退大作戦。

なんともいえない一編。

その「ナチュラリスト」的能力が本当か贋作かで微妙に恐怖の種類が違ってくる。本当であるならば一部なスピリチュアル的要素も含んだ恐怖。贋作であるならば所謂ヒトコワ的要素が強い恐怖。

にしても、ちょっとすかっとした、ヨシ!

 

つくね乱蔵「せんべい」p.32:警察官の後輩は、女性の遺体を軽んじて扱った結果、

シンプルな「生者が死者に悪さをして死者が激おこでやってくる」という定番中の定番の話である。

それでもこんなに怖いのは、恐らく強烈な「せんべい」のヴィジュアルと、そしてそれを軽んじて使った警官の行為の残酷さ。こんなんたたらられて当たり前だろ常考

あとやっぱり「玄関前に女性の死者が立つ」というのは定番の定番だけれども何度読んでも怖いわねヨシ!

 

我妻俊樹「地獄の声」p.36:霊感がある男の子曰く、葬式中の家の前を通ると・・・

皆さんは、怪談にこの言葉はいると絶対アカン!みたいなのあります?

僕はあります。

まさしく「地獄」。

なのでネット怪談「残念ですがあなたの娘さんは地獄に落ちました」を初めて読んだ時はもう震えて震えて夜も眠れませんでした。そのことを、思い出した。怖い。ヨシ!

 

黒史郎クロッキー」pp.40-41:美術部の新顧問、生田は非常にムカつく奴だから、

高校が舞台の怪談。なかなか怖かった。

誰がやったのか、もそうだし、最後の一行もそうだし・・・でもまぁ呪われて、当たり前といえば当たり前なわけで・・・。

ぞわっ!とスカっ!が同時。なんともいえない後味。ヨシ!

 

黒木あるじ「かたる」pp.46-47:バスで盗み聞きした親子の会話。

その会話内容もさることながら、何となく最後のその二人が「市役所前」というのも厭。恐らく身なりも汚くて、きっと子供・・・いや息子は若干知恵遅れな部分もあるんだろうと想像してしまう・・・厭。つじつまがトンと合わない会話内容とバッドエンドも・・・厭。ヨシ!

 

黒木あるじ「わらう」pp.48-49:旦那の鼠色の背広を、今後の再就職に備えてクリーニング店に出す。

旦那は恐らく鬱で会社も辞めたんだろうが・・・その原因と思われる背広のしみと、そして妻のクリーニング店での行動・・・。まぁ呪われÞんのかな。しらないうちにげらげら笑うのも実話怪談によくあるパターンですがまぁ普通に怖いよね、ヨシ!

 

丸山政也「相性占い」p.53:電卓を使った相性占い。でも初恋の人との相性は・・・

最後、バッドエンドが待っているものかと思いきや、切ない一行に不意に胸をきゅっと掴まれた。実話怪談より、ショートショートみたい。だけど好き。ヨシ!

 

我妻俊樹「縁起の悪い写真」p.54:3人の娘の写真を撮ったが・・・。

その写真の不気味さ、そして写真を破棄しようとした妻の末路も怖いけれども、最後の一行、その実話を語ったFさんの様子が一番怖い。その写真を撮る前からそうだったそれとも写真を撮ってから変わってしまったのかそもそもなんでそういう話をへらへら出来てしまうのか。知らない内にゲラゲラ笑うのはやっぱり怖いね実話怪談パート2。

不可思議な現象が起きているにもかかわらず最後は「ヒトコワ」で着地するのがヨシ!

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220221235244j:plain

 

 

つくね乱蔵「ベランダと息子」p.55:落ち着きがない息子。ふいに静かになったと思うと・・・

なんともいえない余韻がじいんとした一遍。

繰り返しベランダを乗り越えようとする息子は幽霊かそれとも主人公の後悔の念が作る幻か。何回やってもやりきれない後悔というものを、「後悔」という言葉一切使わず叙情的に記しているヨシ!

 

平山夢明「かくれんぼ」pp.62-63:ベッドの下を見ると・・・人の顔!と思ったがよく見ると・・・

理不尽に降りかかる怪異に対する恐怖もそうだけれども、その怪異自体の謎が強烈にインパクトを残す一遍。

大抵こういうのって、帰宅して一週間後ケガするのが定石じゃないの?と思うがそれを超える不気味な旅の「おみやげ」、ヨシ!

 

我妻俊樹「八年前のバイト」p.64:八年前の一か月だけのバイトですごい怖い目に遭ったことは覚えているが具体的に何か思い出せない。

怖い。何が起こったのか一切分からない、というのが余計に怖さを助長させる。江戸時代での「牛の首」ってきっとこういう感じの怖さだったのだろうな。

でもそれを間違いなく自分が経験していて、そして「八年前」・・・2013年・・・微妙に思い出せそうで思い出せないような年代、というところがリアル。ヨシ!

