小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス3-4』-SFは侵食する。SFは侵食する。-

 

 

 

ジェネリックなのは、

ヒロインだけじゃなかった説。

 

 

 

 

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス3-4』(集英社 2020-2021年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

過去の自分を思い出せない。

ノスタルジー溢れるディストピア、九龍城塞で徐々に自分の謎に気づき始め、動揺する鯨井にはじまりの日である。と告げる楊明。

秘やかに紡がれていく友情とくどうへの恋愛感情・・・。

美容外科界の風雲児、蛇沼も登場しついに物語は動き出すーーー。

哀愁もまた愛おしく理想的なラヴロマンスを貴方にーーー。

 

3巻裏表紙より

 

グエン「まるで仲間との大切な思い出を 何処の誰ともわからない部外者に土足で踏み荒らされてる気分だ。」p.109

 

 

【読むべき人】

・台湾、九龍、中国のあの雰囲気が好きな人

・SF好き

ノイタミナ好き:ぜってーこの枠かネットフリックス下でアニメ化かドラマ化すると思うね。ぼかぁ

 

 

感想】

こだわりをいっぱいたくさんふんだんに、絡み合わせているにも関わらず、一回開くとすぐ読んじゃうでお馴染み「九龍ジェネリックロマンス」。

3-4巻も2冊まとめて近くの貸漫画屋で借りて、読みました。

物語は予想外の方向へどんどん進んでいく。

ラブロマンスに侵食するSFはもう止まらない。

 

そう、3-4巻読んで思ったのは想像以上に物語がSFSFしてきたということ。

鯨井・クローン説から始まるまさかの九龍全体★クローン説。

そこに絡みこむ蛇沼の悪巧み・・・。

 そう来るかと思った。

正直3-4巻は新キャラがどんどん増えて九龍でどったんばったんラブコメして、物語が進むのは中盤(巻数でいうなら7-8くらい)と思っていましたが・・・。想像以上のスピードで物語は進行し、SFは、侵食する。

うーん。どうなんでしょうね。

僕はもうちょっと九龍で平和でちゃらんぽらんな日々を見たかった気もするんですが・・・。でも序盤丁寧に丁寧にやってる漫画て完結しないことが多いからね。表現にこだわりつつも物語は常にアクセル全開の今の方が良いのかもしれない。

そしてこの物語が完結した後・・・21世紀後半22世紀23世紀・・恐らく連載中よりも長い未来のことを考えると、本書は絶対20巻そこそこでダラダラするよりも、10巻前後で完結した方が「名作」として名を残すことが出来ると思うんですよ。

でもなぁ・・・もうちょっと工藤と鯨井Bのいちゃいちゃ見たかった。スピンオフとかやってくれないかしら。

 

あと新キャラとかね、見たかったけど、多分安易に新キャラを出さないようにしていらっしゃるんでしょうね。そこは非常に評価できる。ANTIKBTIT..

キャラといえば・・・蛇沼。まさかのイケメンキャラへシフトチェンジ。おい!!!ってなった。おい!!!!なんだおめー、しかもナチュラルにBLしてんじゃねーぞ。

まさかさ、そのまあ・・・1-2巻まで読んで、蛇沼×グエンのアベック(アベックではない)が成立するとは思わないよね。しかもちょーラブラブだし。

そしてこの2人見てて思うのは・・・ノイタミナいや、BANANAFISH(アニメ)感パねえ!!!スタイリッシュなBL令和にぶちかましてんじゃねーぞこんちくしょう!!ちょっと萌えちまったじゃねぇか!!

 

 

 

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・・・各巻感想を書いていく。

名台詞が多いのと、素晴らしい演出は1-2巻そのままですね。好き。

あと思ったけど、もしかして「九龍(クーロン)」と「クローン」って、かかってる??

 

 

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3巻。

鯨井B「私が思うに”懐かしい”とは・・・「この胸に閉じ込めたい」ってことなんじゃないかしら

だから恋と同じなの」pp.16-18

この1冊において圧倒的に素晴らしかったのは、この1番目・2番目にあたる第18話と第19話の組み合わせ!!!鯨井Bの部屋と鯨井Aの部屋回を並べて比較することで2人の相違点と共通点を浮き彫りにする漫画力。

んんん~~~~!!!になった。んんん~~~!!!!!ほらよく、バラエティとかで女性アナウンサーがパフェとかに舌鼓うつと「んんん~~~~!!!!」になるじゃないですか。あれになりました。んんん~~~~~!!!んん!!!!!!!!

第18話は上記の台詞を言う鯨井Bが最高に格好いいんですよ。こりゃ好きになるわ工藤!!でもお前だけのもんじゃねーぞ!!!!

そして第19話は工藤「んじゃお疲れさん・・・」p.34から始まる、p.35の一瞬の、数秒の間の表現がたまらなく好き。

 

ここの配置が完璧すぎて3巻後半マジ覚えてない。

蛇沼がいきなり全裸になって美青年のケツ撫で始めたのは覚えている。

グエン「・・・みゆきちゃんは何を目指しているの?」

蛇沼「絶対であること。”完全”なんてこの世にないから絶対なんですよ」

pp.154-155 一部省略

この”完全”ではなく”絶対”は今後物語の根幹に関わってきそう。

 

鯨井Aは・・・、鯨井Bの”完全”ではないが、工藤への想いは”絶対”。

向日葵の花言葉

楊明「”あなただけを見つめてる”」p.57

一面に咲き乱れた向日葵。だけれども、”あなた”は誰だ。

鯨井Aが「工藤」だけを見つめてる、ように、

工藤は「鯨井B」だけを見つめてる・・・。

 

鯨井A「錯覚?

