小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

小山田浩子『穴』-嫁ぐ。-


嫁ぐ。

小山田浩子『穴』(新潮社 2013年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
夫の実家の隣の一軒家に、
引っ越すことになった私。

人の好い姑、
呆けているが優しい養祖父、
良い関係性を築いている夫、
そして派遣社員からの専業主婦、
コンビニまで歩いて15分の田舎
変わる環境。

ある日私は歩いていると、黒い獣を発見する。
後を追うと穴に落ちてしまい・・・
芥川賞受賞作(表題作「穴」)

不妊に悩む夫婦と、
新婚の斉木君夫妻の交流を描いた2編の短編も収録。
(「いたちなく」「ゆきの宿」)

【読むべき人】
・嫁いだ人
・地方に住んでいる人
・専業主婦

【感想】
あくたがわしょうじゅしょーさく!!
としょかんにあった!!
かりた!!

てな感じで読んだ一冊。

感想としては、「なるほど」

女性作者の純文学って何だろう・・・
小川洋子藤野可織のように「環境」「空間」の描写が繊細であったり、
西加奈子本谷有紀子綿矢りさのように「感情」が強かったり
村田沙耶香のように「やべえ」印象だったのだが、
本作はどちらでもない。
主人公が女性でなければ、男性作家の作品と思っても不思議じゃない。
「穴」という象徴に主人公を反映させるのは、
どこか安部公房すら思わせる。

多分、「穴」っていうのは「嫁ぐ」というか「運命」というか、
そういうのを表してんじゃないのかなぁと思った。
一度目の穴で不思議な世界に入って、
二度目の穴で嫁ぎ先に主人公は完全に「馴染む」。
うーん。
「嫁ぐ」だけなら、二度目の穴だけでいいように思うんだけど、
主人公は一度二度ぽんぽん穴に入っているんだよな。
ここが難解なところだし、
同時に作品の深みというか重みをもたせているような気がする。
多分穴一回だったら芥川賞受賞してないんだよ。



キャラクターはカオス。
特に出てくる実在しない夫の兄。
やべえヤツである。やべえヤツ。
「こんにちはっ!」男の人は叫んだ。私は息をのんだ。
(中略)
「僕はね、この家の長男で、宗明の兄ですよ。宗明とは歳がかなり離れているんだ僕ぁ」「は?」
p.59
挨拶叫ぶ地点でやべえ。
しかも終始この人こんな感じで、
人間性の深みも慈愛もあったもんじゃない。
終始カオス&やべえで終わってる。

大抵の純文学で出てくる「やべえヤツ」は、
人間味があるものだ。
『コンビニ人間』の白羽さんが他者からの視線を気にしすぎていたように、
『共喰い』の主人公が父親への反発から衝動的に犯罪に走っていたように、
何か「やべえ」の原因があるのが普通で。
しかしこの夫の兄にはない。
というか実在するのかどうかもあやふや。
このキャラクターが非常に鮮烈だなと思った。
なんだかんだ芥川賞受賞作は鮮烈なキャラクターがいるものだ。
純文学も、しょせんキャラクター小説さ。

他の二編「いたちなく」「ゆきの宿」不妊治療に励む夫婦が主人公の話である。
不妊で心がさざめく妻を、
の視点で描いているのが面白いなと思った。
作者女なのに。
特になんかぐっとくる〜!とかわかる〜!とかふかみ〜!とかないのだけれど、
淡々とした二夫婦の交流は読んでいて心地よく、
このシリーズだけで1冊出してくんないかな。



以上である。
「穴」というモチーフの使い方は男性作家のようであった。
もう2編もなかなか良い短編だった。

「庭」という新作を出しているらしい。
また一文字かよ。
読んでみよっかな。

LINKS:
小川洋子『夜明けの縁をさまよう人々』
藤野可織『爪と目』
西加奈子『白いしるし』
本谷有紀子『嵐のピクニック』
綿矢りさ『憤死』
村田沙耶香『コンビニ人間』
田中慎弥『共喰い』