小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

福澤徹三『忌談 終』-・・・・・ひゃああ!ひゃああ!!!ひゃああ!!!!!-

 

 

 

忌まわしい話ももう終わりか~。

 

 

 

福澤徹三『忌談 終』(KADOKAWA 2015年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

疎遠だった祖父の葬式に出席した大学生の身体に生じた異変(「血縁」)。

キャバクラに居た不思議な力を持つ女のその後(「霊感のある女」)。

キャンプ場の木に吊るされていた奇妙なロープ(「溢死体のポケット」)。

神社や寺に近づくと体調を崩す女性が交際相手から初詣に誘われて・・・(「奇縁」)。

死者も怖いが、生きている人はもっと怖ろしい、怪異繚乱1の全35話。

最後まで最悪の読み心地の忌談シリーズ最終巻!

 

裏表紙より

この裏表紙の文章なかなか優れていると思う。特に「怖い(こわい)」と「怖ろしい(おそろしい)」を使い分けているところと、怪異繚乱の語感の良さ。

 

【読むべき人】

・実話怪談好きな人

・歌舞伎町の怪談とかも好きな人

・1~4、楽しんで読めた人

 

 

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【感想】

みんな大好き忌談シリーズも最終巻である。いや~・・・早かった。

一話一話やっぱり文章力が高いのと、あと一冊一冊200ページ足らずなのであっという間だった。5巻で終わるのが惜しまれる。

終わる理由は「まえがき」に書かれている。

「毎回書いているとおり、慢性的なネタ不足もあって、これほどシリーズを継続するつもりはないまま五巻目を迎えたが、このたび『忌談』の発案者で、担当編集者でもある古里学さんが退職される運びとなった。ついては、この『忌談 終』をもってシリーズを終了したい。」p.6

「S霊園」等実話怪談本を角川ホラー文庫から出しているから、なんでわざわざこのシリーズ終わるのかなと思ってたらそういうことね。なるほど。

ちなみに、この「まえがき」、毎回めちゃくちゃ面白いので楽しみに読んでいたのだが・・・最終巻にあたる本作の「まえがき」が一番つまんなかった。

いや、正直4巻もつまんなくなりつつあったんだけれども・・・。

というのも、1-3巻までは「とにかくネタがない。ネタ集めに酒を飲みに行くが健康も心配。やべえ。締め切りやべえ。とにかく締め切りがやべえ。でもネタがないから前に小説に起用した体験談も載せた。ご容赦してほしい」みたいな感じだったのが、「昨今は不景気で・・・高齢化社会・・・孤独死・・・」・・・つまらん!!!ホラー作家が社会を切る必要なんてあるのかねぇだろ!!!!せめて副業で書いているビジネス小説のあとがきでそういうのやってくれ!!!!こっちは「締め切りがやべえ」が読みたくて「まえがき」読んでるんだ!!!!社会を切るな!!!!締め切りに追われろ!!!締め切りを切れ!!!破れ!!!ネタ不足に喘げ!!!

 

 

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本当にそこが残念だが・・・今回も薄さの割にインパクトに残る話が多かった。毎度のごとく感想を、残しておく。

 

「侵入者の形跡」pp.13-17

餌と水をやろうと思って籠を覗いた瞬間、絶句した。p.16

彼岸の日に夫婦で墓参りに行った主婦。しかし帰ってから肩が重く頭も痛い。加えて眠っている間誰かが侵入してくる足音が聞こえてきて・・・?

本書トップバッター。にしてこれだけインパクト残る話のパターンは珍しい。

正直序盤から8割は、よく聞く話である。ところが最後の最後、飼っていたハムスターに起きた異変が今まで聞いたことないパターンで意表を突かれた。恐らく福澤先生も最後のハムスターの異変がなかったら、没にしていたと思う。それくらい平凡な実話を一気に恐怖の実話に押し上げた最後・・・いやあ、たまんないね。多分5巻続いた本シリーズの中で一番記憶に残った話と言っても過言ではない・・・気がする。

タコピーハム太郎「リボンちゃん!!!!」

リボンちゃん?「ハムタロサァアアアン!!!!!!」

僕はちょっと、幼少期見てた「とっとこハム太郎」の主人公とヒロイン、ハム太郎とリボンちゃん・・・を思い出した。あの2匹が怪異によって酷い目にあってこんなんなったら・・・いやあ、たまんないね。

 

「ハンドキャリー」pp.29-41

「幽霊なんかこわくないよ。人間がいちばん怖い」p.31

とある女子大生はアフリカへ、親しくなった白人男性と旅行に訪れる。帰る前日、その男から日本の空港の知人に渡してくれとハンドキャリーをたくされる。中身を見ても怪しいものは入っていないようだ。しかしその日の晩、それが原因で謎の人々に拉致されて・・・?

