満たされない。
「空気人形」(監督:是枝裕和 配給:アスミック・エース 主演:ペ・ドゥナ 2009年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
「き れ い」
ある日空気人形である「のぞみ」は、
心を持ってしまう。
心赴くままに外に出て、
ぶらりと入ったレンタルビデオの店員・純一に
一目ぼれしてしまい・・・・
「心をもつことは、切ないことでした」
毎日空気人形に愛情を注ぐ冴えないファミレス店員・秀雄、
毎朝卵かけご飯を食べるレンタルビデオ屋店長・鮫洲、
ニュースと自分を繋げる嘘をつく未亡人・千代子、
元国語の教員・敬一、
年を重ねる受付嬢・佳子、
過食症・美希、
小学生・萌、
萌の父・真治、
浪人生・透、
警察官・轟。
誰もが満たされない気持ちを抱えながら生きている。
そして、それを知った空気人形・のぞみは。
【見るべき人】
・孤独を感じている人
・寂しい人
・ドールが好きな人
・毎日虚無を抱いている人
・眠れない人
・空気が吸えない人
・酸欠
【感想】
是枝監督の作品は何となく好きだ。
いや、映画全然知らないからどうしても「なんとなく」がつく。
でも、「万引き家族」「三度目の殺人」共に映像から伝わる空気感が好きだった。
文章でも絵画でも音楽でも出来ない表現。
映像。
というメディアの力を満遍なく駆使している感じがして好き。
その他数ある是枝監督の作品のなかで、特に「メイド」「人形」。
好きなワードが含まれた今作を手に取った。
良かった。良かったけど・・・僕はこの作品を見て満たされたかった。
なんかハッピーエンド見たかったんだよね・・・まぁ・・・うんでもそうかぁ。例背に考えればダッチワイフが人間とくっつくなんてありえないもんなぁ・・・。
以下簡単に、ストーリーと役者、演出の3点から感想を述べておこうと思う。
ストーリー:★★★★☆
のぞみ:
「命は自分自身だけでは完結出来ないように、作られているらしい。
花もめしべとおしべが揃っているだけでは不十分で
虫や風が訪れて
雌しべと雄しべを仲立ちする。
命はその中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ」
人間は基本満たされない。他者の存在によって満たされる。
決して、その満たされないを満たす・・・のを描いた作品ではない。満たされてハッピーエンド!!ではない。
人間とは、そういう存在ですよね?という投げかけの作品である。
僕はてっきり純一とのぞみのハッピーエンドを期待していたのでまさかの結末に面蔵あった。ので★一つマイナス。
極論、店長も店員もバイトも空気人形も、
皆代替が効く存在で、
その点では空気人形と僕等人間の違いはほぼない。
だからこそ、
繋がり・・・関係性が大切で、
それは
のぞみと元国語教師の関係や、
のぞみと目配せした小学生の関係、
のぞみと望に恋する浪人生の関係、
のぞみとのぞみを抱く主人の関係、
のぞみとそして純一の関係。
関係を結べば、のぞみも国語教師も小学生も浪人生も主人も純一も、相手にとって替わりが効かない存在になる。
自身が「代替がない存在」になることで、ようやく僕達は満たされる。
最後祝われているのぞみは、
その場にいる全員にとっての
代わりのいない・唯一の存在となった、
完全完璧なる満たされた「のぞみ」。
なんじゃないかなぁ、と思う。
そうなることを空気人形・のぞみは夢見た。
満たされる、夢を見た。
けれど最後までのぞみは、空気人形のままで、満たされる、ことは、なかった。
のぞみ:
「然し誰かが欠如を満たすとは知りもせず知らされもせず
ばら撒かれている者同士無関心でいられる間柄。
時に疎ましく思う事さえも許されている間柄。
そのように世界がゆるやかに構成されているのは何故」
過食症の女が出てくる。
彼女はほかの登場人物と一切関係を持たない。
ただ異常な過食性は、
どこまでもどこまでも満たされない僕等の欠如を想起させて切ない。
人間は、繋がれないと満たされない。
それを象徴するかの世に繋がらない彼女の部屋のリンゴは、腐っている。
役者:★★★★☆
