小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

つくね乱蔵『恐怖箱 厭熟』-時代は全裸。-

 

 

 

厭な実話怪談集、なんだけれどもどんどんおもしろくなっている・・・気がするのは気のせいですかね?いや、厭なんだけれども。いや、厭なんだけれどもって日本語もさ、おかしーんだけどさ。

 

 

つくね乱蔵『恐怖箱 厭熟』(竹書房 2021年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【概要】

家や土地の祟りから、悪行の報いとして受けた呪いまで、底冷えのする恐怖実話がずらり。

押し入れから属象と出ルミぼ絵のないゴミ。最後にみつけた木箱の中を見た途端、すべての記憶がよみがえる・・・「紗耶香様」

パワハラで辞めた社員らが結成する上司を呪い殺す会、その成果は・・・「団体交渉」

夜中に聴こえる赤ん坊の声。出所は背中の彫り物・・・「入れ墨」

藁人形の始末を任された集落の家。怠ると何が・・・「ヒトカタ供養」

屋根裏に座敷牢のあった家の跡地に建つマンション。事情を知る近隣住民は・・・「生贄マンション」

熟しきった怨念が放つまやかしの甘き芳香。戦慄の全38篇!

 

【読むべき人】

・端正な文章の実話怪談を望む人

・厭な怪談読みたい人

・スタンダードな実話怪談(ただし上質)が読みたい人

 

 

 

 

【感想】

何となく読みやすい。文章がするすると頭に入っていく気がする。

となると、見た目が美しいともいえる。

ところが、書いてある内容は腐る寸前の毒に満ちた者ばかりだ。

読めば読むほど、身体に厭な栄養が蓄積されていく。p.4

と、前書きにもあるように、3冊目のつくね乱蔵の単著はページを繰る手が止まらない。

平山夢明教祖の叙情さ、福澤徹三氏の叙事さの間をいくようなスタンダード(もれなく厭な後味付き!)の実話怪談がするすると並び、するすると僕はそれを食べている。

厭な栄養、と店主は言うが問題はない。

現実の方が、厭だ。

やってらんないよ、現実なんて。

そっちの厭さに比べれば、この厭さなんて何のその。

美味しい。美味しいよ。

今更身体に悪いと言われても、やめられるものか。

ほら。早く次持って来いよ

 

疲れた時、厭なことがあった時、僕はベッドで実話怪談本を読む。

そこに凝縮されたおどろおどろしさに身がすくむ思いをしながらも、癒される。うわこわぁ。たまんねぇ。たまんねぇけどやめらんねぇ。

やめらんねぇよ。

いくら身体に悪いと言われても。

煙草と一緒さ。実話怪談は。

 

一時竹書房が「実話怪談ジャンキー」という造語を作り出していて、僕はそれを鼻で笑っていたが、今ならその意味、よく、わかる。

 

 

 

 

特に良かった話を記しておく。

順に「三角関係」「添い寝」「消滅の森」「猫とおじさん」が特にぶっ刺さった。

 

「強制減量」pp.8-12:大学卒業まで丸々太っていた女性。育ての親の一人である祖母が亡くなり、初めて自殺を考えた。

え、なんで?となる一篇。

終盤祖母の幽霊がどろどろ出てきてはくれるのだが、その行動原理が全く持って意味が不明でえ、なんで?

生前から内心、つくづく孫の体重のことを気にしていた、とか?

それとも食欲の思うがままに食べて太り続ける孫を心の底では憎んでいた、とか?

どちらにせよ、祖母がめでたく成仏していない感じがしてそれがたまらなく「厭」だ。

ただ少し残念なのは、最後が切りっぱしのために、創作臭がすることだ。いやそうはならんやろ、と言いたい。病院なり寺社なりなんかするでしょ。

 

幽体離脱」pp.30-35:同僚の三浦曰く、

「お前さ、幽体離脱って知ってるか」p.30

原因究明のため、カメラを設置し三浦の部屋に泊まり、まぁいろいろやべぇものが撮れている。結果的に三浦が引っ越す。まではもうある種実話怪談のスタンダードオブスタンダードでまぁ見当がつく。予想がつく。

だけど、そこで起きている現象が生々しくてリアルで厭だった。

特に最後の最後、クローゼットを開けた後に起きた現象は意味がわからないしどういうことなのか。死者が生者に恋をした?セーラー服着ているあたりリアル「死人の声を聴くがよい」でおっけー?