といった話であるが、その拉致された後がグロいの何の。え。これ実話か?頼む。創作であってくれ。頼む。創作であってくれ・・・といった具合。

この外国訪問記が終わった後の後味もめちゃくちゃ悪くて、恐ろしい。小説顔負けの陰惨さ。その後女子大生はどうなってしまったのか。今は何処にいるのかそもそも生きているのか何なのか。

にしてもそのきっかけが、別の旅行先で親しくなった白人男性のキャリーケース一つ、っていうのもなんとまぁ・・・。僕だったら絶対断る。コミュ障だから。でも、まぁ、でもさ、本編では「白人男性」の四文字でしか書かれていないがそれが例えば、全盛期のディカプリオとかリヴァー・フェニックスとかああいうイケメンだったらどうだろう。

「マドモアゼル・マグーロドーン、コレモッテクレールカイ???」

断れる自信ないよ。しかも以前別の旅行先で親しくなった分愛着も沸いている訳だし・・・。要するにあれだな。旅行先の出会いには要注意ってことなのかな・・・。

所謂「実話」としては12ページというなかなかの長編ではあるがその分、やっぱり恐ろしさもなかなかな一編。この話程創作であってくれ、と思った「実話」は、ないですねぇ・・・。

 

「夢のなかでの会話」pp.45-49

「あたしーー死んじゃった」p.48

同棲中の彼女がうなされている。苦しそうな寝言に初めは面白半分で、スマホで録音&会話を試みていたが・・・。

最後ぽっかりと謎を残す一話。その謎の余韻が不気味で印象に残った。

「寝言と会話してはいけない」。その説がここでも使われている訳だけれども・・・これどうなんだろうね。

「まぐちゃんも寝相が悪いのかい?娘も昔から寝相が悪くてねぇ。起きて歩いていることもあったし受け答えもしたんだよ。」

これはすでに亡くなっている父方の祖母の御言葉である。叔母is健在。よって、この説自体は僕は信じない。

タイミングが悪かった。運が悪かった。それだけの話である。

 

「半径百メートル」pp.96-98

ある日、その空き地で、猫の屍骸が何匹も発見された。p.96

それから半径百メートルでたちまち物騒な出来事が起こるようになり・・・!?

という一話。「運が悪い」が極まると、その「運」は「呪い」となる。

小野不由美残穢」を思い出した。人単体ではなく、土地全体が呪われているからあかんで~の話である。怖い怖いと名高い小説ではあるが、僕は今一つ怖いと思わなかった。

何故なら、その呪いはあくまで「小説」の出来事であったから。

じゃあ、「実話」の出来事だったらどうなのか。

怖い。

そんな土地しんでも住みたくないし近づきたくもないしでも気づいたら住んでいるかもしれないし近づいているのかもしれない。人が呪ってる、じゃなくて土地が呪ってると言うのも嫌だ。人だったらまだ何とかなりそうだけれども相手が土地じゃあもうどうしようもない感じがしてとても怖い。ので、この話はとにかく怖かった。あとまぁ、怖かったです。

 

「溢死体のポケット」pp.99-106

「このひとって、いつ首吊ったん?」p.104

男子学生四人、女子学生四人でキャンプに行った。合コンのような雰囲気で盛り上がる中、そのうちのひとりのA君のテンションがいきなりおかしくなり、スナック菓子片手に木に登り始める。そしてA君が掴んだロープの形は・・・。

一番好きな話。「ポケット」と「お菓子」で、あのビスケットの歌を想起させるようなエッセンスも心地よい。ぬるっとA君が奇行に走っているのもシュールギャグ面をカヴァー。

縊死体、というからにはまぁ首吊りの死体が出てくるんですけど、出てくるタイミングが変、という話。おかしい。死体はそもそもあったのか。それとも現れたのか。どこからが現実で幻で夢でリアルなのか、分からなくなる境界線も絶妙。最後は「え・・・?どういうこと・・・?」。

怖いというか奇怪。シリーズ5冊通して一番好きな話かもしれない。

あと、伏せられていたが「スナック菓子」ってなんだろ。僕はたべっこどうぶつと睨んでます。

 

「十二羽」pp.106-107

「鶏小屋のなかで、なにあったんでしょう」p.107

ある日小学生女児が掃除をするために鶏小屋を開けると・・・?

