小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

たいらめぐみ『増補版 お人形事典~ファッションドール編~』-かわいい夢希望やっぱりだいすきかわいいかわいいいやされる君達がいなきゃ僕は生きていけないよ-

 

 

 

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幼少期、好きだったものって結局永遠に好きではないですか。

ほら3つ子の魂100までとか言いますし。

 

 

 

 

たいらめぐみ『増補版 お人形事典~ファッションドール編~』(グラフィック社 2021年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

身長は50㎝以下のプラスチック製の人形で、着せ替えができるもの。p.8 *1

 

を基準として、所持人形数4000を超えるコレクターでもある作者が、

誰もが知っているリカちゃん等お人形から、

外国諸国で生産されている着せ替え人形、

令和になって登場したアゾンのシュガーカップスまで、

時代を超えて国境を越えて

きせかえ人形を網羅。

 

バービーが何故ずっと日本のおもちゃ屋に並んでいたのか

リカちゃんとジェニーのルーツの違い

着せ替え人形の現在・・・

筆者による日本のきせかえ人形史のコラムは必読もの!!

 

 

人形者必携の一冊。

 

 

【読むべき人】

・ドール愛好者

・昔遊んでいた人形で、名前が思い出せない人形がある人:例えば僕はこれで「ブリッツ」「ココドール」の存在を思い出し、「ドリームポケット」「マドモアゼルジェジェ」の名前を知りました

・人形に関心がある人

 

【注意すべきこと】

本書はあくまで「ファッションドール編」であるため、

ビスクドールである「SD」「MDD」や、韓国・中国製の「DOLL chateu」「imda」「DOLLZONE]「woodpeaks」等は登場しません。ソフビであもあるLDDも論外。

また着せ替え自体よりもお世話を目的とした、ポポちゃんメルちゃんレミンソラン等も登場しません。

だがしかし、尾櫃制服計画も採用されていないのは納得いかない。なんでや・・・えっくす☆きゅーとが採用されているのに・・・これは採用してええやろ・・・。

 

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オビツ11ごんまめちゃん280番の、「ニキ」。

 

【感想】

お人形好きですか?

僕は正直に言うとうんまぁはい大好きです。どれくらい好きかと言うともうTwitter「人形垢」を作り人形の画像を掲載したり逆に延々眺めたり、ヤフオクで20万30万する人形から1000円のお人形まで津々浦々みて「もしこの子が家に来たら・・・」と妄想したり、ミンネで可愛いきせかえ服を血眼になって探したり、メルカリで「リカちゃん」と検索し永遠と繰り返されるキャッスル製の転売に苦笑をするくらい好き。以上のこと大抵毎日やってる。日課多分一日24時間の内2時間は人形のことを考えているといっても過言じゃない気がする。

仕方ないのだ。人形の画像を見ると心が癒され落着くのである。心がざわざわしない。しぃん・・・すぅん・・・かわいいー・・・となる。しぃんすぅんかわいいー・・・。

これが例えば人間。ましてやアイドルだとこうはいかない。ヤベ!?可愛いなんで!?どうして!!え!!ライブやるの!!!はぁ!?握手会!!!グッズうぉぉぉおおお!!!になる。エネルギー源や生きる理由にはなりうるが、心が落ち着くかと言うとちょっと違う。まぁ櫻坂46大園玲さんの美しさを前に心を凪で保つことが出来る人の方なんてこの世にはいないとは思うんですけれども。

人形は「静」のかわいい。人間は「動」のかわいい。

この往復をしながら僕は今日もどうにか息をすることが出来ている。

 

なので本書が発売されると知った時は「ああ買わなきゃ」と思ったし、ましてやそれの新装版が今年の春出ると知った時は「近くの書店で取り寄せなきゃ」とまで思ったものでした。

実際その「近くの書店」である「ひばりブックス」が、奇跡的に本書を取り扱っていたため取り寄せる必要は無かったわけですが・・・。

確かに、ひばりブックスは普通の本屋とは違って駅前の戸田書店の文芸担当だった人がやってるいわゆる「ちょっとこだわった」本屋で、ラインナップは一筋縄ではいかない本屋ではあるけれども・・・・まさか・・・こんな求めていた本がピンポイントであろうとは!!!

僕「え!!!なんでですか!!なんで取り扱おうと思ったんですか!!!」

店長さん「いや・・・かわいい本だなと思いまして」

僕「デュ…デュフフフフフフフ(くぅ~~~~~~分かるぜ!!!!)」

なんだろう。長年本を取り扱っていると、近所の人が求めている本が分かるセンサーみたいなのが発動するようになるのかな。ビビビ。人形者ノ波動ヲ発見。オ人形事典シイレヨ仕入ヨコウニュウサセヨ。

 

 

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ながーい



 

中身の感想としてはまぁうん最高。最高です。

これに尽きます。

 

まずお人形の写真がいっぱい掲載されている。

しかもほぼ実寸大。

見て下さい。この本。長ぼそいですよね。

なんでだと思います?

そう、お人形をほとんど実寸大で掲載するためなんですよ。

最高じゃないですか?そうつまりは最高。

要するに実寸大のお人形の写真がたくさん見られる本ということなんですね。

Twitterだといくら美麗な写真と言っても実寸大、となるとなかなか厳しいじゃないですか。27センチのジェニーちゃんも50センチを超えるスーパードルフィーも1メートル超える乙姫ドールも何ならラブドールの写真だって、全部僕の掌サイズのスマートフォンサイズの写真になってしまう訳です。

ところがどっこい、実寸大。

あーリカちゃんって昔はもっと小さかったんだーとか外国の人形ってなんか知らんが顔でかいなとかやっぱココドール顔ちょっとココリコ田中に似てるわココリコ田中ドール略してココドールとか当時一人思ってたけどまぁ分かるとかそういうのが丸わかりな訳です。

スマホの写真以上に実物感がある。

そういった意味でも人形者の琴線にはビシビシ触れる一冊になっていると思うのです。

 

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本書に掲載されている「えっくす☆きゅーと」リアンの「アリス」。

 

あと単純に知らないことがいっぱい掲載されている。

お人形たち自体。

知らない国産お人形群。昭和のものであれば知らなくても当然だけど、21世紀に入って生産されていてもその存在自体知らないお人形が結構あって驚く。例えば「フーズザットガール」。今やSDのメッカ・ボークスが昔出していた着せ替え人形。え!?あのボークスが!?21世紀に!?こんなお端正なお人形を!?になりました。

そしてヨーロッパの着せ替え人形群。バービー以外に外国製の着せ替え人形・・・って言われると案外知らないもんじゃないですか?人形者だとタミーちゃん、て出てくると思うんですけどじゃあタミーちゃん以外は?え?ん?になる訳です。ビスクドールでとまっていたヨーロッパの人形史が更新されていく。

そしてお人形のバックボーン。

国内の人形製造会社。タカラって、リカちゃん以外にもこんなに出していたんだ・・・となります。そのどれもがなんとなくリカちゃんと似通っていてそしてどれもがまぁ可愛い。昔から人形と言えばタカラだったのかしら。そしてバンダイまじか。人形作ってたのかよ。あと日本の着せ替え人形史を語るにはオオイケという会社を避けて通れないことを知る。あとココリコ田中ドールココ・ドールが、あのmomokoで有名なセキグチから生まれた人形であることを知る。

そして着せ替え人形史。なぜバービーちゃんがこんなに国内でメジャーな存在になったのか。眼球の色が変わるブライスはどういった背景の中誕生したのか。本書に3か所にはさまれるように書かれた、お人形史のコラムは非常に勉強になる。ていうかもうこの「きせかえ人形史」だけで1冊まるまる書いてほしい。

お人形を趣味にしていて、且つそれをちょっと勉強しようかなとか思い始めた人形者にはうってつけの内容である。

 

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本書に掲載されているプチブライスの「アメリ」。なおボディはアゾンのピコニーモに変えられています。


以下簡単に、一通り読んでビビッときたきせかい人形を挙げておく。

 

・おしゃれスタイルドール(タカラ):きゅるんの顔面が良い。普通に欲しい。

・ミニー(オオイケ):物憂げな顔面が良い。普通に欲しい。

・スージー(R&D Fashiondolls):切れ長な目の顔面が良い。普通に欲しい。

・ターニャ(Giochi Preziosi)絶妙なリアル加減が良い。普通に欲しい。

・フーズ・ザット・ガール(ボークス:クールにアニメライズされた顔面が良い。普通に欲しい。

・ジョディー(IDEAL Toy corp.):雰囲気が良い。普通に欲しい。

・シンディー(Petigree Toys):表情が良い。普通に欲しい。

・ドリームポケット(バンダイ:懐かしすぎて良い。見たことある。普通に欲しい。

・きらきらセーラ(トミー):小さい。可愛い。普通に欲しい。

・ピコ(タカラ):昔ながらの顔面が良い。普通に欲しい。

 

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本書に掲載されているプーリップファミリーの「ダル」の「ロットさん」。

 

あと本書を読んで初めて知って「ええ!?」ってなったことも挙げておく。ネタバレにならない程度に・・・。

 

・バービーちゃんと日本の歴史

・ジェニーちゃんとエクセリーナさんの違い

momokoとrurukoの関係性

・タミーちゃんという存在について

サアラズ・ア・ラ・モードアゾン

・東欧と着せ替え人形史

 

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お年玉はたいたのが中2位の時だったからもうかれこれ13年くらいの付き合い。

 

以上である。

とにかく勉強になる一冊。そして人形者には琴線に触れまくる一冊。

といった感じで最高の一冊であった。

永久保存版である。

買おうか否か悩んでいる人は是非購入することをお勧めする。

読めば手元にいる彼女達への愛が、ひと際深くなること間違いなしである。

 

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***

 

LINKS

 僕のドール垢。

 

twitter.com

 

過去に書いたジェニーちゃんの写真集の感想です。

ドール関連書籍ブームがきてる。

 

tunabook03.hatenablog.com

 

*1:その他にも掲載基準は多く挙げられております。

町田洋『惑星9の休日』-隕石の直下衝突によりけり、僕の地軸が傾き正常になりよりけり、ああ僕は正常です。-

 

 

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惑星9の休日

 

ずっとあなたが好きでした

伝えられないまま消えていく想いと

ずっとあなたが好きでした

伝えられたからより濃くなった想いは

並行した地平線となり

決して地軸は傾かない

決して地軸は傾かない

 

永遠と続く地平線

その向こうには

きっとみんな死んで骨になりて

風化して砂になりて

砂漠となりそれでも太陽は昇る未来があって何前何万根と先には

「私を見てよ!!!」

チュドーン。

 

サジン。

 

・・・きこえたの。

・・・きこえましたか?

