小さなツナの缶詰。齧る。

小説・漫画・雑誌の感想が主です。

山下和美『不思議な少年 3』-ミクロでみる人生、マクロで見る人生。お前が死ぬ前に生き様を見せろよ。-

 

 

 

一話一話泣くんで読むのしんどいんですよ。

しんどいくらい、好き。

 

 

 

山下和美不思議な少年3』(講談社 2004年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

人間て不思議だ。

 

変わらない日常に、感覚がマヒした現代のサラリーマン一家。

誰もが未踏の地に憧れた、探検家の活躍著しい時代に南極で遭難した二人の男。

今から約100年ほどの昔ーー、時代の変わり目を生きた、貴族エッシャー家の少女。

あらゆる時、あらゆる場所で、人間が放つ感情。

永遠の命を持った美しき少年は、その感情の行く末を見つめ続ける。

見据える先にはいつも、「人間」に秘められた真実があった。

「天才 柳沢教授の生活」の山下和美が、人間の光と闇おりなす

複雑な綾を描き出すシリーズ、第3巻!

裏表紙より

 

■■■「あなたが”なぜ”と問うのなら私も訊くわ なぜあなたは人間なんかに興味があるの?」p.5

 

【読むべき人】

・人生とは・・・とか考えちゃう人

・漫画好き

・日々の生活に感情・感覚マヒしている人(「末次家の三人」

・英国の南極探検史に関心のある人(「リチャード・ウィルソン卿とグラハム・ベッカー」

・自分の道を切り拓いて生きていく、とかそういうのに憧れがある人(「二人のレディ・エッシャー

 

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【感想】

貸漫画屋でおばあさんに存在を教えてもらい、行く度に借りている漫画である。3巻。第三弾。滅茶苦茶大好きなんだけど滅茶苦茶重たいから読むのにいつも覚悟が必要で毎回ついつい延滞しちゃうけどさすがに5日延滞はおばあさんにそろそろ殺されても以下略。

アンソロジー式なんですけど毎回毎回泣いちゃうんですよね。泣いちゃう。今回も3回チャンと泣いた。で、酷いと余韻引きずって翌日ふとした時に思い出して「ああ・・・」になっちゃう。

結構著名な作家のはずなんですけれどもまとめサイト「面白い漫画ある?」スレでなかなか名前が上がらない。みんな不思議な少年と一緒に時代も場所も縦横無尽に旅して自分の生きる意味を一緒に考えよーぜ!!!

 

今回帯によしもとばなな先生がコメントを寄せていますが・・・確かに吉本先生*1の小説と一部似ているなぁと思った。本質的なところ。

ばなな先生の作品にはよくが出てくる。川と言っても物理的なものではなく、もっとダイナミックな運命的なモノ。「流れ」とも言ったりする。で、その川を眺めて、あれこれ主人公が思ったり思わなかったり恋愛したりしなかったり人生辛かったり幸せだったり辛かったりうんしょうんしょ生きることで、物語は、進んでいく。日常生活でにひらめく、世界の大きいキラキラを映す小説である。小さい生活は大きい世界の一部であることについて。

本書もそれぞれの時代の人々が、少年を介して、時空や生死等人間が未だ知る事の出来ない何やら大きいものと接した時に物語が生じる。小さい邂逅と大きい運命。

小さいものと大きいものが上手く交錯する瞬間を描いているという点で、似ている。

そしてそういう物語に心惹かれるということは僕達は何かしら己の知り得ないような巨大な・・・なにかに憧憬する本能を持っているのかもしれない。だから、文学絵画音楽漫画アニメ等々・・・文化的創作物全てに心惹かれてしまうのではないか。だから、人間は「神」という存在を作ったのではないか。

と、まぁ途中から何言ってるかよく分からなくなったけれども。

 

本巻は3話収録されている。ただ正直言うと、1巻2巻と比べるとちょっと軽いかなぁ・・・。思うに、2話目(100ページ)と3話目(50ページ)の長さは逆だった方が良かった気がする。2話目は、例えば船が座礁するシーンとか、圧巻ではあるんだけれども小説でも出来ないこともないしなぁ・・・と思ったので。いやまぁ全話泣いたんですけど。

以下簡単に各話の感想を書いていく。

一番好きなのは3話目の「二人のレディ・エッシャーだけれども、一番心に刻みたいのは1話目の「末次家の三人」

 

 

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げきおこぷんぷん丸。

 

「末次家の三人」

永吉(少年)「大丈夫 5cmずれてたら頭を踏んず蹴られて死んでたけど久吉はちゃんと生き延びたよ だから今お父さんがいるんだ」p.24

銀行を人員整理で解雇されたサラリーマンの。彼には妻と息子がいるが、解雇の旨を切り出せずハローワークに通う日々。しかしある日妻が息子を連れて実家に帰り・・・

お父さん「ま・・・・・どうでもいいや・・・・・・」p.55

 

