小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

清水玲子『秘密 トップシークレット 1』-それはある種国家機密より重要な。-

 

 

 

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知っているのは大統領の「脳」だけなんだ p.19

 

 

 

 

 

 

 

清水玲子『秘密 トップシークレット 1』(白泉社 2001年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

最高傑作、豪華完全版!

大統領殺害の真相は、生前の右脳が見た映像を再現するMRIスキャナーを使った捜査により白日の元に曝された。

それから5年後、日本の犯罪史上類を見ない連続殺人事件と相次ぐ少年の自殺とを結ぶ衝撃の事実が、MRI捜査によって明らかになった!

 

プロローグとして、花とゆめコミックス「WILD CATS」収録の『秘密ートップ・シークレット」も収録、シリーズが全て読める、号アッカラー付きワイド版!

 

帯より

 

MRIスキャナーにかけ生前と同じ状態に保ち一定の電気刺激を与え脳を120%働かせそうしてあなたが生前に「見て」いた映像をスクリーンに映し出すーp.81

 

 

【読むべき人】

・SF好き

・「面白い少女漫画」を求めている人

・BLよりかはBL「風味」の関係性に惹かれる人

 

【感想】

こいつぁ・・・凄いやぁ・・・。

アパートの近くにある貸しコミック屋さんで借りた。

「これは凄いと思ったけどね」

そこにはいつもおばあさんがいるのだが、そのおばあさんが教えてくれた一冊。

以前勧めてくれた不思議な少年バチバチバチバチだったので「そうなんですね!」と何も考えず借りた。

確かにこれは・・・凄いやあ・・・。

 

というのもまず設定からして凄い。

死者の脳が生前最後ギリギリに見た記憶を科学的な技術で再現して、それをモニターで見て、現地行って捜査をして、犯人を捕まえる。という設定である。

凄い。何をしていたらこんなこと考えつくんだろ。犯人未逮捕の未解決事件とか今までインターネットである程度見たり聞いたりしたけれど・・・死者の脳からそれを見つけるなんて全く考えたこともなかった。かすりもしなかった。

多分作者は少女漫画家だけれども、少女漫画だけ読んできた訳じゃないんだろうなぁ・・・。多分ぶっといSF小説とか読んでそう。「1984年」「電気羊はアンドロイドの夢を見るか?」。

くわえて、常に絶え間なく考えていそう。ニュースを聞けば「何故それが起こったのか」。映画を見れば「何故監督はこういう作品を撮ったのか」。科学技術が実現すれば「一体これは如何様な仕組みで成立しているのか」。

私がこういう事を考えるようになったのは数年前小学生の男の子が学校の校庭で殺されて容疑者の少年が飛び降り自殺をして真相は闇の中・・・となってしまった事件がきっかけですp.214

聞いただけでゾクゾクする設定。おばあさんが薦める理由もわかる。

 

そこで非常に若い(ように見える)美少年の研究室の室長と、その少年のトラウマを刺激する東大新卒メガネ君が事件を解決していく・・・という話。

僕「あーこれ表紙ぼんやり見たことあります。BLなんですか?」

おばあさん「BLじゃあないけど・・・」

そう、読んだ感想としては想像よりBLしていない。イケメン童顔年上×トラウマ刺激眼鏡年下といったらもう文字だけでディープキスしてそうではあるが、唇同士どころかほっぺにキスもしない。

逆にびっくり。まぁ冷静に考えて恐らく国家公務員一種であろうインテリ達が事件捜査ガン無視でちゅっちゅしてたらそれはそれで問題なのですが・・・。

イメージ先行でBLを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。

 

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1巻、ではあるが、実は前半は全く別の話が収録されている。

本編は舞台が日本だが、前半はアメリカ。

「死者の知絵全ギリギリの映像を再現する」技術が本編では当たり前に使われているが、前半はそれがようやっと実現したばかりの頃の話。

登場人物全員魅力的で、最後主人公・ケビンが旅に出るような描写があるので、「お?これはメインストーリーに後々出てくるのか?」と思ったら、どうやらwikiみたら読み切りだったみたいですね。まじか~。出てこないんかい~。

