実際の一人暮らしは常に寂しさがワンルームの大気中に含まれていて、でも決してそれは「寂しい」という感情に至るほどの量でもない。
でも時々絶え間なく寂しい寂しい寂しいよおおお、ってなるから独り言を言ってごまかすんですねー。
玉置勉強『彼女のひとりぐらし1』(幻冬舎 2010年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
輿水理香、26歳独身。
ただいま仕事に恋に、奮闘中!
・・・だったらいいなぁと思う、最下層のフリーランナー。
ひとりぐらし歴X年、彼氏いない歴X年・・・。
脳内彼氏を妄想したり、ゲームしたり、飲酒したりと、ひとりで悶々とした日々を満喫中!?
裏表紙より
【読むべき人】
・リアル独り暮らし中独身女性
・別に独り暮らし独身男性でも可
・フリーで働いていると尚のこと可
【感想】
作者のことはTwitterで知った。
名前聞いたことないなぁ、玉置勉強?べん・・・きょ?やべぇ名前だはえー、結構ずっと活動されてんのな、ってあー!!!東京赤ずきん!!!これ表紙見たことあるー!!!あーねくろますく!!!聞いたことある!!!高校時代気になっていたけど気になっていたまま終わった漫画だ!!
知らない作者だったけどなんかちらほら知ってた(知らない)。
ので、この度齧ってみようかなぁと思い、メルカリで「玉置勉強」で検索した結果一番刺さりそうだったこの作品を購入した次第。
結論、めっちゃくちゃリアルでめっちゃくちゃ良いです。
独り暮らしの漫画って、基本、簡単だけど美味しいご飯を「はふ~(興奮)」と言いながら食べるイメージがあったんですよ。
僕それ嫌いで。
何でかって言うと、美味しそうなのに食べられないジレンマに陥るから。
(同様にレシピ本・グルメ番組などもあまり好きではない)
あと一人暮らし、衣食住の食だけやたらめったら詳しく書いて独り暮らし語った気になってるんじゃねぇぞ死ね!!って思ってたんですが、まぁ本書はそんなことないです。衣食住すべてバランスよく描かれています。
やたらリアルに。
そう、例えば見てくださいの帯のイラスト。
これめっちゃわかりません!!??そう、一人暮らしだと基本下ってパンツ一丁じゃあないですか!!夏とか特に。
でも「はふ~!!」と目玉焼き乗せご飯をあふあふ食べている女は決まって洋服来ているんですよ!!!ムカつく!!!スウェット上下とかいつ買う機会あった!?ねぇよ!!!こちとらヒートテック一枚にパーカーとかもっとはしたないもの着てんだよ!!何がスウェットじゃ!!!スウェット着させて一人暮らし語った気になってんじゃねーぞ死ね!!!
でも、このヒロインはパンツになるんですよ。
あと、性欲。
そう、ああいう食べ物に発情する女って、焚きたてのお米には頬赤らめる癖に男欲しいぁんぁんみたいなことは一切匂わせないじゃないですか!!
むしろ、「男居なくてもごはんが美味しくて幸せぇ~♥」みたいな。ふざけんなよ。何が幸せだよ。孤独死一直線だぞ。現実を観ろ現実を。
でも、このヒロインは性欲がきちんとあるわけですよ。
だって彼氏作ってやりたいことが一日おうちでいちゃいちゃエッチですよ!?
リアルだなぁ!!こんちきしょう!!!
