小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

遠藤周作『新装版 怪奇小説集「恐」の巻』-幽霊がいたんだ!!まじで!!そこにいたんだよ!!!!いたんだって!!!まじ!!!-

 

 

 

 

【ホラー好きあるある】ビビり

 

 

 

 

 

遠藤周作『新装版 怪奇小説集「恐」の巻』(講談社 2000年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

ルーアン、リヨン、熱海で起きた怪異現象御綴った「三つの幽霊」をはじめ、とっておきの怖い話が九編。人一倍怖がり屋だった作者の恐怖心と好奇心が生みだした、不朽の名作集の新選版。(「怪奇小説集」改題)

 

【読むべき人】

・怪談が好きな人

・昭和の怪談に関心のある人

 

【感想】

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デザイン和田誠による表紙がいい味出てる

 

結論から言うと今回も、メルでカリました・・・。 朝宮運河氏編集の「宿で死ぬ」の冒頭に収録された「三つの幽霊」から、「え!?あの遠藤周作も怖い話書いてたんだ!?」となり、その作品が収録されていた短編集自体を購入した次第。もう一冊、同じ作者の短編集「なんでもない話」がついてきたので、そちらも本書直後に読んだ。

 

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写真では分かりづらいかも。

なんですが・・・文字、でけぇ~~~~。2000年に新装版とのことですが何、そういうムーヴだったの?

 

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写真だと分かりづらいかも。

一方「なんでもない話」は、文字、ちいせぇ~~~~~。

セットで売る文字の大きさじゃない。

 

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感想として言えば、まぁそれほど怖くはないかなぁということ。確かにどの話も幽霊やオカルトが絡んではいるんだけれども、恐怖!!という感じではない。ふーん、エッチじゃん。という某テニス漫画主人公の名台詞がありますが、あれになぞらえればふーん、怖いじゃん。そんな感じ。

でも、なんかわかんないけど、面白いんですよね。独特の味があるというか、テンポが良いというか・・・。

小説というよりは随筆と言う感覚。あとがきの妻のエッセイで「オカルト映画が大好き」と語られていますし、実際数編は「三つの幽霊」含め、まぁ随筆なんですが・・・。そういった現象に対する愛情が感じられる。おざなりじゃない。

あと後世に名を残す作家はやっぱり文章上手いですね。サクサク読める。

遠藤周作」という名前だからさぞかし難しい文章書いてるんだろうなぁと今まで手を付けなかったのが悔やまれますね。

 

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以下簡単に各短編の感想を述べていく。

一番好きなのは「蜘蛛」「あなたの妻も」

 

「三つの幽霊」:ルーアン、リヨン、熱海で起きた怪現象を綴った。(本書裏表紙より)

ぼくが理解できないのはこの経験がぼく一人のものではなことだ。p.49

それぞれの都市のそれぞれの体験を書いた随筆である。クライマックスは作家・三浦朱門と出かけた旅行先「熱海」での体験でなるほどこれは心霊現象。だけれども、学生時代の留学先「ルーアン」「リヨン」での体験はまぁ・・・うん。

簡単にネタバラすとこんな感じ。

ルーアンでの体験は・・・宿で窓を開けたらめっちゃ嫌な気配がした!!以上。

「リヨン」での体験は・・・誰もいないはずの下宿先の怪談で足音っぽいものが聞こえた!!以上。

もう完全に「気のせいでは・・・?」レヴェルなのである。間違いなく、実話怪談の単行本などにも収録されないタイプ。

でもそれを遠藤先生は「俺はこんな体験をしたんだ!!幽霊ってのはいるに間違いないんだ!!!」というテンションで終始書くものだから、怖い・・・というよりかはちょっと面白い。ふふっとなる。ふふっ。

ところがどっこい、3編目、「熱海」ガッツリ心霊現象が描かれている。

同様にネタバラスと、2人が宿泊したのは奇妙な旅館。古い離れ。そして深夜・・・

「ここで、ここで俺は首を吊ったのだ」p.39

と聞こえる声と人影・・・。

しかも作者だけでなくともに旅行を下三浦朱門先生自身もその場で同じ経験をしているという。「三浦先生もこうやって書いているんだ!!ほら!!ほら!!」ってテンションで本人の文章も引用されている。

「熱海」のはもうルーアン」「リヨン」のとは格が違うのである。ソシャゲでいうとSSR級の幽霊とN級の幽霊を、ひとくくりに「三つの幽霊」として一編の随筆に遺しちゃっているのである。もうこれじゃあSSRの方・・・「熱海」の幽霊は悔しくて悔しくて浮かばれないに違いない。

