小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

福澤徹三『いわくつき日本怪奇物件』-もう、そのときにあた、あたしは、あた、あたあた死は-

 

 

お・も・て・な・し

 

と、

 

い・わ・く・つ・き。

 

は、似ている。

 

 

 

福澤徹三『いわくつき日本怪奇物件』(角川春樹事務所 2008年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【概要】

カップルの幽霊が現れるキャンプ場、死んだはずの患者が暴れる病院、事故物件なのに使われ続ける写真スタジオ。コンクリートの中に佇む謎の老婆・・・。

書面には書かれずに噂だけがまとわりつく、”ほんとうにあった”数々の「いわくつき」建物。怪談文学に新風を巻き起こした著者がおくる、選りすぐりの恐怖の不動産コレクション。

(裏表紙より)

 

【読むべき人】

・ライトに怖い話読みたい人

・東京の心霊スポット巡り気になる人

 

【注意すべき人】

・怪奇物件モノの怪談を読みたい人:ぶっちゃけほとんどが普通の実話怪談のため

 

 

 

【感想】

福澤徹三の文体は癖になる。特に実話怪談だと尚更で淡々と読める分どんどん手がとまらないのよね・・・というわけで、めでたく福澤徹三第●冊目(かぞえてない)、いつのまにか霊圧が消えたハルキホラー文庫より「いわくつき怪奇物件」である。

13年前の本である。

メルでカリった。

 

内容は、まぁ面白い。さすが福澤徹三といったところか。

ただまぁ怖さで言えば正直今まで読んできた角川ホラー文庫群の方が強い。面白いけど怖さはない。

そして「日本怪奇物件」とタイトルにあるか、話が怪奇物件かと言うと・・う~ん。である。微妙なところ。

ただでさえ「忌談」のまえがきでネタの枯渇にあんあん喘いでいる福澤先生が、「怪奇物件」という条件つけて怪談が都合よく集まるかと言うと・・・う~んなのである。

「物件」などという中途半端な概念ではなく、所謂でる「アパート」「マンション」くらいまで絞った方がある意味楽だったのでは、と思うけどどうなんだろ。

目次も場所の名前ではなく、他の実話怪談と同じくタイトルだけで書かれているので、正直他の実話怪談の書物と差別化できているかといわれると・・・う~ん。

ここもたとえば「出る部屋」「トンネル」「ラブホテル」「廃墟」「病院」等場所ごとにカテゴライズして、目次編纂した方が良かったと思うが・・・う~ん。

ここらへんは正直福澤先生自身よりも、ハルキホラー文庫の編集者に責任があると思う。

「冒頭からいいわけがましくて恐縮だが、副題の日本怪奇物件と言うのも怠業で、日本と銘打つほど全国を網羅していないし、地名もほとんど曖昧である。ならば、どうしてそんな副題になったかというのはオトナのの事情で、なにとぞご寛恕いただきたい」p.4

と、まえがきに筆者に書かせてしまうのはいかがなものか。

その点、福澤先生の経歴を鑑みて「忌まわしい談」のシリーズを持ち掛けた角川ホラー文庫の編集者は腕があったと思う。

 

その所謂「怪奇物件」の写真も収録されている。が、おまけ程度に考えた方が良い

「編集部に無理をいって、東京のおもだった心霊スポットを一日でまわるという無茶もやった」p.5と、本書を少しでも良くしようという気概は伝わるが、まぁ白黒の写真だけで、そのほとんどが有名なモノ。例えば某空港の鳥居とか。

別に無茶戦でも良かったのでは・・・と思わないこともない。無理に東京ではなく、福澤先生にゆかりのある福岡県の心霊スポットとかのが新鮮みがあったかもしれない。

 

 

文字、蛍光ピンク色なのまじでなんで。

 

・・・と、いくつか不満はあれど、それでも一冊の「実話怪談集」としてみれば、いつもの圧倒的文章力、ちょうどいいページ数、そしてライトな怖さ・・・決して面白くない、ことはない。面白い。

まえがきも、今回もちゃんと喘いでいる。

福澤先生ファンなら買って損はないと思う。

ということで、今回も面白かった話をいくつか挙げておく。

「フロントの女」「踏切の老婆」「アイドルの写真」が好き。

 

 

「縮んだ目」pp.39-42

「おれは、呪われているんだ」p.42

絵画施設の男性職員が夜勤に入るようになると、様子がどんどんおかしくなり・・・?

内容はなんてことはない。単なる利用者への暴力沙汰の話である。

ただしその要因が、介護施設の設計のようでそこが怖い。そこに関わるだけで運が悪いと狂っちゃうのである。逆パワースポット。こんなんどうしようもないじゃん・・・。

2008年。本書が刊行されたのは13年前である。僕が14歳の時。その頃は、まだこういう施設の利用者への暴力とかってニュース沙汰にはなっていなかった・・・気がするけどどうなんだろ。

ちなみに「縮んだ目」というのは、狂った際に男性職員の瞳孔がきゅっとなっている様を、簡潔に表したタイトル。

 

 

「トンネルの落書」pp.107-111

「なかまをさがしています」p.108

通学路のトンネルに書かれていた奇妙な落書き。同級生のD君はそれに返事を書き始めて・・・・?

