小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

町田洋『惑星9の休日』-隕石の直下衝突によりけり、僕の地軸が傾き正常になりよりけり、ああ僕は正常です。-

 

 

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惑星9の休日

 

ずっとあなたが好きでした

伝えられないまま消えていく想いと

ずっとあなたが好きでした

伝えられたからより濃くなった想いは

並行した地平線となり

決して地軸は傾かない

決して地軸は傾かない

 

永遠と続く地平線

その向こうには

きっとみんな死んで骨になりて

風化して砂になりて

砂漠となりそれでも太陽は昇る未来があって何前何万根と先には

「私を見てよ!!!」

チュドーン。

 

サジン。

 

・・・きこえたの。

・・・きこえましたか?

隕石9の爆発音が、

心の臓の奥のおくで。

 

■■■■

 

UTOPIA

 

私のこの長い白い二脚が本当は

節が目立った醜い赤茶けた六本脚だと告げたら

あなたは一体どんな顔をするかしら

「いっそのこと八本脚だったらよかったのに」

そうね 八本脚の蝶だったら

私はここから飛びたてた自由、

あなたからも飛びたてただって、

蝶をしがらむ障害等この世にありはしないのだから

 

私のこの黒水晶のようなまあるく大きい眼球が本当は

小さい粒が密集した油の色にきらめく複眼だと告げたら

あなたは一体どんな顔をするかしら

「いっそのこと蜻蛉であったらよかったのに」

そうね 私が蜻蛉であったら

私は前しか見ない前、

あなたを振り返ようとすらしないだって

蜻蛉には縛られる過去等この世にありはしないのだから

 

私のこの白く光るようなうなじが本当は

艶めかしく鈍く光る甲でその中には蠢く6つの翅があることを告げたら

あなたは一体どんな顔をするかしら

「いっそのことGであったらよかったのに」

そうね 私がGであったら

私はあなたから逃げるしかない逃げる、

あなたをあなたと思おうとしないだって

Gにオトコノコを想うハートの断片すらこの世にありはしないのだから

 

私はね私はね ねえ 本当は

ねえ本当は私はね ねえ 人間・・・人間なのよ人間

どの虫よりも醜い哺乳類・「人間」なのよ

それでもあなたは私を愛して、ああ愛して好きでいてくれてキスして、

くれるかしら

 

■■■■

 

玉虫色の男

 

玉虫色の夕焼けに散ってった初恋と骨を抱きしめ眠る。

 

■■■■

 

衛星の夜 

 

ワルツ。

1,2,3

1,2,3

踊りませんか

1,2,3

1,2,3

僕と共に

1,2,3

この手を取って

1,2,3

1,2,3

 

僕はずっとあなたを見ていました

道路の向こう側で深夜のファミレスで

ワンルームの角で子供部屋の机の下で

ブルーライトの画面の中で夢の中で

過去の思い出の中であなたが思い描く未来の中で

1,2,3

1,2,3

ずっとずっと

見ていました

1,2,3

1,2,3

 

あなたは僕を感じると

しばしばその瞳から涙を流しましたね

哀しい寂しい痛い辛い苦しい

その総てを一気に抱きしめて

ああ死にたいタスケテと口走る日もあった

1,2,3

1,2,3

でももうその必要は

ありません

1,2,3

1,2,3

 

だってあなたはこうして私を

恋人として僧侶として

良き夫として良き妻として

パートナーとして

ワルツの相手として

認めることをやっと赦してくれたのだから

1,2,3

1,2,3

ああなんて人生とは滑稽なものなのでしょう

骨骨を蹴散らして踊りましょう

1,2,3

1,2,3

 

腕を伸ばして

ターン

1,2,3

1,2,3

片足をあげて

廻る

1,2,3

1,2,3

フローリングの上で踊りましょう

リノリウムの上で踊りましょう

今までの27年間の人生の上で踊りましょう

1,2,3

1,2,3

あなたと私の

ワルツを

1,2,3

1,2,3

1,2,3

1,2,3

 

:l】(repeat:音楽記号 繰り返すの意)

 

■■■■

 

 

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■■■■

 

それはどこかへ行った

 

祝祭が聞こえる

それははるか遠くから

それはかすかに

「今」が生まれた瞬間を

常々に言わる歓声が

遠く微かに僅かに

聞こえる

 

青い空の下

人工衛星は無限に回転する

アスファルトの上

蝶の死骸が灰燼となる

海の底を泳ぐ深海魚は

交響曲第五番第二章の旋律を口ずさみ

森の奥を自由自在に駆け回る鹿が

蹴散らした光は虹の粒子となる

 