この話は恐らく今までの話で一番読者に近い話だと思う。出てくる主人公は現代を生きるリーマン・末次家のお父さん。バリバリの銀行員だったがその忙しさに摩耗したのか何なのか、息子のことにも無関心・猫のことにも無関心・・・を気取ってしまう。

ところがどっこい、他人(先祖)の人生になると全力で応援してしまう。

2004年、だけれども凄い現代っぽいなあと思った。

他人のことになると一生懸命応援するけれども、自分のことだと疲れちゃうから無関心の振りをしちゃう。そうすることで多くのことを失いつつあることも知らずに・・・。

もっと、ダメなことはダメ。いいことはいい。

行動に移すか否かはともかく、自分の感情に自分くらいは素直でいようと思った。

 

・・・とかいいつつ、実は僕はそういう感情には結構「素直」である自信がある。

と言うかそういう感情に素直じゃないとこんな長文ブログ書かないよ。

じゃあ僕の課題は何か、というと行動に移さないこと。だと思う。

例えば気になる人がいる。でも行動に移さずそれは恋とならずに終わる。

例えばやりたいことがある。でも面倒と行動に移さずに僕自身がそのことを忘れて行く。

行動に移さなければそれは無感情と実質、同義だというのに。

終盤、末次家のお父さんはようやっと息子と妻を家に呼び戻した(と思われる)。恐らくお母さんの愛子も、無関心気取りをやめて己の感情に素直になった夫の姿を見て戻ってきたのだろう。猫にも息子にも関心を示さなかった旦那がやっと行動に移してくれた。どんなに喜ばしいことか。

 

最後のシーン、末次家は海水浴に行く。

そこでお父さんはパラソルを刺す。

何気ないシーンだけれども、恐らく今までのお父さんならパラソルは刺すどころか、海水浴自体も避けていただろう。

でもそこでどっしり腰かけて眺めた海の水平線の美しさは・・・。

 

こういう「無関心気取り」の人は、確かにこの漫画のようにサラリーマンに多い気がする。気がするだけである。裏付けるデータはない。

ただ女性にも確実にいる。これは思い当たる人数人いる。

彼等は総じて優しくて無害で憎まれることはないが、総じて「つまんねーな」と思うことが多い。特に地方都市に戻るとそういう人の多さに辟易した。

ちゃんと素直になろうよ。ちゃんとぶつかろうよ。

ちゃんと喧嘩しよーよ。

この世にどうでもよくないことなんてない。ある程度未来が観測できたとしてもそこに僕達は生きている。生きている。確かに。

 

何百億の何十兆もの奇跡の末に・・・・・・

僕たちは

・・・・・・

食卓を囲んだんだ

・・・・・・

pp.82-85

 

いつもの日常が非常に尊くなる一話。

シンプルに見えて非常に難しい話でもあるけれども、僕はこの話金輪際・・・絶対忘れたくないよ。覚えておきたい。

 

 

僕がこの漫画を貸漫画屋で存在を知って3巻まで借りて読んで延滞してまでこうして感想を書いたブログを君がこうしてずらずら読んでいること自体が奇跡。

 

 

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まさかの裏も同じポーズかーいってなるよね。

 

「リチャード・ウィルソン卿とグラハム・ベッカー」

少年「僕が見えた問う事はあなたは死ぬ運命にあるということだよ」

リチャード「私は諦めない お前の姿を見て死ななかった最初人間になる」p.118

南極探検に乗り出した船は沈没し、生き残ったのは隊長・貴族のリチャードと、密航者のグラハムだった。なんとか無事生存したリチャードの元に白羽を生やした少年が現れ・・・

 

不思議な少年」で取り扱われる話自体が、結末に重きを置いて、その余韻を引きずるものが多いのだけれども今作は異色。結末、よりもその過程に読者は心奪われ余韻引きずるよう出来ている。

 

当時にイギリスは階級社会。貴族のリチャードからすれば、密航者のグラハムなど殺しても何も思わないような虫けらのような存在。むしろ殺した方が都合がいい。

けれども殺さなかった。

生まれつき社会的にも倫理的にも縛り付けていた階級社会の枠を飛び越えて、一人の人間としてグラハムと向き合えた。

それがリチャードが言う「自分に勝った」ということなのだろう。

 

僕はこの話は、「生きるか死ぬか」よりも「己に勝つか負けるか」の話であるように感じた。リチャードは約100ページにも及ぶ肉体的にも精神的にもギリギリななかで、己に勝つことができた。

その勝利の前では生死など意味をなさない。

己に勝つことなく、もしくはそういったことを考える間もなく死ぬ人・・・そう以前のリチャードのように・・・など幾戦にも幾万にもいる。

死ぬ前に、一つ成し遂げることが出来たという点でこの話はハッピーエンドだ。

二巻に収録された「タマラとドミトリ」を思い出す。あれも「一人の人間と出会う」(そして共に生きる)ことを成し遂げ、それを誇りに思った末に老女は亡くなったのではなかったか。

