小さなツナの缶詰。齧る。

小説・漫画・雑誌の感想が主です。

三浦しをん『あの家に暮らす四人の女』-ある程度草むしりしながら天海祐希を嗜みませう。-


女達の日常は、
本人も気づかないくらい濃いのだ。

三浦しをん『あの家に暮らす四人の女』中央公論新社 2018年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】

ここは杉並の古びた旅館。
父の行方を知らない刺繍作家佐知(さち)と気ままな母・鶴代
佐知の友人の雪乃(毒舌)多恵美(ダメ男に甘い)の四人が暮らす。

ストーカー男の闖入に謎の老人・山田も馳せ参じ、
今日も笑いと珍事に事欠かない牧田家。

ゆるやかに流れる日々が、
心に巣くった孤独をほぐす同居物語。

織田作之助賞受賞作。

裏表紙より

【読むべき人】
・30歳以上の女性
・独身女性
・それを気にしていない女性
・それを気にしている女性
・癒されたい女性
・以上の女性の心を知りたい男性

【感想】
僕が人生で初めて面白い!!と思った本は
若草物語である。
10代後半の少女が何やら昔のヨーロッパを、
何やら華やかに麗しく暮らしているさまは、
当時小学校入りたての僕に衝撃を与えた。
こんな世界があったのかと。

この話もざっくり言うと、
女四人が暮らす現代版若草物語である。
いや、出てくるのが20代後半1人いるものの、
30代後半×2、70代ときているから、
ただの「草物語」といったところか。

※「枯草物語」の方が語感はいいが枯れてはいない。
鶴代は伊勢丹で心ときめかせるのだ。
伊勢丹で心ときめく人は枯れてはいない。
むしろビンビンである。
草。


そして今作を読んだ時もこう思った。
こんな世界があったのかと。

佐知は30代後半の独身だけど、
仕事は刺繍作家で収入があるものの細々暮らし、
それに若干引け目を感じる節もあり、
一人暮らしはしたことはなく、ゆでたうどんは鍋から食べる。

30代独身女性といえど、
よくあるドラマのように
キャリアウーマン!
リーダーシップにあふれた仕事第一!、
天海祐希

のイメージからかけ離れた女性である。

でもそんな女性でなくても、
日常はあって、ドラマはあるのだ。

ある日は納得する。
「つきあう相手がいないひとは、部屋にこもっても大勢のなかにいても、所詮は一人のままなの」pp.64-65
ある日はを見る。
おじいさんの屍をのせ、池袋-渋谷間を往復しつづけるバスを想像する。p.74
ある日は花見をする。
なんでもないふうを装って携帯を桜へかざしつづけた。p.82
ある日は雨漏りする。
指示に従い、鍋をベッドに置いて水滴を受け止めた。p.95
ある日はボタンを分類する。
トパーズに似た黄色くて小さいボタンは、クマの目に。p.109
ある日は発見に驚く。
『開かずの間』を掃除していて、ミイラを発見した。p.129

行間縫わせぬ濃密に描くことで、
日常の一刻一刻がエピソードとなり、
ドラマになる。
恐らく佐知自身に「ドラマを生きている」自覚はないだろうが。

同時に、読者自身も恐らく「ドラマを生きている」ことに気づく。
その奇妙な感覚が裏表紙、
読者の「心に巣くった孤独をほぐす」のだ。





ところで、
僕はこの度誕生日を迎えるにあたって、
徐々に
性交渉恋愛成就ないまま20代中盤から脱しようとしている。
けれどこのまま30代突入しても、
天海祐希になれる自信はなかった。
でも天海祐希になれなかったら、
僕はどうなるのか想像もつかなかった。

刺繍が好きで、内向的な一人草物語・37歳の佐知を見て思った。
こんな世界があったのか。

だけど延々草物語はどうにかしなければならないな。
内向的で自分の好きなものをいっぱいに抱えたまま、
家の中で静かに年を重ね続けたくはない。
もっと見たいし聞きたいし触りたいし見たいしかぎたいし、
恋もしたいし頼りにされたいし仕事をして自己肯定感を維持したい、
何より誰かと静かに年を重ねたい。

やっぱり人生、ちょっとは草むしって天海祐希しておきたい。

そして今作では佐知だけでなく、
四人の女性の日常の機微が連なるものだから、
濃い。
とにかく、濃い。

春から夏にかけてのそこまで長くない期間なんだけれども、
「そこまで長くない」一日一日が
ずっしりとした重みをもつ。

加えて途中から、ほんの少しのカオス。
例えば中盤判明する、語り手の正体。
開かずの間から出てくるミイラをめぐる現象。
ストーカーがいて、家の前には山田さんが住んでいて、
そして佐知は久しぶりにに落ちる。

非現実的カオスについては賛否両論だろうけれども、
僕はむしろそこが良かった。

僕等が時におざなりにていねいに過ごす日々は、
見守られている。
遠くからでも近くからでも、
そのなかで僕らはあたふたしながら暮らすのだ。


それはなんと素敵なことなのだろう。

まぁそんな感じで
334ページと決してそこまで長くはない長さなんだけれども、
日常+カオスで、
一ページ一ページが重い。
「やっと読み終えたか」
体感は約400ページ。



以上である。

30代独身女性が主人公っていうとキャリアウーマン的な話が増えるけど、
今作はその逆。
主人公がインドアウーマンで、
その分現実感持って僕に迫ってきたよ。

途中カオスな展開あるけど、
僕はすこだよ。

あ、あと普通に「若草物語」ゆうとりますけど、
本当は細雪が題材だそうだよ。
読んだことねぇよ。


そんな感じである。

ちなみに三浦しをん先生は、
本名で独身で、76年生まれ・今四十台前半の女性作家で、
且つSFといえばのハヤカワ文庫を新卒で受けた経歴を持つ女性である。
なるほど、
しをん先生の
文学少女+SF好きという骨が、
どっしりと突き刺さった作品なのかもしれない。

ちなみに、
しをん先生の以前読んだ作品は、
三浦しをん『ふむふむ-おしえて お仕事!』
結構面白かったなぁ。
過去の私に言いたい。無事ニート「は」脱してるよ。


これは去年東京に行った時に回したハシビロコウ