「今」が生まれた瞬間を祝いましょう

ここにある実存を祝いましょう

 

無限に広がる牧場の草を食む子牛の耳

春に咲く野草の短き開花期間

樹木から蝉が羽ばたく瞬間の翅の透明

夏の大地に転がる死骸の数々

万物を憂いたポエムが書き散らされたノートの切れ端

秋の収穫祭で交わす人々の接吻

眠る前に子熊が感じた母熊の熱き体温

 冬が雪を縁どる透明なきらめき

 

総じて存在していることを祝いましょう

今そこにあること自体が奇跡であり

万能

 

今ここに一つ新しき愛が生まれたことに

花束を

 

■■■■

 

とある散歩者の夢想

 

暇があったら

良き散歩をしなさい

 

散歩とは人生のようなものである

散歩をしに外に出た瞬間の喜びは

生命の誕生

そしててくてく歩き総てが順調に思える昼の日差しは 

幼少期子供時代学生時代

散歩もヤマに差し掛かり足にわずかに痛みが感じ始めたら

それは青年時代壮年時代

そしてプランを間違え疲れへとへとで部屋に帰る時

あなたは死を迎えようとしている一人の老人

 

その合間にあなたはたくさんの寄り道をする

狭い道の方へ曲がってみたり

今までよりペースをゆるめてみたり

通りすぎる異性に心を奪われてみたり

途中でふと足を止め休んでみたり

電信柱の下に咲く野草の小さき花に心を奪われたり

する

 

カッターの刃をて手首にあてる

行き倒れている私も

あなたの寄り道のひとつとなれば

いいと

私は

思っているよ

 

アスファルトに反射する空の青さよ

 

暇があったら

良き散歩をしなさい

 

■■■■

 

午後二時、横断歩道の上で

 

上司の上司から叱責されている瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

レジスターの「7」の数字を押す瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

客に対し無理矢理に口角をあげる瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

「私達にはあなたを馘にする権利がある」と言われた瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

同時に癌と闘い続ける母親の顔を思い描いた瞬間

ああ今は永遠なんだと思う

 

散らばる写真

斜陽は蒸せる

 

生まれてきてしまいごめんなさい

ここにいてしまってごめんなさい

 

地獄の瞬間が断続的に続くことで

現在の僕が形成される

 

幼少期遊んだ

ビー玉をいくつも、いくつも

嚥下する

幻想

 

君は強いね

君は凄いよ

昔から言われ続けてきたことだけれども

ああ神様僕は

僕は 疲れてしまった

 

眠れないベッドの床で想像する

生まれた瞬間

 一番上の僕でありいとこもいない僕であり

亡くなった祖母も一番かわいがってたという僕だから

きっとそこには光が満ち溢れている

その瞬間も永遠ではあるが

それは僕の永遠ではない

 

己の頭蓋を撃ち抜く拳銃のリボルバーの手応えを想像する

赤。

鉄分の匂い。

かさぶたをめくる。

 

ああ神様いるのであれば出てきてください

僕に永遠を下さい

僕は 僕はもう

疲れてしまったヨ

 

■■■■

 

 

実家に帰ると、自然と寝るのは自分の部屋になる。

そこの一角は小学一年の時に買って貰った机が未だに陣取っている。

あらいぐまのキャラクターのカーペットはもう荒んで色が褪せている。マットの下にはたくさんのイラストのポストカードが挟まっているが一部斜めになったり重なったりとぐしゃぐしゃになっている。一時期実家でニート&フリーターしていた時代に買ったアイドルのクリアファイルが飾られ、隅ではガチャガチャで出てきたネコが「ヨシ!」のポーズをしている。

ああ。ネバーランドなんだなぁと思う。僕が僕でいることを赦してくれる場所である。例えばこれが一人暮らしの部屋の机だとこうはいかない。置かれたパソコンは常に「ブログかけ!」と言ってくるし何よりここはワンルーム、あくまで20代後半(メス)の部屋の体裁を整えておかなければならないなあと言う無意識が働いている。その結果机の隅にはハンドクリームと化粧水乳液が並んで置かれている。精神の年齢で測ればいいものを、現代社会は身体の年齢で測るから、僕は27歳なのである。

主にこの机に座っていた時私は何を考えていたか。

中学高校の時は結構使った。主にテスト前は勉強ばかりしていた。時間数を増やせばその分出来ると思っていた愚鈍なのでただただ内容の薄い勉強をしていた。結果MARCHにはこぎつけたものの第一志望の国公立には落ちてしまい、逆に親友の合格の報を聞き約1か月間寝込んでずっとポケモンをしていた。

