小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

「万引き家族」-君んちの家は、形骸化していないか。絆。-


上映初日に行ってきた。

万引き家族
(監督:是枝裕和 主演:リリー・フランキー 安藤サクラ 樹木希林他 配給:ギャガ 2018年)
の話をさせて下さい。


映画館にかかっていた幕。

【あらすじ】
万引き家業一家の父・柴田治リリー・フランキー)は息子の祥太(城桧吏)との帰り道、
あるアパートの一室のベランダから顔をのぞかせる4歳の女児(佐々木みゆ)を見つける。
ゆりと名乗る少女を、
治、祥太、信代安藤サクラ)、亜紀松岡茉優)、ばばぁ初枝樹木希林)の一家は彼女をとりあえず一旦泊めるが・・・。
「盗んだのは、絆でした」(本作のキャッチコピー、公式ホームページより)

【見るべき人】
・「邦画はダメだ」と一辺倒に語りたがる人
・どこかに居場所がほしい人
松岡茉優ちゃんを正直性的な目で見ている人
※思ったより性的なシーンもあります。(PG12)
 小中学生と一緒に見るような「家族もの」ではありません。
 ピーターラビットに変えましょう。
 あれまじ面白かった。(記事はまた後日)

【感想】

えー、めっちゃ良かったー!!
すっごく!!
余韻がいつまでも長引いて長引いて・・・本当すごかった。

以下、演者(俳優、女優)、演出、ストーリーの3つの観点で感想を述べていく。

演者:★★★★★
この映画、絶対見ようと思っていた。
安藤サクラさんが出るからだ。
昨年奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガールというカオスラブコメディ映画を見たんだけれども、
水原希子ちゃんのエロかわボディもまぁガン見していたわけだけど、
同時にめっちゃくちゃな数のネコと暮らすダメ女もすごく記憶に残ったんだな。
その女を演じていたのが・・・安藤サクラさん。
ましてや今作パルムドール。アイスっぽいけどすごい賞。
行くしかないよね。

で、見に行ったあとの感想は・・・
「あー・・・・人生で初めてすきな女優さんできたかもしれない」
素晴らしかった。
冒頭の食事のシーンでゆりを「返してきなよー」とおざなりに言うところとか、
腕に刻まれたおそろいの「しるし」からゆりに対して母性を抱き始めるところとか、
クリーニング屋でバイト仲間とどっちやめるか言い合いするところとか・・・
全部。
特に終盤の留置所での表情は・・・素晴らしかった。
なんか今までの日々が一気にプレイバックして・・・もう僕涙目になっちゃたよね。
映画祭でも彼女の演技が賞賛されたようだけれど、
本作がパルムドールをとったのは終盤の彼女の演技も一因なんじゃないかな。

ちなみに見た翌日、「王様のブランチ」で彼女を生放送で見たんだけど、
作品の「荒っぽい育ちが悪い・・・けれど決して悪い奴じゃない頼れる姉御肌」みたいな感じではなく・・
むしろ品があってちょっとおとなしくてでもがあって、
とにかくすごい素敵な女性だったわけですよ!!
別人みたい!!