隕石9の爆発音が、

心の臓の奥のおくで。

 

■■■■

 

UTOPIA

 

私のこの長い白い二脚が本当は

節が目立った醜い赤茶けた六本脚だと告げたら

あなたは一体どんな顔をするかしら

「いっそのこと八本脚だったらよかったのに」

そうね 八本脚の蝶だったら

私はここから飛びたてた自由、

あなたからも飛びたてただって、

蝶をしがらむ障害等この世にありはしないのだから

 

私のこの黒水晶のようなまあるく大きい眼球が本当は

小さい粒が密集した油の色にきらめく複眼だと告げたら

あなたは一体どんな顔をするかしら

「いっそのこと蜻蛉であったらよかったのに」

そうね 私が蜻蛉であったら

私は前しか見ない前、

あなたを振り返ようとすらしないだって

蜻蛉には縛られる過去等この世にありはしないのだから

 

私のこの白く光るようなうなじが本当は

艶めかしく鈍く光る甲でその中には蠢く6つの翅があることを告げたら

あなたは一体どんな顔をするかしら

「いっそのことGであったらよかったのに」

そうね 私がGであったら

私はあなたから逃げるしかない逃げる、

あなたをあなたと思おうとしないだって

Gにオトコノコを想うハートの断片すらこの世にありはしないのだから

 

私はね私はね ねえ 本当は

ねえ本当は私はね ねえ 人間・・・人間なのよ人間

どの虫よりも醜い哺乳類・「人間」なのよ

それでもあなたは私を愛して、ああ愛して好きでいてくれてキスして、

くれるかしら

 

■■■■

 

玉虫色の男

 

玉虫色の夕焼けに散ってった初恋と骨を抱きしめ眠る。

 

■■■■

 

衛星の夜 

 

ワルツ。

1,2,3

1,2,3

踊りませんか

1,2,3

1,2,3

僕と共に

1,2,3

この手を取って

1,2,3

1,2,3

 

僕はずっとあなたを見ていました

道路の向こう側で深夜のファミレスで

ワンルームの角で子供部屋の机の下で

ブルーライトの画面の中で夢の中で

過去の思い出の中であなたが思い描く未来の中で

1,2,3

1,2,3

ずっとずっと

見ていました

1,2,3

1,2,3

 

あなたは僕を感じると

しばしばその瞳から涙を流しましたね

哀しい寂しい痛い辛い苦しい

その総てを一気に抱きしめて

ああ死にたいタスケテと口走る日もあった

1,2,3

1,2,3

でももうその必要は

ありません

1,2,3

1,2,3

 

だってあなたはこうして私を

恋人として僧侶として

良き夫として良き妻として

パートナーとして

ワルツの相手として

認めることをやっと赦してくれたのだから

1,2,3

1,2,3

ああなんて人生とは滑稽なものなのでしょう

骨骨を蹴散らして踊りましょう

1,2,3

1,2,3

 

腕を伸ばして

ターン

1,2,3

1,2,3

片足をあげて

廻る

1,2,3

1,2,3

フローリングの上で踊りましょう

リノリウムの上で踊りましょう

今までの27年間の人生の上で踊りましょう

1,2,3

1,2,3

あなたと私の

ワルツを

1,2,3

1,2,3

1,2,3

1,2,3

 

:l】(repeat:音楽記号 繰り返すの意)

 

■■■■

 

 

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■■■■

 

それはどこかへ行った

 

祝祭が聞こえる

それははるか遠くから

それはかすかに

「今」が生まれた瞬間を

常々に言わる歓声が

遠く微かに僅かに

聞こえる

 

青い空の下

人工衛星は無限に回転する

アスファルトの上

蝶の死骸が灰燼となる

海の底を泳ぐ深海魚は

交響曲第五番第二章の旋律を口ずさみ

森の奥を自由自在に駆け回る鹿が

蹴散らした光は虹の粒子となる

 

「今」が生まれた瞬間を祝いましょう

ここにある実存を祝いましょう

 

無限に広がる牧場の草を食む子牛の耳

春に咲く野草の短き開花期間

樹木から蝉が羽ばたく瞬間の翅の透明

夏の大地に転がる死骸の数々

万物を憂いたポエムが書き散らされたノートの切れ端

秋の収穫祭で交わす人々の接吻

眠る前に子熊が感じた母熊の熱き体温

 冬が雪を縁どる透明なきらめき

 

総じて存在していることを祝いましょう

今そこにあること自体が奇跡であり

万能

 

今ここに一つ新しき愛が生まれたことに

花束を

 

■■■■

 

とある散歩者の夢想

 

暇があったら

良き散歩をしなさい

 

散歩とは人生のようなものである

散歩をしに外に出た瞬間の喜びは

生命の誕生

そしててくてく歩き総てが順調に思える昼の日差しは 

幼少期子供時代学生時代

散歩もヤマに差し掛かり足にわずかに痛みが感じ始めたら

それは青年時代壮年時代

そしてプランを間違え疲れへとへとで部屋に帰る時

あなたは死を迎えようとしている一人の老人

 

その合間にあなたはたくさんの寄り道をする

狭い道の方へ曲がってみたり

今までよりペースをゆるめてみたり

通りすぎる異性に心を奪われてみたり

途中でふと足を止め休んでみたり

電信柱の下に咲く野草の小さき花に心を奪われたり

する

 

カッターの刃をて手首にあてる

行き倒れている私も

あなたの寄り道のひとつとなれば

いいと

私は

思っているよ

 

アスファルトに反射する空の青さよ

 

暇があったら

良き散歩をしなさい

 

■■■■

 

午後二時、横断歩道の上で

 

上司の上司から叱責されている瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

レジスターの「7」の数字を押す瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

客に対し無理矢理に口角をあげる瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

「私達にはあなたを馘にする権利がある」と言われた瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

同時に癌と闘い続ける母親の顔を思い描いた瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

 

散らばる写真

斜陽は蒸せる

 

生まれてきてしまいごめんなさい

ここにいてしまってごめんなさい

 

地獄の瞬間が断続的に続くことで

現在の僕が形成される

 

幼少期遊んだ

ビー玉をいくつも、いくつも

嚥下する

幻想

 

君は強いね

君は凄いよ

昔から言われ続けてきたことだけれども

ああ神様僕は

僕は 疲れてしまった

 

眠れないベッドの床で想像する

生まれた瞬間

 一番上の僕でありいとこもいない僕であり

亡くなった祖母も一番かわいがってたという僕だから

きっとそこには光が満ち溢れている

その瞬間も永遠ではあるが

それは僕の永遠ではない

 

己の頭蓋を撃ち抜く拳銃のリボルバーの手応えを想像する

赤。

鉄分の匂い。

かさぶたをめくる。

 

ああ神様いるのであれば出てきてください

僕に永遠を下さい

僕は 僕はもう

疲れてしまったヨ

 

■■■■

 

 

実家に帰ると、自然と寝るのは自分の部屋になる。

そこの一角は小学一年の時に買って貰った机が未だに陣取っている。

あらいぐまのキャラクターのカーペットはもう荒んで色が褪せている。マットの下にはたくさんのイラストのポストカードが挟まっているが一部斜めになったり重なったりとぐしゃぐしゃになっている。一時期実家でニート&フリーターしていた時代に買ったアイドルのクリアファイルが飾られ、隅ではガチャガチャで出てきたネコが「ヨシ!」のポーズをしている。

ああ。ネバーランドなんだなぁと思う。僕が僕でいることを赦してくれる場所である。例えばこれが一人暮らしの部屋の机だとこうはいかない。置かれたパソコンは常に「ブログかけ!」と言ってくるし何よりここはワンルーム、あくまで20代後半(メス)の部屋の体裁を整えておかなければならないなあと言う無意識が働いている。その結果机の隅にはハンドクリームと化粧水乳液が並んで置かれている。精神の年齢で測ればいいものを、現代社会は身体の年齢で測るから、僕は27歳なのである。

主にこの机に座っていた時私は何を考えていたか。

中学高校の時は結構使った。主にテスト前は勉強ばかりしていた。時間数を増やせばその分出来ると思っていた愚鈍なのでただただ内容の薄い勉強をしていた。結果MARCHにはこぎつけたものの第一志望の国公立には落ちてしまい、逆に親友の合格の報を聞き約1か月間寝込んでずっとポケモンをしていた。

ニート・フリーター時代は履歴書を書いていた。あれは不思議なものでたった数行にしか過ぎないスペースがいつまでたっても埋まらない。自己評価も低い自分のことだから何を書いたらいいのか分からない。その埋まらない感覚が非常に不快で嫌だった。ようやっと一つ書いてもそれが評価されるというのが恐ろしくベッドの潜り込んでスマホをいじった。

でも、小学生の時。この机を買って貰った6年間。僕はここで何を考えていたのだろう。と思って、小学校の卒業アルバムを取り出す。

「将来の夢」と書かれたコーナーには、「小説家」と妙に大人びた字で書かれていた。

 

 

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町田洋『惑星9の休日』(祥伝社 2013年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

惑星9を舞台にした短編集

 

絵本作家たむらしげる氏「読み終わった瞬間、フッと身体が軽くなった。ぼくの心に惑星9が生まれた」

帯より

 

【読むべき人】

・漫画好き

・絵本好き

・ポエム好き

・純文学好き

・砂漠系が舞台になった創作物好き

・少女漫画好き

 

 

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裏表紙はブックオフオンラインで頼むと時々ついてくる巨大バーコード。おとくだ!!