ニート・フリーター時代は履歴書を書いていた。あれは不思議なものでたった数行にしか過ぎないスペースがいつまでたっても埋まらない。自己評価も低い自分のことだから何を書いたらいいのか分からない。その埋まらない感覚が非常に不快で嫌だった。ようやっと一つ書いてもそれが評価されるというのが恐ろしくベッドの潜り込んでスマホをいじった。

でも、小学生の時。この机を買って貰った6年間。僕はここで何を考えていたのだろう。と思って、小学校の卒業アルバムを取り出す。

「将来の夢」と書かれたコーナーには、「小説家」と妙に大人びた字で書かれていた。

 

 

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町田洋『惑星9の休日』(祥伝社 2013年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

惑星9を舞台にした短編集

 

絵本作家たむらしげる氏「読み終わった瞬間、フッと身体が軽くなった。ぼくの心に惑星9が生まれた」

帯より

 

【読むべき人】

・漫画好き

・絵本好き

・ポエム好き

・純文学好き

・砂漠系が舞台になった創作物好き

・少女漫画好き

 

 

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裏表紙はブックオフオンラインで頼むと時々ついてくる巨大バーコード。おとくだ!!

 

【感想】

本書の存在は何となく昔から知っていた。

とても面白い漫画として取り上げられることが多く、ことあるごとに目にした気がする。それは「おすすめ本コーナー」それは「私の好きな漫画」それは「今話題の漫画」といった具合に。

前に読んだ「BRUTUS」の漫画特集(去年の)に取り上げられていて、尚更気になったためこの度ブックオフオンラインでサクッと注文した。届いた。読んだ。

 

成程ねと思った。成程。

内容はいかにも祥伝社」らしいサブカル寄りの一冊である。

悪くないが、想像を超えるほどでもない。

でもまぁこれが推されるのも分かる気がする。

 

まずは創作として。

惑星9という舞台設定がいい。砂漠化して荒れて何もない【惑星】という設定。なんかちょっとアメリカンのような。けれどそこにいる人々はまぁもっぱら日本人的に描かれていて皆良い意味で平凡である。ギャップ。世界観に圧倒される。

イラスト。非常にシンプルな線で、うまいとは言えないが所謂「へたうま」系の絵である。漫画家よりかはイラストレーターが描いてるよう。

そして「独特な世界観」×「独特なイラスト」の上に描かれるのは、人々の切実たる感情。身近で見てきた青年によせる恋心。昔別れた孤独な生物への恋しさ。映画愛。今が永遠であるという思考。散歩は楽しい。一途に言い寄ってくる男はウザかったけど。

それら総じて僕達は思い当たりがあり、共感してしまうのである。

変わった設定の上に、リアルが描かれるからこそ、この作品は多くの読者の心に刺さり「おすすめです」と言わせてしまうものがあるのだと思う。

 

ちなみに、「切実たる感情」と書いたが、

過去から解放される人々、過去を抱きしめる人々が多く描かれている気がする。要するに過去と対峙する人々。

解放されているのは、表題作惑星9の休日」「それはどこかへ行った」。

抱きしめるのは「UTOPIA」「衛星の夜」「灯」

過去というものはどんな人間も持っているもので、大抵持て余している。

その、持て余したのをどうするのか。

その答えを1冊で5も提案する本作。評価されるのも分かる。

 

そしてもう一つの理由は「通」と思われたいから。

この作品が出た2013年は、進撃の巨人がマックスに盛り上がってた時期だったと思う。安部共実が出てきたのもこの時期か。「良い漫画≠巧みな絵」の公式が、サラサラと音を立てて崩れ去った時期だったと思う。

そんな時期にこの漫画を推したらどうだろう。「独特の世界観」「独特のイラスト」そして心の琴線に触れる「共感」。それはもう、推したら推しただけその推した人が「通」に思われること大確定なのである。

よってこの作品がサブカル界隈で有名なのは、作品自体の質もあるが、時代に合致したというのもあると思う。

 

8の短編が詰め込まれている。感想を書こうと思ったが浮かばなかったので、一編一編に対して思ったおポエム、お短歌、オエッ・・おエッセイを記しておく。

 

 

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以上である。

とても良い作品だ。とても良い作品だけれども実際その想像以上に良かったかというと微妙。まぁ良い作品であることには間違いないので気になる人は読んでおけばいいと思う。あと全体的に詩的であるので絵本好きな人は好きそうね。

にしても、ここは一つ、明確な不満がある。

タイトルが「惑星9の休日」なのに対して、収録されている短編が8ということだ。そこは9だろと言いたい。

 

***

 

LINKS

これで紹介されてるの見て「ああ~また紹介されとるやんけ~読んどきたいな~」になった。

tunabook03.hatenablog.com