小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

貫井徳郎『慟哭』-悲痛。-

 

仰天はしない。

悲痛。

 

貫井徳郎『慟哭』(東京創元社 1999年)の話をさせてください。

 

 

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【あらすじ】

連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判を受けて懊悩する。

異例の昇進をした若手キャリアの社長をめぐり、

警察内に不協和音が漂う一方、

マスコミは彼の私生活に関心をよせる。

こうした緊張下で事態は新しい方向へ!

 

幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、

人間の内奥の痛切な叫びを、

鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。

 

【読むべき人】

・仕事第一の「無関心な」父親のもとに育った人

・仕事第一の「無関心な」父親にならざるをえなかった人

・家庭を顧みない人

東出昌大 

 

【感想】

叙述トリックで面白いものない?」

「面白いミステリない?」

こういったタイトルのスレで必ず上がる本作。

いつか読もう読もうとは思っていたが、

どうも400ページ強。

300は「ふんっ!」と勢いで読めるが、

400は結構キツい。「ふん・・・んっ!」力まないと読めない。

汚い話、よって昨夏からずっと積んでいたけれど、

本格化する正社員労働、

親の大病、

四半世紀喪女できてしまったが

人生においていよいよ立体化してきた2文字「結婚」

いろいろ煮詰まって

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

慟哭。

 

読むしかない。

 

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読んだ。

踏ん張って、読んだ。

 

まぁ・・・面白かったよ。

「・・・・・・ふんすぅ」

慟哭も収まるレベルには。

 

叙述トリックものと聞いていたので、

どういうトリックがあるかふんふん楽しみながら読んだけれど、

まぁこれはすぐに分かった。

トリックというかもうそのまんま。

まんま。

もうマジでまんま。

「仰天」

と帯にはでっかく書かれているが、

本作が書かれた1993年には確かに、このトリックは斬新だったかもしれない。

ただそれから26年。

このトリックはもう賞味期限切れ。

驚愕も何ももたらさない。

むしろ僕が生まれた1993年、それからずっと喪女という事実のほうが「仰天」かもしれない。

 

まぁ93年・・・世に出てた日本の叙述トリックものだとせいぜい「ロートレック荘殺人事件」くらい、だったのかもしれない。よく知らんけど。十角館は既に建っていたっけか?

まぁでも当時斬新だった技術をデビュー作でいけしゃあしゃあとやるのは確かに仰天なのかもしれぬ。

 

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そんなトリック面では結構色あせた本作が未だに、

叙述トリックで面白いものない?」

「面白いミステリない?」

と聞かれて名前が挙がるのは、

トリックが朽ちてもなお輝く部分があるからだ。キラッ。

 

キラッその1。題材。

幼女連続行方不明事件、刑事、「キャリア」「ノンキャリア」、衝突、人間ドラマ。

逆に、新興宗教、内部組織、信念、儀式。

警察と宗教。

こんなん嫌いな人いないでしょ。

からあげとハンバーグ。

こんなかんじでしょ、

で、「からハンからハンからハン・・・」こんな反復横跳びきめられちゃったらそらもう「面白いミステリ」入るにきまってるでしょ。

 

静岡県民の僕にはハンバーグ・・・改め宗教のほうがささったかなぁ。

階級とか勉強会とかボランティアとかバスツアーとか、

こうやって信者同士のつながりを固くしていくんだなぁと思った。

そしてかっちこっちに固まったつながりの成れ果てが、

郊外に大きくかまえるあの清潔な真っ白いビル群なのかと思うと、

感慨深い。

そしてあの清潔な建物の中でこういったことが日々行われているのかと思うと果てしない気持ちになる。

まぁ26年前の小説なのでだいぶ内部も変わってるんでしょうけど。

 

からあげ・・・事件のほうもおそらく当時は熱い話題だったはずだ。

以前『文庫x』で知った北関東幼女連続誘拐事件が起きたのも、この頃ではなかったか。

 

キラッその2。主題。

父親愛。

 

世の父親達は基本忙しい。

働かねばならぬ、働かなければならぬ。愛しい妻と子を食わせるために、

仕事が第一優先になるのは仕方がないことなのかもしれない。

 

ただその愛しい妻と子にきちんと「愛しているよ」言えてますか、

言わないと伝わらない。

伝わらなければ、その愛は見えない。

見えなければどんどんどんどん離れてく。

 

とか言いながら、まぁ僕は父親でもないし仕事第一人間でもないしましてや男でもないし、無知の知、で父性やらなにやらそこらへんはよく分からない。

 

ただ僕の父親もこの捜査一課長と似ていて、朝から夜までずっと働きづめの人で、無口の人だった。

当時は何を考えているのかよくわからなかった。

けれどこの小説を読むことで、少しは、当時の父親の気持ちが分かった・・・気がする。

たぶん私だけではなく、父親自身も分かっていなかった。

 

そこで終盤の慟哭のシーンは、胸に突き刺さる。

 

慟哭。

調べると、「悲しみに耐えきれず声を上げて泣くこと」らしい。アラサーのもじょが現実に耐えきれず声をあげて泣くことではなかった。惜しいが。

悲しみに耐えきれず。

最後の胸に突き刺さる切なさは確かに、

ミステリで悲しいを感じられるなんて確かに、

仰天だったのかもしれない。

 

以上である。

トリック自体はもう今となっては期待出来ないが、

それでもまぁまぁ面白い。

特に父親との関係に悩んでいた人、もしくはその父親自身におすすめの一冊。

 

***

 

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貫井徳郎先生で依然読んだ作品といえばこれ。

「崩れる-結婚にまつわる八つの風景」(角川書店 2011年)

もう読んだのはかなり前だから覚えてないけど・・・まぁ期待通りの血なまぐさい短編集だったかなぁ。

特に一番初めの殺人事件に至る過程を描いた話がしゅるりと秀逸だと思った覚え。

あと3つ目の話だけなんかオカルトくさかったおぼえ。

 

あと

 

 

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同じレーベルからかなんとなく表紙の雰囲気に統一感がある

 

「愚行録」(東京創元社 2009年)

マウント精神が感じられる山岳小説だったかな。

この作品がいまのところ、この3冊の中で一番好きかもしれない。

 

どうも文体がいまひとつ硬く感じられて、そう高頻度で読む作家でもないけれど、

また気が向いたら手に取ろうかなぁ・・・。

 

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記事にかけてない本とか積読とかで箪笥の上が荒れている。

 

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