 

【感想】

本書の存在は何となく昔から知っていた。

とても面白い漫画として取り上げられることが多く、ことあるごとに目にした気がする。それは「おすすめ本コーナー」それは「私の好きな漫画」それは「今話題の漫画」といった具合に。

前に読んだ「BRUTUS」の漫画特集(去年の)に取り上げられていて、尚更気になったためこの度ブックオフオンラインでサクッと注文した。届いた。読んだ。

 

成程ねと思った。成程。

内容はいかにも祥伝社」らしいサブカル寄りの一冊である。

悪くないが、想像を超えるほどでもない。

でもまぁこれが推されるのも分かる気がする。

 

まずは創作として。

惑星9という舞台設定がいい。砂漠化して荒れて何もない【惑星】という設定。なんかちょっとアメリカンのような。けれどそこにいる人々はまぁもっぱら日本人的に描かれていて皆良い意味で平凡である。ギャップ。世界観に圧倒される。

イラスト。非常にシンプルな線で、うまいとは言えないが所謂「へたうま」系の絵である。漫画家よりかはイラストレーターが描いてるよう。

そして「独特な世界観」×「独特なイラスト」の上に描かれるのは、人々の切実たる感情。身近で見てきた青年によせる恋心。昔別れた孤独な生物への恋しさ。映画愛。今が永遠であるという思考。散歩は楽しい。一途に言い寄ってくる男はウザかったけど。

それら総じて僕達は思い当たりがあり、共感してしまうのである。

変わった設定の上に、リアルが描かれるからこそ、この作品は多くの読者の心に刺さり「おすすめです」と言わせてしまうものがあるのだと思う。

 

ちなみに、「切実たる感情」と書いたが、

過去から解放される人々、過去を抱きしめる人々が多く描かれている気がする。要するに過去と対峙する人々。

解放されているのは、表題作惑星9の休日」「それはどこかへ行った」。

抱きしめるのは「UTOPIA」「衛星の夜」「灯」

過去というものはどんな人間も持っているもので、大抵持て余している。

その、持て余したのをどうするのか。

その答えを1冊で5も提案する本作。評価されるのも分かる。

 

そしてもう一つの理由は「通」と思われたいから。

この作品が出た2013年は、進撃の巨人がマックスに盛り上がってた時期だったと思う。安部共実が出てきたのもこの時期か。「良い漫画≠巧みな絵」の公式が、サラサラと音を立てて崩れ去った時期だったと思う。

そんな時期にこの漫画を推したらどうだろう。「独特の世界観」「独特のイラスト」そして心の琴線に触れる「共感」。それはもう、推したら推しただけその推した人が「通」に思われること大確定なのである。

よってこの作品がサブカル界隈で有名なのは、作品自体の質もあるが、時代に合致したというのもあると思う。

 

8の短編が詰め込まれている。感想を書こうと思ったが浮かばなかったので、一編一編に対して思ったおポエム、お短歌、オエッ・・おエッセイを記しておく。

 

 

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以上である。

とても良い作品だ。とても良い作品だけれども実際その想像以上に良かったかというと微妙。まぁ良い作品であることには間違いないので気になる人は読んでおけばいいと思う。あと全体的に詩的であるので絵本好きな人は好きそうね。

にしても、ここは一つ、明確な不満がある。

タイトルが「惑星9の休日」なのに対して、収録されている短編が8ということだ。そこは9だろと言いたい。

 

***

 

LINKS

これで紹介されてるの見て「ああ~また紹介されとるやんけ~読んどきたいな~」になった。

tunabook03.hatenablog.com

 

 

平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』-ほねをだきしめてる、はしる。うみ。・・・いたいよ。-

 

絶対的温度感。

熱さ。

絶叫。

心を張り割くような絶叫。痛み。総て。

 

 

 

「こッ!!

高校生のときッ・・・・・・実の娘を強姦したテメェに

中学生だった実の娘を奴隷扱いしてやがったテメェに!

小学生だった実の娘かた母親奪ったテメェにっ!!テメェに!!

弔われたって!!しらじらしくてヘドが出んだよォ!!」pp.26-28

 

 

 

平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(KADOKAWA 2020年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

柄の悪いOLのシイノ

外回り先の定食屋で

ひとつのニュースを目にする。

それは、親友マリコ

突然の死を伝えるものだった。

親友の死を知ったシイノは、とある行動を決意するーーー。

 

女同士の魂の結びつきを描く、鮮烈なロマンス・ストーリー。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・漫画で最近「アツく」なった記憶がない人

・絶叫したい人

・泣きたい人

・叫びたい人

・誰かのはち切れそうな本気に触れたい人

・漫画の力を信じたい人

 

 

【感想】※ネタバレあり

アツい。アツかった。

一気に読んでしまって、

読むのがそんなに速くない僕でも、

かかった時間は20分もないと思う。

でもその間ずっと号泣していた。目から涙が止まらなかった。

誌面越しに伝わるシイノの絶叫とはち切れそうばかりの想いに終始心が乱れっぱなしで、一気に読んでしまった。

確かに漫画作品として細かい欠点を挙げればきりがないが、

それでもそれでもそれでもそれでもそれらを総て蹴散らすようなシイノの全力疾走に僕はもう情緒が乱された。

 

「私の壊れたマリコ」。

本書は、マリコの死をニュースで知って、彼女の遺骨を盗み全力疾走するマリコの親友・シイノの絶叫を描いた作品である。

高校時代まで知り合いだったのに知らない内に疎遠になって、

そして飛び降りで死んでしまったマリコ

彼女に対して何も出来なかった・・・というより何もしなかった己の深き後悔をガソリンに、シイノは遺骨を胸に全力疾走する。

 

その、シイノがずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとこの作品はずっと心の底から叫んでいて、その想いの強さ感情の揺さぶり全て全て全てに心が乱される。

誌面越しに伝わるシイノの表情。

激怒する。泣く。叫ぶ。絶望する。打ち震える。

その彼女の感情のふり幅が、

通常の漫画の登場人物ふり幅を100とするならば、

500。500あって、それを日本語だけではなく絵で、漫画で全身全霊で平庫先生が伝えてくるものがから、僕達読者はもうただ言葉を失ったままその場で立ち尽くすことしかできない。

そして思う。

ああこれが漫画の力なのだ。

日本語だけなら小説でいい。

絵だけならイラストでいい。

この作品はとんでもなく漫画だ。

シイノの誌面を揺らす言葉、

そしてその度に爆発するシイノの表情。

その2つが揃って僕の心をこんなにこんなに穿つんだね。マイ・ブロークン・マグロドン。

 

 

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本書は非常に細かいところまで、言葉に注意が払われている。

 

例えば、先程掲載した台詞。

 

「こッ!!

高校生のときッ・・・・・・実の娘を強姦したテメェに

中学生だった実の娘を奴隷扱いしてやがったテメェに!

小学生だった実の娘から母親奪ったテメェにっ!!テメェに!!

弔われたって!!しらじらしくてヘドが出んだよォ!!」

 

よく見てほしい部分は2つある。

まず1つは!の数。

高校生・・・からはじまるくだりは!が0個。

中学生・・・からはじまるくだりは!が1個。

小学生・・・からはじまるくだりは!が2個。くわえて「テメェに!!」が入るので計4個。

ここでシイノが、急なスピードで高まっていることが分かる。

恐らく普通だったら、高校生で!1個、中学生で!が2個、小学生で!が3個に収まると思う。

けれど、高校生のくだりで0個にして小学生のくだりでいきなり4個にすることで、

シイノの感情がみるみる高ぶっていることが伝わってくる。興奮急上昇。

 

 

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もう1つは「っ」。

今回の台詞では、カタカナひらがな合わせて2つ出てきている。

「高校生のときッ・・・・・・実の娘を強姦したテメェに」

まずこの行。

「ッ」のあと、「・・・」が続いている。その後に続く言葉は「強姦」という単語が入る。恐らく口にもしたくもない、親友の辛い過去。口にするのに一寸の躊躇いが見られる。

「小学生だった実の娘から母親奪ったテメェにっ!!テメェに!!」

一方「っ」のあと、「!!」が続いている。その後には「テメェに!!」と続いている。親友の父親を「テメェ」と呼ぶことの躊躇いは見られない。

よって、この小さい「ッ」はシイノの僅かな迷いを表していることが分かるそして「っ」はシイノの一瞬の決断。

【「ッ」・・・迷い「っ」・・・決断】

 

他の台詞にもこの定義は当てはまる。

「こうしてる間にもどんどんあのコの記憶が薄れてくんだよ

きれいなあのコしか思い出さなくなる・・・・・・

あたしッ 何度もあの子のことめんどくせー女って・・・!

思ってたのにさあ・・・・・・っ

ぅうわああーーーーーー」pp.99-100

 

「ッ」あたしッ、の後に初めてシイノがマリコを貶す言葉「めんどくせー女」が入る。

「っ」・・・っと続いた後はシイノの絶叫する泣き声に続く。

「ッ」マリコを死後初めて悪く言うことへの迷い、「っ」は泣くことを決心した0.何秒かのコンマを表している。

【「ッ」・・・迷い「っ」・・・決断】

に則って、

作者はやはり意図してカタカナ・ひらがなを使い分けている。

 

以上のように、本作は言葉に細かい配慮がなされているように思う。

一見ただの勢いで書いたように見えるが、他にも句読点の有無や読点の場所、漢字ひらがな、・・・の場所。多分セリフには気を使って、何度も推敲してるのではないか。

セリフ1つ1つ磨かれているからこそ、こんなに読者の心に迫りくるものがあるのだと思う。

ちなみに、漫画を読んでいると「違和感」抱く日本語が1つや2つ見つかるのが当たり前なのだけれど、本書ではそういうのが一切見られなかった。恐らく平庫先生は「本を読む人」で、相当高い日本語のセンスを備え持っているように思われる。

 

 

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イラストは・・・割愛。表情がとにかく凄い、としか言えない。

多分冷静に推敲を重ねる台詞にたいして、イラストはもう感情や想いをありのままに何倍にも肥大させて原稿にぶつけて勢いがままに描いいているのではないかな、と思う。

 

繊細な台詞使いと、勢いのイラスト。

この絶妙なバランスの化学反応によって、

マイブロークンマリコ

壊れたマリコを抱きしめるシイノの絶叫が誌面越しに聞こえるんだろう、と僕は推測する。

 

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本書はもう一遍短編、「YISKAーイーサカ」という作品が収録されている。

