選ばれる、理由は分かる。
夜馬裕『厭談 祟ノ怪』(竹書房 2020年)の話をさせて下さい。
【概要】
厭な話をさせたら圧巻の迫力!
メディアや怪談ライブなどで大活躍中の怪談師・夜馬裕が鮮烈に単著デビュー!
土砂にまみれた奇妙な一室のしょうげきのyらいとは・・・最凶最悪の事故物件奇譚「ばんもんの部屋」、
神隠しのごとく人を飲み込む山に命を練らん我幾重もの恐怖が襲い掛かる「マレビトの塚」、
幼い頃に出遭った怪異が今も闇女の向こうから自信を探し続ける「もういいかい」、
屋敷に伝わる機械な風習の裏に隠されていた驚くべき秘密とは・・・「蔵守りの儀」など21篇を収録。
欝々とした最悪の後味を残す厭怪談の妙味に震えが止まらない。
裏表紙より
【読むべき人】
・派手な怖い話が読みたい人
・実話怪談において実話性を重視しない人
・「怪談新耳袋」がハマらなかった人
【感想】
ですから私は、面白い話を聞いたとき、話の詳細や人間関係について追加取材は大目に行いますが、どんなに派手で驚くような話しでも、それが本当に起きたことなのか、という裏はとりません。p.222 あとがきより
面白いです。
結構派手に怖い。
200ページ強の竹書房文庫で21篇、ということはそうです。1篇平均10ページ。長尺の為物語性もガッツリあります。
ただ、派手に怖い分、「本当にあったのか?」と思わずにはいられない。そんなに都合のいいことがそんなベストなタイミングで起きるかね?
でもそれは、「あとがき」において夜馬氏自身の筆で、そこを重視しないという姿勢が書かれている。それが上記のあとがきの部分である。
だから完全に好みだと思う。
好きか?と聞かれると僕はまぁ・・・うん・・・まぁ・・・まぁ・・・まぁ・・・。
派手に怖い情報を詰め込んだ分、まるで一篇一篇がド派手に怖い読み切り漫画のよう。脳内にその情景が結構ハッキリ浮かびます。
ホラー短編集、と割り切って読めば満足感は半端ないです。
文章も整っています。巧み。
別の階段蒐集家に推されるのも分かる。面白いです。
ただまぁ実話怪談本として好きかと言われると・・・うん・・・まぁ・・・まぁ・・・うん・・・まぁ・・・。
僕が夜馬裕氏を知ったのは「瞬殺怪談」シリーズにおいてである。
2ページという短尺で、且つ初めて耳にする名前でありながらその怪談は一篇一篇ばっちり怖くて面白かった。ので、単著を購入した次第。
ただ一篇10ページにもなってくると「おいおいこんなことが?本当かい?」と心の中のアメリカ人がまぁね・・・うん・・・まぁ・・・うん・・・まぁ・・・まぁ・・・うん・・・。
それでもインパクトのある話はいくつかあった。まぁ基本どれもインパクト重視ではあるんだけれども・・・、実話性重視の僕にもぶっ刺さる話はいくつかあったので、簡単に感想を記しておく。
ちなみに俳優名は、実写化した時に演じてほしい俳優名である。それだけ視覚的に訴える怪談本であった。
圧倒的ベストは「いつもの」。
夜馬裕:草彅剛
「いつもの」pp.23-30:いつもの帰り道。アベックとすれ違う。しかしすれ違った瞬間女が毎度消えている。
飲み屋で、自慢話(嘘クサい)がとりえのおっさん(独身)の話である。
すれ違った瞬間に消える、と言うのも結構ゾッとした。今までありそうでなかった話である。そしてその真相が明らかになった時にさらにゾッとした。
その上での、話を聞いた後の大オチにゾゾゾゾッ。いやいやおいおい・・・。
初めて読んだ時は鳥肌がたった。
「乗車拒否」pp.49-52:タクシー運転手に面白い話がないか聞くと、露悪的な自慢話ばかりしてくる。
「幽霊なんか、俺はきっぱり、乗車拒否よ!」p.62
運転手:六平直政
その刹那、といった話である。こっわって思った。たまったもんじゃない。
「ばんもんの部屋」のような話より、筆者のこの体験談の方が僕の胸には刺さった。第一者が綴る文章はやっぱりいいですね。心情生々しい。
逆にこの話は、聞いた話だったら成立しないでしょう。それくらい些細な現象ではあるのだけれども、「乗車拒否よ!」p.62後の瞬発力が凄まじかった。
「治験で世界を旅する男」pp.89-103:世界を旅するバックパッカーにとって、欧州の治験のバイトは非常に都合がいい。
両足の膝から下を失ってしまい、車いす生活を余儀なくされている原田さんへ、その不詳の経緯を尋ねたところ、聞かせてくれた話である。p.103
原田:滝藤賢一
長尺の話でしたが、この話は結構ぶっ刺さりました。え、そこもかい!!となった。
加えて、脚を失うまでに至った重い後遺症も非常に興味深かった。そういうパターンもあるんだ。
そもそも治験のテーマがちょっと怪しい、怪しいけれどもオバケ大国の首都ロンドンだったらありえるのかなぁとか思ってしまう。怖い、よりかは好奇心を刺激される。
地球の歩き方が、コロナ禍になっていろんなテーマで出版するようになって話題とのことだけれども、「心霊スポット」「お化け屋敷」とかそういうテーマはまだですかね。
・・・調べたら、ムー。ムーとのコラボはあるんだけど、それはまたちょっと違うんよ・・・。でもムーのも読みたいな・・・けどなかなか高いな?