途中までは予想通りの展開である。奇妙な落書きはD君への接触をほのめかす落書きをした後、D君は姿をくらます。突然の転校、というのもお約束通りである。

ところが、さらにその上をいく展開があって、そこが怖かった。約束と違う。何園終わり方。

そして思うのだ。多分そのトンネルは日本のどこかに今も、あって、そして「なかまをさがしている」のではないかと。見つけたらどこかに移動して・・・そして再び・・・。

 

 

「アイドルの写真」pp.134-136

「それだけなんですけど、思い出すのも怖いんです」p.136

住んでいたアパートの押し入れの天袋に、一昔前アイドルの写真が貼られていることを発見するが・・・。

本当にそれだけの話、なのではあるが、最後にちょっとぞっとした。

3ページで、特にこの「アイドルの写真」に該当する話は2ページで、本当「それだけなんですけど、」この本書の中で一番ぐっと来た実話怪談。

一番ありえそう。

 

 

「踏切の老婆」pp.147-149

「ーーじゃあ、さようなら」

のれんでもくぐるような気軽さで、遮断機のむこうへ入った。p.148

老婆の自殺現場を目撃した園児は返り血をペンキのようにあび、熱を出し・・・。

これも3ページほどの怪談で、本編は2ページ足らずだがこえ~になった。こえ~・・・。特に熱を出した後に最後がちょっとぞっとした。

「アイドルの写真」とこの「踏切の老婆」にいえることなんですが、府k図阿波先生の実話怪談は怖がらそう怖がらそうとしてこないのが、とても好き。ささやかな恐怖だからこそ、僕の心にひたりとアイドルの写真は貼りついて、いつものあの踏切がいつもとあれ?違って見える。

 

 

 

 

「ベッドの下」pp.155-157

ベッドの掛け布団が大きくふくらんでいるから、そのなかにいるらしい。p.156

ラブホテルに泊まったアベック。彼女がシャワーから出ると彼氏の姿が見えず・・・。掛け布団を捲ると・・・。

無論そこにいたのは彼氏ではなかった。その様相がなかなか特徴的・・・あの「呪怨」の某有名シーンを思い出した。でもなんか本作に出てくる方がもっと生々しい感じはする。

ラブホテル怪談。ラブホテル、っていうのはまぁ、雌の童貞なので行ったことが当たり前のようにないんですけど、にしてもラブホテルの怪談、っていうのは妙にノスタルジックが漂うものが多くて、好き。嫌いじゃない。

ラブホテルの実話怪談集めた本とかないのかなー・・・。

 

 

「フロントの女」pp.158-160

赤茶けた髪に厚化粧で、黒いワンピースの丈が極端に短い。p.158

彼氏とドライブの途中で入った郊外のラブホテルはひと気がなく、且つフロントに女が立っていて・・・。

ラブホテル怪談パート2ではあるが怖さのはこっちのが上かな。感想書くとき2度見らしからぬ「2度読み」をするんですけど、なんかもう、うわぁ・・・って感じ。

最後の女の言葉が最高に厭だ。

まだ「死ね・・・」「呪い殺してやる・・・」「土生■■を知りませんか?」なら良かったけど、

 

 

この、

 

 

 

女は

 

「もう、ころされたときあたし」p.160

 

 

 

「ぺこぺこさん」pp.179-187

「きみの守護霊のぺこぺこさんも武士も、ぼくのほうを見てくれなくなったからね。もう仕事はしなくて結構です」p.187

入社した事務所の社長に、守護霊のなかに「ぺこぺこさん」がいると言われた。社長だけでなく社員全体が何やら「みえる人」らしく・・・?

興味深い話。スピリチュアルが会社の暗黙のルール(しかも大事め)というのはなかなか面白い。まぁ新興宗教がらみでしょうけど。でもそれでずっと会社としてやってこれているということでしょう?面白いと思う。

芸人の、チャンス大城を思い出した。最近テレビでちらほら見る芸人さんだが、そのバックにはどうやらスピリチュアルがある様子。

うまく付き合えれば、この辛い現世を生きるうえで強力なツールになるんでしょうけどね。でもだいたいの人がうまく付き合えないですからね。だからスピリチュアル、なんて言われる概念に甘んじている訳で。

 

 

 

 

以上である。

面白い話が今回も多かった。まぁ物件か?と言われるとあれですが・・・。「踏切の老婆」「ぺこぺこさん」あたりは絶対土地関係ないと思うんだよな。「縮んだ目」等はTHE怪奇物件って感じですが。

それでもやっぱ上質なのが多かったです。

福澤先生・・・やっぱいいわぁ・・・。

 

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LINKS

福澤徹三先生の他の実話怪談本。

tunabook03.hatenablog.com

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20220517:半年以上前に書いた記事である。半年以上たった今でも明確に覚えていたのは「フロントの女」。これが本書のベストかも。