小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

田口翔太郎『裏バイト 逃亡禁止4』-zexy,zexy-

 

 

 

何と結婚したい?

 

 

 

田口翔太郎『裏バイト 逃亡禁止4』(小学館 2021年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

白浜和美、黒嶺ユメ、2人んは裏バイトを生業とし、

健やかなるときも、病めるときも、

喜びのときも、悲しみのときも、

富めるときも、貧しいときも、

仕事を愛し、敬い、慰め合い、

共に助け合い、

その命ある限り仕事に尽くすことを誓います。

 

※本作品は心身に多大な影響を与える可能性がございます。

閲覧は自己の責任において、十分に注意して行ってください。

これによって生じるいかなる損害について、一切の責任を負いかねます。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・人以外と結婚したい人

・ファミレスバイト

 

 

 

 

【感想】

今回もめちゃくちゃ面白かったです。

3巻と比べて、4巻の方が好きかなあ。

派手にホラー!!1-2巻の裏バイトらしい謎かかったホラー!!ギャグ!!!!からの考察ホラー!!!

一話ごとに結構派手で、緩めるところが一つもないというか。

表紙がウエディングドレスな当たり、作者は「ブライダルスタッフ」が気に入っているようですが、僕は絶対「ファミレス店員」が一番ですね。これが一番。

何なら1~4巻の中で一番好きな仕事・・・あ~でも被検のやつもよかったなぁ~。1巻の。

 

 

 

 

以下簡単に各仕事について感想を書いていきます。一番好きなのは圧倒的に、ファミレス。ネタバレありです。

 

「ブライダルスタッフ」(第37-39話)

労働帰還2日 賃金8000000円

今「アレじゃない、新郎様でしょ」p.11

今「え、見えたの?」p.30

今「現実は最低!9割が汚物で構成されているなり!」p.50

ユメちゃん「黙ってればそんなにはクサくないの。でも・・・”そういう事”をハッキリ言おうとするとすっごくクサくなって。」p.29

冥婚の話ですね。死者の結婚。

今さんという、独身中年女性の式場のウエディングプランナーが暴れる話でもあります。

作者が血みどろスプラッターをやりたかったんだろうなぁというのがひしひし伝わりますが、どうですかね?

冥婚×スプラッター・・・微妙にかみ合っていない印象。

スプラッターやりたいのであれば、他の要因は最低限にしないといけないと思うんですよね。

例えば、本作では西さんが見た結婚式の「幻想」であるとか、所謂あの世がただの黒く塗った壁であるとか。筆者の癖で、謎が残るような幻覚のようなホラー描写があるのですが、そこはいらなかったかな、と思う。

個人的に、スプラッターって生者にフォーカスしてこそだと思うんですよ。

「完璧な結婚式を遂行するために、人を殺すのは仕方なかった」

なんで「完璧な結婚式を遂行」したかったのか。

今さんのそこが見たかった。

今さんの内面について一切書かれていない代わり、裏バイターの脊椎が伸びたり、でっけえやべえ肖像画が出てきたりしてしまっている。

怖がらせよう怖がらせようと思ったがために、最後の惨劇が軽くなってしまっている。話中で随所随所で怖がらせようとしてくるから、最後にスプラッター!!やられても、え・・・?感。

最後の最後まで今さんの心理描写に徹底し、ホラー要素をあえて我慢することで、最後のスプラッター描写がどっと押し寄せてくるんじゃないですかね。知ら「笑ゥせぇるすまん」とかその典型例だと思う。

ちなみに僕の職場にも未だに母親と暮らしてパートを掛け持ちしている40代50代の、未婚のおばさん、いますけど、ああまだできることなら結婚したいんだろうなと感じるところがちょびちょびあります。でも己の性格の悪さからできなかったんでしょう。その日とも今さんと同じく太ってます。

子供部屋おじさんらしからぬ、子供部屋おばさんにも、どろどろした、もう目も当てられないような醜い感情が渦巻いているはず。

それを全て散らしてこそ、叶えてこそ、華が舞う理想のブライダルではないですか?知らんけど。

でもそういうちまちました不満抜きにしても、今さんのビジュアルは強烈です。マスコットを思わせる体型からの、中盤の表情の豹変ぶりはなかなか。ネットに「キャラクター単体で人気がある」と書かれていましたがそれも頷けます。