設定はなんと20世紀末のアメリカの貧困街。登場人物の名前は「ダントン」フランス革命に関与した革命家である。

こんな設定2つ、多分漫画・アニメだけ摂取していたら思いつかない。世紀末のアメリカを舞台に描きたい、ってどうやったら思うんだよ。

多分映画鑑賞か・・・読書。そのどちらかに結構比重を置いている人なのであhな愛か。

そして本書の日本語ののレベルの高さを見る限り、恐らくそれは「読書」なのではないかと推測する。

ちなみに、「マイ・ブロークン・マリコ」が台詞とイラストのバランスが絶妙だったのに対して、本作は台詞の比重が重い。文字が多い。挿絵付きの小説を読んでいる感覚。クオリティは一つ下がる。

 

 

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本書を知ったのは昨年のBRUTUSの漫画特集だった。

カメラマンである・エッセイストでもある幡野広志さんのおススメで、紹介されていてずっと気になっていた。幡野さんのエッセイは結構独特な視点で描かれていて好きだ。こんなに面白い文章を書く人がおススメする漫画ってどんなに凄いんだろうか。

とは思いつつ、忘れかけていた頃新静岡古書店・水曜文庫で本書を見つけてそのまま購入した次第。最近のコミックなんてめったに置かれてないんですけどね、水曜文庫なんて・・・。

 

以上である。

存在を知ってから1年以上たって読んだわけだけれども・・・非常に心穿たれる一冊だった。イラスト言葉の力相まって、読んでいて打ち震えるようだった。

加えてこの揺さぶりが、「漫画」という媒体だから生じている。この物語が小説や映画だったら僕達はこんなに揺さぶられなかった。

だから幡野さんは本書をおススメしたわけだし、だから本書は2020年漫画屈指のベストセラーになっているのだろう。

 

 

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それでも舞台が現代日本の1冊読み切りという点で、「実写映画化したら・・・」という妄想はしてしまうもの。

考えた結果僕の中での2人のキャスティングはこちら。

シイノ・・・伊藤沙莉

理由:シイノのような汚い絶叫が出来る唯一の20代の女優だと思うから

マリコ・・・石森虹花(元欅坂46

理由:黒子の位置などマリコと似ているのと、あといい人が故に残念な点が似ていると思ったから。特に男関係。あと欅坂のわりに、演技力はまぁまぁある。元推しという贔屓目も無論ある。

多分結構いい作品になると思うんですが・・・東映さん、どうでしょう?

 

***

 

LINKS

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伊藤沙莉のお兄ちゃんのここ近年の一番の晴れ舞台

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清野とおる『東京怪奇酒』-いやぁ、僕はいいっす。-

 

 

 

馬鹿なんだなぁと思った。

 

 

清野とおる『東京怪奇酒』(KADOKAWA 2020年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

清野とおるが友人知人他人から直接聞いた

恐るべき「怪談」の数々・・・。

その怪奇現場に実際に足を運んで

「酒」を飲んじゃおうってワケ。

嗚呼、一度でいいから「オバケ」」を見たい。

でも怖い・・・けど見たい・・・怖い怖い・・・

やっぱ見た~~~~~い!!!!!

カバー裏より

 

いや見た~~~~い!じゃねえだろ

 

【読むべき人】

・オカルト好き

・心霊スポット好き

・新しい刺激を求めている酒飲み

・「残穢」好き

・馬鹿

 

【感想】

 

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本書は新静岡セノバ丸善ジュンク堂で見かけてその場で買った。

「書店員がおススメする1冊フェア」という、フェアじゃねぇんだよ年中やれ神イベントだなこんちくしょう、みたいな棚が組まれていた。

この書店に、オカルト好きがいるのは知っている。やたらとオカルト怪談棚が充実していてあと数も異様に多い。ディスプレイもなんかやたらと凝っていて、あの棚(とエッセイ棚)だけなんかもう熱意が違う。むんむんに漂ってくる。岡田将生*1に似てると嬉しい。オカルト大好き岡田将生です。語感もいいし。

閑話休題

なので僕はそのコーナーを見て、探しました。オカルト担当が薦めたであろう一冊を。で、多分これだなと手に取ったのが本書。

東京怪奇酒。

清野とおる

壇蜜の旦那じゃん。マスクの人じゃん。

なんかげっすいエッセイ漫画描いているイメージが先行してるんだけど、実際どんな漫画書くんだろ・・・どれ。

という興味も勝って、1000円もしたけど買いました。1000円もしたけど。だって岡田将生がおススメするからさぁ・・・。

 

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結論、滅茶苦茶面白かったです。やっぱ岡田将生の審美眼に間違いはなかった。

「東京怪奇酒」とタイトルにあるように、本書は心霊スポットに行ってそこで酒を飲むというきち●い行為を描いた作品である。

マジで超怖い・・・生きた心地がしないよ・・・!!

でも・・・刺激的で・・・ちょっとタノシイ・・・かもp.20

オバケに対する恐怖感と飲酒による高揚感をごっちゃにして気持ちよくなろうぜぇ~というのが「東京怪奇酒」というわけです。意味わからん。

そしてそれを東京心霊スポット各所でやった記録のエッセイ漫画が本作という訳である。

 

これがまぁ読んでいて面白い。

まず心霊スポット×酒⇒高揚感に興じる清野さんがバカバカしくて面白い。なんとまぁデビューから20年もたつそうで、その手練れの腕描かれたエッセイ漫画。言い換えれば20年エッセイだけで生き残った漫画家が描くエッセイ漫画。面白くないワケがない。

そして歴史。心霊スポットで、清野さんは酒を飲む・・・だけじゃない。その土地の歴史までちゃんと調べる。場所によっては地図に線引いて霊道の有無すら調べている。ただただ「こわ~いきもちE」で終わるのではなく、しっかり調べているところが読んでいて非常に興味深い。

また、土地の歴史だけではなくその体験した人の他の霊体験のようなものまで掲載されていて(尚これは文章で。でも漫画と文章のバランスがこれまたいいんだ)これまた読んでいて面白い。

あ、あとその時に飲酒した酒についてもしっかり書かれている。秋のプレモルうまいのぐうわかる。

こういったところはちょっとしたリアル「残穢」感ある。多分あれ好きな人はもれなく好きなんじゃないかなと思う。まぁ残穢は酒飲んでないけど。ちなみに僕はそんなにあの小説クソつまんねぇと思いました。

起こる「怪奇」自体は非常に小さくささいなものであることが多いけれども、手練れた漫画家の腕と、非常に丁寧な調査によって、ひとつひとつ非常に読み応えがあるものになっている。

 

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表紙には本編で出てきた怪異たちが!!

 

以下簡単に各スポットの感想を述べておく。

差支えのない程度にネタバレをするので注意。

 

 

「怪奇酒」とは・・・

この世のものではない異形のモノが出没する可能性のある非日常的空間で、

感情を揺さぶらせながら飲酒する行為をいうp.23

 

 

1杯目:恐怖の303号室

怪奇酒きっかけとなるエピソードである。地味にポストのエピソードが一番怖かった。

にしても、4回も飲酒は草生える。どういう神経してたらそんな発想になるんねん。

 

2杯目:東京都K市K町「奇妙な空き地」

心霊スポットの写真がついているのはとても嬉しいです。普通に怖くて草。

場合によっては幽霊は生きてる人間と変わらない状態で見える、というのは聞いたことがありますが、怖いよね~。だってそこらへんの通行人がばけばけばーという可能性もあるってことでしょ?

ってゆーか俺って・・・俺?ちゃんとココに存在してる?p.38

と最後アイデンティティーの危機にまで及ぶ作者ですがそれもぐうわかる。生きてる人間死んでる人間の境すらあやふやになったらそりゃ自己と他者の境界なんてあってないようなものですよ。

 

3杯目:東京都F市M町「雰囲気の悪い公園」

遊具乗り倒す作者に草生える。全力でガッチャンガッチャンじゃねぇんだよ。

霊道の調べ方がこの話の「おこぼれ怪奇情報」に掲載されていてとても勉強になる。やってみようかな。(たぶんやらない)

F市って多分福生(ふっさ)かなぁ。あそこ自衛隊のなんかなかったっけ?

 

4杯目:東京都S区H町「零穴アパート」

みんな大好きチャンス大城さんが住んでいたボロアパートのエピソードです。チャンス大城最近微妙にテレビで見たり見なかったりしますがその「チャンス」をどうやって掴んだかもスピリチュアルに描かれています。

この話は熱意がすごい。不法侵入になるからと、アパートに頭だけのぞかせて必死に怪奇酒するのは草。どんだけ熱意かたむけてんねん。住みたいじゃないんだよ。その努力の甲斐あって、めでたく心霊写真も撮れます。カバーにカラーでも掲載されています。僕はオーブの方が、好きだな。p.75じゃないんだよ。

でもこのアパートが一番怖かったかな。このアパートが、よりはこのアパートの土地に関する逸話の方が。なかなか気味が悪い。怖い。

 

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5杯目:東京都S区O町「幻の大仏」

4杯目とは一転、ちょっと縁起がいい話。いいなぁ僕もこういうの見てみたい。

日常のフリをした非日常が日所の中に一瞬だけ表れそしてナイン事もなかったかのように消えていく・・・p.98

最後の作者によるこの一文は非常に分かる、になった。分かる。

あとこの話を読むと豆乳についてすごく詳しくなれます。最近色んな味出てるなとはずっと思ってたけどそんなことが、あったのか。美味しいよね。あれね。

 

6杯目:東京都M区N町「事故物件夫婦」

事故物件って開運するのか・・・?ええ・・・?本当に・・・?の一話。

この話は随所に小さな「気味悪い」が散りばめられていて結構嫌だなと思った。

3年会ってなかった体験者の変化とか、向かいのアパートに関する話だとか、自殺方法だとか・・・。あとなんかあれですね。引っ越したら離婚しそうで、なんかそれも怖いよね。

そんな気味悪い物件に、作者が持って行った手土産草生える。プリンはまずかったかじゃないんだよ。

 

7杯目:東京都某区A町「入れない部屋」

生首と一緒に飲酒して、本作は締める。

「ばいばい生首~また一緒に飲もうね~」p.134

カバー外すとこの生首が大きく掲載されていていいですね。ここまでくるとちょっと愛嬌すら感じられるな。

これだけちょっと聖地巡礼したいと思った。本当は大仏が一番聖地巡礼したいけどほら・・・現れるかどうか微妙なとこだからさ。

 

特別編:僕にも食わせて!「開運飯」!!

