小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

朝宮運河『再生 角川ホラー文庫セレクション』-ホラーは、何度でも再生する。-

 

 

 

 

2021年8月某日、私、まぐろどん(28歳地方在住フリーター)は、本書を発端として、令和・ホラー宣言を発表致しました。

 

 

 

 

 

 

 

朝宮運河『再生 角川ホラー文庫セレクション』(KADOKAWA 2021年)の話をさせて下さい。

 

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233115j:plain

 

 

【概要】

1993年4月の創刊以来、わが九人緒ホラーエンタメを牽引し続けている角川ホラー文庫。その膨大沙な作品の中から時代を越えて読み継がれる名作を厳選収録。

ミステリとホラーの巨匠・綾辻行人が90年代初頭に執筆した傑作「再生」をはじめ、『リング』の鈴木光司による夢の島クルーズ」今邑彩の不穏な物件ホラー「鳥の巣」澤村伊智の学園ホラー「学校は死の匂い」など、至高の名作全8篇。これが日本のホラー小説だ。解説・朝宮運河

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・良質なホラー小説が読みたい人

・また、ホラー小説を開拓していきたい人

・「おし、ホラーの文庫本一冊でも読んでおくか」の人

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233104j:plain

f:id:tunatunarice_03:20220119233110j:plain

 

 

【感想】

朝宮運河といえば、新進気鋭のホラー小説編纂者である。

僕が初めてその名前を目にしたのは、ちくま文庫『家が呼ぶ』が2020年本屋に平積みされてる時だった。「家」がコンセプトの短編集との旨。

「ほおん・・・」

と思いながら1ページ目を捲り、掲載されている作者作品名を見ると・・・

「高橋・・・克彦・・・だと?」

髙橋克彦といえば「世にも奇妙な物語」風の良作恐怖譚を多く書いている作家である。怪奇短編集緋い記憶直木賞も受賞しており、「前世の記憶」「蒼い記憶」も合わせてシリーズ三冊文庫本の表紙が物凄くシュールでまぐろどん的ホラー小説表紙大賞圧倒的一位に君臨し続けているあの髙橋克彦をアンソロジーにいれる・・・だと?ほーん・・・おもしれー男。

「倅・・・解体・・・だと?」

平山夢明が書いた最悪のひきこもり息子ホラーであり衝撃の結末の余韻半端なく、僕にしては珍しく早々に書籍自体を手放した。トラウマ短編。まぐろどん的あと味の悪いホラー大賞圧倒的一位に君臨し続けるあの「倅解体」を家コンセプトのアンソロジーに収録する・・・だと?ほーん・・・おもしれー男。

そもそも、・・・朝宮運河。こんなさわやかな名前してホラー小説編纂者・・・だと?・・・おもしれー男。

芋けんぴついてんぞ。カリッ。

という訳で入手した次第。

 

では何故、『家が呼ぶ』ではなくこちら『再生』を手に取ったかと言うと、まぁホラーならまぁまずホラー文庫からだよね。

っていうのと、家が呼ぶ』にある女性作家の作品が収録されていないのに不満を持ったから。「倅解体」と並び、僕の中で唯一無二の傑作であるあの家ホラー・・・なんでしゅーろくされてないの!!たかはしのかっちゃんもしゅーろくされてるのになんでしゅーろくされてないの!!!ばかばかばーか!!!(芋けんぴを投げつける)

要するに、「家が呼ぶ」には一番好き、と言っても過言ではない家ホラー小説が未収録だったのである。

という訳でまあとりあえず・・・本作から手に取った次第である。

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233058j:plain

 

 

・・・結論、100点。

結構触れたことのある作者の作品が多く収録されていたり、それこそ表題にもなっている「再生」は既読であったりしたが、それを差し引いても面白かった。

8人の作家それぞれの個性が際立つセレクションも素晴らしい。小池真理子のさらっとした上品さ綾辻行人グロテスクゴシック今邑彩テンポの良さ。岩井志麻子日当たりの悪さ。一方で、角川ホラー文庫特有のあの「じめっとした感じ」は全作品通してぷんぷん漂っているのも良い。

そして「玩具修理者」「鼻」「くだんのはは」等、一線級のメジャー作品ははじいているの好印象。分かる。もうそういうのはこっちは読んでんだよ。まぁ「鼻」は未読だけども。

高レベルな作品と、完璧な編纂。そしてあとまぁ・・・この一度見たら忘れられない表紙。重版がかかったと風の噂で聞いたがそれも頷ける一冊である。

夏にホラーを探している人がいれば、まぁまずこれですね。KADOKAWA夏の100冊とかいう概念はもう古いです。この1冊で足ります。

 

