小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

小野不由美『鬼談百景』-切ない、胸に迫るような。切ない。-

 

はえ~怖いンゴ。

 

小野不由美『鬼談百景』(角川文庫 2015年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

学校に建つ男女の生徒を象った銅像

その切り落とされた指先が指し示す先は・・・(「未来へ」)

 

真夜中の旧校舎の怪談は”増える”。

子供たちはそれを確かめるために集合し・・・(「増える怪談」)

 

まだあどけない娘は時折食い入るように、

何もない宙を見つめ、にっこり笑って「ぶらんこ」と指指す(「お気に入り」)。

 

読むほどに恐怖がいや増すー

虚実相なかばする怪談文芸の頂点を極めた傑作!

初めての百物語怪談本。

解説:稲川淳二

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・怖い話が好きな人

・実話系怪談の短い話が連なっている本が好きな人

・文章力高い怪談が読みたい人

・「怪談」が読みたい人

 

【ためらうべき人】

・「怖い話」に「グロ」を求める人

 

【感想】

読むのは二回目である。

こういう所謂実話系ホラー短編集みたいなのは僕は昔からとても好きで、

結構ぐいぐい読んでしまうのだけれど、

某国記で有名な小野先生もこういう本書かれていると聞いて、買った。

去年夏の終わりに一通り読んだけれど、

また暑くなってきたのでさくっと読んだ次第。

結構怖かった。

二回目で「結構怖かった」というのは多分きっと

この本が優れた実話系怪談集であることの証左。

 

ただ、この本は、

角川ホラー文庫」ではなく「角川文庫」に属されているように

話自体の「恐怖度」より「怪談度」を重視して書かれている。

幽霊ひとりひとりが下品じゃないというか、

育ちの良い幽霊が多い。気がする。

例えばこう・・・追ってくる幽霊ひとつとっても、

ひたすらに主人公を追いかけて

「呪ってやる!!」

と言うのではなく、

姿を「ちらっ」「ちらっ」と見せるに留まったり、

追いついても姿を見せることはなかったり・・・。

「赤い女」「レインコート」「尾けてくる」等

わきまえてる。

だからひとつひとつの怪談の信ぴょう性が増すし、

見られているような、明日いつ自分がいスーツの女を見てもおかしくないというような、静かに侵食する恐怖感。

稲川先生も言っていた。

 

『鬼談百景』の怖さは、ナイフを持った殺人鬼の怖さとは違います。日本人の感性からうまれた怪談の怖さです。p.234

 

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話のバランスも良い。

ひえっ・・・となる怪談の後には、

ちょっと微笑ましいの怪談が収録。

表紙にもなっている「透明猫」pp.37-39は読んだことない話で興味深かった。

作者はきっと猫派なんだろうなぁ・・・。猫の話は複数あっても犬の話は一つもなかった。

あと、時折じんわりするような怪談もあったり・・・。

「じんわりする」と今さらっと言ったけど、こういう「じんわり」としか言えないような、独特の後味の怪談で、読んでいるときゅっと、どこか胸が締め付けられるような。

ここに収録されているのは怖い話じゃない。

「怪談」だからこんなに胸が苦しくなるんだ。

あ、あと感動系の怪談がないのも良かった。

時々読者を露骨に泣かせようとする怪談が、こういう本には収められていたりするんだけどあれ冷めるんだよね。

 

特に印象深かった話を記録しておく。

 

「一緒に見ていた」  pp.17-19

胸が苦しくなるような、「じんわり」怪談その1。

切ないと違う、寂しいと違う・・・

何なんだろう。

よくある話の展開からのまさかの最後の温もり。

この本で一番好きな話かもしれない。

 

「電話ボックス」 pp.125-128

定番と言えば定番展開の話なのだけれど、

まぁ文章上手い人が書くと違うよね。

最後にゾッとした。

 

「海へ還る」  pp.173-175

「じんわり」怪談その2。

恐ろしい見た目なんだけれども、彼女は一体何を伝えたかったんだろう。

彼女は一体何をしたかったんだろう。

分からない。分からないからこそ

胸が苦しい。

潮風の匂いが鼻腔くすぐる一遍。

 

「赤い女 」 pp.178-180

まずもうこういう「話を聞いたらやってくる」系が僕だめなんですよね。

遠くから聞こえてくる声、というのももうやたらリアルで

耳を塞ぎたくなる。

で、派手な割に颯爽と立ち去るところもまたリアル。

もうとにかくリアル。

 

「助けて」  pp.185-188

一番怖かった。

彼女の絶望が切羽詰まっている分恐ろしい。

絶望のあまり時を超えたような。

文章語しか伝わる恐怖切望絶望物音、脳裏に広がる色は赤。

そして、彼女のこの極限の状況にいつ僕らが陥ってもおかしくない。

そのことが一番怖い。

 

「影の手」  pp.196-199

やっぱ酒がいいよな。

微笑ましくなる一遍。

ちなみに僕だったら・・・プレモルの香るエールがあると嬉しいなぁ。

 

「禁忌」  p.200

ジャスト200ページにピシャリと締める1ページの怪談。

ここにこれを持ってくる構成力も見事。

そしてその1ページに満たない怪異に想像力を掻き立てられる。

無性に。

誰が、何のために、何故。

 

「続きをしよう」 pp.212-215

「じんわり」怪談その3。

終盤の場面が絵にかいたような、映画のような、

しーんと胸に迫る切ない。

そして最後閉まるような、切ったような、さっぱりとした終わり方も好き。

 

「注意報」 pp.222-225

一番恐ろしかった。

というのも去年この話を駅のホームで読んでいたのだけれど、

バン!!!!!という、

作中で出てくるような怪音がホームの屋根から突然鳴ったからだ。

二回目も窓が突然鳴り始めたし・・・かすかにだけど。

とにかく一番恐ろしい。

 

「欄間」 pp.296-299

身近な生活のすぐそばに●●があるというのが怖い。

とんでもなく怖い。

やはり人間死んだら・・・。

場面情景も安易な分背筋が凍る一遍。

 

以上である。

二回目でも結構怖かったし、

怪談ならではの怖さを突き詰めている点で、

この本は結構優れた実話系短編集なのではないかと思う。

 

ちなみに、この単行本は別の本とセットで発売されたそうである。

相方というべき本、これが

 

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残穢』(新潮社 2015年)

正直こっちは、

くそつまらなかった。

文体が合わないのか何なのか、

まぁとにかくくそつまらなかった。

読むのがなかなか苦痛だった覚えがある。

なんか家の土地の過去を延々さぐるって話なんだけれども、

それを小説で地名隠してやって何が楽しいねん。

これ「読んだ中で一番怖いホラー」とかってのたまう人がいるけれど、

そら一冊しか読んでないからちゃうん?と思うくらい。

まじつまらなかった。

もう二度と読もうと思わないし、

家に置いておきたいような内容でもないから、

またブックオフの海に帰そうかなあ・・・。

 

あとこういう実話系ホラーは一時期立川透耶先生の『ひとり百物語』シリーズもめちゃくちゃ読んでいた時期あったなぁ・・・。

あれはあれで、作者自身の経験から書かれたエッセイの趣があって面白かった。

でも怖さ、完成度の高さで言えば、本作のが高いかもしれない。

 

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