でもこのケビンがちょーーーイケメンなんですよ。ロン毛なんですけどね。僕は基本ロン毛は二次元三次元問わず高見沢さんしか認めないというスタンスを撮っているんですけどねそれを揺るがす程の美貌。クール。ロング。キューティクル。

最高です。

なので、もし本編だけ読んでいてプロローグは読んでないよ~っていう人がいたらこの「秘密ートップ・シークレットー-1999」が収録されているというゆるぎない事実、それだけでも1巻を手に取る価値が十分にあると思います。

 

 

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ネタバレちょっとしながら感想を残す。

 

「秘密ートップ・シークレットー1999」

2055年、「アメリカ国民の良き父」と称される程の圧倒的支持率を持つ大統領の遺体が、別荘にて発見された。彼の「脳」が見た生前の「記憶」を再現し、彼の死の真相を突き止める。読唇術専門家兼アナリストのケビンはこの国家機密の捜査に参加することになる。

眼で見る事と心で思う事は誰にも止められない

どんなに科学や文化が進歩しても誰にもとがめられない

唯一残された自由な聖域

何をみているのか 何を考えているのか

その人だけの秘密の領域なのだpp.44-45

前半「???」が連発する謎の事件から明らかになった真実は、あまりにも切なさ極まる・・・清廉潔白、正義の人と称されたアメリカ大統領の秘密。

脳を見る、訳だから映像を通して、娘が実年齢より幼く見えたり、感情が伴ったりするのは考えさせられた。自分が見ている世界は実像ではなく虚像で、脳が歪曲している世界。

これ、一回読んだ時は分からなかったのですが、殺したのはあの彼だったんですね。お面から出ているアホ毛で分かる。あれだけ痛切に想った相手に、そのことがバレたらと思うと・・・僕も殺されていいですね。彼になら殺されてもいい。秘密が守られるのであれば尚更。

でも、死んでも秘密は守られなかった。容赦ない程悲しい結末。

「人魚姫」を思い出しました。秘密がバレたら海の泡になってしまう。まぁ大統領は人魚、よりかは魚人に近い印象も受けますが・・・。

あと、結局同性愛がネックになっている地点で本作が2000年前後の作品だと実感させられますね。恐らく、だけれども2021年現在だったらこの物語は成立しないでしょう。同性愛を禁断のものとして捉えること自体が差別に繋がっていると捉えかねないので。だから多分、2021年の僕よりも当時の読者の方がこの大統領の狂おしいほどの切なさに肉薄しているんだと思う。

無論現在成立しないからと言って、物語の持つきらめき輝き切なさは20年後の僕を貫いたわけですけれども。

 

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年下に見える先輩、藪。



 

法医第九研究室・・・MRIスキャナーを使用したのうの資格に関する研究と犯罪の解明p.93

 

「秘密ートップ・シークレットー2001」

2060年皇族の結婚式というめでたき日に9人の少年が自殺をした。捜査によると、この9人は同じ少年院に入っていたことが判明する。法医第九研究室によるMRI捜査で事件の真相を突き止めようとするが、その裏には28人連続殺人事件犯人の貝沼の影が・・・?東京大学新卒の青木と、第九研究室室長・薪がこの怪事件の真相を追う!

「はじめて君を見た時は奴が死にきれずに甦って僕を殺しにきたのかと思ったよ」p.131

ゾクゾクが止まらない一話。9人の少年が自殺した事件の真相がどんどん明らかになっていくのもそうだし、さらにそこに連続殺人犯が来るとなると・・・もう、血が滾るよね。眼球バッキバキですよ。

そしてある事情があって室長のトラウマが、随所で出てくるわけですが・・・結構ホラーチックでこれまた好み。個人的に、小6の時にドはまりして見ていた、金八先生の丸山しゅう君の覚せい剤使用シーンを思い出しました。八乙女光ももう30かあ・・・。まさか濱田岳が一番出世するとは思わなかったよなぁ・・・。

