小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

遠藤周作『なんでもない話』-僕達人間の延長線には猫、ATM、ぬいぐるみ、そして同じく罪を犯した人間が立っています。-

 

 

別に怖くもなんともないさ。

なんでもない、話さ。

 

 

遠藤周作『なんでもない話』(講談社 1985年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

心臓の凍るような恐怖と、絶妙のユーモアを織り交ぜた十編の小説世界。何気ない平凡な日常生活のかげに、人知れぬ秘密を隠し持って生きねばならない人間と言う小さな存在・・・・・。あるテレビ・ディレクターの人生を描く表題作のほか、「姉の秘密」「爪のない男」「恐怖の窓」「猫」「気の弱い男」「知らぬが仏」等を収録。

裏表紙より

 

【読むべき人】

・道徳の参考書・教科書が好きな人

・昭和の文学を読みたい人

・殺人とはいかなるものか・・・・とか考えてる人(「何でもない話等)

 

 

 

 

【感想】

本書は別に欲しくて手に入れた訳では無い。

たまたま気になっていたアンソロジー「宿で死ぬ」の冒頭に遠藤周作「三つの幽霊」が収録されており、それが怪奇小説集 「恐」の巻」から持ってきたものと知り、はて、あの遠藤周作がホラー小説を書いているのかとそこで僕は初めて知って、メルでカリった結果本書との抱き合わせでの出品が一番1冊単位の値段が安かったから、それで購入しただけである。怪奇小説集「恐」の巻」ほしさに手に入れた。本当何でもない話なのである。

結果、「怪奇小説集」と抱き合わせであった点、そして裏表紙の「心臓の凍るような恐怖」という文字に心躍り読んだわけだが、思ったものとはちょっと違った。怪奇小説・恐怖小説の短編集を期待していたがちょっと違った。

何というのだろう・・・僕がここに何か書き換えることが出来るのであれば、「日常にひたと感じる罪の意識を切り取った、共感必至の短編集」

もうもしくはもうあれです。「大人の心のノート」。

 

というのも、とにかく道徳的な内容が目立つんですよ。

「殺人を犯しても、平凡な生活を送り続けることが出来るのが人間、ってやつなんやで~」っていうのが結構な頻度で出てくる。

・・・。

 

・・・。

 

 

 

・・・むつかしいよ!!!

ただの怪奇小説求めてた僕にとっては滅茶苦茶むつかしいよ!!!!

道徳かよ!!

「心のノート」かよ!!!

でも思い出してほしい。道徳の退屈な授業の合間に見た、道徳の参考書、教科書、心のノート・・・あれは決してつまらなくなかった。むしろ面白かった・・・読んだだけで自分のランクが上がる気がした・・・。あの感覚に近い読後感が味わえる。

でも、怖くないんだよ~~~でも、怖くないんだよ~~~ぴえーん。今求めているのは面白い怪奇小説集だったのにぴえん。

 

 

 

 

以下簡単に各短編の感想を書いていく。

一番インパクトあったのは表題作「何でもない話」

 

「何でもない話」:母親を殺した杉本勝鷹の家を見つけた主人公は、浮気相手と借りた部屋で日々その家の盗み見にふけるようになる。職場のうだつのあがらない男がかつて戦争中中国人の捕虜を惨殺したこと、自分と浮気相手との間に出来た子の中絶に思いを馳せながら・・・。

人を殺しても、人は生きていくことが出来る。

人間の残酷なる一面を切り取った短編である。遠藤周作先生の表題作「海と毒薬」は同じく、人体実験を取り扱ったものだと聞いたことがあるが・・・(読んだことはない)、それと同じ道徳観がなんとなく感じられる一編。

特に、仕事先の男が戦時中に捕虜を殺したことを語るシーンはなかなかクるものがあった。昭和、特に祖父母が生きた時代はそれが当たり前であって、そういう時代だったんだなぁと思う。

