小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

阿川佐和子他『作家の履歴書 21人の人気作家が語るプロになるための方法』

作家はなぜ作家になったのか。

阿川佐和子他『作家の履歴書 21人の人気作家が語るプロになるための方法』KADOKAWA 2014年)の話をさせて下さい。



【概要】
21人の作家が
●志望動機
●転機
●作家にした経験

について、各々のキャリアについて
簡潔に(5ページ)で振り返る。

掲載作家
阿川佐和子/石田衣良/江國香織/大沢在昌/荻原浩/角田光代/北方健三/北村薫/小池真理子/桜庭一樹/椎名誠/朱川湊人/白石一文/高野和明/辻村深月/藤田宜永/誉田哲也/道尾秀介/皆川博子/森村誠一/夢枕獏
※掲載順

【読むべき人】

・ネット、紙問わず、小説家に関心がある人
小説を書いている人
・作家が作家になった経緯を知りたい人
・好きな作家がいる人

【一旦立ち止まるべき人】
・作家を目指す人

【感想】
キャリア観に幅を持たせたかった。

現在週末のみに働くフリーターの僕。
これからどう生きていけばいいのか。
何がしたいのか。
見えない。わからん。
キャリア観、なんてかっこつけたけど、
現実逃避したくて、手に取った。

本作は作家がこれまでのキャリアについて簡潔に語った本である。
作家になるまでは、様々な境遇・職業を経験している。
コピーライター、芸能人、ブラック企業社員、専業主婦、専業主夫、団体職員エトセトラ。
そういった人たちが何故作家になるに至ったのか。
何故デビュー作を書くに至ったのか。

加えて、作家としての転機と、
作家になった自身の経験・性質・きっかけ
副題は「プロになるための方法」とあるが、
どちらかというと「プロをプロにした経験」が書かれている印象。
あくまで作家の「履歴書」

まぁ、最後おまけの1ページで推敲の仕方とかいろいろ書いているから、
そこは指南書的なのかな。

各作家の章を、簡潔に感想書こうと思う。
ちなみに★印では僕が今まで読んだことある作品を挙げている。


どう作家という人生にコンセント、コネクトしたのだろうか。

阿川佐和子
トップバッター。
自身が作家としてどういうものを書こうとしているのか明確で面白い。
「決定的に、人生の負というものを背負っていない」p.12を、
作家の短所として挙げている。
僕のこの空白期間も、後のキャリアにプラスに動くのだろうか。

石田衣良
★『LAST』『1ポンドの悲しみ』
最後、作家の資質として述べている部分が印象的。
作家の「資質って、だんだん気づくものなんですよ。単行の穴掘りみたいに、ちょっとずつちょっとずつ掘っていって、掘っているうちに外の状況とフィットしてうまくいったりする。」p.19
あらゆる職業にも言える気がする。
ちなみに、この方の小説ってめっちゃ若いよね。
容姿も若いし。
年齢見るとびっくりする。

江國香織
★『号泣する準備は出来ていた』
冒頭の幼少期の夢が果物屋さん」というインパクトが強くてよく覚えていない。
ああでも、転機で寂聴の瀬戸内寂聴の名前が上がるとは思わなんだ。

大沢在昌
作家として苦しんでいる期間も、
年収300万と聞いて、
それは苦労ではないのでは?と思った。
十分でしょ。

荻原浩
★『押し入れのちよ』
デビュー作がユーモア小説と初めて知る。
まぁ確かに『ちよ』もユーモア小説だったしなぁ。
最近直木賞とったよね。
この作家の本久々に読みたいかも。

角田光代
★『八日目の蝉』
一度少女小説家としてデビューしていたり、
WOWOWで1年働いていたり、
知らないことが多々出てきた履歴書だった。
最後の段落に共感。
「こうした取材では普通に喋っていると思われるんですけど、今もちゃんとしゃべれている気がしないんです。何かできているとしても、普通のひとよりはできないという思いがあります。」p.51

北方謙三
三国志』『水滸伝はなんとなく知っていて、
ちょー大御所!!のイメージが強い。
しかし実際デビューしたのはなんと34歳。
その間はアルバイトしながら書く生活。
下積み、苦労していた時期が長くて驚く。

北村薫
デビューするまでは教師をしていたという。
北方先生とは全く違う、
けれどスムーズにはいかない。
紆余曲折を丁寧な口調で、控えめに、静かに語る。

小池真理子
★『怪談』『妻の女友達』
編集者、フリーの編集者を経て自分でエッセイを書きそこからデビュー。
行動力って大事なんだぁと僕の尻を叩くような履歴書。
ちなみに、サスペンスの方を先に書いていたんですね。
恋愛の方かと思ってた。