 

「蜘蛛」:怪談会に呼ばれた作者。叔父主催の退屈な怪談会である。熱海での体験を簡潔に話し、早々にタクシーに乗り込もうとすると、怪談会の時じっとこちらの顔を見ていた青白い顔の青年も同乗を申し出る。そしてその青年がタクシーの中で語った話は、半分顔が爛れた女の話だった・・・。

青年「失礼しました。車がスリップしたものですから」p.83

昨年遠藤周作先生の新選短編集が2冊刊行された。奇談をメインにしたものと、ミステリーをメインにしたものである。その前者の表題作が本作である。

成程、表題作に選ばれるだけあるなぁ・・・と言った印象。男の薄気味悪い描写と言い、その語る話の内容と言い、そしてまさかのクライマックスといい・・・。男自身もそうだったが、男が語る話に出てくる女も気味が悪かった。

本編で唯一、正統派ホラーといったところか。他はユニークで親しまれた遠藤節がちらほら見られるがこの話だけは普通に怖い。文中に出てくる熱海の怪談と言うのは「三つの幽霊」に出てきた浮かばれないアイツ(SSR)のことであり、連続して楽しめる仕様となっている・・・のも良い。

そういえば、蜘蛛は良く人と合体させられがちだけどあれ何で。同じく不快感を起こす虫といえば、蝉、G、蛾、黒揚羽・・・等色々あるけれども圧倒的に人間、蜘蛛と合体しがちじゃない?

百足は某有名映画で「合体」しておりましたが・・・。

あとこれ映像化してくれないかな~・・・。遠藤周作の息子はフジテレビのお偉いさんだという。本郷奏多を青年役、笹野鈴々音を青年の話で出てくる女役で・・・。

 

「黒痣」:気の弱いリーマン・橋本は、ある日お給料のほとんどを使って中古のカメラを購入した。しかし、そのカメラで撮った写真を現像すると、橋本の顔のみに黒痣が写るようんになり・・・。

小説か随筆か、虚構か事実か分からない。黒痣自体は絶対小説だろ~と思うけどその黒痣の謎に迫っていく感じはドキュメンタリーチックだから、もしかしたら随筆なのかもしれない。

橋本「エグロンってどこの会社でしょうか」p.95

終盤そのカメラのメーカーがエグロン社ということが判明する。「エグロン」と検索すると「鷲の子供」という意味らしい。くわえて「エグロン カメラ」と検索すると、確かに「AIRGLON」とロゴの彫られたカメラの写真が出てくる。ただし、作ったのはアトムス社という会社らしい。

その古いカメラが写した写真があるブログには掲載されていたが、それで撮った「凶」のおみくじの写真を見て、僕はそっとウィンドウを閉じた。そっ閉じ。同じく撮られた人間の顔に黒痣はなかったけれど。

 

「私は見た」

その手始めとして私はさきに書いた熱海の幽霊屋敷をふたたび探訪したルポをのべるつもりであるが、勿論これは実際の報告記事であるから月日、自国、現場写真を掲載するつもりでいる。p.115

あの熱海の幽霊屋敷に、カメラマンと女優を連れてレッツ再訪★の話。

トイレに怖くて行けないだろうからとうどんのどんぶりを持ってくる遠藤先生、そしてそれを実践しようとするカメラマン、やっぱり怖いからと分けた布団をくっつける旨をお願いする女優に「この度は仕方ない」と鼻をのばせば・・・その夜明けに待っていた物は!?といった具合。

まぁその起きた現象も、正直大したことないのだが「こんなことがあった!!!」「こんなことがあった!!!」と騒ぎ立てる遠藤先生。

紙面越しにうるせえ~・・・。

怪奇小説というよりかは、エッセイ漫画。なかなか面白かった。

 

「月光の男」

占い師「霜山さんは生きていますよ。カードは本当のことしか告げません」p.143

北千住・綾瀬間の線路で轢断死体となって国鉄総裁が発見された未解決事件・・・・霜山事件から十年。雑誌記者達は、特集の為そこを訪問する。そこで殺された総裁そっくりの影を目撃し・・・!?