令和現在ではメンタル病んでいる人が多い。清潔で血生臭さは減った分脳内は常にパンク。SNSで飛び交う自傷他傷。政治不信。コロナ。蔓延る不景気。清潔になったけれども明るくはない。暗い。

そのことに対し、「昔はそうじゃなかった」と高度経済成長期に想いを馳せる人々が多いけれども、当時は当時でなんか暗い、血生臭い、闇の部分が多々あったんじゃないかな。令和現在に匹敵する程の。

でも人の記憶が美化されるように、歴史も美化されていく。今の人々がうっとりと口にする「昭和」「昔」等実在しない、それこそ夢物語みたいなものなんじゃないか。

大阪万博で人々が夢見た「未来予想図」と何が違うだろう。昔を懐古するのではなく、今生きているからには今と向き合わなければならないし今を生きていかなきゃいけないんだと思う。

・・・って、殺人うんぬんより、殺人について軽やかに語る男を見て、時代自体に注目がいきましたとさ。

 

恐らく「何でもない話」の主役の2人と思われる。2人ともいい顔をしている。

 

「姉の秘密」:患者の一人である福島光子が死んだ。後日その弟という者から感謝の手紙が、医者のもとに届く。

表紙には少しインキのかすれた姉の筆跡で『病床日記』と書いてありました。p.37

展開は、読書をある程度してきた人なら予想がつくと思う。弟もやはりそのことを知っていた、知っていたからこそ、やはり医師に感謝を伝えられずにはいられなかった。「姉の恋の相手になってくれてありがとう・・・」と。

スマホもゲームもなく、医療の進歩も今ほど見込めなかった当時、彼女の心の拠り所はその夢物語の恋愛話だけだったのだ。

ああ。そう思うと切ないね。切ない。昭和の恋愛映画とかの良さが分かった気がする。

あ、あと弟が明らかに母校同じでワロタ。

 

 

「動物たち」:遠藤家の近くに動物病院がめでたく開院。しかしその看板を何と遠藤家の門の前に建てちゃった!!あと老犬が迷い込んできたよ。

花柳病・・・かりゅう病という言葉をこの短編で初めて知りました。性病とのことなんですってね。はえ~。トイレに行くのを「お花摘みに行ってまいりますの」と言うようなものか。

タイトルは「動物たち」と書かれているが、まぁ実際は「犬たち」である。犬のエピソードが2つ書かれた随筆。1つは毎晩牛乳を盗む犬。もう1つはモノクルをかけたように見える病気もちの犬である。

筆者は両者に対して優しいまなざしを向けているけれども、いやぁ僕はちょっと両方ともご遠慮願いたいな。牛乳盗まれるのもたまったもんじゃないし、家の周りにいるましてや病気もちなんてそんなん絶対汚いじゃん!!なんだろうこれも昭和ってやつですかね・・・。

あと最後の一行に、

私は今日、自分の家で一匹の犬、一匹のネコ、十二羽の小鳥、に十匹の金魚を飼っている。p.61

とあるが、他にwikiにもこの書籍の巻末にもそして筆者の作品群にも動物のどの文字も出で来ない。本当に、飼ってたのか・・・?

 

 

「爪のない男」遠藤周作がフランス留学中の話。モンブランには人が消える「悪魔の地点」という場所があるという。片手の爪がない男とそこを筆者は訪れるが・・・。

果たしてこれも随筆か怪しい。事実だったら怪奇小説集 「恐」の巻」「宿で死ぬ」に収録されていた「三つの幽霊」「四つの幽霊」になっていそうなものだが、あれに収録されていないということは、雑誌に書いた短編小説ではないかと思う。

そしてこれが本書の中で一番「怪奇小説」している。まぁ出てくるのはなんくるない感じのアレですが。

男「じゃ、出かけて見な、おまえさんだって、あの男のようになるかもしないぜ。なんあらおれが案内してやってもいい」p.71

あとタイトルにもなっている「爪のない男」が良いキャラしている。うすら笑いをすぐ浮かべる男の下品な、けれど肝の座っている憎めないキャラが良いです。CVは三宅健太さんでお願いします。