以下簡単に各話の感想や、作者について思うこと等々・・・まあ徒然なるままに残しておこうと思う。簡単にネタバレもあるので注意。

ちなみに8つの中で特に良かったのは

1位「学校は死の匂い」「依って件の如し」

3位「夢の島クルーズ」

1位は甲乙つけがたい。

そして読んでもう少し掘ってみようと思った作者は岩井志麻子、澤村伊智、福沢徹三、今邑彩井上雅彦異形コレクションこの前ブックオフオンラインで死ぬほど買ったので自然と掘ることが約束されております候。

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233020j:plain

 

綾辻行人「再生」:私は年の離れた妻、「由伊」の身体の秘密を知り・・・。

この短編のみ既読。

「本書は角川文庫版『眼球奇譚』を底本とした」p.331とあるが、まぁあの本も何でホラー文庫じゃないんだ・・・?てくらいじめじめした短編集だった。「咲谷唯伊」という女性に関するパラレルワールドの短編をぎゅっと収録した1冊。底本にするくらいであるから、作者にとっては傑作ではあっただろうが、まぁ僕の中では良作くらいだった覚え。この「再生」もざっくりは覚えていたがまぁそこまで深い衝撃を受けることはなかった。でもまぁ面白いことは確かなので、表紙に惹かれた人は読めばいいと思う。それこそ一時期「KADOKAWA夏の100冊」とかにも選ばれていたんじゃなかったかな・・・。うろ覚えですが。

閑話休題

まぁこの「再生」は、改めて読むと、怖いよりかはグロいが先に来る。確かに最後の最後の異形の姿と、絶望のラストはなかなかどん底感はあるが、それまでに至る過程がまぁ、うーん。

いまいち陳腐、突飛な設定が好きになれないんですよ。虐待してきた父親を本当は愛していた。何万人かに一人の奇病。ここらへんが僕のなかでマイナスポイント。

ただまぁ、首なし死体が暖炉の前で椅子に座っている・・・というヴィジュアルは美しい。美しいんだけれども、なんか既視感は・・・あるかなぁ。まぁ実際に見てたらやばいんですけど。

結末は確かに面白いし、「再生」コンセプトとして掲げるにはうってつけの作品だと思う。ただ僕個人としてはあんまり好きじゃないです、まる。

なんだぁ・・・角川ホラー文庫傑作集と名乗りながら早速角川文庫から持ってきてるじゃねえかなんだぁ・・・と思ったのですが、もともと角川ホラー文庫のアンソロジーに掲載された作品である旨。なるほどね。

 

 

鈴木光司夢の島クルーズ」:所謂そういうセミナー系の「勧誘」のために、ほとんど初対面の夫婦とヨットに乗ることになった榎吉であるが・・・?

まず、「空に浮かぶ棺」を収録しなかったという言う点で僕はこの朝宮氏にスタンディングオベーションを送りたい。鈴木光司がアンソロジーに参加すると9割9分「空に浮かぶ棺」なのである。傑作「リング」と関連した程よいページ数の短編だからなんでしょうけれども、あれ単体だといまいち面白くないし、設定こそ奇抜とはいえ展開地味な作品であるしもうね、僕は言いたい。全国のホラーアンソロジストに言いたい。

「空に浮かぶ棺」はいいです。他を読ませろ!!!他!!!!

と絶叫して出てきたのがこの一編。

冒頭、ヨットの専門用語が並び正直頭がクラクラし、中盤じめじめとした夜の海の恐ろしさにビクビク・・・からの終盤まさかのアツい展開で、予想を裏切られた。

序盤はまぁ正直ヨットの専門用語が並んで難しい。鈴木先生は確かバイクも好きと聞いたことがある。こういう機械系が好きなんでしょう。「カタカナ用語多くて結構ちんぷんかんぷん」is男性作家あるある。

中盤は・・・一気にホラーじみてくる。止まったヨット。周囲が闇に包まれ何も見えない。海。最悪のタイミングの漂流物。そしてヨットの下に捕まっているのは・・・。緊張感、闇、正体が分からない怪異の恐ろしさ。じめじめじめじめ・・・ひえっ。

そしてまぁきっとこの怪異がヨットをがばっと食べて終わりだろ・・・と思ったら、終盤まさかの、アツい展開。

自分の人生は自分で切り拓け。

自分の得たいものは自分で手に入れろ。

「リング」シリーズで成功した作家からの若者へのメッセージとも捉えられる一遍。

あと巻末見るとこの作品『仄暗い水の底から』所収なんですね。というか「仄暗い以下略」が短編集であること自体初めて知った。

「リング」シリーズは長いので手に取るのをかれこれ10年くらい躊躇していますが、短編集とあれば読んでみようかな。

 

