小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

田島列島『水は海に向かって流れる1』-ゆるす、ということ。-

 

 

 

 

水は海に向かって流れるように、

過去は未来に向かって流れる。

 

 

 

 

 

 

田島列島『水は海に向かって流れる1』(講談社 2019年)の話をさせて下さい。

 

 

 

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【あらすじ】

「俺がいなければこの人の方が濡れることはなかったのに」

 

高校への進学を機に、おじさんの家に居候することになった直達

だが最寄りの駅に迎えに来たのは見知らぬ大人の女性の*1さん。

 

案内された家の住人は26歳OLの榊さんと

何故かマンガ家になっていたおじさんのほかに

女装の占い師、メガネの大学教授

いずれも曲者揃いの様子。

 

ここに高校1年生の直達を加えた男女5人での一つ屋根の下、奇妙な共同生活が始まったのだが、直達と榊さんとの間には思いも寄らぬ因縁がー。

 

ひさしぶりに始動した田島列島が自然体で描くのは

家族のもとを離れて始まる、

家族の物語。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・漫画好き

・過去に赦せないことがある人

・癒されたい人

・思春期

 

【感想】

話題になっている(た)漫画である。

昨年のBRUTUSの漫画特集で存在を知った。その後平積されているのを何回か見たが僕は一人ぐらすぃフルィーターの身なので、要するにオクァネがないので、読むのは早くて、それはBOOKOFFに100円コーナーに山積みされるとき・・・10年後くらいか?と思っていたが、まさか近所の貸漫画屋が取り扱っているなんて思わなんだ~。

おばあさん「狭いからね、マニアックなものは置いてないのよ」

貸漫画屋のおばあさんの言葉だけど、いやはやありがたいです。十分です。てか多分この漫画結構「マニアック」な方だと思うのですが。

でもあの、外に置く電子看板の新作情報で青の祓魔師を、「青のふつまし」と表示するのはどうかと思っております・・・。絶対読んでないやん・・・。

 

 

 

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いい、背中だ。

 

 

一通り読んだ感想としては

あ、これは素晴らしい漫画ですね。

BRUTUSの感想を書いたとき、本作をあげた人をそれなりにけちょんけちょんに貶した覚えがあるのだけれどもいやぁ、謝ろう。

僕にこの漫画の存在を教えてくれてありがとう。

 

人間、誰しも、赦せない人っていると思う。

年取るとなると尚更。

榊さんは26歳だけれども、僕も28歳にしてそういう人はたくさんいる。

職場のお局クソババア・大学合格私立大2校ぶちかましてどちらか悩んで相談しようとした時に「いまそういう時じゃないから」と言ってきた担任・職場のお局のクソババア・僕の好きな人と知りながら付き合ったT君と付き合った今現在は横浜市役所に勤めているNちゃん・中学の時に僕を裏で笑っていたM先輩・職場のお局クソババア・職場のお局クソババア・・・等々。許せない。許せない。

でも多分、榊さんの「許せない」はそんな浅いところじゃない。

もっと、もっと深いところ。

 

けれども、「水は海に向かって流れる」ように、「過去は未来に向かって流れる」

いくら恨んで殺そうと思って起こって泣いて叫んで怒っても、その感情はやがて、凝固して心の底に沈んで行って、遠い遠い過去になる。自然と折り合いをつけるようになる。

多分人間そういう風に出来てる。

大学四年教育実習の時に久々に会った当時の担任とは会話が弾んだ。

僕「あ、いま中等部の方のクラス持ってるんですね!」

元担任「そうだよーまぐろどんは東京の大学、どうですか?」

僕「まぁまぁ、楽しいです」

でも榊さんは、流れに逆らう。

家族、ましてや母親に関わることだから、どうしても許せない。

そんな榊さんが大きな流れに逆らうのを諦め、身を任せるところまで・・・を描くのが本書の柱なのかな、と思った。

僕が知っている限り、そういう作品はほとんどない。

大抵の主人公が諦めず、逆らって逆らって逆らって、脂ぎって熱くなって、何かを得る・・・っていうのが多いと思う。というかそれがある種漫画の定石である。

けれど本作は、その真逆。

稀有な作品。

諦めるのは、悪いことじゃない。

折り合いをつけるのは悪いことじゃない。

だからこの作品は、多くの漫画好きの心に向かって、「水は海に向かって流れる」ように届いたんだろう。

 