 

我妻俊樹「きつねの面」p.80:娘がきつねのお面を怖がるから目隠しをしてあげる。

ヌルヌルスピーディに読めてすっと怖い。お、これは平山さんちの夢ちゃんか?と思ったら、我妻さんちの俊樹ちゃんだった。

怪異自体よりかは、文章の巧さ・スピードに息を呑む。ヨシ!

 

真白圭「ドメスティック」p.85:毎日悪態をつくサラリーマンがいる。

サラリーマン自体の正体が謎と言うのも怖いけれども毎晩違うおうちに来るのも地味に嫌だ。だって僕んちも来るかもしれないってことでしょ?ましてやこんなん来たらいいこと数か月なさそうやんけ・・・座敷童はありがたがられるけど座敷リーマンはちょっと・・・ドメスティックエヌジーで。あと自分にだけ見えるっていつか気づかれそう。ヨシ!

 

丸山政也「五月人形」pp.92-93:生まれた息子に父親が五月人形を買った。置いているところが高いので、白い布をかぶせる。

亡くなった親に知らない内に酷いことをしている。ていうのはなかなか恐ろしいものである。僕と妹のひな人形も生まれた時の祖母ちゃんが買ってくれたとても高いやつでまぁとても高いやつだから未だに毎年出されるんだけれどもその顔がよく見ると祖母になってたらとかそう思うと怖い。リカちゃん人形とかブライスの顔は変わらなそうだ絵けど同じ日本製だからか日本人形系の顔はいつ家族の顔に変わってもおかしくない、ヨシ!!

 

伊計翼「気のせい」p.105:夜に洗濯物を取り込む。

僕も結構な頻度で洗濯ものを夜に取り込むこと多いので、まさしくいつ同じ目に遭ってもおかしくなくて怖い。凄く身近に感じたさらっとした一篇、ヨシ!

 

神薫「お迎え」p.109:タワーマンションの最上階で聞こえるサイレン。

あれ?そういえば・・・からの急速な展開にぐっと心を掴まれた。

にしても、お迎えがサイレンで来るのは・・・ちょっとリアルで嫌、ヨシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

ひらやまゆめあき「ようぶん」p.111:しょうじょはふたりてをつないでとびおりる。ひとりだったらくさらない。ふたりだから腐ったんだね、おはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神薫「こっくりさん」pp.130-131:親友と、通りすがりの正木さんと3人でやる。

怪異自体、よりかは、その後ずっと主人公の心の奥底で引きずっているぐろぐろとしたものが怖い一編。

ちょっとした出来心で自分はもしかしたら人を殺してしまったのではないか。

死ぬまで苦しむ。やっぱりこっくりさんなんてやるもんじゃないね、ヨシ!

 

我妻俊樹「霊カフェ」p.142:都内のあるおしゃれなカフェでは・・・

猫カフェ」との比較が面白い一編。猫カフェも霊カフェもいまんとこいったことねぇヨシ!

 

我妻俊樹「小仏」p.148:臭い家族連れが入って来た。

今まで見たことも聞いたこともない怪異だから強く印象に残った。

こういう、仏さんとかお地蔵さんとか、所謂「神聖なモノ」が怖い表情している系はギャップも相まって怖いよね、あとなんとなく舞台は「台湾料理屋なのかな」と思った。鍋とかに小仏入ってそう。しらんけど、ヨシ!

 

真白圭「キルケゴール」p.160

「きっと死んでから、物置小屋に囚われてしまったんだね」p.160

じゃあ貴方は。

全然関係ないんですが、これ読んでふと気になってキルケゴールについて調べたらなかなか面白いこと言ってますね。死に至る病』難しそうだけど読んでみようかなヨシ!

 

川奈まり子「赤いレシピ」p.161:自身のクラウドに身の覚えのないレシピが混入するようになった。

一見害がなさそうでさらっとした分なんだか余計に不気味で怖い。相手は人なのか何なのか狙いは一体何なのか。

所謂「クックパッド」を下敷きにした実話だと思うんですけど、僕もそのサイト時々使う分身近に感じられるところもポイントが高い。ヨシ!

 

つくね乱蔵「見終えるまで待って」p.163:スマートフォンを拾った。

落とした主がどこかで見ているということだろうか?おばけ系も、ヒトコワも1ページで我儘に詰め込む贅沢さ、ヨシ!

 

我妻俊樹「GS」p.171:

ガソリンスタンドでトイレを借りて出てきたら自分の車がない。p.171

ありそうでなかった、ギリギリの線を上手くすり抜けた、GS・・・ガソリンスタンドの怪談。たまらない。怖さがほとんど感じられないのも逆に、とっても、ヨシ!

 

川奈まり子「俺の五進法」p.183:五年毎に誕生日にけがをする。しかも回を重ねるごとに酷くなっていく・・・。

いつか最期、5の倍数の誕生日に惨たらしい死を予感させるところがヨシ!