長寿を全うしたか否かしか違いはないだけであって・・・。

 

 

「ひとつのことを成し遂げて、達成感に打ち震えながら死ね。」

 

 

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毎回厚い。

 

「二人のレディ・エッシャー

プリシラ「大丈夫 今日から私はエッシャー家の当主ですから」p.219

遥か昔。一人のレディ・エッシャーは道中傷ついた少年を介抱した。

時は流れて百年ほど昔、11歳の貴族の少女は両親を亡くし・・・

プリシラ「わからないけど私は自分の未来がもっとあるような気がしてしょうがないの」p.221

 

一人の女性の生き様を描いた作品。二人のレディ・エッシャー、というタイトルですが、

プリシラ「でもロンドンに行ってよかったわ 人生にはいろんな選択肢があるってことがわかったから 

でもひとつだけ選択の余地のないものがあるわ

私がプリシラ・ジョン・エッシャーだってこと」p.235

ほとんどが約100年前の時を生きたプリシラという女性の物語になっています。

プリシラ心のままに生きるわ」p.249

名言を連発する彼女の生き方は、型にとらわれず奔放で格好いい。

貴族の家を出て大学を卒業、そして戦争では直接戦線に赴き、帰郷後己の道を切り拓いて生きていく・・・。

そりゃアメリカの銀行の跡取りと言う身分に甘んじて生きてきたジョージは、気になって気になって何年も待っちゃうわな。

 

この話で好きなキャラクターは、プリシラは勿論のこと、このプリシラの旦那となった(と思われる)ジョージという男。

初めは嫌なヤツで出てくるのですが、予想外のプリシラの行動に心惹かれ気になって、挙句の果てに何年も彼女の帰りを待っちゃうっていう・・・。そして待っているうちにどんどん想いが募っていくという・・・。女々しいケツアゴなのである。

ケツアゴといい目といい表情もチャーミングに描かれていて、なかなか良いキャラをしている。あくまでプリシラにしか興味のない少年に、冷たくあしらわれがちなのも良い。でもまぁ老後もプリシラといたということは、彼は夫として少年に認められたということなのでしょう。

確かにプリシラ程気が強くて主張持って自由に生きている女には、これくらい乙女チックな男がいいのかもしれない。

 

最後花が咲くシーンは本当に感動的。

人生とは生きるとは・・・とかいろいろいろいろ考えちゃう。

けど最終コマ、よく間みると少年がコンバースのハイカット履いているところは草。お前・・・どこで買ったんだよ・・・そのコンバース・・・ABCマートか???

 

本作において、花はどういうタイミングで咲くんでしょうね。

僕は「他人に見返りを求めず己を差し出す」瞬間に咲くものだと考えます。自己犠牲をいとわない優しさに咲く。

姫が行倒れの少年にドレスが汚れるのを気にせず介抱した時に、花が咲いた。

同様にプリシラが、貴族としての生まれを捨て、他人に尽くして人生を生き抜いた時に、花は咲いた。

ドレス、貴族としての人生・・・いとわなかったその自己犠牲に比例して、咲く花の数は増える仕組みなのでしょう。

 

 

多分、他人のために生きることは自分のために生きることとほとんど同義である。

 

 

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「末次家の三人」では今日明日所謂単位の「人生」を考えさせられましたが、「二人のレディ・エッシャーでは何年何十年単位の「人生」を考えさせられました。ミクロな人生。幕緒な人生。

そして「リチャード・ウィルソン卿とグラハム・ベッカー」ではどのように死ぬか・・・。

そう考えるとこの巻は非常にバランスが良いのかもしれません。無理矢理ですが。

 

以上である。今回も涙なしでは読めない一冊であった。

特に「末次家の三人」「二人のレディ・エッシャーが収録されているという点においてこの3巻だけ買うの、アリだな・・・。

というかシリーズ全体を中古で買うのアリだな、と思うんだけど、でも買ったらもうおばあさんのとこでこれを借りれない、と思うとちょっと寂しいんですよね。別に他に読みたい漫画山程ある訳だから通う理由がなくなるとかそういうわけじゃないんですけどね。この感情は、むつかしいね。。

 

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LINKS

1-2巻の感想。

半年に一回くらいの単位じゃないと読めない。毎日読んだら多分僕は体の水分全部涙に撮られて干からびて死ぬ。

 

tunabook03.hatenablog.com

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ちなみにこの感想を書いたのは8月の中旬である。

編集しようと開くついさっきまで、「末次家の三人」の話はきれいさっぱり忘れててわろてる。

*1:今は「よしもとばなな」から「吉本ばなな」に改名したので、漢字で書いた。でもこじんてきにはひらがなのほうが親しみある。