でも、必要以上のエロさやグロさはないんですよね。不思議と。
普通の一人暮ら漫画なより確実に一歩先を踏みこんでいるんですが、必要以上に立ち入らない。リアルと絶妙な距離感がたまらない。そんな一冊になっております。
あとすごく共感したのは・・・寂しさですね。寂しさ。
表紙からでもわかるんですが結構シンプルな線で描く人なので、コマの描き込みも少ないんですよ。
そこで描かれる日常の、一人暮らしの、ふっとした時の寂しさが・・・たまんない。ぐっと、心に迫るというか。淡白な絵柄だからこそ。
凄い好きですね。最近の漫画は筆圧濃くて画力が高ければ胸に迫るだろうという風潮がありますがその真逆を行くスタイル嫌いじゃないです。
あと、独り言。
独り暮らしってめっちゃくちゃ独り言多くなりませんか?もうさ、僕最近「よいしょ」とか「ふぅ~」とかふっつーに言っちゃうんですよ。しかも夜型だからさぁ、深夜三時とかにワンルームで一人でもうさぁ、郷愁ったらないですよ。
でもこのヒロインはそんな僕がちょい引きするくらい独り言めっちゃくちゃ言ってくれるんですよね。でもまぁそれすっごい分かるんだ。僕も言ってないだけで思っているんだ。それを彼女が代弁してくれているんだ。
ありがてぇ、ありがてぇ話だよ。
でもまぁ、その分この漫画、出ているのは2010年とのことですが・・・・実写化厳しいだろうね。
何故ならとってもリアルが過ぎるから。
もうね、リアルすぎるんですよ。
これ実写化わざわざするんだったら前NHKでやってた「金曜日のソロたちへ」あれを見た方がいいってくらい、なんかすっごいリアル。
いやはやヒロインには本当頑張ってもらいたい。何をって言われるとまぁ困るけど。
そして怖いことに、この漫画家なんと男なんだ。
まぁ生理とかそういう描写が一切ないから分かるんだけどそれ以外全部リアルで生々しくて何で!?何でお前逆に男なんだよ!!!女じゃねぇのかよ!!??になります。ビックリします。もうなんでこんなに20代独身一人暮らし女性の気持ちが分かるのか。もうね、半分ホラーですよ。何を置いて勉強したら困難描けるようになるんだ。金玉か。
最近作者がTwitterでBL描いてほしいかどうかって投票していました。僕はね、BLダメなんだけどね、投票しました。
「描いてぽよ~!」
これだけ人間の気持ちを、シンプルな線でリアルに浮き彫りにする作者が、BL描いたらどうなるんだろう。すっげー興味ある。し、絶対面白いと思う。
以下簡単に各話の感想を書いていく。
あらすじと一番良かった台詞も記しておく。
第1話:フリーのアニメーター、輿水独身26歳、ひとりぐらし(実家は同じく東京)。。
輿水「こんなことネットに書いてる不信感まみれの男の人は一生気付かないんだろうけど!!」p.9
2010年の輿水さんへ。2022年も元気にアニメーターしてますか。既婚ですか未婚ですか・・・お、そうですか。
2022年現在はインターネットの男女間のいさかいがもっと激しくなってあとなんかコロナ?も流行って、ますます男女間の距離は開くばかりです。もう僕一人のチカラじゃあどうしようもできません。
どうすればいいんでしょうか。
2022年のまぐろどんより
第2話:ローソンにいくよ。。
輿水「そしてレジには・・・紅顔の美少年っ♡」p.17
よく見るとそんなイケメンでないところがリアル。
でも分かる。触れ合う異性の中で相対的イケメンを僕達は作りがちですよね。
まぁだから人々は無事に結ばれて子孫繁栄して2022年現在まで人類は存続しているそういうシステムなんでしょうけどね。
第3話:おふろにはいるよ。。
輿水「なんかテンション落ちちゃったよ・・・・・・せっかくキラキラしてたのに」p.30
これめちゃめちゃ分かるー!!!僕はさー、残念ながらユニットバスなのでちゃんとそこはするんですけど。
全国の男性諸君。女性もこれやります。過度な夢を相手に持つのはやめなさい。
第4話:ひとりクリスマスだよ。。
輿水「卑猥的な何か見たい!?いやっ!!見ちゃいやぁっ!!」p.41
これ、輿水が自分の腹肉を使って、つまんで「卑猥的なモノ」を作って一人でふざけてる場面なんですけどすっごい分かる何だコレ・・・なんだこれ・・・。こんなリアル漫画で赦されてええんか?
腹の肉がやばいことから現実を目を背けるために、僕はむちむちのビキニ画像とかを時々見た入りするんだけどでも彼女達は顔が抜群にいいからね・・・。餅田コシヒカリも最近ダイエット始めたっていうしね・・・。
第5話:ひとりラーーーーー麺。。
輿水「かわいそうな人!きっと職場とかでもあいてにさてなくて独り言をブツブツと・・・」p.52
これは一人ラーメンをした時に横で独り言がうるさい奴に対しての輿水の言い分なのですが・・・あ~わかる~。
ATMやたらと長いばばあとか駅でぶつかったときに舌打ちをしてくるリーマンとか、むかつくと普段のソイツのみじめな暮らしを想像したりするよね~!!でも僕はワンランク上の陰キャ人間なので「しねしねしねしねしねしね・・・・!!!」と思ったりします。しんでほしい。僕をムカつかせた奴全員しんでほしい~。
第6話:熱を出したよ。。
輿水「うう こういう時に 彼氏とか元彼とかの男の顔じゃなくてお母さんの顔が浮かぶってのが 私もう 終わってるのかも・・・・・・」p.61
終わってないよ~!!!僕もそうだよ~~!!!今や母親肺癌で僕の方が支えなきゃいけないのに母親の顔浮かべちゃうよ~~~~!!!!