一方で、西さんはまだしも田所さんはいらなかったかなぁ。ただの気弱で顔がいい裏バイターは、もう本作で10000人は見てきたので・・・。だったらそこに割いたページで、煮詰まる今さんのうっそうとした内なる狂気が見たかった。

あと西さんもせっかくなら、もっと病室で正気を失ってもっととち狂ってほしかったですね。人生壊滅的人格壊滅的になってほしかった。出来ることなら最後の「今さんの結婚式」を見たのはどこの馬の骨か分からん警官ではなくて、西さんであってほしかった。

今さんのカリスマ性ではカバーしきれないところがある。

そういう話でした。そういう話だったか?

 

 

 

 

「ファミレス店員」(第40-42話)

労働期間:1週間 賃金:2100000円

青木「僕ら、この仕事が終わったら結婚するんです。」p.64

白浜「気づかなかったなー。15年前の惨殺事件このファイレスで起こってたなんて。」p.77

爆竜真拳「死は・・・とっ突じぇん・・・訪れる・・・!(中略)

説得力のある死なじょない!(説得力ある死などない!)」pp.90-91

こういう事件が起きては絶対にならない。

突発的な無差別殺戮事件による被害者、亡くなった側、の気持ちにこれだけ寄り添って描けるのは、凄いなと思う。

本来、彼等には明日があり否一時間後否一分後否一秒後があり、保証されており、それらを全うして生きることを疑うことは一切無かった。

僕達は無意識に明日が否一時間否一分後否一秒後、自分には未来があると思い込んでいる。

でも明日には自動車に撥ねられるかもしれないし、熱中症で倒れるかもしれない。突発的心臓麻痺が起きるかもしれない。今だってこうやってたらたら文章を打っている間に隕石が部屋に落ちてきてもおかしくないわけだし。いつ無差別殺戮事件に巻き込まれてもおかしくない。

のに、未来があると、明るい未来があると、思い込んでいる。

だからそれが絶たれた時、どうしたらいい。どうすればいい。

何故僕にだけ明日が用意されなかったのか。

憎い憎い憎い・・・!!!

何故僕だけが殺されなくてはならなかったのか。

憎い憎い憎い・・・・・・・・!!!

僕達に未来がないのであれば、未来があると信じ込んでいた過去に戻りたい。

例えば、一週間前、とか・・・。

当時そのファミレスで、食事をしていたとしたら僕もそう思っていただろうし、その時間の維持であるためならば、一人でも多くの犠牲者を出すことを厭わなかったでしょう。というか「何故僕が(この日突発的に殺されなくてはならなかったか?)」。シンプルにそれを慰めるために生者をも巻き込む気持ちとても分かる。

本編では更地になっていましたが、現実で心霊スポットと称されている場所も、そういうことなのかもしれません。だから時々死者出ちゃう。

でもさぁ。

見たいじゃん。

マーカーぐしゃぐしゃよろしく時空が歪んだ人とかさ。

化け物とかさ。

怖いけど、見たいじゃん。

だから心霊スポットに足を運ぶ聖者は絶えないんでしょう。

 

また、15年前と気づくように伏線も巧妙に張られていますね。

ファミレスのテーブルに今や普通にあるタッチパネル・チャイムがないのは典型的。

《♪素敵なお時間、みんなの思い出♪マストが提供♪みんなのマ~スト家族のマスト♪》p.55

また、青木達は泣いている子供に飴ちゃんをあげている。(≒あのファミレスにすでに組み込まれている)が、主人公達がお客さんと積極的に接触している場面はない。

ファミレスの外観がよく見ると古風、バンドマンの格好がも古風等々・・・。

基本どの話も、『裏バイト』は再読すると再発見があるのですが、この話は特に色々再発見があって面白い。

 

あとこの話で好きなのは、表現です。

オバケをマーカーでがしがし描く、という表現。今までありそうでなかったじゃないですか。そこがめちゃくっちゃ凄い!!ってなった。

数々の怪異現象を恐ろしく描いてきた本作ですが、このファミレスの怪異の表現が一番インパクトあって好きですね。特に最後の女の腹部のあたりとかね。

 