 

「恐怖の窓」:フランス留学中の話。やたらと安い下宿に2人で住んだが、その下宿は夜な夜な窓がガタガタいう。そして窓に映るのは・・・。

う~ん、小説か随筆か怪しい・パート3。事実だったら「三つの幽霊」が、先程の「爪のない男」含めて、めでたく「五つの幽霊」になっていそうなものだが以下略。

最後、窓に映ったものは僕の意表を突いた。現象自体は、結構似た現代日本が舞台の実話怪談を読んだことがあるからだ。なんか幽霊は今も昔も変わらないんだな・・・て。でも舞台は昭和だから結構新鮮に感じられる。

こういう昭和の、昔の、事故物件実話も読んでみたいわね。頼みます。東雅夫氏。

 

 

「猫」:29歳、オールドミスとなりつつある世津子は、妹が拾ってきた猫を嫌がっていたが・・・。

(猫を撫でながら、デートした気の弱い男を思い出して)自分はあの男ともし結婚すれば、愛情とか思慕などという感情はもてなくても、この猫に今、もったのと同じような情がひょっとすると起きるかもしれないな、結婚生活なんて若い人たちはアレコレいうけれども結局はそういう事ではないのだろうか。p.102

そういうことなのかもなぁ・・・。

29歳という年齢を迎えた女性の、結婚観の変化を捉えた短編である。怪奇小説のかの字もねぇ・・・共感しかねぇ・・・。

若い頃、それこそ大学時代新卒後数年は、すっごい好きな人!と結婚するものかと思っていた。けれど27歳の今じゃあそんなキラキラしたことは思わない。ちょっと好き、があればいい。恋はエッセンス程度でいい。

そんなドキドキする相手と暮らしていたら心臓が持たないよ~(ぴえ~ん☆)まさしく、猫くらいでちょうどいい。

30を超え35・40となれば結婚観に変化は生じてくるのだろうか。

猫、ATM、存在してくれるだけでありがたい・・・みたいな。

にしても、この短編が書かれたのは1965年。遠藤周作42の年齢である。まさか50年も前の40のおじさんが書いた小説に出てくる女性にこんなに共感なんて・・・だから文学やめらんねぇよ。

 

 

「気の弱い男」:気の弱いリーマン・啓吉は、ある日同級生だった男・田口が妻を殺したというニュースを見る。彼はむしろいじめられる側の気の弱い生徒だった。肌の白い面長い・・・。

啓吉の妻「女には、何もないほうが一番、倖せなんですよ。あんたなのように無茶のできない人と一緒に住むのが」p.123

啓吉の妻とは・・・要するに・・・世津子か!?猫を撫でながら結婚に思いを馳せたオールドミス・世津子なのか!?とうとう結婚出来たのか!?と思ったけど、本編では細君としか書かれていないし掲載雑誌も違うので何とも言えないけど、世津子か!?おい、お前、世津子なのか!?

本編は気の弱い男が気の弱い自分をあー厭だと思う短編である。まさしくこれこそ「何でもない話」。

最後主人公は、金魚を殺すことで気の弱い自分自身にちょっと反抗する。

何となく、分かる気がする。

彼が生まれる時代ももう少し前であれば、この金魚が中国人捕虜であったのかもしれない。「何でもない話」・・・冒頭の表題作で、上司が人を殺したことがあるということに衝撃を受けたけれども、多分戦争においての殺人ってそういうことなんだろう。何でもないんだろう。

 

 

「尺八の音」:義母と障害があるその娘を殺し、死刑囚となった男・花田に編集者である主人公は、取材のため会いに出向くが・・・。

(殺人事件を報じた20年以上前の新聞に掲載された花田の顔写真は)まるい眼鏡をかけて当時、かなりの学生がそうだったように頭を丸坊主にしている。眼鏡の奥の二つの眼はどこか気が弱そうで、憶病なように見える。p.130

