小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

鹿島田巻希『冥土めぐり』-女が女を描いた小説っていいよね。-


回顧。
過去はいつまでも色褪せない。

すべてすべてしんだんだ。

鹿島田巻希『冥土めぐり』(河出書房新社 2015年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】


●「冥土巡り」
子どもの頃、家族で行った海に臨むホテル。
そこは母親にとって、一族の映画を象徴する特別な場所だった。
今も過去を忘れようとしない残酷な母と弟から逃れ、
太一と結婚した奈津子は、
久々に思い出の地を訪ねてみる・・・・・・。
車椅子の夫とめぐる”失われた時”への旅を通して、
家族の歴史を生きなおす奈津子を描く、
感動の芥川賞受賞作。

●「99の接吻」
4人姉妹の末っ子である菜々子は、
3人の姉を愛している。とても。
長女・芽衣、次女・萌子、三女・葉子・・・・。
彼女達は母親と5人で
根津神社の周囲の下町で暮らしている。

だがある日、3人の姉は、
外部から来た一人の男・Sに夢中になってしまう。

肉体だけじゃない、精神が穢れる軽蔑に遭っても、いつしか、時が経ち、波に打ち上げられた時、その過去のことを思い出す、老婆になった美しい彼女たちの姿。 p.153

【読むべき人】
・過去に縛られている人(「冥土めぐり」)
・家族というしがらみにとらわれている人(「冥土めぐり」)
・下町が好きな人(「99の接吻」)
若草物語が好きな人(「99の接吻」)

【感想】
非常に品のある文章。
という印象。
どちらも題材はありふれたもので決して美しいものではないのだけれど美しい。
筆者の持つ言葉がひらひら、
百合のよう。
一読した時、ああこの作者は育ちがいいんだなと思った。
検索して、関東の女子高出身だと知った時
そら見たことか。
静岡の県立高校出身の僕はほくそ笑んだ。

ただ勘違いしないでほしいのは、
県立高の僕でもある程度理解できる面白い純文学であること。
どこか耽美的である色褪せた舞台。
40代とは思えぬ文体の深さ。
女性ならではの揺れる感情。
「日本語が夢のように達者」p.166 鳥飼茜先生による解説より
あ、あ。
芥川賞受賞作なだけある。

純文学というのはなんか知らんけど2編で1冊というお約束がある。
漏れず、
本作は受賞作である「冥土めぐり」ともう一作、
「99の接吻」2編が収録されている。
僕が好きなのは「99の接吻」



●「冥土めぐり」
タイトルで何を浮かべる。
冥土。
死の世界、黄泉の国、幽霊、彼岸等等。
違う。
今作ではもう戻らない過去「冥土」と称する。
主人公がホテルを回りながら、
過去を思い出す(=「冥土巡り」)
という作品なのだ。
ありきたり。
普通の話。
そこを「冥土」と称することで、
一気に小説の奥行きが広がる。

ただ本作に出てくる家族を解説で
「世にもよくある面倒な家族の存在」p.169鳥飼茜先生は述べてらっしゃるけど、
そこは僕は頷きかねる。
ここまで極端に縛られている人などいるのだろうか。
さすがにところどころ過度すぎやしなかったか。
けれどそれは、
僕が実家でフリーターという身分に甘んじているからかもと思った時、
僕がこの小説の「弟」に一番近いと気づいた時、
何も言えない。
不透明な、靄のかかったような気持ちになる。

また就職して少しして読み返したらかなり印象が変わるのかもしれない。

●「99の接吻」
東京版若草物語といったところか。
こちらの方がキャラや世界観が強烈でパワフル。
時にエロティック。
エネルギッシュ。
深く印象に残った。

若草物語同様、4人姉妹もそれぞれ個性が強い。
長女の芽衣はどこか子供っぽい。
鯛焼きをよく買ってくる。
32歳だが処女。
胸はぺったん。
次女の萌子奔放。
明るくて、力強くて、その場にいるだけで花咲くような存在。
胸はふつう。
三女の葉子控えめ。
と見せかけて、狙った男性は逃さない。
胸はでかい。乳輪もでかい。
そして語り手の四女の菜々子
胸奥にやばい感情を秘めるやばいヤツ。
男より姉さま達が好き。

ページ数は100にも満たない中編であるのに、
四人があまりにもきらきらぎらぎらしすぎていて、
長編を読んだかのような読後感。

四女の耽美的欲求であるとか、Sの位置づけであるとか、
純文学的読み方はいくらでも出来るだろうけれど、
ただただこの姉妹にもみくちゃにされ魅了されて終わるこの中編。
99といわず100、101・・・102・・・。
彼女達を主人公に据えた長編1冊読みたいくらい。

舞台も下町だけれどいい。
ブラームスが流れている。 p.153
電気ブラン越しに見えるのは、
猥談を交わす四人の美女と、その母。



以上である。
面白く読めた。
ただ後半の「99の接吻」のが強い。
4人のもつ女としてのエネルギーに一本まいりました!いただきました!
そんな感じ。

芥川賞受賞作、『穴』『共喰い』『影裏』等ちょくちょく読んではいるけれど、
他にも読みたい作品たくさん。
少しずつ制覇していこうと思う。