小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。1-2』-科目「倫理」の使い方。-


教師漫画。
科目、倫理。


雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。1-2』(集英社 2017-2018年)の話をさせて下さい。


教師とは思えない高柳の顔が目印。

【あらすじ】
選択科目の一つである倫理。
選んだ生徒はそれぞれの問題を抱えていた。

性、トモダチ、夢、恋愛、
コミュ力欠陥、悩み、SNS、家庭・・・。

ひとりひとりが抱える問題に、
ひとつひとつ倫理教師・高柳が、
向き合う。
一教師として。

「また、倫理の時間に会いましょう」

【読むべき人】
・倫理が好きな人
倫理が嫌いな人
・哲学が好きな人
悩んでいる人
傷ついている人
中高生
・教師を志している人

【感想】
倫理。
受験の公民科目の政経倫理」で使ったくらいで、
それからは一切触れることのない科目だった。
実用的でないし、
受験でそれを選んだのも受けたい大学が「政経倫理」指定してきたから。
生徒も教師も、
関心を寄せることが少ない科目である。

でも、今作は、
そんな科目(正確には公民)専門である教師が出てくる漫画と知って、
俄然興味を持った。
1巻を購入したのは今年の初め。
2巻を読むために再読した。



1巻。

想像以上だった。
基本一話一生徒が主人公になる話である。
悩んでいる彼等を、
高柳が倫理に出てくる学者の言葉を用いて諭す、
というのが基本形。

その、諭す高柳先生の姿勢が刺さる。
決して優等生とは言えない生徒に向き合って
彼等を導いていく。
一見クールで生徒のことを何も思っていないように見えるが、
教師としての熱い心を持っているのが、良い。ぐっとくる。

1巻で一番刺さったのは、#2
「恋に破れても、家族が死んでも いじめられても 就職に失敗しても 仕事がイヤでも お金がなくても 人生が・・・退屈でも!!
それがどんな理由でも命に換わるほど重い絶望になるんです!!」
p.86

ちなみに、1巻の最後のおまけ漫画には、
「なぜ、倫理という科目の教師漫画を描こうと思ったか」
答えとなる内容。
哲学者の言葉を調べるなんて、
なかなか時間も手間もかかるはずであって、
その言葉に沿った話の構成だって難しいはず。
(逆で、話を作ってから合う言葉を探しているかもしれないが)
何故ここまで作者が身を削って今作を世に出すに至ったのか。
必読である。



そして待望の2である。

今回も想像以上の巻。
僕は慎重な性格も相まって、
新刊でも買う前にAmazonでチェックするセコセコ人間なんだが、
「1巻ほどの衝撃がなかった」
と述べられていて不安半分期待半分で読んだけれど、
不安は不要だった。

以下簡単に、各話の感想を。

#6 見たい顔
この話が冒頭に来たから、「衝撃が無かった」等の評価を受けたと思われる。
作品の中で一番平凡な内容。
生徒にもあまり魅力がない。
#1 知らない事で出て来た逢沢劣化させたようなキャラクター。
これから話が進むにつれて彼女への評価が変わることを願おう。
ただ作者の力量もあってか、
他の話と比べて・・・とは言えどなかなか完成度は高い。
今作の顔芸回というか、ギャグ回なのかもしれない。
「えええ・・・嘘でしょ・・・」 p.44

#7 教師の資質
この回が、今巻で一番良かった。
通常の教師漫画では安易にハッピーエンドにするところを、
一歩踏み込んだ内容になっている。
#6 見たい顔ハッピーエンドで終わらなかったように、
「先生と恋におちちゃったにゃん」「誠心誠意全員にぶち当たっていくぜ!!」
といったようなコミックに出てくるなんちゃって教師ではなく、
一人の人間としての教師・・・高柳
作者が描きたいことが伝わる話。
教師を志す人は必ず読んでほしい。
あわよくば、教師にも。
「ごめんね」p.76

#8 普通の人間
一番多くの読者が共感するであろう、
悩み
を抱いた生徒が主人公。
悩みをすっきり解決できるような言葉ではないが、
それでも光になるような言葉を高柳は贈る。
「そう・・・山野くんにおみやげあるのですよ」p.95

#9 本当の私
一番多くの読者が目にしたことがあるであろう、
SNSの話。
ペルソナ。
某ゲームで幾度ともなく聞いた言葉の意味からひらいて、
「勉強て何のためにするんですかー?」
定番となりつつある質問に高柳が示す一つの答え。
ちなみに主人公である安村さんは、この作品で一番の僕のお気に入り。
「気をつけて 貴方は貴方 私の大切な教え子」p.153

#10 優しくていい人
前編後編(もしくは前編中編後編?)の前編にあたる話。
今まで出て来た生徒の中で一番大きい問題を抱えている。
果たしてどうなるか。
兄貴がグレたことがきっかけで 母さんは家に寄りつかなくなったp.180

今作は衝撃度は確かに、
1巻と比べれば劣るかもしれない。
しかし、
言葉と話の噛み合い具合は、
2巻の方が優れているように思える。

読んでどこか救われた、ような気持ちになる読者も
少なからずいることだろう。

僕もその一人だ。


ちなみに生徒(小学生)と恋するなんちゃって教師
出てくる漫画は、こちら。

以上である。
1巻も良かったが2巻も良かった。
15万部売り上げる中ヒットを繰り出しているのも、頷ける。

ちなみに、
今作は・・・どれくらい巻数が出るのだろう。
一話一生徒であれば、3巻で完結してもおかしくないが・・・。
恐らく一話一生徒が終わった後、
今まで登場した生徒達が出てくる新しい流れに変ると思われる。
そのことを意識してか、
1巻では一話で綺麗に完結する話が多かったものの、
2巻では問題を残したまま終わる話も見受けられる。

まぁ巻数がいくら出ようと、
作品の完結までしっかり見届けたいと思う。

そう、思わせる作品。