陰陽五行を中心に風水民間伝承栄養学などを研究しつくした芸人の作ったもので、芸人間でも「手料理を食べると売れる」というジンクスがある料理を食べたよ、という話である。

作者と同席した芸人達は・・・チャンス大城さん以外まだ存じない方々ばかりだぁ・・・。

でもこの飯食べて作者は壇蜜と結婚してるわけだから、僕も食べたいなぁ。そして岡田将生と結婚したい。

 

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以上である。

書店員が薦める本に間違いなし、を実感する一冊だった。近年で言うと「本田鹿の子の本棚」以来の当たり本。あれも結局書店員に勧められて買った本な訳だし。

残穢が好きな人は間違いなく好きなんじゃないでしょうか。僕はあの小説あまり好きではありませんが・・・。

 

ちなみに先程wikiで調べたところ・・・なんとこの漫画2巻出ているとのこと!え!?マジかよ!!amazonで見たら、ほんとだ~続編ある~!!!「1」とかナンバリングされてなかったから全然気づかなかった!!こんなん絶対買うしかないじゃん!!こんなん絶対買うしかないじゃん!!!!!

 

***

 

LINKS

残穢」と「鬼談百景」で「百物語」が完成されるように作られているらしいですね。僕は「鬼談百景」の方が圧倒的に好きです。あれ面白いよね。2回読んだ。また今年も読もうかな。

tunabook03.hatenablog.com

 

書店員というか、奇書が読みたいアライさんが薦めていた漫画。連日リンク貼るくらいぐうおもろいのでおススメ。

tunabook03.hatenablog.com

 

*1: 「大豆田とわ子と3人の元夫」というドラマに出ている岡田将生がもうとんでもなくカッコいいんだ。クッソいい。ただのロリコンやろうと思ってたけどやっぱ違うね。顔面が。上手くはないが、華のある演技をするね。あ~岡田将生と結婚してぇ~ロリコンには理解あるから~~コミックLOくらいならいくら集めても許したるから~~~~田~~~~

クラフト・エヴィング商會『らくだこぶ書房21世紀古書目録』-2052年より。-

 

 

本を愛するすべての人へ。

 

2052年より。

 

 

クラフト・エヴィング商會『らくだこぶ書房21世紀古書目録』(筑摩書房 2000年)の話をさせて下さい。

 

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【概要】

クラフト・エヴィング商會に奇書が届いて始まる、奇書まみれの日々ーー2052年から20世紀末の商會に送られてくる古本の数々は、驚きの製本とウィットに満ちた愉しさに満ちているのだ。

*1

 

奇書が読みたいアライさん『奇書が読みたいアライさんの空想図鑑文学ガイド』p.8より抜粋、一部変更有

 

【読むべき人】

・本好き

・古本好き

※写真と共に楽しむ本で、150ページ程なので、本好きでも「ちょっと文字追うのは疲れてきたなぁ」という方にもお勧めです。本が、好きであれば。

※文庫本も出ているようですが、可能であれば僕と同じく単行本で読むことを勧めます

 

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ガイド結構繰り返して読んでるのでユーズド感がひどい。

【感想】

本書の存在を知ったのは、奇書が読みたいアライさん『奇書が読みたいアライさんの空想図鑑文学ガイド』だった。

今は絶賛売り切れ中となっているこの同人誌では、タイトルの通り架空の物物を取り扱った図鑑・・・のような書籍を紹介している。結構僕の今年の読書を決定づけているといっても過言じゃない。紹介された『本田鹿の子の本棚』(架空の本)『幻獣辞典』(架空の生物)は読んだ。面白かった。だから本書は3冊目、ということになる。

入手したのは「古書ドリス」の通販サイト。東京・鶯谷にあるアングラ系の本の取り扱いで名高い古書店である。ありがたいことに、結構しっかりした通販サイトも設けており、僕は毎晩そこの「新着」のページをチェックしている。

そのページで、ら・く・だ・こ・ぶ、の文字列を見た刹那、「アライさんが紹介していたんだから面白くないはずがない」「でも金がない」がなだれ込んできた。悩んだ。結構悩んだ。一週間悩んだ末・・・降雨うなことにまだ買われていなかったのを確認し、クリックした。購入した。1000円だった。

そしてまぁ届いても、あの時の直感は何処へやら。1週間はおろかかれこれ3か月近く積んでいたわけだが・・・5月中頃疲れがたまり職場を早退してしまった(4か月ぶり3度目)夕方、やっとこさ僕は手に取った。

ああ・・・2052年から1998-1999年の世紀末に送られてくる古書の数々・・・。それらは一冊一冊中身は無論製本までとことんこだわっていて緻密で迷路で、本とは・・・とか思ってしまう。本とは・・・。

今現在は2021年。30年後から20年前に贈られる書籍。僕の知的好奇心を存分にくすぐり、疲弊した僕の心を癒す。

 

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当然ながら写真付。

 

その多くは内容が結構突飛なものばかりである。

例えば、堂島横分け倶楽部編『7/3横分けの修辞学』(堂島横分け倶楽部 2036年は。横分け倶楽部を名乗る人々が制作した書籍で、7:3の正確な比率により分割された2冊から成る書籍である。

アンデロ・ボヤ『その話は3回聞いた』(箱舟書房 2008年)「世界中に点在するさまざまな「おしゃべり老人」を訪ね歩き、主にその家族に取材をすることで、膨大な「3回きいた話」を採集」p.117した本で、総ての話が3回ずつ収録されている。厚い。2000ページ。

トーマス・デッカー著 八木田晶子訳『世界なんて、まだ終わらないというのに』(SLOW INK PRESS 2048年は、あるしかけにより、永遠に読み終えることが出来ない書籍である。

その総てが、写真付きで紹介されているから面白い。7:3に分割された2冊の写真も、3000頁を擁する厚い長い背表紙の装丁も、永遠に読み終えることが出来ない書籍の一見普通の表紙も総て、この目に、することが可能。

当然である。だって、これらの書籍は、2052年から、1990年代末に、クラフト・エヴィング商會のもとに、実際に、送られてきた書籍なのであるから。

その写真があるのは当然、なのである。

 

 

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中に当時のチラシが出てきた。20年前か~。「貧乏ひまわり」かと思ったら「貧乏ひまあり」だった。

 上記の3冊はなかなか突飛ではあったものの、結構近いうちに僕が本屋で目にすることがありそうな書籍も結構見受けられる。

紹介されている書籍に限らずとも、似たような書籍を。

例えば、長谷川六太郎『屋上登攀記』(藤木書房 2036年は、風情を求めてあらゆるビルの屋上を登りつめた作者が書いた一冊である。

これを読んで僕はこの同人誌を思い出した。

 

 

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 団地ブックである。

これは今はもう新しく新設されることはほとんどなくなった、団地好き達による団地好きのための一冊である。写真は無論、団地の間取りや団地を舞台にした小説、辞典、団地周遊のススメなどが収録されている。僕が愛読する数少ない同人誌の中の一冊である。

屋上、団地・・・・。題材とするものは違う。

しかし、その根底に流れるものに大きな違いはないような気がする。

わずらわしい人間社会から一歩離れて、己の視点で風情を見出す。

その「己の風情」を書籍という形で、多くの人々に伝え、共有を試む。

扱うものは違うといえど、2冊とも制作目的自体はほとんど同じと言っても過言ではない・・・気がする。

だからこの同人誌も封筒に入れて・・・砂を入れて、住所欄には「らくだこぶ書房」と偽装し、なんとか、なんとかして1998年の「クラフト・エヴィング商會御中」に送ることが出来れば、もしかしたら本書で紹介される書籍は、22冊ではなく23冊に増やすことが出来るのかもしれない。

惜しむらくは、僕がその手段を心得ていないことだ。年数を指定して郵便物を送る方法は愚か、この商會の住所すら僕は知りやしない。

 

 

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文学ガイドでもアライさんは単行本で読むことを勧めていて、僕は実際単行本で読んだわけだが・・・それはまぁ確かに単行本一択だわ。と思わざるを得なかった。

「21世紀」になぞらえて紹介された21冊の次の22冊目。は、衝撃の一冊である。

そしてその一冊をめぐる果てしない時間の仕組みを思うと、僕は・・・僕は・・・。

でも僕は、このギミックを知っている。谷川流学校を出よう*2の2巻目の、ナイフと同じ仕組み。これが分かる人にはもうモロネタバレなんだけれども、でもこのギミックに初めて触れた時は衝撃だった。

単行本は、その「時間のギミック」を120%楽しめる仕様になっている。文庫本で読んでもこんなの多分・・・あんまり、面白くないんじゃないかな。100%楽しめると思うけれども、100%であれば学校を出よう!よろしく今まで取り扱ったような創作物等山ほどありそうだし。

よって僕も、単行本での読了を勧める。まぁ古書で1000円・・・決して安くない訳ですけれども。

 

ちなみに、この目録の中で僕が一番読みたいなーと思ったのはスリーピング・シープ編『羊典』(書肆がすぱある 2003年)。理由は羊が好きなので。

 

 

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以上である。

写真も付随した、未来の本の記録は、20年以上たった今でも決してその魅力は衰えることがなかった。むしろ時を経た分一層情緒が増している気がする。

決して手放したくない一冊。そして10年20年31年たって、この書籍自体の存在を忘れたころに再び、手に取って、もう一度読みたい一冊である。

 

***

 

LINKS

 ガイドの感想

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 紹介されていた書籍の感想。本田鹿の子は本当おススメ。

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団地ブックの感想。これ2-3合併号も買っているんですけど長らく積んでる。読みます。

 

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*1:まぁ引用ということで丸写ししていて思ったが、改めてアライグマの文章力の高さは凄いものがありますね。ウィットとか愉しさとか文章書いててまず出てこないもんね。それでいて読み易いからね。

*2:高校時代に藤村君から借りて読んだ。彼はハルヒではなくこれが谷川先生の代表作と言っていた。まぁ確かに完成度の高いSF×学園ものだった気がする。まあ6巻で未完で終わりましたが

