小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

倉橋由美子『大人のための怪奇掌編』-大人のための幻想譚-


ホラー?好き!!
短編?好き!!


倉橋由美子『大人のための怪奇掌編』(宝島社 2006年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
海を見渡せるレストランで嗜む赤いワインは・・・ 第一夜 ヴァンピールの会
家宝であるお面をつけると、女は・・・ 第一〇夜 鬼女の面

等幻想的で少し怖い世界が広がる、
20の掌編。

【読むべき人】
・「学がある」短編を読みたい人
幻想的な短編を読みたい人
・普段小説よりも新書や学術書を読むことのが多い人

【感想】
短篇集である。且つ「怪奇」ときている。
どっちも大好きまぐろどん!!な僕は図書館で見つけて手に取った。

倉橋由美子先生というのは
1960年代から80年代にかけて活躍した女性作家で、
『星の王子様』等翻訳も数多く手がけた作家との旨。
本作も1985年に新潮社から刊行された倉橋由美子の怪奇掌編集」新装版であり、
出版されたのは2006年と言えど
中身は約30年前の小説ということになる。

倉橋先生は2005年に亡くなっている。
忘れられないように、という意を込めて
彼女の作品を好んだ宝島社の編集者が
新装版として世に出したのではないか。
より多くの人に手に取ってもらえるよう「大人の」と改名して。
想像だけど。

でもまぁその編集者がこの作家を好きなのがよくよくわかる短編集。
比較的どの作品も質が高いと思う。
まぁ多少、玉石混合なのは否めないが。
それでも終始幻想的なもしくは少し耽美的な雰囲気を醸し出す本作の雰囲気は
評価に値するものだと思う。

ただ初めの20ページくらいは面食らう。
文体が独特。
いや、独特じゃない。
というのも終始説明文のような新書のような学術書のような丁寧な日本語で書かれているのである。
体言止めや倒置法、繰り返し、韻等そういった技法はほぼ見受けられない。

また、筆者が短大から大学入りなおす経歴の持ち主であって
加えて翻訳書いっぱい手掛けていることもあって、
教養がないといまひとつわからない作品も多いのが特徴。
アルチンボルドなんて名前が30年前の小説に出るとは・・・なかなか。

以上の二点から本作を「学がある」・・もしくは「学を求める」短編集と称したい。

以下簡単に、各話について感想を述べる。


第一夜 ヴァンピールの会海を見渡せるレストランで嗜む赤いワインは・・・
展開は読めるしまぁよくある話ではある。
凡作に近い。

第二夜 革命ある日突然脳内に声が聞こえ始めて・・・
一夜と比べてなかなか面白かった。
とある言葉の語源も知れる。同じ意味なのか。
結末が悲しい。
ちなみにはたらく細胞見ていた僕には非常にタイムリー。

第三夜 首の飛ぶ女美しい少女・麗には「寝顔」がなかった・・・
幻想怪奇譚とでもいおうか、タイトルとは裏腹になかなか美しい話。
最後が切ない。

第四夜 事故山口勉君は入浴中、自分の内臓・肉が全て溶けていることに気づき・・・
シュール。
本田さんかな?
最後のタイトル回収はなるほどなと。多分僕も忘れる。

第五夜 獣の夢ある日私は獣臭い夢を見るが・・・
擬人化の逆をいく作品。
一番良かった。視点がありそうでなかった。
僕はいったいなんだろうな。ヤギかな。

第六夜 幽霊屋敷木原氏に声をかけたのは美しい知人の娘だった・・・
屋敷を堪能する作品。
美しい屋敷とは対照的な、あっけない最後の一行が良い。

第七夜 アポロンの首ある日私は美少年の首を見つけ・・・
二番目に良かった。
どんどん腐っていく首の描写が狂気じみてて美しくて不思議でなかなか良い。
最後はまぁそうなるわな。僕だっていやだわ。