のぞみ:ぺ・ドゥナ
最高である。
今作の存在意義の半分は彼女を堪能することにあるといっても過言じゃない。
まず容姿抜群。人間離れしたスタイルに、人間離れした洋服で、くるくる回るさまは、
キュートで、どこか異質な感じ。
ひとつのひとつのポーズも様になって、人間じゃない「人形」であることに説得力をもたせていた。
「空気人形」という役柄合わせて、初っ端から乳首見せてくれるのも良かった。逆にエロくなくて、あんな綺麗な乳首があるのか・・・さす空気人形と感心するほどだった。
表情。薄い瞼に目をパッチリ開いて、くるくる変わる表情が可愛い。でも終盤の空気抜けるシーンはめ
「私の息で満たしてあげるの。あなたがしてくれたように。」
声。女優さんは韓国人である。
だからなのか、日本語のイントネーション、発音の仕方がとても不思議で、その一文字一文字が、零れ落ちていく感じが、のぞみの、そして観客の孤独を掻き立てて、良かった。
彼女が「主演女優賞」結構もらって、あとユリイカで彼女の特集が組まれたのも頷ける。
ただwiki見たら現在の写真は・・・まあ・・・・うん・・・・・・。
もちょっと・・・その・・・うん。
だけど、のぞみが空気人形であることを受け入れる静謐な優しさを備えてる感じ。
一言一言が静かで、優しい。
ざっくり言うと雰囲気が良かった。
空気が抜けるのぞみに発情する猟奇性孕んだ部分も良かった。どういう性癖やねん。
秀雄:板尾創路
悪くなかったです。特に店長から注意受けた時のキモい笑みとか。
ただ、なんか別に、のぞみいなくても生きていけそうな感じがちょっとしたのが残念かな。
あと、コートが無駄に高級そうなところとか。そこはさ、ユニクロが良かったなぁ。
人物像のピントが制作側で微妙にずれた印象。
ただ彼の部屋が素敵。
冴えない男の一人暮らしで汚いんだけれども、プラネタリウムとか、星のサイズ比風船とか、ドール(プーリップ)とか、ダブルベッドどか、彼のメルヘン性・好きなものを閉じ込めていて、
だからこそなんとなく仕事が出来ないんだなと分からせるのも良かった。
美希:星野真里
全然綺麗じゃないんですよ。
中途半端な丈のショートパンツ、ノースリーブ、汚い部屋でただただ物を食べる。ドキュメントさながらのリアルさ。
だけど「星野真里」で検索したらむっちゃ綺麗な人出てきてびっくりした。
鮫洲:岩松了
卵かけご飯を投げ出すシーンが素晴らしかった。
そしてそこからのぞみに迫るのも。
虚無のおっさん。
透:榎本佑
若いな!!!?????
あと終盤何気にレンタルビデオのバイト始めたの切ない。
のぞみに会うためでしょ?ええ・・・・。
演出:★★★☆☆
前半のハッピーな雰囲気に比べて、後半があまりにも暗すぎる。
本作のタイトルロゴはこのようにちょっと浮かれた感じなのだけれど、クライマックス暗すぎる。綿毛でごまかすな。
登場人物達が、人間世界を構成する主なゆるやかな結びつきでなく、キツい結びつきを求めた結果なんだろうけれども、いやいや血はちょっと・・・この作品では見たくなかった。
作品の雰囲気が微妙に統一できてない感がある。
やっぱ後半はハッピーで終わるべきだったんじゃないかなぁ。
のぞみ:「・・・・綺麗」
それでも最後の、
リンゴと瓶が置かれている中で、
ごみ置き場一人息絶えるのぞみは美しかった。
以上である。
うーん。悪くないし、面白かった。人間の欠如・・・満たされない孤独を痛感させられた。ただ思ったより暗い。
多分今作が今現在微妙に人気ないのは暗い。
この一言に尽きるんじゃないかな・・・。
前のヤプログの時代から下書きで眠っていた記事を掘り起こしてきました。イラストも描いてたんですがこれがしばらく行方不明だったんですね。
本文、だいぶ加筆修正しています。
今読むとなかなか読みづらくて・・・。
党も僕は文章力に自信があったはずなのですが、あれれ???になった。
まぁその分ね。成長したってことにしとこうそうしよう。
他の是枝監督の感想の記事もね、読み直すめちゃくちゃ怖いから読み直しません。でもLINKははっとく。・・・「三度目の殺人」もどっかでイラスト描いたんだけどなぁ。今度適当に画像はっつけておきます。