穂村弘『君がいない夜のごはん』-弘・・・君が僕のほむほむだよ・・・。-

 

 

 

食に興味がない人が、

「食」について書いたエッセイ。

 

 

 

穂村弘『君がいない夜のごはん』(NHK出版 2011年)の話をさせて下さい。

 

 

 

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【概要】

食べ物とその周辺についての文章をまとめた本です。

料理に関心のあるひとが読む雑誌に連載した(というか、今も継続中)ものだけど、そういう意味では全く参考になりません。

料理についての記事やレシピの間に挟まった、学校で言うと「休み時間」みたいな頁だから。p.236

 

40を越え結婚しサラリーマンをやめても、我らが穂村さんは菓子パンを貪り貪り部屋に引きこもって(仕事をして)いる。

お気に入りの店等特にもないし、これといってこだわりのあるメニューがある訳でもない。料理も作らない。

そんな穂村さんが職について思いや想いキモイを巡らせながら書く爆笑必至食べ物エッセイ集。

 

【読むべき人】

・ただ食べ物を美味しそうに書くただの文章、読み飽きた人

・ただ食べ物へのこだわりを書いたただの文章、読み飽きた人

グルメ漫画が好きじゃない人

・菓子パン好き

・妄想好き

・わざわざ外食にこだわりなど持ってられない人

・その代わり、例えば納豆ご飯。そのねばねばと豆の比率について想いを巡らせたり、豆粒と米粒の大きさの比較に関心がある人。ちなみに本書でそんなに納豆ご飯は出てきません。近年僕の好物です。(ただし納豆はウェルシアの大粒の半額で買ったものに限る)

 

 

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【感想】

「一回でもいい加減なものは食べたくない」ひとには、自分の食生活を知られたくないと思う。軽蔑されそうで怖いのだ。p.118

 

本書を買ったのは、沼津の週末古本屋・ハニカム堂である。

穂村弘の本が数冊固まったコーナー(というか多分まとめて買い取った)があって、そこから未読の二冊を入手した。その片割れである。

穂村弘、通称ほむほむおじさんの文章はとても好きだ。永遠に童貞の心を持っていて、絶妙に女の子に対する距離感が気持ち悪い。妄想ばっかしている。多分社会とはちょっとずれていてベッドで延々菓子パンを食べている。黒メガネ。

たまたま僕も童貞(メス)であり、絶妙に男の子に対する距離感が気持ち悪い。妄想ばっかしている。社会とはそこそこずれていて、ベッドでチョコパイを食べているときに一番の至福を感じる。黒メガネ。

そう、もうほとんど僕はほむほむなのである。いや、違う。穂村弘がほむほむだから、僕はもうまどかなのである

読んでいると運命というかなんつーかあ・・・他にもこんな人いるんだ・・・っ!!!ほむらちゃんっっっっっっ!!!!!!と自然と風速で僕のソウルジェムは浄化されループは終わり、10年ぶりに新作が作られる世界線に突入する。めでたいです。遡逆の物語まだ未視聴なのですが・・・。

 

私のラーメンにもやしはいらない。p.191

 

初期のエッセイは結構読んできたけれども(「現実入門」「世界音痴」等々)2010年代突入後のエッセイを読むの初めてだった。だからもしかして穂村弘が僕の「ほむほむ」じゃなくなったらどうしようと思ったけど、そんなことはなかった。穂村弘は永遠に変わらず僕の「ほむほむ」だった。

突如現れたカタカナ語「ヴィシソワーズ」という言葉に戸惑ったり、学生時代のやたらでっかいお寿司に思いを馳せたり、「にんにくラーメン、チャーシュー抜きで」ラーメンを前にエヴァ綾波レイの言葉を思い出し「私のラーメン」を追究したりする。

 

 

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んなわけないじゃん。

 

特に僕のソウルジェムが澄んだのは、「曖昧体重計」である。

「日々の生活から生み出された知恵」p.83であるこの曖昧体重計とは、あえて洋服を着たり物を持ったりうんこ我慢したりして体重計に乗ることである。そうあえてね。

ポイントは「洋服や文庫本やおしっこの分」の重量が正確にはわからないことだ。分厚い服を着ていればいるほど、文庫本が京極夏彦であればあるほど、おしっこのほかにうんこも我慢していればいるほど、誤差の幅は広がる。p.84

そして表示された体重計の数字からその分をさし引いた曖昧な数字を己の体重とすることで、一喜一憂の幅を狭くし精神の均衡を図るという行為である。

実はこれ、僕も常にやっている。

特に甘いものや食べ過ぎの日にあえてはかる。「■■kg」越えていても、まぁ食べすぎちゃったからねちかたないねまだ消化しきれてないからねと言い訳が効く。

逆に2・3日ぶりにぶりぶりだした後に再びはかる。「■■㎏」越えることはめったにないが、越えていたら・・・あれ・・・・超えていたら・・・あれ・・・え・・・この・・・え・・・この2キロ分は一体・・・?さっきだした・・・は・・・はずなのに・・・え?・・・・え??

成程。こういう時の為に、京極夏彦先生は、一冊一冊あんなにやたら分厚い文庫本を世に出しているという訳なのでございますね。

一家に一台体重計。

だけでは身体の健康に気遣うことは出来ても精神の健康に気遣うことは出来ていない。

一家に一台体重計。一家に一冊京極夏彦

こうすることで初めて心身ともに健康な状態を目指すことが出来るのである。

 

 

 

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「いい混ぜだわ。あなたなかなかやるわね」

「私の手の動きが見えるの?」

「ええ」

「あなたこそ、なかなかやるわね」p.102

 

 

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カスが散らばってますね。こう改めて見るとなかなか汚いな。

 

また、ほむほむは突然食べ物を、5つに分類したりする。

 

「a 昔も今も好きなもの

b 昔は好きだったけど今は嫌いなもの

c 昔は嫌いだったけど今は好きなもの

d 昔も今も嫌いなもの

e 周期的に好きになるもの」pp.160-162

 

考える。

 

a 昔も今も好きなもの

洋菓子。特にフィナンシェとかマドレーヌとかああいうの。

家に届けられる小包の中身が、それ系であった時は、もう嬉しさ極まった。届いた日の翌々日にはもうほとんどがなくなっていた。口にすると、サクッとほどける粉っぽいクッキーがついていると尚よい。後それがアマンド娘だった時にはもう僕は絶頂である。エクスタシー。射精する。ないけど。僕は静岡県の名物は「うなぎパイ」でもなく「こっこ」でもなく、「アマンド娘」だと思っている。

逆に小包の中身が、ゼリーだった時の絶望といったら!僕はもう落胆するしかない。なんだよゼリーって。いや嫌いじゃないよ、美味しいよゼリー。でも大抵良いところのゼリーってぺりぺりめくる時汁が出るじゃん。冷蔵庫の隅にちょこん、と、いつの日か分からないゼリーが延々に鎮座するのが実家の常だった。大抵ぶどう味だったな。

b 昔は好きだったけど今は嫌いなもの

概ね思い当たらない。

強いて言うなら「揚げ物」か。いや、好きだしコンビニのホットスナックも全然買う。けれど調子が悪いと、脂で胃もたれすることが増えてきた。国道沿いのとんかつ屋を見ると、とんかつ定食とかよく皆食べれるもんだよなーと思う。よく繁盛してるもんだよなーとも思う。27でこれなのにましてや304050となった時にとんかつ定食を食べている自分の未来が想像できない。からあげ定食も然り。

c 昔は嫌いだったけど今は好きなもの

茄子。祖父・父と根っからの茄子嫌いの血を引いているが、なんか気づいたら中学生の時には全然普通に食べられるようになっていた。クックドゥのマーボーナスとかすごく好き。

確か当時は、色がダメだった。紫色のものを食べる人々の神経が信じられなかった。いつから僕も神経をやられたのか、それは思い出せないのだけれども。

あ、あとチョコパイ。なんか洋酒っぽいような変な香りがする!と幼少期は忌避していたが、今や立派な中毒者。気づけば一日に4個5個食べているのもザラである。なので買うのは月に一回・ファミリーパックと己に課しており、それは順調に破られている。2回くらい買っちゃう。おいしいもん。

d昔も今も嫌いなもの

小豆。あんこ。これがダメである。

色が黒。食感はもしょもしょ。そのくせ甘い。意味が分からない。

同様に、黒豆もあまり好きではない。あと饅頭や羊羹もあまり好きではない。プルーンは最近良さが理解できるようになってきた。

「黒くて湿っていて甘い」この3拍子は馬鹿。ほんと・・・バカ。(ソウルジェムぴかーっ)

e 周期的に好きになるもの

今だと納豆ご飯である。味噌汁がついていると尚よい。

なんか食べていると凄く「健康~」って思う。

この度まぐろどん27歳一人暮らし。食生活が結構気になるお年頃なのである。

でも家にある野菜の切れ端・・・人参・じゃがいも・ほうれん草・白菜・キャベツ・茄子等々・・・をいっぱい鍋にいれて、だしいり味噌(ウェルシアにで198円)を溶かして作った即席みそ汁と、解凍したご飯に納豆をかけその両方を口に含み絶妙な大豆シンフォニーを耳にしたとき・・・、食生活の総てが赦される気がするのである。

チョコパイをたとえ4つ食べても1日でファミリーパック(9個入り)消化してしまったとしても・・・夜に納豆ごはん食べればなんと全部リセットなのである。

ああなんて素晴らしき大豆の力。健康~。

 

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そのとき、食堂車の秘密が少しだけ分かった気がした。

それは時間の可視化だ。

マッド外を流れる景色に包まれながら感じるのは、Yくんも自分も他のお客さんもウェイトレスも、全員がごうごうと流れる巨大な時間のなかにいるということだ。

(中略)

食堂車は私たちに巨大な命の砂時計の存在を教えてくれる。p.217

 

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今宵もレトルト。

以上である。

食に強い熱度がないエッセイだったので、同じくそこまで食に強い熱度がない僕は楽しく読むことが出来た。

食のエッセイや漫画って、大抵読んでる途中でお腹が空いてきて困るものだけれども、本書はそういうことが一刻たりともなかった。代わりに、ふふっ。となるところが多くて、ふふっ、ふふっ、ふふっ。電車の中や待合室で読むときは大変だった。

