小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

羽田圭介『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』-ゾンビから見る人生観-

あなた、まだ、自分が生きていると思っているんですか?p.013

冒頭、
筆者編集者
読者売れない作家
向けた言葉。


羽田圭介『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』(講談社 2016年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
全世界でゾンビが発生した。

作家・Kは編集者の須賀との打ち合わせ中、
茶店の窓から初めてそのゾンビとやらを目撃する。

Kと同時期にデビューした美人女性作家・桃咲カヲルは新作「三八度のみず」を発表した。

北海道に逃げれば安全だという。
作家志望の青年・南雲晶は家族と共に車で北上することになる。

区役所公務員・新垣は、
ゾンビ化した生活保護申請者や区民の対応に追われていた。

そして福島から東京へ引っ越してきた女子高生・希
クラスでも浮いた存在だった。

201×年の日本を舞台にしたゾンビ小説。

【読むべき人】
・作家、編集者、他出版関係で働く人
SNS依存者
・読む本を吟味する際に真っ先に某読書メーターを検索する人
・読書好き

【感想】
群像劇。
作家K、編集者須賀、作家志望の青年南雲、
美人作家桃咲カオル、市役所職員新垣、
そして表紙にもなっている女子高生希,
6人の視点からぐるぐる進む。
人物同士が時に出会ったり、離れたりしながら
物語が進んでいく。

初め戸惑いを覚えた。
6人もいるんかい。
そして400ページもあるんかい。
しかし一通り読んでみれば、
ゾンビが発生している日本の状況を把握するには必要だったと思う。

そう、ゾンビ。
といえば、
アニメ・映画の題材になることは多々あれど、
小説の題材とは珍しい。
ましてや日本でなんて。
ましてや、エンタメではなく純文学の賞である、芥川賞受賞作家が書いたなんて。

純文学よろしく、
「ゾンビ」となる現象にはメッセージ性も含まれている。
そのメッセージは大きく分けて、
出版業界、そして社会全般に向けられているように思う。

前半は出版業界への皮肉から始まる。
文芸誌は読んで誰が理解できるのかわからない内容を掲載する。
編集者やスクールに通う作家志望者達は作品や名作を読んだことがない。
くせに売れない中堅作家に出す要求は「面白ければいい」。
一方年老いた大御所作家は作品がもはや売れなくなっても、
参加費100万越えのクルーズに乗り出す。
出版業界は、死んでいる。

そもそも、
お前が紡ぐ小説それは「創作」と言えるのか。
自分はこれまで捜索をいしてきたつもりだったが、本当になにかを創ったことなど、一度でもあっただろうか。p.178
その創作は本当に、
お前が、
創って作ったものなのか。

見るに見かね、選考委員として復活したが、此度の惨状を目の当たりにして日本文学の衰退を・・・・p.417

結末の壊滅は、
ああもうこの業界が生き返ることはないのだと。
電子書籍で文豪の傑作をちゅうちゅう吸いあげるのしかないのだと、
筆者の、何もかもを諦め果てたかのような死んだ目が浮かび上がる。

出版業界の暗澹たる現状を、
盛大にあざ笑う結末は、
抉る。
乾杯。



中盤出版業界だけでなく、
社会全体への警鐘を鳴らす展開へと変わっていく。
今の日本の若者は、車にも乗らず、酒も飲まず、家でソフトドリンクを飲みながらまとめサイトを見ているんでしょう? p.137
この一行に、ドキッとさせられた。
僕だ。

僕達は本当に自分で考えているのだろうか。
誰かの意見を読んで「そうだそうだ」共感し、
自分の意見のようにすり替えて、
日々生きてはいないだろうか。
大衆に流されるだけのゾンビになっていないか。
出版業界だけじゃないぞ、
お前もだ。


人差し指を、
真正面から突き立てられたような感じがして、
ひやりとする。


「あんた・・・・・・・あんた生きてんのか死んでんのか、わかんねえよ!」p.257

ただのゾンビが襲ってくるだけの小説ではなく、
ゾンビとなるところにメッセージ性があるのが、
小説として説得力あって面白かった。



また、前半3分の2は非常にリアル。
明日にでもゾンビが出てきてもおかしくないような、
起きそうな、想定できちゃいそうな現象が続く。
後半の3分の1は極端な世界観。
前半のリアルの延長線上に現れるディストピア
全体のメッセージを分かりやすくしたかのような超展開。
前半「君達こういうとこあるよね〜?」あるある〜を集めといて、
後半「君達ディストピアにいる奴等と大差ねぇんだよ!わかったか!!タコ!!死ねぇ!!!」みたいなロックンロール。
前半の徐々に変わりゆく穏やかさから、
後半どんどんおっぴげられる激しさの、
その対比が良かった。

リアル描写がなければメッセージ性が読者に伝わりづらいまま終わり
※そうなることを作者は嫌っている節がある
少し違えばただのファンタジー異世界ものになっていた。
※『5分後の世界』というそれはそれで傑作もある
バランスも絶妙だったと思う。

群像劇だったけれども、
一番印象的だったのはやっぱ南雲晶の話かなぁ。
最後の最後まで、
結局、彼はコンテクストでしか生きられなかった。
最後まで自分の生き方が見つからなかった。
間に合わなかった。
さようなら。



この表紙の女の子は神宿というアイドルのメンバーなんだそうな。
かなり美少女だった。

僕がこの本を知ったのは、某ブランチ読書コーナー。
作家が出てきてリポーターと対談するコーナーに、
羽田先生が出ていたのが忘れられず、
思わずこの本を手に取った。
でも何話してたかは、
覚えていない。
というのも後ろにゾンビのコスプレをしたメイドさんがずっとうろうろ歩いていて、
ほったらかしのまま対談を淡々としていて、
妙に印象に残ったのだ。
ゾンビがずっとうろうろしているが、
一切無視。
その絵の新しさに、
今作に惹かれた次第。

ちなみにそのメイドさんシャッツキステというメイドカフェの店長さんなんだそうな。
めっちゃ背が高くて髪長くてきれいな人だった。
いつかシャッツキステも行ってみたい。


似顔絵を描いたのでみて。

ちなみに羽田先生と言えば、
死んだ目である。
又吉先生と同時期に芥川賞を受賞して「じゃない方」で話題になり、
一時期テレビで頻繁に目にした。
何回見ても
目が死んでるなぁ・・・あとはげかかってるなぁ
しか思わなかったけど
案外エネルギッシュな作品にひょえ〜となった。ひょえ〜。
あとはねだじゃないんかーい、はたかーい。ひょえ〜。

以上である。
ゾンビでただ終わるだけでなく、
ゾンビになるところにメッセージがあるのがよかった。
あとこの本を紹介したコーナーが忘れられないぜ!
こんな感じ。


クッキーとステラおばさんを描きました。
自身のサイン会にクッキー焼いてきて話題になってたので。


400ページ。
文体の固さや、内容の充実度から読んでいてどっと疲れるような。
でもこういう長い面白い小説を読んだときの、あの、興奮が今作でも味わえる。



読書好きな人にこそ、
勧めたい一冊である。