この話は遠藤先生が一切登場しない。よって小説である。と思う。

文章力がもうピカイチだからスラスラ読めるが、霜山事件の内容は愚か名前すらうろ覚えとなった現在では面白さはいまひとつ欠ける。こういう昭和の小説があったんだなぁ、といった具合。まるで博物館の展示物を見ているかのように読む。

日影「正田美智子さんの結婚も、池田通産大臣の任命もピタリと当てたそうだぜ」p.135

の台詞を読んだ時にはもうその昭和で塗り固められた昭和THE昭和にくらくらする。

十年・・・例えば、今現在書かれている震災を基にした小説もやがて時代性は色褪せて、「ああこういう平成の小説があったのだなぁ・・・」と思われる日がくるんだろう。まるで博物館の展示物を見ているかのように読まれるんだろう。実際・・・、阪神淡路大震災関連のフィクションはそういった域に達しかけている気がする。

ちなみに本作と同じく、実際の血なまぐさい事件を基に書かれた小説と言われて思いつくのは柚木麻子「BUTTER」。あれも読みたい読みたい思いながら全く読めてないんだよなぁ・・・。BUTTERの賞味期限・・・否消費期限が切れる前にぜひとも読みたいとは思っているが。

 

「あなたの妻も」

男というものはふしぎなもので一度、自分の子供を産んでくれた妻はもう女ではない、女というよりは子供の母親なのだ、と信じ込んでしまうのである。p.159

しかしその幻想を打ち砕く2つの話。女は子を産もうとも女なのである。子供の母親、という立場は幻想にすぎない。

1つ目はフランスの女・イボンヌの話。もう1つは日本の妻・トキの話。

病んで疲れた挙句に我が子を殺した女の話二話である。

特に印象に残っているのが一話目のイボンヌの話。ジャニーヌというそのイボンヌの娘の可愛らしいエピソードが書かれている分、その死は強く心に残った。

ネタばらすと、イボンヌは男を作り、そして「コブ付きは嫌だ」男の言葉に悩み悩み悩んだ挙句、ジャニーヌが寝ている台所のガス栓を開け、自分はその音を聴きながら男と寝るのである。

イボンヌは何を思っていたのだろう。母であることよりも女であることを優先したイボンヌ。ガス栓の音を聴き娘が静岡に死にゆくのを自覚しながらも男に身をゆだねるイボンヌ。そしてジャニーヌは薄れゆく意識の中何を思うのか。男の前では母が母でなくなりつつあることに気づいていたのだろうか。気づいたうえで純粋無垢なふるまいをしていたのだろうか。様々な思いを馳せずにはいられない。

一方トキの話もなかなか陰惨。人生の苦労の果てに疲れ切って、泣く子供を殺めてしまう。鶏を使って。

女というものは、ちょっとしたきっかけで「母親」という立場を捨ててしまうことがある。男に女の恐ろしさをとくと説いた、2022年現在じゃあ炎上必至な随筆(もしくは小説?)である。

 

「時計は十二時にとまる」:主人の理不尽な言いがかりにより自殺した時計屋の青年が売った、その屋敷の時計は夜の12時にぴったりととまるという。ので実際に行ってみた。

というわけで、おなじみの心霊スポット訪問記である。

ところが今回はまぁ・・・。

我々の寂しさは決して真相をあばくものではない、怪談をやむをえずあばいたという寂しさだった。p.208

結論から言うと「時計は十二時にとまらない」。釣果ナシの結果に終わる。

だが、この肝試しをする若者達を気に入った、日露戦争にも参加したという老人が、彼等を呼んで晩餐会を開催するとの旨。行ってみるとその晩餐会に並んだもの・・・がメインディッシュとして描かれている。

所謂ゲテモノである。そのなかの一つにカエルが出てきた。今じゃあちょっとした居酒屋に行けば食べられる珍味である・・・ことを知ったら遠藤先生はたまげるだろうなぁ。

 

「針」:東京神田、駿河台にある文化学院の女子学生、成瀬由紀子は夏休みのアルバイトで、青山南町にあるお屋敷の留守番の仕事を受ける。庭の薔薇と鳥の面倒さえ見れば7000円出すという。しかしその屋敷には物を触ってはいけない・入ってはいけない部屋があって・・・!?