あと共感するところも多い。そして僕だけじゃないんだと、ほむほむの文章を読むと僕のソウルジェムはすっと穢れが消えて澄んでいく。

ああ・・・ほむほむ。

ますますほむほむには運命を感じえない。

ほむらちゃん・・・わたしのたいせつな、ひと・・・。

 

***

LINKS

他に読んだおほむの文章。「もうおうちへかえりましょう」は本書と同じタイミングでハニカム堂で買った。もういち片割れ。

あとレトルトカレーの写真はサブのブログの方から持ってきた。

 

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「MODE-J ジェニーinトーキョー・ファッション」-Jenny for 2002.Jenny for・・・-

 

 

永遠の17歳

 

 

「MODE-J ジェニーinトーキョー・ファッション」(グラフィック社 2002年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

ジェニーは二ホンの女のコたちに長い間かわいがられてきたファッション・ドールです。

21世紀初頭、世界で注目を集めているトーキョーという街の人びとの、さまざまなスタイル、いろんな気分を、

元気いっぱいの日本人デザイナー21人(23ブランド)の皆さんに、

ジェニーと一緒に表現してもらいました。

 

カバー裏より

 

【読むべき人】

・ジェニーちゃんが好きな人

・ジェニーフレンズが好きな人

(本書登場フレンズ:アベル、シオン、たまき、ナオミ、キサラ、レイフ等)

・2002年頃ファッションを楽しむティーンだった人

・2000年前後記憶喪失者

 

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裏表紙には参加したデザイナーの名前と手掛けるブランドの名前。

 

【感想】

 

男の魅力っていうのは、

どうやってあなたの電話番号を聞き出すかによって表れるものよ

でも同時に女の魅力っていうのは、

あなたがどこのドレスメーカーの服を選んで着ているのか、というところに表れるものなのよ。

Lilly Dachē

 

***

 

昔、まだ年齢が一桁の頃、

僕はリカちゃん派はなくジェニー党だった。

顔が好きだった。リカちゃんは常に横(左)を向いている気がして、それが気に食わなかった。でもジェニーちゃんは常に真正面を向いている。

僕を見ている。

それが好きだった。

 

年齢が二桁になり久しく、

再びドール趣味へとどっぷり嵌っている僕は、

だから、

この本の存在を知った時にもうクリックせざるを得なかった。

 

***

 

彼女のボーイフレンドのTシャツとパンツを穿いている時こそ、

女性は信じられないくらい魅力的になると思うのだがね。

Calvin Klein

 

***

 

本作では21人のデザイナー達がジェニー・ジェニーフレンズをデザインしている。

服小物から・・・メイク(カスタムされているものも多い)、背景、撮影方法まで。

多種多様の21の世界が詰まっている。

 

以下簡単に21人のデザイナー達の世界を簡単に★1~★5で評しておこうと思う。

そうすることで、僕にとってジェニーちゃんとは何なのか。ドールとは何なのか。生涯答えが出ないその問の、しかし少なからず何らかのヒントは手に入れられると考えるからだ。

 

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01 永澤陽一:★★★★★

冒頭はまさかの近世ヨーロッパ貴族風である。さすがはデザイナー、がっつりその衣装も作りこんでいるから結構見ごたえがある。

登場しているドールフレンズの数(リエも登場。チャールズ、ロザーナ、マイクなど初めて聞くフレンズも)からし一番手が込んでいるのかもしれない。だからトップバッターだったのかな。

「今回のような装飾的な衣装を(人形に)着せることによって、より、人形それぞれの個性が浮き出てくる、今まで見慣れた人形らしい服を着ている時は気づか買った、もう一つの表情が生まれたんです。「へえ、こんな顔をしていたんだ」と」

とデザイナーも言っているが、僕もそう思う。

そして多分この人は男性・・・というのもあるけど、恐らくタカラドールで遊んだ過去をもたない人だと思う。

そういった人・・・特にその道のプロが本気でジェニー達をデザインしたらどうなるのか。

爆発的化学反応。

 

02 板倉健二:★★★★☆

表紙にもなっているジェニーをデザインしたデザイナーである。

表紙のジェニーは素晴らしいと思う。斬新な髪型は似合っているし、ボタンをたくさんつけた個性的なスカートもドール服ならではだと思う。ネックレスやコートの縫い目の糸の色など、細かい所もこだわっている。一度見たら忘れられないジェニーになっていると思う。

ただ4ページ中後半2ページが個人的に受け付けなかった。

ジェニーにほどこしたメイクがあまりにも個性的すぎる。これでは人形である必要性を感じられない。人間でもよくないか?と思ってしまう。

コメントも、服に対するこだわりはアツく語っているが、ヘアメイクは別の人に頼んだと言っている。そこまでこだわりぬいてほしかった。惜しい。

よって★1つマイナス。

 

03 チダコウイチ:★★★★★

「「OUT of ACTION」(自身が手掛けるブランド)は、トレーナーとかTシャツが中心のふつうの服なので、ジェニー(人形)の「お洋服」という感じがしていなく、出来上がるまでは実は不安でした。出来上がって見たら、普通の服なのに見たことがない雰囲気で、すごく可愛く、ビックリしました」

本書で一番かわいくドールが撮れている。使用しているのはジェニーフレンドのアベル

シンプルに、デザイナーが手掛けるブランドの服をジェニー(アベル)が着たらどうなるか、に徹底した4ページであるがこれがまぁ、可愛い。

タカラドール×リアルクローズ

今では全然珍しくないが、当時は相当珍しかったのではないかと思う。それをよくここまでうまく落とし込めたな・・・といった印象。

これを見たらジェニー者は、金髪ストレートのアベルが絶対絶対欲しくなる。

 

04 杉本ちゆき:★★★★☆

毛糸で編んだニット素材で、どれだけジェニーをお洒落にできるか。

実際、ドールの毛糸服・・・とくにハンドメイドだと「もっさり」した感じが否めないものが多い。モデルが小さい分毛糸の網目の大きさがもたついて、ダサい印象が先行しやすい。

それを見事に「CHIYUKI」(ブランド名)に昇華させることに成功している。

ファッションショー風のディスプレイも好み。

だけど、もっと洗練出来たのではないかと思う。もっと突き詰めることは出来たのではないか。

髪型と靴は果たして揃える意味はあったのか。

 

05 山下隆生:★☆☆☆☆

微妙。

ジェニーに針をたくさん刺した髪型をさせているが、果たしてそこまでする必要があったのか。シンプルに痛そうにしか見えない。

アベルに網のようなものを顔に食い込ませているが、果たしてそこまでする必要があったのか。シンプルにかわいそうにしか見えない。

巻末のコメント欄も一人意味わからんポエムを掲載しており不快。

 

06 寺島真由実:★☆☆☆☆

まずジェニーの写真が小さい。これをパターン化して模様にするくらいなら、一枚丸々しっかり鑑賞したかった。

あと写真を通して伝えたいメッセージ性も何も読み取れない。意味が分からない。

巻末コメントに「着る側の持つ空気を包むような洋服が作れたらいいなと思っています」とあるが、こんなに小さい写真では空気も雰囲気もクソもないと思う。

自身のブランドの宣伝しかしていない。そのブランドも検索したら、現存はしないようだ。ざまあみろと思った。

 

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持ってるジェニーフレンドの一人、「初代フローラ」。今年の3月に入手。

 

07 小西良幸:★★★★★

嫌いじゃない。良いと思う。

ジェニーがボーイフレンドのレイフをビンタしようとしている1枚である。衝撃のワンシーン。ナイフのような切れ味の瞬間。

まず動きが制限されたタカラドールで「ビンタをしようとしている」動きを再現しているのが凄いと思う。

つり上がった眉にカスタムされたジェニーの表情は鬼気迫るものがある。

逆にレイフの表情は、(恐らく)ノンカスタムにも関わらず非常に情けなく見える。

そして誌面のデザインをふんだんに使い読者に訴える、

誌面越しに伝わる女性(ジェニー)の怒りの爆発・・・。

一度見たら忘れられない1枚。

あと衣装も一切手を抜いていないところも好印象。特にジェニーのブーツ・ピアス、レイフのアンダーは見もの。

さすがはドン小西といったところか。

 

08 菊地智揮:★★★☆☆

自身のブランド「surge」にのっとって、Tシャツ×ジーンズに徹したデザイン。

当時は新しかったかもしれないが、今見ると無難過ぎる。

というか人形よりも、一緒に掲載されていた当時の渋谷に目が奪われる。109周辺である。一見あまり変わらないように見えて、結構変わっている。HMVが凄い大きい看板を渋谷駅前に堂々と掲げている。そうか当時はCD全盛期の時代でもあるのか。

その渋谷にTシャツをまるまる着せてるコラージュのが圧巻。

 

09 畠山巧:★★★★☆

ジェニー×♥♠♣♦がモチーフの一枚。

悪くない。服は勿論髪型だって凄く凝っているし、魅せ方も面白い。楽しんで制作側が取り組んでいるのが伝わってくる。

ただモチーフがあまりにも無難で、真新しさは感じられない。ので★マイナス。

ちなみに巻末に掲載されているデザイナーの写真が結構ムロツヨシ

 

10 平子礼子:★★★★☆

4ページ中、前半2ページは最高。ジェニー・キサラ・シオン。ブランドの服は3人にとてもよく似合っているし、表情もついている。特にキサラの表情は目を見張るものがある。

しかし後半2ページがよくわからなかった。3人が回転?している写真なのだが回転させる意味が分からないし、そのモーションのせいで3人の写真が良く見えない。

「人形というのは、昔から私たち人間のすぐそばにあって、常に私達を見返りもなく見守ってくれてる大切な存在であり、そして私達はそれを創り続けている、ということです」

しかし自身の手掛けたデザインに言及するデザイナーは多いけど、人形という存在自体にここまで深く考察して言及したデザイナーか彼女のみ。

よってちょっと甘く見て★4。

 

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11 水原雅代:★★★★★★★★★★

シオン2人を使った圧巻の世界観である。圧倒的にこの写真が、本書の中で素晴らしい。★5つじゃ足りない。★10。

服のデザインといい髪型といいモデルの表情といい背景といい世界観といい圧巻の一言。6ページにわたる、この3枚の写真を見るがために本書を手に入れたんだ、と言っても過言ではないくらい。