桜庭一樹
★『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない『私の男』『赤×ピンク』『推定少女
ファミ通文庫というライトノベルレーベルから一般小説界にフィールドを写した。
ラノベから、一般小説へ。
その成功例の先駆者。
しかも女性作家。
そりゃぁもうキャリアもうまくいってばっかなんだろうなと思っていたら、
ずっともがいている。
そのもがきが、ガラスのように鋭くもろく甘い小説群に繋がるのかしら。

椎名誠
なんかすごいガッツのある人。
この履歴書は読んでいるだけで元気になれる。
猪木誠。
本の雑誌」創刊者、あと映画作ってたとか知らなかった。

朱川湊人
★『都市伝説セピア』
専業主夫という意外なキャリア。
高校時代に読んだ『都市伝説セピア』は面白くて、短編集好きという僕の嗜好を決定づけた。
でもなんかその作品以外読んでないので、読まないと。
人生は有限。
最後は共感。
「もう五十歳を過ぎたのに、生きるって何だろう、どう生きるのが幸せなんだろうって四六時中ずっと考えています」p.99

白石一文
直木賞作家の息子。
文藝春秋の編集者。

華々しい字面とは裏腹の、
山あり山ありのキャリアは必見。
北方先生のような苦労人もいれば、こういう苦労人もいるんだなぁとしみじみ。
白石先生の本読んでみたいなぁ。

高野和明
映画脚本から作家への転身。
でもそのキャリア自体よりも、作品に向き合う姿勢に目がいったなぁ・・・。
まさしく職人。

辻村深月
★『ふちなしのかがみ』『ぼくのメジャースプーン』
今一番有名な女性作家といっても過言ではないのでは。
そんな彼女も初めは地方で務めながら小説を書いていたそう。
ちなみに、このペンネームはデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』の主人公からきてるんですよね。
自己顕示欲半端ねぇなこの作家と僕は勝手に思ってたんですけど、
いやいや反省。
その理由も明らかになります。
「そのときはこれが自分のすべてだと思っていたので」p.121
彼女の人生において、それだけデビュー作が大きい存在だったかがわかります。

藤田宜永
なんかちょーファンキー。
すげー。
多分、この本に出ている21人の作家の中で、
一番僕から遠い人。

誉田哲也
★「天使のレシート」『7つの黒い夢』より
欅坂ファンとしても有名ですね。
15年バンド活動を経ての、「15年続けよう」と決めた作家活動。
「要は自分が作ったもので誉められたい。」p.138
そして、「ストロベリーナイト」から「武士道シックスティーン」への、
ハードボイルドから青春、
ジャンルを大きくまたいでの舵取り。
2000字のプロットを書いてからの執筆。
一番濃い内容であったと思う。

道尾秀介
★『向日葵が咲かない夏』
最近クイズ番組に出て知名度も高いのではないでしょうか。
『向日葵』トラウマ植え付けられて以来なかなか手を出せてないけど。
バンドをやっていた、という点は誉田さんと一緒だけれど、
方法論が誉田さんとはこれまた大きく違う。
「絶対条件が
・やったことがないことをやる
・使ったことのない主人公を書く
・小説でしかやれないことをやる」
p.146

ふむふむ。
こうして、
僕の心にトラウマの向日葵を咲かせたわけだな。

皆川博子
いやー、僕が今読みたい作家ベスト10に入っている作家です。この方。
服部まゆみ『この闇と光』のあとがきで存在を知りました、うむ。
というのも、今御年80後半なんですよ。
でも、分厚い歴史ベースにした洋風というか少女的というか美少年というか、
そういう作品を世に出してるんですよね。
今も。
そんな彼女はずっと専業主婦と作家を両立していたそう。
そして原稿料も莫大なものではないんだそうな。
・・・。
・・・いやー、憧れる。
生活の土台が保証されたうえで自らの好きなものに没頭しそれが評価される。
所謂理想の老後、とかいうやつではないでしょうか。
そういった次元に僕も行きたい。

森村誠一
すみません、僕はこの方全く知らなかったんですけど、
多分元祖「ビジネス小説家」といった感じでしょうか。
戦後の厳しい時代を経てホテルマンを経てからの作家人生。
作品読んでから、この経歴読みたいわ。

夢枕獏
『キマイラ』がリメイクされているのでそれで知っている人が多いのかもしれない。
何編か、アンソロジーで読んだけど・・・何読んだかは忘れてしまった。
彼もしっかり食べていけるようになったのは、北方先生と同じく30代から。
どちらも大御所のイメージがあったけれども、
意外と遅咲きというかなんというか。
その後もしっかり将来を見据え切実にペンを握っていたんだなぁ。



以上である。
作家になる方法、というよりはまぁ履歴書がベース。
そこをきちんと理解して読めばこれはなかなかの良書のように思う。