 

井上雅彦「よけいなものが」:男女二人の会話によけいなものが。

ホラーというよりはある意味叙述ミステリ。なかなかさくっと読めていいですね。

阿刀田高筒井康隆等昭和~平成初期はさっぱりとした短編ホラーが多かった印象がある。その系譜ですね。

怖い、というよりはその展開にあっと驚く。そして余韻を楽しむ。

最近ではどうでしょうね。こういうホラー書く人はいなくなってしまった気がする。井上先生もどちらかというと現在ではゴシックホラーの印象が強いし。

 

 

福澤徹三「五月の陥穽」:異動先の人間関係がうまくいかない。石黒は屋上で便所飯ならぬ屋上煙草を吸うが・・・。

ビルとビルの間に挟まって出てこれなくなる話です。

絶望。

僕、あれ思い出しました。日本昔ばなし「吉作おとし」。

日本昔ばなし ホラー」で検索すると必ず出てくる満場一致のトラウマ回。あれの現代版といったところでしょうか。最悪ですね。

福澤徹三先生といったら、昔図書館で「盛り塩のある家」を読んだくらいなのですが・・・バランスがいいですね。読み易いし結構怖い。文章力が高いし毛工場面場面が目に浮かびやすいというか。

ちょっと深堀りしなくてはな・・・と思いました。そしてこの短編が収録された作品は、もうメルカリで、買いました。

 

 

今邑彩「鳥の巣」:男友達の会社の保養所に一人向かった主人公。持病の心臓病で倒れそうなところを、四十代の小柄な女性が助けてくれた。「浜野和子」と名乗った女性は、鳥が嫌いだと言う。

今邑彩と書いて、「いまむらあや」と読みます。

既に鬼籍に入った作家さんなのですが、2-3年前に確か集英社中公文庫あたりが「思い出せやゴルァ」と新しいカバーをつけて各所書店で叩き売りしていたのは記憶に新しい方もいるんじゃないでしょうか。好評だったのか、一部作品は新装版が出ているはず。

僕もその時初めて知って「よもつひらさか」は読みました。

そしてこの「鳥の巣」にも共通するのですが・・・とにかく今邑先生の文章は読み易いんですよね。確かに時代を感じるところもあるんですけど、それよりもサクサク頭に入ってくる。

だから後半の怒涛の展開なんて、もう半分ホラーのレデイースコミック読んでいるようなもんです。しゅーるしゅる入ってくる。しゅーるしゅる。(頭に内容が入ってくる音)

何なんですかね。文章自体の技量の高さよりテンポの良さがいいのかな。

そしてあとこの「鳥の巣」は・・・舞台設定、雰囲気が最高ですね。

誰もいない会社の保養所、という静寂が支配する世界。そこを舞台に据えた着眼点が素晴らしいと思った。そんなとこでまさかホラーが展開されるとは思わないじゃん。

読み易い文章、斬新な視点。まぁ大手二社が「思い出して!!みんな彩ちゃんのことを!!思い出して!!!」と叩き売るのも良く分かる作家。

 

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233026j:plain

 

 

岩井志麻子「依って件の如し」:利吉とシズは、貧しい兄妹だ。村八分の扱いを受ける貧しい、兄妹だ。

岡山県北部を舞台にしたじっとりねっとりとした、ホラー。

怪異が現れるタイミングが絶妙なんですよね。ぱっと現れる。ぱっと消える。主人公・シズの心に呼応するように・・・。

そして終始岡山北部の貧しい村のどんよりとしたねっとりとした、昔ながらの田舎の空気・・・。

邦画よろしくぱっと出てきてぱっと消える怪異、暗くてじめっとした空気。もうこれだけで十分うわぁ・・・なのに、終盤の展開が衝撃過ぎてもううわぁうわぁうわぁうわぁうわぁ・・・なんですよね。正直この8つの短編の中で一番心抉られたかもしれない。一つの展開は読めたが、もう一つの展開は、読めなかった。バッドエンドともハッピーエンドとも絶望とも希望ともつかない結末。ただ分かるのは「ああこれはやはりよくない結末だ」。

・・・ああ、だから、この物語は、「依って・・・件の如し」

利吉「もう百姓はせんで。鉄道に行った方が金になる」p.214

遥か昔、もうそれは僕が小学校の頃ブックオフで「めちゃくちゃ怖くて話題」とメディアで訊いた「ぼっけえきょうてえ」を1ページ2ページ読んだんですが、まぁ凡人小学生の僕にはむつかしかったね。昔の村の怖さ不気味さなんて理解できるはずもなく、方言なんてただひたすら読みづらい文字列にしかすぎず、そっと本棚に戻した覚えがある。