「墓守の儀」pp.130-161:田舎の昏い祖母の家を、相続する。
圧倒的長尺。恐らく本書は「ばんもんの部屋」に関わる話と、そしてこの話がメインディッシュなのでしょう。メリハリがついているの、とてもいいと思う。実話怪談本はするする読めるので、怖いと思ってもすぐ忘れてしまう。でも、これとこれ、だけは、と決めておけば何らか読者の記憶に残りやすいし。
30ページかけている分、まぁやっぱり結構物騒です。昏い和風のおうち、にまつわるあれやこれやがドンドン絡んできて最高。あれもこれも全部全部全部。なのにきちんとまとまって、怪談として成立しているので凄いと思った。最後はこう来るかと思った。
ただ、これが実話なのか・・・というと、ちょっと怪しいなぁ、と思わないこともないですが。あまりにも、できすぎている。
好きな人は好きだと思います。怖い話好きなら一読の価値はあります。
個人的に思い出したのは、昏い日本家屋ということで小松左京「くだんのはは」、あと綾辻行人「再生」を思い出した。どちらも有名な短編なので、読んだことある人も多いはず。そのどちらかが好き、と言う人にはおススメ。
・・・。
なんだろう・・・。
なんだろうなぁ・・・。
これが実話怪談ではなく「事実をもとにした短編小説」だったら、とても面白いと素直に言えるんだけれども、「実話怪談」という枠組み上、いやいやそれはないでしょwみたいなスタンスで読んでしまうんですよね。
いつか、竹書房で数を重ねたら、「実話怪談」に至らなかった怪異を元に掌編小説集とか角川ホラー文庫で僕は読みたいですね。切実に。
ちなみに、感想で随所現れる「ばんもんの部屋」というのは本書の一番初めに収録された実話怪談である。まぁ結構読み応えがあって怖いが、この話もやはり「実話以下略」スタンスが邪魔して、ちょっと実話怪談としては微妙だった。
でも、この話に仕掛けられたトリック、は目を見張るものがあった。
それを、ここに残してもいいのだけれども、僕は本書を読んで数か月たった今でもその「仕掛け」を克明に思い出せるから恐らく忘れはしないだろう、残さない。
気になる人は、僕が行かなかった分、本屋で新品で、購入必至!!!
〇「たたりのかい」
以上である。
面白い、んだけれども実話怪談本としてどうかと言われると微妙。
しかしそこは完全に個人の趣向であるし、「怪談作家推薦!ガチで怖い10選」に名前が挙がるのは十分に分かる。これだけの筆力・筆圧で実話怪談を書ける若手が今いったい何人いんのか、って話である。
・・・ああ、筆圧、というか熱量、というか。そういったものはびしびし感じた。
もう一冊単著があるみたいなので、また気が向いたときに手にしようと思う。
こんなんな~~~な井澤詩織さんイラストのブックカバーが貰えるよ!!
まぁ本書は選ばれていませんが・・・。
推す10冊のうち、一冊新品で後半で感想書こうと思う。
まぁ本当にフェス後半やるのか知りませんが・・・。
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LINKS
「くだんのはは」「再生」が同時に収録されているアンソロジー。
ちなみにアイドルのバンもん!では僕は甘夏ゆずちゃんが一番好きです。