「小学一年生のクリスマスに、母からバービー人形をプレゼントされました」

デザイナー本人が幼少期に人形の服を作る経験をしていたようだ。

幼少期の「好き」って、やっぱりずっと「好き」なんだなぁと思う。だから僕は今もこれからも多分死ぬまで、人形が好きだろうという根拠のない確信がある。

 

***

 

女の子はジーンズをはいて髪の毛を短く切ってシャツやブーツを着ることが出来る。何故なら男の子のようになることが推奨されるからだ。

しかし男の子が女の子のように見えるのは歓迎されない。何故なら女の子でいることは祝福されない位からだ。

だけど、本当は君だって女の子のように決めたいんじゃない?女の子のように見られたいか男の子のように見られたいか、なんてさ。

 Charlotte Gainsbourg(THE Cament Garden)

 

***

 

12 田口美子:★★★★★

当時、ドール服のブランドを手掛けていたデザイナーによるページである。

そのためまぁお洋服は圧巻。ロリータを着用したジェニーは間違いなく可愛い。

2000年代初頭のロリータだからか、プーリップのプリンチベッサ感がある。

落下する(?)鳥かごに閉じ込められたている少女という世界観も素晴らしい。間違いなくデザイナーはドール者のツボを「分かっている」。

「幼い頃に養われた多識はその後の人間形成に多大な影響を及ぼします」

幼いころにドールを触った地点で、僕達の嗜好は決定づけられていた。

しかし残念ながら、このドール服のブランド「ノアドローム」は現存しないらしい。エクセリーナとコラボもしていたようで、どうやら凄い大手だったっぽいけど・・・。

現在ジェニー・リカサイズのブランドは、実質メーカー側のものしかなく、残りはハンドメイド品・ディーラー品になっている。洋服のみ制作する企業としてのブランドがあったらなかなか面白いと思うのだけど・・・。でももうこういうデザイナーは、メーカーで働いているのかな。

 

13 田中利絵子:★★★★☆

ロリータを着用したジェニーが紐に捕らえられている。

服は可愛いしお人形もかわいい。けれど★マイナス1なのは、あまりにも新鮮味がないから。

正直12の田口さんページから切り替わっているのも初見気づかなかった。まだノアドロームのページだと思っていた。個人の世界をジェニーで分かりやすく構築できてない。

Twitterの方が斬新な可愛い人形の写真たくさん見られるよ、まぁ今2021年で、当時は2002年だけど。

 

14 小西里佳:★☆☆☆☆

手抜き。

掲載したグラビア、そして巻末コメント共にブランドの宣伝のことしか考えていない。

没にするべきではないか?と思うくらい、この2ページだけ出来が酷い。

 

15 鈴木信彦:★★★★★

14と同じく馬モチーフではあるが、こちらは本気が感じられる。

ブランドのリアルクローズを身にまとったナオミの表情は憂いを帯びていて、その眼差しはここではないどこかを見つめている。奥にいるレイフの服もこだわって作られていることが伝わってきて・・・。

誌面も良い。黒い馬の写真を前面に使うことで大きなインパクトを残す。右上の馬の紋章は愛らしい。

まるでブティックのパンフレットのようなクオリティ。自身のブランドをジェニーに落とし込むことに見事に成功している。

 

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後ろには当時発売されているジェニーのラインナップ。ドールごとに担当ブランドがあることを最近知った。今では「プリパラ」あたりにその伝統が引き継がれてますよね。



 

16-17 鈴木千緒子:★★★★★

ナオミ、新フローラを手掛けたデザイナーによる4ページ。ここからジェニー、シオン、サヤカ、たまき、4人の担当するブランドが2ページずつ紹介されていく。

前半2ページはジェニーの「STUDIO STREEET」。明るい未来へ向かった疾走を思わせるデザイン。めくれあがったスカートのすそ、ド・厚底のブーツが格好いい。

後半はシオンの「Sweet Bambini」。甘いピンクワールド。というか当時、シオンはジェニーフレンドの中でも「キュート担当」だったそうな。まじかよ。今じゃ顔立ちも相まってクール担当のイメージが強いのに・・・。

 

18-19 内藤香織:★★★☆☆

ピンクハウスジェニーや、今やキャッスルの一番人気ジェニーフレンド・タマキ、そしてこの度復活おめでとうございます・星澤奈々子セブンイレブンとのコラボドールだったんだ!)を手掛けたデザイナーによる4ページ。

サヤカのSTYLISH MODE」は陰影の使い方が印象的。一昔前の化粧品のCMみたい。

たまきの「LOVE WAY」はパワフル。ただ顔のあたりがぼかしているのが個人的にマイナス。

何故★が少なめかと言うと、この両方のグラビア共にあまりに無難過ぎるから。タカラに務めているならばモデルの魅力も分かり尽くしているはず。もっと冒険しても良かったのでは?

 

***

 

女性のドレスは、景色を阻害するフェンスなどモノともしない、鳥のように自由にあるべきだ。

Sophia Loren

 

***

 

20 吉川真史:★★★★☆

非常に近未来的なデザインである。ぴっちりとしていてビニールのような衣装で・・・凄いお洒落なHGみたいな衣装だ。シオンの衣装はシルエットが可愛いと思う。ナオミの衣装は赤と紫の使い方が印象的だ。両者ともに、真ん中の大きいジッパーや、手袋も可愛い。

でも一番の主役というべきジェニーの衣装がイマイチというのが★マイナス。髪型がダメ。そのままストレートの方が良かったのでは。

「独自の東京ファッションと呼ばれる新しい世界も確立してきています」

それは確立したかもしれないが一瞬のことで崩壊してしまった。ファッション界にそびえたつ東京タワーは砂上の楼閣にすぎなかった。

 

21 あべ真司:★★★★★

ティースブルー全盛期といったところか。確かに聞き覚えのあるブランドは今やもう亡き・・・と思ったらまだなんとか息をしているようです。

衣装も髪型も、THEドールならでは、という感じで見ていていとても面白い。特にあのモールで素材でできたようなヒヨコを使ったグラビアには舌を巻かれる。そんな使い方があったのか!!

黒字にスパンコールやキーホルダー、リボン、☺、♥、おはなを散らした画面はキラキラしていて当時のティーンのファッションの勢いを象徴するかのよう。

「Missジェニーはなつかしさと共にちょっぴりハートがどきどきするような魅力を持っている」

とデザイナーがジェニーに対して感じたものを最大限に誇張して作られた世界。感性ありきの世界。これこそ「デザイン」てやつだよなぁとか素人ながらに思ったりする。

ちなみにこの方、後にブライスのお洋服本も出している。確かにこの色彩はあの巨頭ドールと相性がよさそうだ。

 

22 木下美伽:★★★★★★

★5つに1つ加えて★6つ。本誌の中で2番目に良かった。

決して派手さはないものの、グラビア・ファッション共にモデル達は「生きている」。

キサラの服は圧倒的にスカートが好み。すその切りっぱなしが格好いい。でもよく見ると上のブラウスもかわいい。レースの使い方がいい。そして、2ページ目の這いつくばっているショットは鳥肌がたった。人間顔負けのまなざしをこちらに向けている。

ジェニーはもう全体的に好み。白人女性を思わせるかのような・・・でも違う、ジェニーでその後姿の圧巻たるや。ブラウスがとても可愛い。僕も欲しい。

「実際の人間よりサイズが小さい為、バランスをとるのは困難だったように思いますが、その事が意外にこのジェニーのお洋服づくりの楽しい部分でもあり、ハマってしまいそうでした」

これはどのデザイナーにも言えることだけれども、

大抵「凄い!!」「めっちゃいい!!」と思ったページのデザイナーは、

間違いなくジェニーをジェニーとして楽しんでいる。

01の永澤さんしかり02の板倉さんしかり11の水原さんしかり、21のあべさんしかり、そして22の木下さんしかり。

 

23 村上弘子:★★☆☆☆

逆にジェニーを、「ツール」としか見ていないとこうなる。

自分のメッセージを発信する媒体としか、見ていないとこうなる。

まるでジェニーをジェニーとして扱っていない。ジェニーを文字、写真、アート・・・個人の伝達手段の一つとしか見なしていない。

確かに写真としては見ごたえがあるが、これは別にジェニーである必要性はない。別にマネキンでもいい。別に人間でもいい。

トップバッターは納得の人選だったが、ラストは何故この人が務めることになったのかは謎である。

 

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カバー外すと結構お洒落な表紙。というかクリアカバーという発想自体がまずお洒落な。

 

以上である。

ジェニー一つでもこれほどまでに世界が広がるのかと見ていてとても楽しかった。

 最近、こういうドールに関する書籍が気になる。裁縫が苦手なため作り方が載っている本は基本シカトしていたが、鑑賞のみとなれば話は別である。気になった本は財布が許す限り、どんどん入手しようと思う。

そうすれば、きっともっと楽しくドールと遊べる・・・ような気がする。

 

ちなみに、もうジェニーはタカラから発売されていない。タカラ、改めタカラトミーから発売されているのはリカちゃんのみである。

こんな写真集を発売する程勢いのあったジェニーは残念ながら廃れていった。今は大人向けの所謂リカちゃんメーカー、リカちゃんキャッスルでしか新規発売されていない。

そこではかつてのフレンズたちも入手できる。大人向けとあって皆丁寧に作られていてとても愛らしい。当時ジェニー達と遊んだあのときめきをリフレインすることが出来る。

けれど・・・、今の女児はもうジェニーで遊ぶことは基本ないと考えると、なんだか郷愁めいた切なさが、僕の胸をせり上がってくるのだ。

 

***

 

私は服をデザインしているのではない。

夢をデザインしているのだ。

RalghLauren

 

***

 

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初代フローラの「昔のタカラ」感のある顔面が凄く好き。おめめきらきらみたいな。

***

 

本書はページ数の掲載がないため、抜粋した部分のページも省略しています。

文中に出てきた人々の言葉は、本書に英語で掲載されていたものです。頑張って訳してみたけど意味違ったらごめんなさい。ちなみに中国語が掲載されているページも1ページあったけどさすがに無理。

 

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ちなみに僕のドール垢。

 

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