その「ぼっけえ、きょうてえ」に収録されているのが本作である旨。

10何年振りに再挑戦してみようかなぁ・・・。

ちなみに岩井志麻子先生といったら有吉反省会で奇抜な格好してますね。5時に夢中でも面白BBAだった覚えがある。容姿あんなんで頭にこんなじめっとしたもの持ってるとかもうそれさぁサイコパスでしょ。好きになっちゃうじゃん。

 

 

小池真理子ゾフィーの手袋」:未亡人の主人のもとに、夫を慕っていたオーストリア人女性の幽霊が現れるようになり・・・。

小池真理子先生のホラーはとにかく上品なんですよね。品がある。そして薄暗い。怖いというよりかは、その品の良さに舌を巻き、そしてじぃん・・・と余韻に浸る感覚。現代の「怪談」に一番近い女性作家だと思う。

あ、あと「間接照明」感。小池真理子のホラーは「間接照明」。

今回のゾフィーの手袋」もまぁそういった具合である。

でも僕は、もっと若い時に書いてたスリリングなホラーのが好みですね。「妻の女友達」みたいな。あの息詰まる展開手に汗握る振り向けばぎょえー!!みたいな。

でも年取ったら多分こういうゾフィー系に傾倒していくんだろうな。

歳をとるごとに読む本を変えていきたい作家。今回は僕に10年は早かった、と思う。まぁ面白くないことはないけど、さ。

 

 

澤村伊智「学校は死の匂い」:6年2組の美晴は、同級生の古市俊介と共に、体育館で何度も自殺する白い少女の霊の謎に迫る!!!

今ホラー読んでる人って、多分小学校中学校もそういう児童ホラー小説・漫画・あわよくばアニメに慣れ親しんできた人だと思うんですよ。僕もそう。

そしてそういった人達には間違いなく刺さる一遍。

所謂「大人向け児童ホラー」といった具合。

でもただ児童ホラーしていたらつまらない。白い少女の霊が出てきて大人しく成仏するだけでは満足しない。だって僕達はもう子供じゃない!!

だから作品に「団体の在り方」と、「血生臭さ」と、「ハッピーエンド・・・?(余韻)」を足して、大人向けの作品に仕上げた印象

アンチ一致団結。が徹底されているのはなかなか現代っぽくて面白かったですね。足並み揃える。みんなで一つを目指す。チームワーク。その在り方をホラーで問われるとは思わなかった。

血生臭さ。児童向け幽霊のように「ありがとうオリゴ糖といってすんなり消えてくれればどんなによいことか。背筋も凍る幽霊のポーズの意味。

そしてその結末は「ハッピーエンド・・・?(余韻)」。斜に構えて挑んだ、怪奇現象の結末。は、果たして美晴が心から望んだ結末であったのか。

とはいえ。

一人ひとりが際立つキャラクター小説的側面もあり、舞台が小学校というのもあり、そして文章が「私」小学六年生女児の一人称というのもあり、読んでいるワクワクはまさしくあの時のワクワク。

1990年代の小学校っていうのがまたいい。そう、当時の僕達の怪談にスマートフォンは出てこなかった。

怪談好きなら間違いなくぶっ刺さる一冊。

 

「古市だって昼間は平気でしょ、それと一緒」

「いや」と彼はかぶりを振った。

「暗くなくても学校は怖い場所だよ」

「なんで?」

「死の匂いがするから」p.276

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233015j:plain

 

以上である。

なかなか良い作品が揃っていて、とても良かった。読みたい作家、もっと読みたい作家というのも結構見つかったし。

これぞ!!でおすすめできる。まぐろどん的KADOKAWA夏の1冊」である。

 

f:id:tunatunarice_03:20220119233120j:plain

去年めっちゃホラー小説買ってめっちゃ読んだんだよ~っていう写真。
全部挙げるので覚悟しやがれですぅ。

***

 

20220118

記事自体は昨年の夏に書いた。そしてアンソロジーを封切りに去年はかなりの数のホラー小説を読み今もそれは継続中。下書きばっかりたまってるので、随時更新しようと思う。

ちなみに、最後の澤村先生の作品の主人公はwikiで調べたら後日死んでいてほんとびっくりした。

 

***

 

LINKS

掲載作家書籍の感想。どちらも3年以上前ですね。もはや「懐かしい」のレベル。

このブログも良くここまで続いたなぁ・・・(しみじみ)

 

tunabook03.hatenablog.com

 

tunabook03.hatenablog.com