小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

原田宗則『劇場の神様』-因縁の小説-


因縁の小説。

僕はこの小説をどうしても好きになれない。

原田宗則『劇場の神様』(新潮社 2002年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
もともと、手癖が悪かった一郎
中高時代から母親を何度も泣かせていた。

高校卒業とともに追い出されるようにして東京に出た彼は、
怪しい芸能事務所に所属し、売れない俳優をやっていた。

そんなある日、彼は昔一世風靡した大物俳優近藤幸男の舞台に、
端役で出ることになるが、
気にくわない俳優仲間・城之内の腕時計を盗むことを目論んでしまう。
2年間我慢したのに・・・。

実行する日に限って、その本番は雰囲気がいつもと違っていて・・・
(表題作:「劇場の神様」)

他3編を収録した短編集

【読むべき人】
手癖が悪い人(「劇場の神様」)
・劇が趣味の人(「劇場の神様」)
年上の女が好きな人(「ただの一夜」)
初恋の記憶がうずく人(「夏を剥がす」)
・パートナーに関心が持てない人(「夫の眼鏡」)

【感想】
因縁の小説である。
というのも、この小説、
僕が落ちた国公立大学の現代文の小説に使われていたのだ。
わかんねえ!!ムカつく!!
でもめっちゃいい小説やんけ!!
だから一層もうムカついたのである。
因縁。
くそ。

ばーかばーか。

まぁ結局私大に進むことになったが、そこでまぁまぁ良い大学生活を満喫したので、
今更どうこう強く言うことは内外、
いうことはなくなったからこそ、
図書館で見つけて読んだ。
ちなみに、センターで読んだ小説は覚えているが、
卒業した私大での小説は覚えていない。
落ちたからこそ覚えているのはなんとも皮肉な話。

作者の原田宗則は、まぁ、作家である。
数年前に覚せい剤所持か何かで捕まって、
僕は「ざまあ」と内心ほくそ笑んだ。
ちなみに原田マハでもあるそうな。
親子はよく聞く話だが、兄妹そろって作家は珍しい。

本を開けばまぁ、なるほど。
非常に読み易い。
多分作者が素直で真面目でちょっと馬鹿なんだろう。
滞りなくすらすら読める。
癖がない。
癖がないからこそ、知名度がマハより劣るのか。
けれどどこか純文学めいた描写もあってそのバランスが良い。


関係ないですが、
2カ月前に食べたおいしいものの写真です。

以下簡単に各編の感想を。
好きなのは「夫の眼鏡」かなぁ。

ただの一夜:大学生のトオルはパン屋の美しい奥さん「りえちゃん」と鮨屋で酒をくみかわすことになり・・・
いうなれば、年上の女を書きたかったんだなという小説。
まぁりえちゃんがいい女だこといい女だこと。
主人公のトオルと同様読者もどぎまぎして、同時に興奮してしまう。

けれど、そこを「今は昔」ともっていくことで、
決して下品に終わらせず、
切なさを強調して上品に終わらせる。
そこが巧いなと思った。
また、最後の一ページ、主人公の予想とは裏腹なパン屋も
あああれは、やはり「ただの」一夜だったのだ。

夏を剥がすカサブタを剥がすのに夢中になっていた10歳の私はK...に声をかけられて・・・
「胸騒ぎに似た奇妙な後味」p.68が残る短編。
というか、この作者の一人称小説は、
読者と主人公との距離をほぼゼロにするからすごいなと思う。
「ただの一夜」では通ると同様読者はどぎまぎ&興奮し、
「夏を剥がす」では主人公と同様K...周辺の謎に関して奇妙な傷を作る。

なんとなく、男性からの方が支持されるんじゃないかな、と思った。
官能小説書いてくれ。

夫の眼鏡:照子は亡くなった夫が注文したという眼鏡をとりにいくが・・・
前半二編が一人称なのに対して、後半二編は三人称。
多分今作が一番難解。
けれど短くて、
珍しい、眼鏡が主題ということから妙に印象に残る。

夫、っていうのは近くにいる分話さないもので、
その夫の面影を人物像を眼鏡通して掴もうぜという作品、なのかな。
遠くにいるように思う時もあるけど、近くにいたんだよ。
そんなことを思わせるようなラスト一行が良かった。

劇場の神様:手癖の悪い一郎は2年ぶりに万引きを目論むが・・・
入試に出たのは最後のシーン。
手を合わせた一郎の気持ちを書きなさい云々だった気がする。
わかるかばーかばーかばーか。

約100ページの中編。
作者が舞台好きなのだろうか、
舞台の合間を縫って万引きをする様子が生々しく描かれる。
うまくいくかいくか…読者も手に汗握る展開。
三人称の小説であるが、
やはり主人公と読者の距離がほぼゼロ。



なんだろうな。
この作者の所謂「なろう系」「異世界系」が読みたい。
異世界ものっていうのは、
異世界にいても主人公に共感できるからこそ
人気になるのもあって・・・。
グリムガルとか。アニメ見て読んでないけど。
これほど巧い文章を書く作家が「なろう」したらどうなるのか。
変な贖罪小説書いてないで早くラノベかけ。
ビアンカオーバースタディしろ。

もしくは官能小説。

以上である。
すらすら読める。
主人公へめっちゃ共感が出来る。
そんな小説。
まぁ岡山大学現代文の題材に選んだのも頷ける。
くそ。