きこえますか?きこえますか?きこえますか?
きこえません。
つくみず『シメジ・シミュレーション01』(メディアファクトリー 2020年)の話をさせて下さい。
【概要】
中学3年間押し入れにひきこもっていた君島しじまは、
久々に外に出たら頭にシメジが生えていた。
入学した高校の教室で、
同じように頭に目玉焼きを載せた山下マジメと出会う。
眠るとよしかの夢を見た でかかった p.26
【読むべき人】
・寂しい人
・孤独な人
・眠れない人
【感想】
私はゴミだよ p.85
今作を知ったのはオモコロだ。
役に立たないしょーもない記事が上がることに定評のあるサイトだったけれども、
近年はブロスをはじめとして、
ライターが買ってよかった物を紹介する「今月の善」、
お勧めクレヨンしんちゃん映画ランキング(全作品分コメントあり)、
豚キムチの調理比較等
妙に実学的な記事が上がるようになった。
その中に、毎月ライターがお勧めの漫画を紹介するという実学of実学コーナーがあり、
そこでのマンスーンさんの紹介で本作を知った。
マンスーンさんはニートの下積み時代を経てきたちょっと陰のある人で、僕は一方的にシンパシーを感じていた。ツイッターも、ARuFaを除いて唯一フォローしていて、単語が並ぶ日記ツイートを毎日ささやかに楽しみにしている。
記事には「買ってまだ読んでないけど、少女終末紀行のつくみず先生の作品だから絶対面白いはず!!」みたいな旨が書かれていた。
マンスーンさんが結構面白い人だから、面白い人が面白いと進めるんだから、それは絶対面白い。買わない理由がない。
買わなきゃいけない。買わなきゃいけない。
それを見てるうちに私自身がお姉ちゃんになっていた p.74
感想として言うならば、
まぁ最高っす。
面白いかってよりかは、
エモい。
陰キャも
エモみここに極まれりって感じ。
公務員なんてみんなトカゲみたいなものだ・・・ p.61
日常物なんだけれどもずれてすれている。
目玉焼きとしめじを頭につけている2人の周囲の人々は、どこかずれている。
白衣を着てずっと家にこもって延々何かを発明している姉、穴掘りに悟りを見出した半目で酒好きな穴掘り部の顧問、住宅街で間違いを直す白服の少女。
目玉焼きとしめじを頭につけている2人の世界は、どこがすれている。
空地の中にそびえたつ白い団地群、天使の羽が生えたコスチュームまとうウェイトレス、しめじが見る夢は現実をも侵食し、黒い建物は静寂。
そうそう、僕も仕事に本気にならず彼等のように退廃的に生きてみたい。
そうそう、僕も白昼夢のような妄想のなかで生きてみたい。
「ずれ」と「すれ」は総じて僕等陰キャの憧れであり、一生に一度は心に思い描いたエデン。
人と違ったっていいんだよ。
曇った日が一番好きだっていいんだよ。
ちゃんとしてなくったっていいんだよ。
誰かの心を粘土のようにこねくりこねくりこねくりまわしてつくったような、
異質さに、シミュレート。
そもそも部活動自体 疲れるだけで無意味ですよね p.36
世界観は異質で新感覚。
しかしそこで展開される日常は、「あるある」。シミュレートしなくても今までの人生で思い当たることばかり。
山下まじめのように、クラスの中心の子達の会話に特攻しても、浮いて浮上して終わる。
君島しじまのように緩く過ごした時間の果てに、ちょっとしたことに喜びを感じみんなをえらーいと思う。
知らない登場人物が知らない世界で、
知っていることを日々している。
やってみた
鳩と開始とか店員さんとかみんなちゃんとしてて偉い
でも道でも電柱でもちゃんとしているのはつかれるだろうし・・・
たまにはめちゃめちゃになってもいいのかもしれない p.86
「エモいね。」
言葉の派手さとは裏腹に、押し入れの中にこもりたくなる。
包んでくれ。
陰キャである僕を僕は嫌いなんだ。
何も見えないように布団にくるまっていたい。
押し入れにはいって2年くらいしたらでてきてあげてもいーよ。
基本四コマで進むが、ぶち抜きのコマも多く、結構混沌。
夢か現実なのか心象風景なのか蜃気楼か総じて曖昧。
タイトルに「シミュレーション」とあるが、
世界を俯瞰的に見ている第三者・・・かみさま・・・ある意味読者に一番近い立場の者が、シメジ(君島しじま)を中心として世界をシミュレーションでもしているのかもしれない。
今日たまたまオシロスコープもってきてて p.45
きろく。
01ともだち:でんちゅうがいちばんすきです。
02よしか:なまえをつけるとあいちゃくついたきになるけどなくすときはなくします。。
03あなほり:ぼくもここ5ねんくらいずっとよこになっています。
04かたち:びじゅつのせんせいっていがいとこまかくおぼえていました。
05てんごく:どりんくばーというしすてむのしんせいさにぼくはむじかくでした。
06あめ:きゅうじつのあめはいえにいるぼくのたいだをこうていしてくれるからすきです。
07さんぽ:きょむをかかえてへいじつふゆうするにーとじだいをおもいだしました。
08だんち:こういうおおきいだんちはいがいとよこはまにたくさんありました。
09じっけん:ぼくのせかいもとりもどしてください。
10ゆめ:わるぷるぎすのよるをおもいだしました 09らすとしーんにはおよばない
かにがたくさんでてきました
つくみず は かに が すき なのかもしれない
「なげやりポイント5点」・・・ p.38
この きじ は なげやりぽいんと 80てん
以上である。
なんかとても好き。何度も読んでる。
「エモい」とすら思うんだけども、
言葉にしがたい感覚。
登場人物も世界観も言葉も全てが新しくて好きと言いたいけれども、新しくない。
陰キャの僕等の心に思い当たる節がある。
陰キャの心象風景をそのまま具現化したような。
そんな漫画。
少女終末紀行。
神OPのアニメは見ていた。ゲストキャラがやたら豪華で、そのなかでも三石琴乃さんの演技が神がかっていたのは覚えている。
悪くないけれど、世界終末物がいまいち好きではない僕には刺さりきらなかった。
今作は日常物で・・ああだからこんなにぐさぐさ、うまく言葉が選べないくらい刺さっているのかもしれないな。
あれ・・・私がいる・・・
これを見ているのは・・・私・・・それとも・・・
一瞬のようでとても長い・・・p.109
ききたくもないしみたくもないな。