ただまぁ「何故9人の少年が一様に自殺したか」の真相は、ちょっと非現実的なところがあってそれが唯一残念だった。分かる訳ないじゃんだし、出来るわけないじゃん。2055年の科学の進歩がもたらした理由であればまだしも、ちょっとスピリチュアルに寄り過ぎでは?って感じ。まぁ本作ミステリではないので重視するべきところではないのですが、正直ここは肩透かし食らったかな。

「理屈なんてないんだよ ただ奴は人を殺したいだけなんだから」p.180

とにかくテンポ良くてスリリングなんですよね。題材的に非常に難しくなりがち・・・だと思うんですけどとんとん読める。

そしてキャラクターの台詞もいい。上記の台詞はメイン2人ではない、傍役が発した何気ない台詞なんですけど、それでもキラリと光る切れ味がある。さきほども述べましたが恐らく作者の清水先生はなかなかの読書家・・・なのではなかろうか。

ストーリーも良い。まさか青木の■■免許取得がクライマックスになって活かされるとは思わなかった。夜空を背景にしたクライマックスは息を呑む。

キャラだっていい。並みの作家だったら安易に室長を年下にするんですけどあくまで若く「見える」年上に設定するバランス感覚。

演出だっていい。pp.170-171の静謐。

あと絵だっていい。あと・・・・あと・・・あと・・・

 

「すごいよな 第九だぜ!!最先端の操作方法だぜ

被害者が死んでも「おしまい」じゃない

今まで「ヤブの中」だった犯行動機や犯人が

これからは何でもわかるんだよ!!薪」pp.130-131

そしてメイン2人が所属する主人公となる機関「第九研究室」ですが・・・恐らくベートヴェン「第九」、もしくはベートヴェンによる「第九の呪い」を題材にしているんだと思います。

ベートヴェンの第九って、最初は派手で中盤地味、三楽章で穏やかなバラードで、そいでもってあの有名な合唱に行きつくんですよね。まさしく「誕生」「青年期」「壮年期」「死」みたいな、人の一生ってことで絡めたのかな・・・まぁ「第九≒人生」は今僕が思いついた説なんですけどね。

「第九の呪い」というのは、ベートヴェンの死後しばらく「交響曲第九番」を作れた作曲がいなかった事実を表します交響曲の番号と言うのは「その作曲家が何番目に作った交響曲か」を表します。だから第九は「ベートヴェンが九番目に作った交響曲」。そして彼の死後、長らく9の交響曲を生きてるうちに紡げた作曲家は現れなかった・・・20世紀のショタコンビッチショスタコーヴィチが現れるまで長らく「第九交響曲」が作られることはなかった。そしてその目出度きショタの第九も地味に終わったから、そのまま「第九≒ベートヴェン」になってしまったわけです。ちなみにショタは第一と第五が圧倒的に有名。

何故わざわざ研究室に「第九」という名を与えたのか。

まぁそこらへんの真相は物語が進むにつれてわかったり・・・するのかしら?

 

 

 

 

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人の脳を見ただけで

心まで移りはしない

死んだ人の心は死んだ人のものだ

死んだ人のかわりになど誰もならない

(中略)

ただ願うことができるだけなのだ

死んでしまった人の分もこの世界を愛してゆけるように と

pp.208-209

 

 

 

 

 

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以上である。

僕28ですが・・・本当知らない名作少女漫画ってまだまだいっぱいあるんだなって思わされた。おら、わっくわくしてきたぞ!!!!

これからも貸しコミック屋さんとおばあさんの目利きをうまく利用しつつたくさんの名作を読みたいですね。

 

え?買わないのかって?

 

独り暮らしフリーターにそんな余裕はないのだよ・・・(とおいめ)

 

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LINKS

以前おばあさんがおススメしてくれてめちゃくちゃ面白かった漫画。

 

tunabook03.hatenablog.com

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