これもまさしく怖いというよりかは、謎、の話。

それが妙にリアルで凄い厭だった。死んだ鳥の羽根が「しっとりと濡れている」p.106とかもう、見たことないはずなのに、本当に視界に浮かぶようで、厭。

怪異自体は非常に淡白なものだが、福澤先生の筆力で一気に高レベルな「実話」に仕上がった一話。筆圧。

 

「まちがった」pp.114-118

三十年ほど前、Aさん一家は新興住宅地にある建売住宅を購入した。p.114

いろいろあって荒れる一家。ある日深夜遅く父親が帰っていると白装束を着た女が家の前で何かしていて・・・?

いやいやいやいや、「まちがった」じゃあすまないでしょ!!ってな一話。逆にそんなに恨み憎しみ募らせていたのにどうしたら間違えるん!?っていう。

大して反省していない感じも怖いですね。

「半径百メートル」といい、この「まちがった」といい、理不尽に巻き込まれる系は本当に厭だ。心霊スポットにも行ってないし恨みを買うこともしてないし・・・ってことはいつ僕自身も「まちがって」こういう目にあってもおかしくないわけで。

ちなみに、僕はこの「新興住宅地」は、聖蹟桜ヶ丘で想像しました。絶対あの住宅地深夜になったら怖いよな~。耳をすませなくても何かしら聞こえそう。

 

「奇縁」pp.126-131

境内で新年を迎えて神社を出たら、しだいに頭がずきずきしてきた。p.126

20代前半の時に女友達と初詣した日以来寺や神社に行くと体調を崩すようになるUさん。そういう方面に詳しい老婦人に相談すると、白髪頭の着物のおじいさんが憑いているためというが・・・。

すっごい不気味な始まり方だから、あ、これUさん死ぬか一生呪われるやつだと思ったら、まさかのロマンチックな終わりに度肝を抜かれた一編。え。奇縁ってそことそこの奇縁!?ってなる。

よくご先祖様が見守ってくれているっていうけれど、まさか未来の■■を見守るなんて・・・。ご先祖様のお墨付きってコトでしょ?確かに人生で数年間辛い時期は合ったかもしれないけれどそれはちょっと羨ましいなぁなんて思う。

あ、あと「奇縁」って、「きえん」で入力して出てくるんですね。「奇しくも」とかは出てこないのに。ぴえん。きえん。奇縁。

 

「茶色い絨毯」pp.144-151

「知ってますか。あいつらって石鹸も喰うんです」p.149

フリーターのIさんはバイト先の派遣会社で、平屋の掃除を同僚たちと受け持ったが・・・。

忌談。忌まわしい話で、タイトルが「茶色い絨毯」。いわずもがな、の話である。G~。石鹸も喰うのかよ最悪だなって思った。一つこの話で賢くなったぜG~~。

でも石鹸ですら喰うGが寄り付かないところが・・・印象的だった。最近Twitter界隈で「裏バイト」という漫画が盛り上がっていますが、まさしく裏バイト実話。

ちなみに、僕は人生28年目にして初めて「カサカサ」という音をききました。仕事からの帰り、駅のベンチに座った瞬間カサカサ・・・・っ。あれ本当に「カサカサ」いうんですね。あれが一気に聴こえるかと思うともうそれだけでトリハダです。

 

「同居人」pp.152-153

当時流行っていたプレハブ住宅で、夫婦とその姑らしい老婦人の三人が住んでいた。夫婦は四十代後半、老婦人は七十代前半に見えた。p.152

仲の良い三人家族がでかけたり、庭いじりをしているところを見かけていたが、ある日その家が火災で全焼した。

2ページだが、え?ってなる一話。え?え?え?

