いろんな国があるんだね。
国、さいこ~~~。
吉田一郎『国マニア』(ちくま書房 2010年)の話をさせて下さい。
【概要】
こんな話題でいっぱいだったら、地理の授業がもっと楽しかったのに。
100年以上も働かずに生活しているナウル人、
海上の人工島を占拠して独立宣言をしてしまったシーランド公国、
マニア向けの切手を乱発して財政を支えるピトケアンなど、ざっと52ヶ国。
常識や先入観を脱ぎ捨てて眺めれば、世界は意外といい加減にできている。
裏表紙より
【読むべき人】
・世界史が好きな人
・世界史に関心がある人
・世界史を高校で学んだ人
【読むのを一回考えるべき人】
・シーランド(世界最小)やナウル(国民総非労働)等変わった国をただ単純に紹介する本かな?と思っている人。僕もそうだった。
ライトな題名とは対照的に意外と歴史絡めてガッツリ解説してくるので、世界史の知識がある程度ないと挫折するかも。
【感想】
本書を知ったのは新静岡セノバのジュンク堂の「店員がお勧めする本!」みたいな企画である。国マニアというタイトル、兼後ろのようなあらすじが書かれていたのでめちゃくちゃ気になった、土曜夜7時半。
ただしその時に、本屋を駆け巡る子供がいてわあわあ言っているのに母親は愚か店員も誰も注意せず物凄くイライラしてその場でメルカリで買ってやった。ジュンク堂ごめん。反省はしていない。
まぁ正直、本書アマゾンで検索したら★3つという微妙な結果で「新品で買う価値・・・あるのか?」と迷ったのもあるのですが・・・。
でも結構面白かったです。すげー勉強になる。1週間くらいかけて読みました。それくらいの濃度。
じゃあなんで★が少ないのかというと、2つ理由があると思う。
1つ目、タイトルに反して内容が重すぎること。
2つ目、本書は裏の所謂「あらすじ」スペースで書かれている「地理の授業」より「地誌」限られた土地の歴史のこと、限りなく「世界史の授業」に近いということ。
「国マニア」ときけば、誰しもがきっと面白い国ぽんぽん紹介してくれるんだろうな~になると思う。僕もそうだった。例えば裏表紙の「ハローキティ金貨が使えるクック諸島ニウエ」とかどんなきゃわたん札が見れんねんやろ。シーランドってそんな小さい領土で何があるんねんやろ。とか。そういうのが書かれているのかと思っていた。表紙といい、裏表紙と言い。
違う。
内容はゴリッゴリの世界史である。ハローキティ貨幣の写真も出てこなければシーランドと上からとった写真も出てこない。
基本全部文字。
みっちり。
さすがちくま文庫。
「何故ニウエという国がハローキティ貨幣を使うに至ったか」「何故シーランドと言う国が出来たのか」が成立する過程、つまり歴史をみっちり描いた本なのである。
要するに変わった国の地誌本ということになる。
しかも前半はまだキャッチーな話題がいいものの、後半は民族・宗教の話が多くなってくる。「何故東パキスタンが飛び地国家にならざるをえなかったのか」「何故コソヴォを巡って戦争が起きたのか」「何故ソマリランドは国家として承認されないのか」・・・等々。
正直、MARCHの某西洋史専攻の僕でも読んでて結構「?」になることが多かった。特に国際連合初期や民族紛争となってくるとまぁ複雑で「?」「?」「?」「?」。西洋史やっていたのは5年以上前、世界史やっていたのは高校3年で終わりだから10年以上前になる訳だけど、それでも現役女子大学生の頃の僕が読んでこれ全部理解できたかと言われるとうーんである。うーん。勤勉な学生ではなかったことを差し引いてもうーんである。うーん。
だから本書を読むにはまず世界史の基礎的知識が必須。または少なくとも世界史に対する関心が無いと読破できない一冊になっている。高校二年で文系、且つ世界史を選んだ総国民的マイノリティーの人々にしかぶっ刺さらない一冊・・・といっても過言ではない。
なので、この星が少ない責任は作者にあるのではない。
ちくま書房の編集者にある。
そんな書籍を「国マニア」というライトな4文字のタイトルで終わらせ、挙句裏に「地理の授業」と本書の内容の誤解を招くような単語、そしてこのライトな表紙。外見と中身がちぐはぐである。
要するに、ちくま書房界の市川紗椰。外面はハーフ美人だけど中身はゴリッゴリの電車オタクでした。
国マニア。外面はライトな地理本と見せかけて中身はゴリッゴリの世界史本でした。
違うのは、前者はそのギャップがプラスに働いているが後者はマイナスに働いているということ。
何故文庫化、ましてや長く読まれるであろう筑摩書房の文庫化においてこういう選択をしたのか。
多分、タイトルと裏の概要を変えれば本書はベストセラーになってもおかしくないレベルの内容充実度だと思うのだけれどどうだろう。他社の単行本からの文庫化だから「国マニア」はそのままにしなければいけないにしても、副題か何らかで補強する必要があるのではないか。
なので
一読した僕が考えたさいつよのタイトルと概要はこれ!!