でも奥田民生になりたい以下略」の時のネコ女とも全然違ってて・・・!
こんなにも作品で顔を変えられるんだと、
僕は唖然とした。
感動した。

勿論今作は他の演者も素晴らしい。
特にやっぱりメインの万引き家族5人。
治役・リリー・フランキーさんはやっぱり冒頭のシーンからもう半端なかった。
本当に競馬場とか工事のとことかそこらへんにいそうな感じのおじさんを演じていたいや、になっていた。
中盤以降ところどころ祥太に見せる媚びを売るような笑みとかたまんなかった。
でもゲスでクズなのにすごく家族思いなところが憎めなくて魅力的。
その分最後の・・諦めたシーンは・・・家族のあり方を考えさせられたな。ニートだけど。
そしてばばぁ初枝役・樹木希林さん。
大女優。演技がもう本当凄い。
表情筋から歩き方から体の使い方から髪型からすべてすべてばばぁ初枝だった。
特に家庭訪問のシーンは笑っちゃった。即数えてんじゃねーか。
祥太役・城桧吏君とゆり役・佐々木みゆちゃん。
城君はある意味この作品の主人公でもあるわけだけど、
序盤のコロッケを食べるシーンから見いちゃった。
多分本当に「美味しい」って思ったんだろうし、
万引きを注意されたときも本当に「まずいな」って思ったんだろうね。
子役ならではの純粋な演技を120%くらい演じ切ってたな。
それは佐々木みゆちゃんも同様。
彼女AmazonのCMの小麦アレルギーの娘とは聞いてたんだけど、
本作では全く違う役柄で・・・良かったな。
芦田愛菜ちゃんの再来といっても過言ではない気がする。
ちなみに、リリー・フランキーさんが王様のブランチで
「撮影終わるたびにちょっとおしゃれな服きて親と一緒に帰っていくの、なんか辛かったな」
と言ってたけど、うわー・・・めっちゃわかるわー・・・。

亜紀役・松岡茉優ちゃん。
序盤なんかこの子だけ浮いてんな、と思ってた。
やっぱ若手女優のレベルなんてそこまでなんかなー・・・て思ってたんだけど、
そこが伏線回収されたときはちょっと驚いた。
あと・・・思ったより身体はってて「おおお・・・」となった。
おおお・・・・。
おお・・・。
女優さんや・・・。
でも、数多く顔の整った女優さんは数いれど、
こういう所謂地面に顔がひっついているようなリアル感を出せる女優って案外いないんじゃないかな。
彼女の初主演映画・「勝手に震えてろ」、借りてみよっかなー・・・。

家族以外で心掴まれたのは
4番さん役の池松壮亮さん。
登場シーンはネタバレになるので言えないのだけれど、
どうしたらいいのかわからないといった顔が印象的だった。

役者については以上・・・なんだけど、今作を見て一つわかったことがある。
「演技がうまいなー」って本作見てるとき僕全然思わなかったんですよ。
入り込んでたから。
でも話の余韻はじーんじん鑑賞後尾を引いていたわけ。
本当に演技が巧い俳優、ていうのは「演じる」ことを感じさせない人なんだなって。
ていうかもうその人になってるていうかなんというか。
伝われ!!


王様のブランチに出ていた安藤さんが素敵すぎたから描いてみた。

演出:★★★★★
是枝監督は、ドキュメンタリー番組制作を昔やっていたそうな。
なるほどって思った。
だってこの映画、映画というよりはドキュメンタリーに近いなって思ったから。

今作は、ドキュメンタリーと同じ手法で登場人物の生活を撮っている。
リリー・フランキー安藤サクラ樹木希林を録ってるんじゃない。
治、信代、初枝を録っている。
3人に加えて、松岡茉優、城君みゆちゃんを録ってるんじゃない。
治を大黒柱棒に据えた、5人家族を録っている。
ドキュメンタリーの手法で。


だからこんなに生々しくてリアルで胸に迫るのかなと思った。

邦画。
僕も時々見るし、面白いものもあったり面白くないものもたまにはあったりするんだけど・・・
俳優の演技を録っている、て感じがするときがある。
涙浮かべて叫んでいる顔を録っている。
「ふふっ」と笑う美少女女優の顔を録っている。
「馬鹿者!!」と叫んでダイニングを叩く俳優を録っている。

けれど今作は違う。
治を撮っている。
治とその一家を撮っている。
治とその一家をドキュメンタリーの視線で終始見つめている。

実際、「王様のブランチ」のインタビューでリリーさんが
「撮影してる時もしてない時も変わらない」と言っていたくらい本作は良い雰囲気で進んでいた様子。
みんな仲良く、楽しんで撮影していたらしい。
その関係をも含めて、今作は撮っていたんじゃないかな。
だから一家の絆は演技めいたものではない。
一緒にいることを楽しんでいる5人の空気は本物で、
本物だからこそ、視聴者の心を撃ったんじゃないのか。