色々考えさせられたり、伏線が丁寧に張られていたり、あと今まで見たことのない怪異の表現技法が駆使されていたりと、一周年記念にふさわしい裏バイトだと思います。

また、「2周年があると思うなよ」という筆者による筆者自身への戒めをも込めた話、と考えるのは勘ぐりすぎでしょうか。

 

 

 

 

「家政婦」(第43-44話)

労働期間:9日間(週休2日) 賃金:6320000円

赤川「な・・・!?ん、だと・・・!?ウチを通さず・・・勝手に募集を見付けた・・・だと・・・!?」p.109

面白いですね。

前半の43話でこれでもかっ!!!というホラー要素を散りばめておいて、後半の44話でこれでもかっ!!!という具合の回収するという。

まさかのギャグ回。

しかも改めて読むとこの仕事だけ、がもってきているんですよね。

いつもの赤川を介していないんですよ。

そりゃあ、いつもと違うお仕事がやってきてもおかしくないなって・・・。

ただ後半は結構メッセージ性があるなと思った。相手に勝手に見切りをつけのではなく、言いたいことをハッキリ言ってみよう、みたいな。口にしないと伝わらないぞ、みたいな。普段からのコミュニケーションを考えさせられるところが盛り込まれていてそこも含めて面白かったです。

 

 

「空き地さがし」(第45-47話)

労働期間:1日 賃金:2000000円

朱美「知ってる道が悉く塞がれてて・・・この仕事に応募しないと、入れなかったんだ」p.149

崎村「どうでも良くね!?私らの目的は金じゃんか。」p.170

宝潤「話の中に真実を混ぜるのがコツよ・・・このバーガー超ウメェな!?」p.192

考察ホラーですね。

二度、三度読んだんですけど僕にはわからなかった。

ただ、本当はハンバーガー大好きアメリカン★宝潤先生の上記の台詞が、重要なのかなぁ、とうっすら思う。嘘に真実を混ぜるのがコツ。

ただ最大の謎は、この話が「単行本の4話目」に収録されている事なんですよね。

今まで4話目は白浜とユメちゃんに関することが描かれていたのですが、その割には今回は2人があまりにも関係ない。関係がなさすぎる。

いや、あるのか?ならばいったいどこに関係がある?

あと気になったのは八木の最後の台詞。

八木「「ユメちゃん」についてだ」p.190

そもそも、話の進行上、この作品に探偵っていうポジションはいらないんですよ。

関与して来るのは赤川ポジションで十分間に合うはずです。ファミレスの電話とか、巻における温泉宿の話とか、あとまぁ事務所云々含めて。

だけど彼女にあえて「探偵の弟」を設けたのは、多分何らかの謎があってそれに切り込むには必要不可欠だったからと思うんですよね。

要するに「裏バイト 逃亡禁止」物語全体の謎を究明するキャラクターが必要だった。

「ユメちゃん」という存在の謎を究明するキャラクターが必要だった。

絶対何らかの伏線張られていると思うんですけどね。分からない。

話単体。雰囲気は住宅街ホラーですね。筆者のお得意の独特な雰囲気がよく合ってた。出てきたアルバイターも崎村と名前に色がねぇなぁと思ってましたが、多分「さきむら」→「むらさき」ってことでいいんだよね?

 

 

おまけ

~番外編~八木琢磨の闇事件簿FileNo.089:「断裂」

私を・・・どうするつもり・・・?p.207

上半身下半身入れ替えて完全体の個体を2つ生成する、に一票。

話は、まぁ、うん。考察ホラーに考察ホラーを重ねるのは東京都では条例で禁止されていないんですかね?静岡ではすでに禁止されていますよ。混乱をきたすので。

最後の場面は圧巻ですね。最近数見るTwitterマチュアホラー漫画家と一線を画す一場面。

 

 

 

 

 

 

goodsmile!!

 

 

 

 

 

 

 

以上である。今回も滅茶苦茶面白かったです。

うんまぁやっぱファミレス。ファミレスの話が素晴らしかったな。

あとやっぱりうすうす気づいていましたが、ユメちゃんに何の秘密があるんでしょうか。

あとカバー裏の漫画がどんどん展開カオスになってきていて嫌いじゃないです。

田所「脛骨が伸ばされずに済みました」

口に出したい日本語ですね。

 

 

 

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