最後絶対三浦死んで終わるだろ、と思ったら引っ越しで終了してるのは、「強制減量」と違い、終盤で一気に実話性が増して良い後味だなと思った。

 

「添い寝」pp.42-46:酷い借金貸しで財を築いた祖父の死。やっとこさ死んでくれた。遺産を貰える。酒を飲み酔いに酔って、その遺体でふざけた孫(長男)は・・・。

死んでも人間は変わらない。ということなんでしょうか。

生前性根が腐っている人間は、死後も性根が腐っている。ということなのでしょうか。

死者もしくは病人って、無意識に僕達は聖人のように思っている節がある。

きっと見守っていてくれるだろう。

きっと味方になってくれているだろう。

きっと・・・きっと・・・きっと・・・。

ばーか!!!!

打ち砕く様が気持ちよい実話怪談。

そうだよな、生前悪かった奴が死後いい奴になるなんて、そんな都合のいいことありゃしねぇよな。

最後の一文が素晴らしい。

折角手にした遺産も、病院と日々の生活に消えかけている。p.46

ただ、遺産は通常なら妻子で分けられるから、この孫の母か父、もしくは祖母に相続権があるのでは?死んでいるのか離婚したのか。そもそもいないのか。そこの言及が一節でも欲しかったなぁとは思う。

 

「紗耶香様」pp.51-55:

原口さんがモーニングルーティンを始めたきっかけは、とある女優のSNSである。p,51

現象自体は結構派手なんですけど、そんな怖くないんですよ。まぁ、まぁうん。記憶にないことをしちゃうのはあるあるだよね。実話怪談界隈だと、っていう感じ。

ただモーニングルーティン。これ。

つい最近聞くようになった言葉じゃないですか。未だにスマホ、ではなく、携帯の文字を見ることが多い実話怪談界において(私の読んできた本の偏りもあるとは思いますが)、時代に順応する速さ、凄い。しかも今年じゃなく去年の著書ですからね。ぱねぇ。

ただ最後の2行は蛇足だったかなぁ・・・。

あとハイキングウォーキング卑弥呼様!!!」を思い出した・

脳内の鈴木Q太郎「紗耶香様!!!!」

 

「旅は道連れ」pp.76-80:65歳の結城さんは新型コロナの流行で職を失い、車上暮らしを始めることになるが・・・。

現代日本版★ワンピース。

長い旅、どんどん増えていく仲間。

まぁまだナミ・サンジの初期で終わっているのでこの調子でどんどんブルック・ジンベエ・コーラの野郎、あたりとはいわず、100人200人と「巨大海賊団」に成り上がっていってほしい。

結城・縺・ルフィ「豬キ賊王に、俺縺ェ繧具シ?シ?シ?シ?シ?シ!!!」

 

 

 

 

「消滅の森」pp.85-89:

森が消滅したとき、あの村が無事のままとは思えない。

なんとかしてそれを伝えたいのだが、一方通行の夢ではどうしようもない。pp.88-89

最後の二行が素晴らしいと思う。

現代版ミッドサマーか?と思うくらい、いやそれ以上の惨劇が起きている。恐怖「体験」を越えるほどの出来事が起こっている。

が、それに恐れるのではなく案外すぐに慣れてしまい、それを踏まえたうえで同級生2人の無事を祈る心理が、非常に生々しく感じられた。

そうだよな。

どんなに周囲から不幸に見えたって恐ろしく見えたってお前たちが幸せならいいんだ。

そういやって折り合いをつけたであろう主人公の心理が痛々しいほどまでに分かるし、僕も実際この主人公と同じ立場になったら、同じことを考えると思う。

 

「三角関係」pp.96-99:新築のアパートの部屋で、心霊番組の映像ごっこをやった結果。

いやぁ・・・てなった。いやいやいや・・・いやぁ・・・。

正直初めは作者側のミスか?と思った。誤植や推敲の甘さは竹書房怪談文庫のお家芸でもあるので。

そしたら予想外の所に着地した。

いやぁ・・・。うん、いやぁ・・・・。

派手に起きる怪奇現象や、夜な夜なやってくる目がないもしくは血みどろの女より、僕はこういうのが一番キッツいです。

我妻俊樹氏の実話怪談が好きなのも、こういうのが好きだからですね。なので僕と同じく我妻俊樹氏の実話怪談が好き、って言う人には絶対読んでもらいたい一話。

 