こういった独自の目は絶対「ドキュメンタリー番組制作」という仕事が無ければ撮れなかったと思うし、
逆に、
ここまで一貫してドキュメンタリーの眼で撮った映画が世界的にもないからこそ、
ストーリーが胸に迫り、
僕等の眼は画面にくぎ付けになり、
今作はパルムドール受賞に至ったんだろう。

また、冒頭早速「万引き」からはじまるシーン、
万引き前に手で行う儀式があるシーンもぐっときたな。
前者は今作のストーリーをバーンとわかりやすく示していたのと、
あと「万引き」
バレないか不安で目をかいくぐってどうやって盗むのか。
初っ端から観客を映画に惹きつけるのに格好の題材。
後者は本作にうまく機能していた。
これから万引きをすることがすぐ分かるし、
実際にはスパ!スパッ!と瞬発的に終わる万引きだけれど、
手を動かすことで、
その時の登場人物の気持ちを考慮する時間を観客に与える。
父と子の絆を象徴するかのようなその手の動きは、
ぶっちゃけ帰ってから、
24のニートがひとりでにやにや何回もやっております。

ストーリー:★★★★★
10年構想をかけた・・・と監督はおっしゃていたけれど、その年月を感じさせる。
ちょっと・・・ぐっときてしまった。

今作は起承転結がどれも丁寧に描かれた作品。
起承にかけては家族の日々が描かれている。
はくさいを入れた雑な鍋(でも仲良く食べる)等の食卓
ばばぁと亜紀が和菓子を食べに行くデート
信代とゆりの入浴、そして×××
万引きだけでは暮らせない・・・それぞれのなど
彼らの「暮らし」が徹底して描かれている。
特に承の終盤における海のシーンは良かった。
多分演じてる演じてない関係なく本当に楽しかったんじゃないかな。
それを見て本当に彼女は幸せだったんじゃないか。

そして突然がる。
ここはネタバレになるので詳しくは言えないが・・・ちょっと僕は泣いた。
同時にやはりこの家族は万引き家族なんだと知る。
この時の祥太の気持ちが痛いほどわかる。
このままがいい。
でもこのままじゃだめなんだ。
痛いほど共感したのは、起承で家族の日常を丁寧に描き続けたから。

そして
完全ネタバレになるから言えないが・・・、
家族のその後が描かれる。
ここでちゅどーんと1エピソードを持ってきて、
最後にがっつり尺をとっているのが良かった。
深い余韻が残る。
・・・・最後まで呼べなかった。
そして覗いた先にいるのか・・・いないのか。
「盗んだのは、絆でした」

案外こういった起承転結ががっつりとられてる邦画はない気がする。
特に「結」おざなりな作品が多い。
観客の想像にお任せする部分が多い、多すぎる。
今作は違う。最後も丁寧に結んでいて良かった。
まぁ想像の余地残すには残しているが、余韻を残すという目的があるから僕的にはあり。

そして題材。
今作は家族を描いた作品である。
万引き、不正受給、××等々犯罪を犯し続ける彼等はそれでも万引き「家族」だった。
今作に出てくる他の家族よりも、家族だった。
血の繋がりがなくても家族になれるんだなー・・・とも思ったり。
同時に「裕福」「美しい母・イケメンの父」
一般的に好印象を与えるような修飾語があるからといって、
きちんと家族であるとは限らない。
幸福そうに見える家族でも、
案外「家族」という言葉の下集まった、一つの集合体にすぎないのかもしれない。
40代男性、40代女性、10歳男児、8歳女児等のように年齢が違う人達が一緒にいるだけの集合体。
お前の家族における絆・・・なんて
の文字が連続するにすぎない、意味が伴っていない言葉になっていないか。
家族の形骸化に監督は警鐘を鳴らしている。

以上になる。
めっちゃくちゃ長くなってしまった。
でもそれくらい僕的にぐっときた作品なのである。
うむ。
次は・・そーだな。
安藤サクラさん主演の映画であるとか、
松岡茉優ちゃん初主演映画勝手にふるえてろ
是枝監督の作品「そして、父になる」とかとか見てみよっかな。

時々聞かれて困る質問があった。
「好きな映画は?」
今の僕なら、安心して答えられる。
万引き家族・・・かな(暗黒微笑)」