え、てか普通そうじゃないの。違うの?
第7話:にきびできたよ。。
輿水「うあああああん!!もう今日は誰にも遭いたくない 誰にも見られたくないいいっ!!」p.71
わかる。メイクのノリ悪いとこうなるよね。あとコーデが決まらないときとかね。ほんのちょっとしたことでもう絶望的な気分になりがち。
第8話:自炊。。
輿水「・・・っていうか料理じゃないよね 調理?」p.83
考えるな輿水!!調理も料理も一緒だ!!!そこを考えたら私調理しかしてないよ!!!立派な料理だよ!!リュ●ジも言ってたよ!!!それは!!ビールに合えば料理なんだよ!!!
第9話:伊香とのむよ。。
輿水「ま ひとりでも案外生きていけるから 安心しろよ イコー」p.96
これが言える輿水は本当に強いいい奴だと僕は思いますね。
あと漫画に関わらず、人間味がえぐい。
あと靴を伊香がぐっちゃぐちゃなのに対して輿水がきちんと揃えているところとかね。最後伊香がぐーすかしちゃっているときひざ下のストッキングをはいている描写だったりね。
人間味が感じられて1巻の中で一番好きです。あー、肉を食べたいっ!
あ、ちなみに伊香(いこう)って苗字初めて聞いたので調べたんだけど700人弱はいるらしいですね。レア。輿水という苗字の存在は某世界一可愛いアイドル(竹達ヴォイス)の存在で10年以上前に既に知ってる。
第10話:花見。。
輿水「はあーー忙しさの余り櫻を見る余裕もなかったわーーー嘘だけど 忙しくないけど」p.98
めちゃ分かる。桜、花見をしない内に散りがち。本当たまらんわ。なんでだろうね。我々は20回以上桜を体験しているわけでうかうかしていると散るってことをもう身にしみてわかっているのに、さぁー。
第11話:ひとりカラオケ。。
輿水「や・・・やなことでもあったのかな 仕事で・・・・・・・・・」p.110
分かるよ、カラオケって隣の部屋めちゃ気になりがちだよね。でも僕はこれサラリーマン側です。無駄に喉だけは強いんですよ。なので声の限り時間の許す限り魂の叫びしちゃいますね。一人の時。あとさすがにカラオケでブラ姿にはならない、僕は。漫画がリアルを越えるなよ。
第12話:ゴミたまる。。
輿水「今日は酒じゃなくて冷たいミネラルウォーターをがぶ飲みしたい感じ」p.119
すっごいわかるー!ってなった。これはちょっと高い専門店の入浴剤の風呂入った後の輿水の台詞なんですが、僕はこれ、バブでも思いますね。その場限りのQOLをついでにあげようとしがち人間。
以上である。めちゃくちゃ面白かった。
2巻も3巻も同時に買ったので近いうちにすぐ読みたいと思う。
ちなみに本書は2010年刊行・・・12年前の作品ですが、古さは感じませんでした。確かに伊香のファッションとかはさすがに時代を感じましたが・・・。
多分一時期の「おひとりさま漫画」ブームに安易に則った漫画じゃないからだと思うんですよね。描くきっかけはその流れだったと思うんですけど、中身は全然違う訳ですよ。玉置先生は綿密に計画して、輿水をストーカーしている訳です。
作家のクリエイティブに頼って描いているという点で、題材は流行ものとはいえ、本書は「おひとりさま漫画」流行のものではない、と言うことが出来ると思うんですよね。いい意味で、普通の漫画。作者一人で一から全部描いている、という点では。玉置先生は惑わされず、しっかりきちんとちゃんと26歳独り暮らし女性の部屋を覗き見ている訳です。
ファッションでもスタンダードなものが時代を越えて愛されるように、漫画もやっぱりスタンダードなものが愛されるんだなぁと思った。