ネタバラすと、主人公は花田と会うことは叶わない。そのため彼を看ていた木内医師との会話が主になる。花田は、アルペ神父の話をパンフレットで何気なく読んでから改心し、月々の小遣いを障害のある子どもの施設に送っているという。結局最後、結局花田自身は出てこないまま処刑されて終わる。

直接花田を登場させないことで、編集者である主人公とそして読者が彼の人間性に思いを馳せ「罪とは・・・罰とは・・・」と思いを馳せる構造になっている。

もしその平凡な男が医師のいうように別の環境におかれたなら、郊外から満員電車に乗って務め先に通い、勤め先から戻るとテレビを見、日曜日には子供のためにプラモデルの飛行機をつくってやる父親になっていたかも知れぬ。p.143

遠藤先生の作品に出てくる殺人者は、サイコパス等といった存在とは程遠い、総じて平凡な人間であることが多い。罪を犯した人間と罪を犯さなかった人間があまりにも平等に書かれている。

今は殺人等重い罪を犯した者を、無敵の人、と呼んでひとくくりにして社会から遠ざけがちにあると思う。けれども無敵の人と僕達に何の境界線があろうか。境遇が違ったら僕達もナイフ持って繁華街うろついてもおかしくないんじゃないのか。令和現在でも遠藤周作の作品が長く愛されるのもよく分かる。

 

 

「知らぬが仏」:一人娘である泉が、デザイナーの男と結婚するという。

一転、話は結婚前後における娘とその父親のどんでんどんでんを描いた話である。娘が父親に結婚をあれこれ認めさせるためいろいろ企んでいろいろ実行する。画策する。それを「知らぬが仏」と称している訳であるが、最後父親は娘のふとした表情を見て結婚を心から祝福する。

両者ハッピーで良い話だなあと思う。デザイナーの男もこれまたなかなか将来有望なデザイナーらしく読んでいる読者も安心できる設計なのが良いですね。

不倫・殺人・野犬(性病付き)・「爪のない男」・死刑・ゲシュタポが右往左往する短編集にどうしてこんな作品収録したんや・・・。

この作品と「猫」だけは好きですね。怪奇小説とは別ベクトルですけど。もうこの2編に関しては怪奇小説のかのkの発音自体も聞き取れないような感じですけど。

 

「お母さん」のんだくれのストリッパーは、月に一回離れて暮らす息子と会うのが生き甲斐であるという。そしてその息子が舞台を見に来るというが・・・。

せっつねえよぉ・・・・になる。もう怪奇小説うんぬんどうでもいい。せっつねぇ・・・・せっつねぇ・・・。

何が切ないのかは分からないし、息子の気持ち総てを推し量ることは出来ない。このあたり、まさしく道徳の教科書に掲載されていた純文学を思わせる。

やはりまだ、高校一年生である息子は、ストリップで金を稼ぐ母を赦せなかったのだろう。童貞にストリップはハードだったか。

でも、その後、息子が赦せなかった自分自身も責めるのは容易に想像できる。

母を赦せない、というのはある種殺人に値する罪の深さかもしれない。

 

 

 

 

 

以上である。

概ね面白かった。怪奇小説集・・・ではなありませんでしたが・・・。どの部分が「心臓の凍るような恐怖と、絶妙のユーモアを織り交ぜた十編の小説世界」なのかは全く分かりませんでしたが・・・。

にしてもサクサク読める文体には圧巻。そしてやっぱ後世に名前が残っているだけあって圧倒的文章力最高。

怪奇小説集 「恐」の巻」と続いて二冊目の遠藤周作で知Þが、もう次はあれですね。「海と毒薬」しかないでしょ。

 

あとまぁやっぱあれだね、戦争で人を殺したことが「なんでもない話」にひとくくりにされていることがあまりにも衝撃的過ぎましたね。

 

一昔前の文庫本のシュールな表紙、嫌いじゃない。

 

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死刑囚の歌人を扱った新書。これも面白かった。

 

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