タイトル:「国マニア-珍国のいとをかしなる歴史達-」
概要:「何故グリーンランドは緑一つないのに、そう呼ばれるのに至ったのか」「何故ナウル共和国は長年国民総ニートでありえたのか」「何故ハローキティが国のお札に!?!?」珍国に対する素朴な疑問、奇妙な文化、全部本書に答えあり。その他「企業が統治する国」「領土がない国」「南北分断に至ったのは朝鮮半島・・・だけではない?!」意外と知られてない世界の歴史を、元香港の新聞記者・「国マニア」が分かりやすく丁寧に解説いたします!さぁあなたも国マニアと一緒に、奇妙な国々の奇妙なる歴史を一緒に覗いてみませんか?ユニークな世界地誌学決定版ここに!
・・・うーん。
以下簡単に、特に印象に残った国ベスト3を順位形式で紹介していく。そして感想もネタバレ気にせず記しておく。
第3位 アトス山(聖山修道院自治州)-東ローマ帝国の勅令が生きる女人禁制の山-
pp.64-67
ギリシア国内に設置されているたくさんの修道士が働く「ギリシャ政府の権限が及ばない自治領」p.64である。まずギリシアの一半島が丸々こんな地域だったとは。そこに一番びっくりした。世界はまだまだ広いんだなぁ。
でもそれだけだったら「なるほどね、いたこが独立して恐山連邦みたいな感じね」で終わっていた。まだ想像がつく。でもその自治領が、はるか昔に滅びた東ローマ帝国の勅令一つで成立しているという点で僕はびっくらこいた。ええ。そんなんあり!?
しかも1000年以上の歴史があるとか。日本で言えば平安時代当たりの天皇が「ちょっといたこちゃん達とはわかりあえないかも・・・そこはそこでじゆうでやってけろ」と言ったのがまだ生きてるってことでしょ?!すげぇなって思った。
第2位 グリーンランド-本当のアメリカ大陸発見者はバイキング-
pp,81-85
なんで「グリーンランド」っていうねんな。の答えがはっきり書かれていてよかった。他に、
・グリーンランドはECに加盟していた時期がある
・コロンブスの前に、グリーンランド開拓者エリックの息子がアメリカ大陸行ってた
・グリーンランドの財政事情
・フェロー諸島の存在
等々名前は知ってるが実体知らないグリーンランドについてめちゃくちゃ詳しく書かれていて面白かった。絶対ロシアかなんかの領土だと思ってたというかどこの国の領土にも属してないかと思ってた。あとフェロー諸島の旗かわいい。
第1位 マルタ騎士団-今も生きる十字軍の騎士たちの領土なき国家-
pp.186-190
世界史でしか聞いたことのない団体が今も現存しているなんて知らなかった。ましてやオブザーバー(傍聴者)という形であろうとも国際連合に参加しているとは。いやはや。そして1万人以上もの団員がいようとは。そして日本人にもいようとは。いやはや。僕も入りたい。
存在自体を知らんかったというのもそうだけど、西洋中世史近世史のどっかできいたような団体がまだ現存している、こと自体の衝撃が大きかった。まぁ事務所みたいなのはイタリアにあるみたいですが・・・でも12000人て。12000人て。凄まじいな。
殿堂入り 文庫版あとがきpp.254-258
作者は今現在さいたま市の市議会議員をやっている。
というのも生まれ育った大宮愛が強すぎて、さいたま市からの大宮の実質的独立を目論んで立候補し当選したという訳なのである。
そこで熱く語られる大宮独立構想がめちゃくちゃ面白い。多分どの国よりも作者の愛が詰まっているのと、あといくらさいたまとはいえ国内の話だから実感わきやすいというのもあるかもしれない。
ぶっちゃけ、本書でここが一番面白かった。
大宮独立は、大宮市民が立ち上がれば、いつでも可能なのである!p.257
以上である。
世界のどんなに面白い国があろうともやっぱ俺らのさいたまには勝てねぇ。
翔んで埼玉・・・翔んで地球・・・。