錯覚で人を目で追いますか?自分を認めて欲しいと思いますか?胸がつまったりしますか?

ただの錯覚で触れてほしいなんて思いますか・・・!?」

pp.128-134

 

ああ・・・・嘘。

 

初めの二話が一番好きみたいな事のたまいましたけれども、この絶対的片想いが交錯する第24話が一番好きかもしれないです。

 

 

 

 

 

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4巻。

鯨井B「「工藤君って年上に可愛がられるタイプよね」って私言ったの、覚えてる?」p.17

これから毎巻冒頭は鯨井B回掲載されるんでしょうか。この巻も鯨井Bから始まります。

鯨井Bもこれまたいい女なんですよね。地味に見えて地味じゃない。余裕がある。九龍を愛している。懐かしいが極まった女。鯨井令子・・・A。滅茶苦茶いい女、せやかて工藤・・・後半言っていたことは本当か?お前・・・。

 

蛇沼「クローンはホクロは再現されません。」p.22

せやかて蛇沼本当か?お前・・・じゃあ鯨井Bは「何」なのか。

 

工藤の下の名前は「発」と書いてはじめ、と読みます。

要するに工藤以外の存在は総て「はじめ」では、ない?

この九龍の存在自体がクローンもしくは誰かの走馬灯?

ねぇ、空に浮かぶ物体の正体は。

謎は深まり物語は加速し急進的速度で九龍を侵食するSF。

 

楊明「世の中には「フェイクは所詮フェイクだ」って言う人が沢山いるけど、私みたいに偽物の輝きに本物の輝きを感じる人間もいるってこと、忘れないでね」pp.35-37

アイデンティティ揺らがされっぱなしの鯨井Aの唯一の味方・・・楊明と、鯨井Bのアップで構成されたこの2ページは滅茶苦茶素晴らしいですね。大きく掲載されることで距離の近さも実感できる。眉月先生の表現力極まる演出とも言えるでしょう。

楊明「そんなのまるで・・・・鯨井Bに縛られてるみたいじゃん・・・」p.78

 

あとpp.74-75の鯨井Aと工藤の横顔が掲載されてる2ページも。ドア一枚で隔てられてる。近くて限りなく遠い。遠くて、限りなく近い。

鯨井Bの死後鯨井Aという女に惚れていることを工藤が認めればそれで済む話なんですけど、鯨井Bと鯨井Aが全く同じ姿だからこそどうしようもないんですよね。

いや、それだけじゃない。

工藤「鯨井令子は、俺が殺したんだよ」pp154-155

殺してしまった恋人なら尚更・・・。

はかりしれない。恋人を殺したことはおろか作ったこともないので・・・。

鯨井A「私だけが知っている工藤さんの顔ー・・・」p.172

そして狂気戸惑い困惑で泣きそうにすら見える工藤の顔を見て興奮する鯨井Aも狂っていていいですね。今まで少女漫画よろしく純粋無垢に駆動追いかけていた彼女の「僕(読者)だけが知っている鯨井Aの顔ー・・・」最高です。

良い恋愛は頭狂ってないとできないからね。

 

中盤の鯨井と工藤のシーンも素晴らしかった。

鯨井A「ジェネテラが輝いて見えるのは期待しているから。みんなジェネリックテラに期待してるから、きっと光り輝いて、魅力的に見えるんだと思います。」pp.114-115

変換できますね。

鯨井Aが輝いて見えるのは期待しているから。みんな鯨井Aに期待してるから、きっと光り輝いて、魅力的に見えるんだと思います。

クローンであろうが何であろうが鯨井Aは鯨井Aであり、

楊明も小黒も蛇沼もグエンも読者も眉月先生もそして・・・工藤も鯨井Aに期待しているから、こんなに彼女はキラキラしていて美しい。

そして謎と混沌極まる九龍に浮かぶ謎の物体・ジェネテラの正体・・・絶対意味あると思うんですよね。眉月先生が無意味に新キャラ出さないあたり、あれは無意味にある訳じゃない。雰囲気の演出だけじゃない。物語の中心に位置しているモノ…だと僕は推測するのですが。

 

グエン「この九龍はオレの知ってる九龍じゃない」p.84

グエンと蛇沼のアベックは警官よろしくこの物語の舞台九龍の真髄に迫っていく。蛇沼は天才外科医とのことですが、僕は本業は探偵なのではないかと思っております。

あとナチュラルに蛇沼の背景に配置される花は笑っちゃう。この2人は1999年台後半-2000年代初頭のBL感プンプンで、この2人の存在こそ僕の「懐かしい」を一番かき乱す。まぁBL読んだことないんですけど。

 

 

工藤「本当、この夏の九龍はどうかしてるぜ。」p.118

 

 

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以上である。

結構物語がぐいぐい進んでくれるから翻弄されてしまった感がある。

某アマゾンサイトを見ると、やっぱ賛否両論みたいですね。★5つ評価が多い中で、前作のようにもっと片想いしているラブ部分を見たかったという声も結構見られる。

後者の読者の声を拾うには、やっぱりスピンオフしかないと思うんですよね。

一旦本編打ち切って、まるまる一冊分いちゃいちゃスピンオフ挟めばみんな大満足すると思うのですが・・・どうでしょう。でもやっぱり掲載誌が週刊誌だから厳しいかな・・・。

 

いやはや。でも5巻は楽しみですね。スラスラ読めちゃうのと先気になって仕方ないからまた6巻出たら2冊単位で読もうかな。

 

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LINKS

1-2巻の感想。

 

tunabook03.hatenablog.com