でも僕も榊さんのように、身を任せることがどうしても嫌だと思う時がある。この人間の本能ともいうべき部分に非常に嫌気がさす。

だから時々呪うのだ。

「Nちゃんが離婚して永遠に孤独になりますように」

「M先輩が何らかによって仕事も恋愛も全てパーになりますように」

「クソババア死ね」

過去に許せず今でも許せない人達を、時々思い出しては心の中でくボッコボコにする時がある。

折り合いをつけたくない。

流れに身を任せたくない。

大人になんてなるものか。

でも多分、それは僕だけじゃない。

多くの人が経験してる全くもって凡なること。

心の中では許せない。思い出しても未だにむかむかしてくる。ふとした時に思い出す。その度に心の中で殴る蹴る殴る刺しまくる・・・・。

折り合いなんてつけてたまるものか。

流れに身を任せてたまるものか。

大人になんてなるものか。

そういう人が多分この社会には、いっぱいいる。

 

だから、田島先生はこの作品を世に出した・・・のではないか。

最後に「許せない」気持ちと、折り合いをつける瞬間を描いた本書を世に出した・・・のではなかろうか。

というのは考えすぎか。まだ1巻だけなんでなんともいえないんですけど。

 

 

 

 

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「・・・怒ってどうするの

怒ってもどうしょうもないことばっかりじゃないの」p.42

 

 

 

 

作品の直接的感想を言えば、表現技法・キャラ・語彙力が良かった。

表現技法。コマ割りが非常にうまい。からか、まさしく「流れる」ようにスラスラ読める。

あと、旨すぎる牛肉を食べた瞬間を、「UFOに連れ去られる牛」に照らし合わせたのは凄いと思った。p.12 

キャラ。皆個性的。女装占い師、その妹はすぐに闘争本能剝き出しにする。マンガ家の叔父は非常に心配症で異常なまでの非・自信家。そんな彼等を見守る大学教授は取り乱すことがなく終始のほほんとしている。からこそ、榊さんと直達のあまりの「普通さ」が、一つの魅力として際立つ。バランス感覚神。

あとどの登場人物も個性的だけど、どこか心が澄んでいる感じがするのは・・・高屋奈月フルーツバスケットの十二支を思い出した。みんないいヤツ。

語彙力。文中の会話の言葉に、田島先生の類まれなる語彙力を感じる。

「死ななくてよかったにゃー 君は幸せになるよ」p.42

(ちなみに翌朝布団の中にイワシの頭は入っていなかった)p.66

「おこづかいをあげるから黒く塗ってみようのコーナーだよ」p.74

「熊沢くんってさー自制心旺盛だよね」p.81

「いや~ギスギスしていいうどんになりそうだね!」p.137

「16っていうと どっかの部族なら村のシャーマンによってエライとこ連れていかれて死にかけて生きて戻れたら一人前っていう年齢よ」p.184

少女漫画家・葉月かなえ作家・入間人間を思い出した。少女漫画のように繊細なタッチで心理描写をしながらも鋭い語彙力で読者の心のチクリと刺激する。

これがまたシンプルな絵柄に合うんだな。

 

 

 

 

遥か昔、どっかで「シンプルに見えるものこそ裏では複雑な構造になっている」と聞いたことがある。

 

 

 

 

 

 

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「千紗ちゃんはいつまで16歳でいるつもり?」p.185

 

 

 

 

 

 

以上である。

そりゃ漫画好きがこぞって評価するのも頷ける!っちゅー作品だった。

後ほど調べたのだけれども田島列島先生は寡作な方なんですね。

それは多分、作品を最後まで考え切ってから描いているからなのかなぁ・・・とも思ったり。だって無駄があるようで、一切無駄なページ・エピソードがないんですよ。

映像化する作品もあるみたいですね。その原作も読んでみたい。

 

ちなみに、老若男女同棲ものといったら・・・僕らはみんな河合荘。あれもあれで大好きです。

けどどうしてこんなに似た設定なのにあっちはあんなにド下品なんだ・・・。

 

***

 

LINKS

存在を知ったBRUTUS

 

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下品な同棲漫画。

 

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*1:本書をよく見ると「示」のところが「ネ」なのですが、僕のパソコンでは残念ながら「示」版しか出てこなかったので、ずっと榊と表示するようにしてます。田島先生ごめんなさい