なんで「仲よさそう」にしていたのかが全く持って謎で気味が悪い。本来なら恨めしそうな顔で突っ立っているのが筋じゃないのか。それとも、本当にその老婦人は夫婦の「親」だったのか。

どういうこと?となる話。

「奇縁」が不気味な始まりからロマンチックに終わる、のと逆!!本編は平和な始まりから不気味に終わる。

面白い実話怪談の要素に「落差」っていうのもあるのかもしれないな。だからといって蒐集家の皆さんは安易に、親友の一人や友達の親族を死なせたり行方不明にしたり精神病院送りにしてはダメですよ。醒めるから。

 

「自殺の理由」pp.170-177

「こんな時間に、どこいくんかね」p.176

高校時代に主婦の自殺現場に居合わせてから、やたらと自殺現場や事故現場に遭遇するようになった派遣社員のWさん。ある日思い立って旅行に行き、温泉・カニ料理を堪能し、散歩に出ると・・・。

そういう現象ってあるんだ、となる一話。怖い、よりかは勉強になる。

人が死ぬ場所にやたらと遭遇する、というのはそれだけ「呼ばれている」かもしれないということ。そして「自殺」には必ず理由がある、という訳ではないこと。

そういう現場に出くわしたら、自分も気を付けなくてはな。と襟を正した。

 

「古井戸」pp.178-182

「まだ涸れちょらんけど、子どもが落ちたらあぶないけん」p.178

引っ越してから早々に庭の井戸を埋める工事が始まったが・・・。

井戸を埋めて家を建ててはならない。という、実話怪談好きなら誰しもが知っている常識を犯したらどうなるのか、といった一話。なんてことはない。怖いものがくるだけである。

その描写が非情の恐ろしかった。

「ひゃあああッ」

甲高い声で目を覚ました。p.180

なんだよ・・・ひゃああ、って・・・。これ悲鳴じゃないんですよ。怖いもの側の声なんですよ。ひゃああ・・・・・って・・・・うわぁ。まるで聞こえてくるかのような悲鳴でもな泣き声でもない絶妙な母音と子音の組み合わせ。

これだけ素晴らしい「ひゃ」の使い方はあれですね、2chスレの「ウヒャヒャヒャ」に匹敵する素晴らしい使い方だと思います。もっと怪談とかに用いられてもいいと思うんですけどね。まだまだ可能性秘めていると思いますよ、ひゃ。

 

「静かなアパート」pp.183-188

大学生のIさんが中学生の時に肝試しに訪れた静かなアパートは、「胃ろうアパート」だった・・・。

胃ろうアパート、というアパートの実態について書かれた一編である。実話というよりかは、こういう恐ろしいアパートもあるんですよ。物件紹介。

胃ろう・・・かあ・・・。うちの父方の祖父は胃ろうになってもう10年以上たつ。そして幼少期夢を見ながら歩いて会話していた叔母が務めている病院で、入院している。娘が不調を勤める病院で入院するのは恵まれている、とはいえるがどんな気持ちなんだろうか。衰弱していく自分を子に常に観察されているということ。あ、あと孫の顔を妻の死以来見れてないのはどう思っているんだろうか。

僕はかれこれもう27歳ではあるが、祖母の死・・・中学三年以来祖父とは会っていない。あ、高校時代一回行ったかも・・・行ってないかも・・・と言うのも北海道。父方の親族は全部北海道なのである。

いくら狭い島国と言えどまぐろどん・タウンの静岡と北海道は遠くて隔てる。最後に北海道行ったのはいつだろう。

なんか自分の親族に想いを馳せるという意味で、インパクトに残った一編。

あとやっぱこういうアパート、実在するみたいで「胃ろうアパート」と検索すると色々出てきますね。中京地区に密集しているそうな。まじか・・・。生きるって何なんだろうな。

 

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ちなみにこの「胃ろうアパート」は最後から2話目である。じゃあ最後の話は何か。

「戦友」。

ここで僕は福澤徹三に異論がある。

なぜ「忌まわしい話」を題材としたシリーズの最終話が戦争の話なのか。

戦争の話自体を「忌まわしい」とすることがすごく失礼だと思う。

最後こそ、老後を考えると避けがたい「忌談」、「胃ろうアパート」で終わって良かったのではなかろうか。

 

 

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結構こう見るとカラフルだわね

 

以上である。

概ね満足できたが、まえがきがつっまらんくなったことと、最後の話のセレクトに不満が残る一冊だった。にしてもやっぱり・・・文章力があるからか何なのか読んでいて非常に読みごたえがあるし面白い。福澤先生の実話本は今後も是非追っていきたい。

 

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LINKS

1~4巻の感想。

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20220311  去年の夏に書いた記事を編集した。半年以上前か。でも、編集しながらも不思議なことの話の細部は結構覚えているものである。結構観光年数から経ってしまったので新刊書店では見ないかもしれないですが・・・なかなかおススメです。とにかく文章がうまい。これに尽きる。