老人「絶対に手をふれないでほしい。・・・・・・できれば、はいらないでほしいのだ」p.217

勿論入っちゃうよ~~~!!!という話である。途中で成瀬の彼氏も出てきて、怪談の王道突っ走る作品。ここまであらすじを書くと針一切関係ないじゃんと思うかもしれないが、一応最後の最後に出てくる。

終盤の突拍子もない展開にあっけにとられる。ただ最後のその事象が事実か事実じゃないか・・・といった終わり方はいかにもTHE怪奇小説

怪奇小説集」とあるが、実際に怪奇小説らしい怪奇小説は、この「針」と「蜘蛛」そして最後の「生きていた死者」である。残りは随筆か、ノンフィクションか、怪奇小説よりかは不思議な話である。もしかしたら、そういった類は好きだけれども、著者自身の敬虔なカトリックと言う性質上、ホラーな創作というものはあまり得意な分野ではなかったのかもしれない。

本書は新装版とのことだが、それだったらタイトル「怪奇小説集」の部分を変えるべきように思う。「怪奇の箱」「怪奇小説・随筆集」とかそういった具合に。小説集と謳う割に小説が少なすぎる。まぁ20年も前の編集者に文句たれても仕方ないんですけど。

 

「生きていた死者」:

会社の重役「それから第四回の「久米賞は・・・・・・(中略)芙蓉美和子さんの「老残記」に決定いたしました」pp.242-243

毎年発表される文芸賞、久米賞を受賞したのは、東京都出身の快活な女子大生であった。しかし彼女の受賞作は、戦後5年に亡くなったある男性作家の筆致と酷似していることに気づいた週刊誌記者達は・・・!?

「久米賞」*1は、芥川賞を創作に落とし込んだ賞である。その証左に、大衆小説をメインとした「鷗外賞」が毎回発表されている。

話の真相は、引っ張った割には総ての謎が解けた訳では無いし至極あっさりしたものである。けれど、その最後の最後、真相が明らかになった瞬間に起きた事象が印象的。死者は死者であるべきなのだ。死んでいなくてはならない。生きていてはならない。生きていることがばれてはならない。

また、以下の会話も結構インパクトあった。

私(週刊誌記者)「小説家もこうなるとスターだね」

中山(週刊誌記者)「同じ今年の受賞者でも鴎外賞のほうはパッとしない。もう作品の世の中じゃないんだな、小説家も雰囲気なんだよ」p.258一部中略

でも最近は、そういった流れに逆らうかのように作品をしっかり選定している・・・気がする。この前の芥川賞とか、僕はてっきりくどうれいんが受賞するものかと思っていた。違った。受賞作は、石沢麻依「に続く場所にて」李琴峰「彼岸花が咲く島」、2作品が受賞したが僕はこの2作者のこと両方とも恥ずかしながら、名前すら知らなかった。過去には、セカオワの沙織ちゃんがノミネートされた時もあった。同じく受賞には至らずだった。

遠野遥や宇佐美りん更に遡れば村田紗耶香のように、作品からスターを作ろうという気概が文芸界隈から感じられる。この作品が受賞したから彼等はスター作家なのである。彼等がスター作家だから作品を受賞したわけではない。

それは文芸の質の維持といった点では素晴らしいことだと思うし、評価されるべきことだと思う。一方で、だからこそ世間の文芸に対する関心がどんどん薄れて行ってるような気がする。閉じられた文化になりつつあるというか。本読んでる人たちの間で盛り上がってくださ~い(笑)、みたいな。まぁもう本屋自体が皆行く場所ではなく本好きが行く場所になってしまった時代において、それは当たり前のことなのかもしれないけれど。

 

エッセイ:遠藤順子

遠藤周作の妻が書いたエッセイである。生前の遠藤先生について書かれているが、やっぱり相当なびびりだったらしい。分かる。びびりほどホラー小説とかホラー映画とかそういうの好きだよね~。

ちなみにこの奥さんは昨年亡くなられていたのですね。正直もうとっくに亡くなって・・・(失礼)意外と昭和って地続きなんだなあと思う。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

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以上である。

なかなか面白い一冊だった。

遠藤周作名前こそ聞いたことあるが読んだことなかった。でもその文体の読み易さに驚いた。これが最大の収穫。「海と毒薬」「沈黙」等名前だけ聞いたことあるような傑作も、この文体なら読めるかもしれない。

ホラーを読みたくて購入したがその期待にはまぁ・・・うん・・・な分、僕の読書の関心の幅を広げてくれた一冊でもあった。

 

***

 

LINK

本書に収録されている「三つの幽霊」が掲載されているホラーアンソロジー

 

tunabook03.hatenablog.com

 

対の「家」がテーマのアンソロジー。どっちも面白いのでどっちも読もう。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

20220327 そういや最近「ふーん、エッチじゃん。」聞かないですね。好きだったんだけどな。

*1:「久米賞」は実在するみたいですが、地方の中学三年生を対象とした文芸賞のようで、本書における「久米賞」とは全く関係ないと思われる