「お大事に」pp.112-115:職場のドラッグストアに新たに配属された薬剤師の倉田さんはいい人だが・・・。

よく、創作で、霊感がある主人公(少女であることが多い)を迫害するみたいな話あるじゃないですか。「地獄少女」然り。

信じられない!!霊感があるだけで、そうやって人を迫害するなんて!!!って思うじゃないですか。

でも結局僕も村人側の人間なのかもしれないな。

いざその立場になったら、迫害するかも。差別するかも。

舞台が、かつて日本全国どこにでもあった農村のように、日本全国どこにでもある薬剤師がいるドラッグストアっていうのも良いですね。

考えさせられる実話怪談。

 

「藪蛇」pp.125-129:占い師3人同時に呼び止められた。

大きい声で言いたい。

白いワンピースはもう時代遅れ。

女の幽霊は、全裸が一番怖い!!!

あと、恐らく盛っていないであろうリアル感がひしひしと感じられる規模の話しである。僕みたいな素人が書いたら全然怖くない、無難な話で終わってしまいそうな規模。

しかし、後半文章のスピードを上げることで本当に「手の付けようがない」感を読者にも感じさせることで絶望的一話に仕上げた、つくね氏の筆力が体感できる一話。

 

「団体交渉」pp.130-134:パワハラ上司に向かって団体交渉。

「先生を流産させる会」という映画がありましたが、それを思い出した。

あと最後の発想には驚いた。確かにね。なるほどね。なるほど。賢い。

 

「猫とおじさん」pp.135-140:気が弱く優しかった叔父が死んだ。一人で暮らしていたその家を片付けに来た。

お願いだから帰ってくれ。p.137

うわぁ・・・いいねぇ・・・と思う。

気が弱くて優しいだけじゃ、生きていけないんだよな。

優しいこと≒正義と僕達は教えられてきたけれども、それをばっきり折られる感じがたまんない。

優しければ報われる。

善い人であれば報われる。

そんなに現実は単純明快ではないはずで、でもそういう単純明快であってほしいからこそ、僕達は神様であるとか仏様であるとかそういう存在を今まで何千年も何万年も信じて来たのではないのか?

人間の厭なところもぎっちりん詰まっていて素晴らしかった。

あと人は何故すぐ猫の首を切ってしまうのか。

 

「入れ墨」pp.170-176:舎弟が自分より立派な入れ墨をいれてきやがった。組織で慕われていた優男は・・・。

家族仲良く。仲睦まじく。そうまるで一つになるかのように・・・といったところでしょうか。うわぁ・・・って思う。

「団体交渉」もそうでしたが、つくね氏の集めてくる話は、人は安易に死なないんですよね。死ぬ以上の厭なことが待っている。

そして、死ぬ以上の厭なことって僕達が想像する以上にバリエーションがあって数がある。一つ一つ慄いてああはなりたくないわねと思う。

業が深い一話。

つくね版「東京卍リベンジャーズ」。

 

「日々のこと」pp.182-188:25歳の娘を村に嫁がせたが・・・。

多分こういう風習って、残っているんでしょうね。現在も。全国各地で。

手紙がいまだに来るという点が非常に現実性があって怖い。ここがなければえちえち風習頂きましたクポポポポポで済んだ話なんですけども・・・。

あと小道具の使い方がうまいなぁと思った一篇。

 

 

 

 

以上である。

レベル自体がそもそも高いというのは無論、この著者は年に1回1冊のペースで単著を出していて、その順番に「厭獄」「厭還」そして「厭熟」と読んできた訳ですが、年々さらに面白く、さらに怖くなっているんですよね。

常にベストを更新し続けられるのって凄いと思う。本当に。

そのペースだとだいたい横ばいの作者が多いので・・・。

 

じゃあ、じゃあ、だけれども、非常に不謹慎極まりない話、だけれども、

既に還暦を過ぎている著者。

この先20年後30年後、死ぬ直前に書かれた一冊・・・否、絶筆で終わる単著は一体どれだけのものが読めるのだろうか。

それを期待すること自体がもう「厭」な話なんだけれども。

 

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文中に出した我妻俊樹氏の実話怪談本。一番好きな蒐集家。

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