第八夜 発狂永い眠りから目を覚ましたゼウスは、神々と会議をはじめるが・・・
割と難しかったかな。
ギリシャ神話の前知識がないと厳しい。
最後は爽快感溢れるラスト。

第九夜 オーグル国渡航カニバー旅行記」に収録されなかった原稿が見つかったというが・・・
斬新な作品。
まず某旅行記をパロった旅行記の収録されなかった原稿、斬新。
且つその内容もただただ襲われるのではないという内容、斬新。
30年前とは思えないフレッシュな短編。

第一〇夜 鬼女の面家宝であるお面をつけると、女は・・・
画面が強烈。
いささか話はどこかで読んだことがあるような印象を受けるが、
面をかぶった女の画面が強い。さいつよ。

第一一夜 聖家族「わたしたちのお父さんとお母さんはひょっとすると宇宙人かもしれないと思います」p.119
カオスオブカオスな短編。
設定がカオスなのに筆者が真面目なもんだから、そのギャップが香ばしい。

第一二夜 生還「私は死んでからも気は確かだった」p.129
死後の世界の話。黄泉の読み物。
うーん。どうだろうな。
案外コメディだと思うんだけど。

第一三夜 交換醜悪な顔を持つ男と目が合った私は・・・
まさしくタイトルそのまま「交換」もの。
楽園に行きたいから××する、という展開は第六夜とさしてかわらない。被っている。

第一四夜 瓶の中の恋人たち何もかもを互いに知り尽くしているアベックは・・・
うーん。なんかよくわかんなかったかな。
瓶×恋愛といえば、夢野久作『瓶詰の地獄』という傑作があるわけで。
それと比べてしまうからちょっとな。つまらない。

第一五夜 月の都知人の呉氏につれられて私は月へ行き・・・
なんかよくわかんなかったな。その2。
世界史の中国史の知識が必須なんだけどまぁ覚えてないよね。
で、また楽園行きたいんかいという。

第一六夜 カニバリスト夫妻様々な夫婦を呼ぶ深夜番組。美貌の夫婦がやってきて・・・
30年前とは思えないテレビの描写。
変わってないのかもな、案外、テレビって。
最後はちょっと意表を突かれたが、美しい。
個人的に小川洋子薬指の標本のラストを思い出した。

第一七夜 夕顔
久々に会った知人の松平君から聞いた話は奇妙なもので・・・
源氏物語の登場人物を用いながらすすめる短編。
だけど第八夜と違って前知識無くても面白く読めた。

第一八夜 無鬼論:暗闇の中男女が集い話すは・・・
なんとなく展開は読めていたが、ラストの不気味さは予想以上。
この作家はただ「死ぬ」「行方不明」のバッドエンドが少ないので、
そこが凄くいいなと。
なかなか壮絶な最期を迎えている。

第一九夜 カボチャ奇譚元宰相ボープラ氏は「カボチャ」と呼ばれていて・・・
絵本にしたい不思議な世界観。大人の絵本とでもいうべきか。
10月31日に是非読みたいね。

第二〇夜 イフリートの復讐麻仁氏は「アラビアン・ナイト」の逸話を語るが・・・
アラビアン・ナイトを用いた作品ってあんまないよね?
てか名前が伏線かな。これ。

以上である。
振り返ると「楽園いきたい!!」が多すぎるような感じもするが、
まぁ面白く読めた。
はじめは文体に戸惑うけどね。

ちなみに今作で思い出した本はこちら。


女子中高生絶対好きだと思う。この小説。

服部まゆみ『この闇と光』(KADOKAWA 2001年)

簡単なゴシック叙述トリックもの。
ゴシックな雰囲気が共通していると感じた。

意外と、ゴシック小説の名手って一時代前に活躍している人が多い。
大槻ケンヂとか、皆川博子とか、まぁ倉橋先生とか。
「この闇と光」も刊行されたのが年で、服部先生も亡くなられている。
そろそろ新時代のゴシック小説が出てきてもおかしくないと思うんだが・・・
流行んないのかな。
どうだろ。