しかもそこはさほど本人が気にしていないのもヨシ!

不惑の年というが、40にもなると己の命よりも大切なモノが出来るのだろうか・・・あと12年・・・。

 

真白圭「タイヤ」p.184:自転車のタイヤにぎっしり詰まっていたものは・・・。

怖い、というよりはちょっと好きな一篇。

ちょっとした怪異だが、まったくもって謎、というのが良い。その謎自体も今まで聞いたことがないような新鮮味のある謎、というのも良いし、何なら僕の身の回りで起こってもおかしくなさそう、っていうのも良い。ヨシ!

 

我妻俊樹「さびしい」p.186:

僕もさびしい。(28歳独身・フリーター一人暮らし・喪女

 

平山夢明「絆」p.198:家族が漁に出ている間に、妻は事故に遭い生死の境を彷徨う。

昔ばなし的要素があるのが印象的な一遍。

漁師周辺の話は、江戸時代とか明治時代とか、そういう昔ながらの・・蟲師的な、独特なノスタルジックも含んでいるところが多くて嫌いじゃない。ヨシ!

 

つくね乱蔵「守らず」p.199:病弱な少女のランドセルにはたくさんのお守りがぶら下がっている。

「女手一つでずっと育ててきてくれた母親が病に伏せ、死ぬ間際にお守りをくれた。肩身となるそれを、後日だめとは分かりながらも中身を空けると・・・「早く死ね」という言葉が書かれていた」という著名な怪談の亜種的実話。

ただそこに、「お守り」という小道具がさらに不気味さ後味の悪さを加速させている。「お守り」は、実話怪談におけるマキシマム(中村食品)!!ヨシ!

 

神薫「モフモフ」p.204:トイレから戻ると、しつけていたはずの犬が作りかけのおかずをガフガフ食べていた!!

最後の二行のワンちゃんが物凄く可愛い。めちゃくちゃ可愛い。あと実話怪談に出てくる犬の死亡率は8割以上の中、この犬は無事に生きててよかったなぁと思いました。ヨシ!

 

丸山政也「憂鬱の理由」pp.206-207:Yさんの家系では代々亡くなった者が50年毎に生まれ変わる。そして前世と同じ死因で死ぬ。

呪い自体の魅力もさながら、僕もYさんだったら憂鬱どころがもう鬱確定です。生まれた時から自分の死因が分かるというのはなかなかに厭。ヨシ!

 

つくね乱蔵「台所に立つ」p.217:結婚記念日、台所に亡き妻の後ろ姿を見つけるが・・・。

「生前親しんでいた人が会いに来てくれた灯と思ったら悪霊だったで」は今では定石ではありますが何回読んでも僕は怖いです。まぁだから定石なんでしょうけど。

この流れの源泉となる作品・「世にも奇妙な物語」シリーズの「おばあちゃん」の脚本家を絶対に赦すな。ヨシ!

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220221234702j:plain



 

集計

我妻俊樹 8話

つくね乱蔵 6話

神薫 4話

丸山政也 3話

平山夢明 3話

真白圭 3話

川奈まり子 2話

黒木あるじ 2話

黒史郎 1話

伊計翼 1話

 

無論集めた怪談の数に偏りがあるのは承知であるが、今作では特に我妻俊樹氏の集めた実話が強いインパクトを残した、という結果になった。

我妻氏の怪談は得体のしれないものが多く、その謎が妙に心に引っかかる。また文章も巧く詩的なものだから、それがなおさらじぃん・・・と尾を引くことが多い。

高校時代に読んでいた「てのひら怪談」時代は、その詩的表現が多用されるがあまり、怪談よりかはただの散文のような気がしてあまり好きではなかったが、実話怪談ではその著者の個性が良い塩梅になる。彼の単著読もう。

他に多く上がったのはつくね乱蔵氏。非常にキャッチーな怪談が多い印象。「恨み」「祟り」要素のある実話が多い印象。つくね食べたくなってきた。

あと・・・神薫氏。女性、ということもあって神氏の作品はなんか他とは違うんですよね。例えば「ちだまり」と題をつけるセンスであるとか、登場人物の心情の機微の描き方であるとか。

でも一番好きな話は・・・て聞かれると、本書は圧倒的、平山夢明先生の「養分」p.111。幻想的というか報われないというか。

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220221234712j:plain

 

 

以上である。

今回も滅茶苦茶楽しく読ませてもらった。瞬殺怪談。

また「ああ・・・もう僕はどん底だ・・・同世代の中でもどん底だ・・・クソだ・・・」になったら読んで、どんどん登場人物に対してマウントしかけて幸福度挙げて行こうと思う。

 

***

 

LINKS

昨日から、カテゴリ「実話怪談系」はじめました。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

f:id:tunatunarice_03:20220221235146j:plain