小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

藤岡拓太郎『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』-この世界はやさしさでできています。-

 

 

それは、夕暮れの切なさに似ている。

永遠に夜は来ない。

 

夏が終わらない、夏がとまらない。

 

 

藤岡拓太郎『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』(ナナロク社 2017年)の話をさせてください。

 

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【感想】

ギャグ漫画家・藤岡拓太郎が、

2014年からツイッターやインスタグラムに載せてきた作品を書籍化。

1ページ漫画が217本。

 

作者のプロフィール、表紙より

 

【読むべき人】

・疲れている人

・切ない気持ちになっている人

・夕暮れ

 

【感想】

この人の漫画はツイッターで何回か拝見したことがある。

誰かのRTで回ってきて面白いからRTで回したことがある。

面白いには面白いのだけれど妙に味があって登場人物が過度にユニークで独特の雰囲気があって惹かれたのだった。

 

その人の書籍が出ていることを知ったのは、今年の六月に出たBRUTUSの漫画特集である。松尾スズキさんがお勧めしていたように思う。

「ギャグ漫画の印象派とか言っていたような気がする。

そこから妙に気になって、なんとなく読みたい読みたいと思っていたのだけれど、

休日の午後4時近くの本屋で本書を見つけて、「あああ~~~!!!」と言って買った次第。あああ~~~~!!!

 

 

 

平日休日のなか高校生が自転車をかけていく。彼等は6時に起きて16字には学校から帰宅する。僕にもそういう時代があった。僕にもそういう時代があった。そしてもっと素敵な大人になれると信じていた。ぽつぽつ歩く、一人心療内科から帰る道は果てしなくて、遠くて、永遠に続くような気がして、この時間は何を着てもいくらお洒落しても満たされない気持ちになる。仕事は出来ないし錠剤がないと生活できないしネガティブだし親は病気だし毎日毎日苦しいと思う時があってそれが切なさとなって夕方ふと極まって溢れ出ていく。

 

 

 

その時間帯に見つけた本書はぺかーッと後光が差していた。

おばちゃん:「読んで 笑えば それでええやん」

僕:「おばちゃん!ワンちゃんなでてもいいですか?」

おばちゃん:「もちろん!いいわよ」

僕:「かまない?」

おばちゃん:「かむ」

かむんかーーーーい!!!

 

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書影。出来ればここは描き下ろしてほしかった感はある。

 

そんなわけでなんとなくぽっかり空虚な気持ちを抱えた休日に家で一気読みした一冊である。1ページ漫画が217本もあるわけだから、面白い!!やべ!!面白い!!というものれば、?????というのもたくさんある。でもページをめくれば忘れて、ふと気づけば「空虚」が少し満たされていることに気づく。

 

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面白い!!やべ!!面白い!!なんとなくランキングトップ10

10位:娘に陰でつけられているアダ名を妻に聞かされるお父さん

9位:なんか気持ち悪いカップ

8位:洗面器

7位:エレベーターの中でボタン押し忘れてるおっさん

6位:メガネ屋で、バーみたいなことをするおっさん

5位:母の置き手紙

4位:オレオレ電話

3位:父と娘

2位:妻をマジで「笑い死に」させてしまったおじいさん

圧倒的1位:自分が見た夢をDVDに録画できるおっさんと、それを毎日もらってる小学生

 

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なんでこんな、満たされている気持になるのか。

僕は理由を2つ唱える。

 

1つは優しい登場人物が多いから。

基本ナチュラルに頭おかC人が多いのだけれど、その多くが決して悪い人ではない。むしろ優しい。

ただその優しさの表現があまりにも不器用で、ユニークで、まぁ気持ち悪いだけなのである。まあまあやべーけど悪意はない。まあまあキモいけど悪意はない。純粋な善意のみによって行動していることが多い。

そして、「優しさを上手に行動で示すことが出来ない」というのは読者の誰もが経験した瞬間だと思うのだ。

あの時報われなかったあの瞬間の僕達を、

この作品の登場人物が不器用×100×200した過剰行動することによって、

成仏してくれているのではないか。

だから僕達読者はこの漫画を読んで面白い、よりも、「エモい」「あたたかい」という気持ちが先に来るのではないか。

 

そういった、過去の「瞬間を切り取る」という意味では、

松尾スズキさんの「ギャグ漫画の印象派という表現はまさしく的を射た表現だと思う。

 

あらすじ

「知らない家に入って勝手に夕食を作っていた人」あらすじ:12月、父と子どもは買い物から家へと帰ってきた。二人してマフラーを巻いている。クリスマスシーズンの中、こうして息子と手をつなぎ、ローンを立てて購入した一軒家へと帰る喜び・・・をふと感じながら父は子の手をつなぎ、家に帰宅するがそこには・・・・!!??

「あの日のキックを忘れない」:どうしても忘れられないキックがある・・・。それは・・・。

「おばあちゃん、僕のことあんまり好きじゃないんかなと思った理由」:母と弟とおばあちゃんの家に来た。一日目は楽しかったけど、翌朝の朝ご飯の時・・・。

 

1つは、想像力を掻き立てられるから。※上記のあらすじも結構書きたてられた挙句のはて。

基本1ページ2コマで完結する作品が多いが、その分想像力を掻き立てられる余地がある。

例えば、その話のその後・・・。ユニークな人出会った主人公はこの後どうするのだろう。どうなるのだろう。夕飯の味噌汁啜るときどんな表情しているのだろう。眠るときその瞬間のことを思い出すのだろうか。

例えば、ユニークな人々の日常・・・。「上映後、涙が止まらない観客を受け止めてくれる係がいる映画館」でその係をしている人は一日に一体どれだけの人の涙を受け止めているのだろう。その係は社員なのだろうかバイトなのだろうかそれとも派遣会社づてなのだろうか。時給はいい方なのではないか。1300円はしそう。映画好きなのだろうか嫌いなのだろうか。明日もその映画館で誰かの涙を受け止めるのだろうか。

そして、主人公達の日常・・・。「知らない家に入って勝手に夕飯を作っている人」に出てくる父子は絶対ある程度裕福な家の人々である。大きいクリスマスツリーが飾られていて、2人そろってマフラーをしている。何より父親の髪型と眼鏡が経済的余裕を表している。あの雰囲気は年収500万はないと出せないと思う。

1ページ・2コマと制限があり短い代わりに、そこを読者の妄想で補っていく。

ある意味短歌や俳句を読んでいるときに近いのかもしれない。

作者の感性だけではなく、読者の感性も引き出されることで作品が100パーセントの形で完成する。

 

その他好きな作品:2045年から来た男」「こんな先生は嫌だ」「毎朝、当たり前のようにコンセントに水をやっている人」

 

 

 

僕はどちらかと言うと「社会のはみ出し者」の方である。昔から「まぐろどんちゃんは普通だね」「意外と普通だよね」と言われるととても嬉しかった。「普通」。ああ私は普通なんだ大勢の中の一人でいいんだという謎の安心感があったけれども午前3時25分に漫画の感想を延々こうやって書いている僕はもう普通じゃない。落ちてしまった。思えば小中高大周囲の人々に恵まれていたように思う。変わっている、変だけれどもそこを「まぐろどん」として受け入れてくれた。みんなみんなありがとう。そこは中学受験して本当良かったと思う。公立の中高一貫を何となく選んだ当時小6の僕だけれどもそれは今にして思えば生存のための本能的行為だったように思う。けれども社会にでればそうはなかなかうまくいかない。思えば仕事で評価され上にあがったことがない。27になるのに。ずっと同じ会社に勤めている人は凄いと思う。僕はそれが出来ない。どころか今社員からパートに成り下がろうとしている。普通じゃないからである。だから僕はこの漫画に出てくる主人公にも共感はするがこの漫画に出てくるユニークなキモイ人々にも共感している部分がある。分かる分かるよ。なんでこんな世の中上手くいかないんだろうな。な。な。な。その瞬間をすべて切り取って救い上げるからやっぱりこの一冊はヴァイヴルですね。聖書です。夏がとまりません。厚いです暑いです。はい。大丈夫です明日は昼からの出勤なので遅刻する予定はございません。健康です。夏がとまりません。お願いします。応答願います。どーぞ。

 

 

なんと本書は9版とのこと。はえー。1刷り何冊刊行されるのかは知らないが、これはなかなかの「大ヒット」と呼べるものなのではないか。

というわけで、ついてきてるのが「夏がとまらない 推薦コメント」キングオブコントの存在感薄い優勝者、「かまいたち」と完全コンビ名系統被ってしまった中途半端な位置を維持する芸人、夫のちんぽが入らない方等、まぁ言っちゃ悪いが微妙な著名度の著名人たちが感想を述べた小冊子である。だがそこがいい。

一通り読んだけれども圧倒的に社会学者 岸政彦」さんのコメントが面白かった。コメントと言うかなんかもう1つのエッセイである。解説とかじゃない、感想とかじゃない。エッセイ。こういうのがこのブログに賭ければいいのだけれど書けないので文字数の割に閲覧者数がなかなかのびない。むつかしい問題である。

 

 

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夏は洗濯。

 

以上である。

夏がとまらない、なかなか楽しんで読めた。

あと感想書きながら思った毛けれど、1ページ完結だから気軽に返し読みも出来て気軽に切ない気持ちになれるのがいいですね。

面白い、面白いけどそれ以上に心の琴線に触れる一冊でした。

 

 

僕の夏はいつ終わるの。

 

 

 

 

 

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 これでしった。

 

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20211208

 

母親の見舞いに持って行った。

今回の入院は個室だった。肺癌である。げえげえするからと、贅沢させてもらったらしい。

母親は30分くらいで読み終わった。

「シュールで面白いね。あんた、これいくらしたの?」

「1000円くらい。」

「うわぁ・・・・」

ドン引きされた。

 

なのに、帰り際諭吉をもらった。

「もらえる時にもらっておきなさいよ」

「・・・うん」

 

帰り際居眠りをしたバスにスマホを落とした。

報いだと思った。

 

深夜、再読すると一部は強く印象に残っているものの(夢見せてくれるおっさんの話とか)ほっとんど忘れていてとても面白かった。