本を愛するすべての人へ。
2052年より。
クラフト・エヴィング商會『らくだこぶ書房21世紀古書目録』(筑摩書房 2000年)の話をさせて下さい。
【概要】
クラフト・エヴィング商會に奇書が届いて始まる、奇書まみれの日々ーー2052年から20世紀末の商會に送られてくる古本の数々は、驚きの製本とウィットに満ちた愉しさに満ちているのだ。
奇書が読みたいアライさん『奇書が読みたいアライさんの空想図鑑文学ガイド』p.8より抜粋、一部変更有
【読むべき人】
・本好き
・古本好き
※写真と共に楽しむ本で、150ページ程なので、本好きでも「ちょっと文字追うのは疲れてきたなぁ」という方にもお勧めです。本が、好きであれば。
※文庫本も出ているようですが、可能であれば僕と同じく単行本で読むことを勧めます
【感想】
本書の存在を知ったのは、奇書が読みたいアライさん『奇書が読みたいアライさんの空想図鑑文学ガイド』だった。
今は絶賛売り切れ中となっているこの同人誌では、タイトルの通り架空の物物を取り扱った図鑑・・・のような書籍を紹介している。結構僕の今年の読書を決定づけているといっても過言じゃない。紹介された『本田鹿の子の本棚』(架空の本)『幻獣辞典』(架空の生物)は読んだ。面白かった。だから本書は3冊目、ということになる。
入手したのは「古書ドリス」の通販サイト。東京・鶯谷にあるアングラ系の本の取り扱いで名高い古書店である。ありがたいことに、結構しっかりした通販サイトも設けており、僕は毎晩そこの「新着」のページをチェックしている。
そのページで、ら・く・だ・こ・ぶ、の文字列を見た刹那、「アライさんが紹介していたんだから面白くないはずがない」と「でも金がない」がなだれ込んできた。悩んだ。結構悩んだ。一週間悩んだ末・・・降雨うなことにまだ買われていなかったのを確認し、クリックした。購入した。1000円だった。
そしてまぁ届いても、あの時の直感は何処へやら。1週間はおろかかれこれ3か月近く積んでいたわけだが・・・5月中頃疲れがたまり職場を早退してしまった(4か月ぶり3度目)夕方、やっとこさ僕は手に取った。
ああ・・・2052年から1998-1999年の世紀末に送られてくる古書の数々・・・。それらは一冊一冊中身は無論製本までとことんこだわっていて緻密で迷路で、本とは・・・とか思ってしまう。本とは・・・。
今現在は2021年。30年後から20年前に贈られる書籍。僕の知的好奇心を存分にくすぐり、疲弊した僕の心を癒す。
その多くは内容が結構突飛なものばかりである。
例えば、堂島横分け倶楽部編『7/3横分けの修辞学』(堂島横分け倶楽部 2036年)は。横分け倶楽部を名乗る人々が制作した書籍で、7:3の正確な比率により分割された2冊から成る書籍である。
アンデロ・ボヤ『その話は3回聞いた』(箱舟書房 2008年)は「世界中に点在するさまざまな「おしゃべり老人」を訪ね歩き、主にその家族に取材をすることで、膨大な「3回きいた話」を採集」p.117した本で、総ての話が3回ずつ収録されている。厚い。2000ページ。
トーマス・デッカー著 八木田晶子訳『世界なんて、まだ終わらないというのに』(SLOW INK PRESS 2048年)は、あるしかけにより、永遠に読み終えることが出来ない書籍である。
その総てが、写真付きで紹介されているから面白い。7:3に分割された2冊の写真も、3000頁を擁する厚い長い背表紙の装丁も、永遠に読み終えることが出来ない書籍の一見普通の表紙も総て、この目に、することが可能。
当然である。だって、これらの書籍は、2052年から、1990年代末に、クラフト・エヴィング商會のもとに、実際に、送られてきた書籍なのであるから。
その写真があるのは当然、なのである。
上記の3冊はなかなか突飛ではあったものの、結構近いうちに僕が本屋で目にすることがありそうな書籍も結構見受けられる。
紹介されている書籍に限らずとも、似たような書籍を。
例えば、長谷川六太郎『屋上登攀記』(藤木書房 2036年)は、風情を求めてあらゆるビルの屋上を登りつめた作者が書いた一冊である。
これを読んで僕はこの同人誌を思い出した。
団地ブックである。
これは今はもう新しく新設されることはほとんどなくなった、団地好き達による団地好きのための一冊である。写真は無論、団地の間取りや団地を舞台にした小説、辞典、団地周遊のススメなどが収録されている。僕が愛読する数少ない同人誌の中の一冊である。
屋上、団地・・・・。題材とするものは違う。
しかし、その根底に流れるものに大きな違いはないような気がする。
わずらわしい人間社会から一歩離れて、己の視点で風情を見出す。
その「己の風情」を書籍という形で、多くの人々に伝え、共有を試む。
扱うものは違うといえど、2冊とも制作目的自体はほとんど同じと言っても過言ではない・・・気がする。
だからこの同人誌も封筒に入れて・・・砂を入れて、住所欄には「らくだこぶ書房」と偽装し、なんとか、なんとかして1998年の「クラフト・エヴィング商會御中」に送ることが出来れば、もしかしたら本書で紹介される書籍は、22冊ではなく23冊に増やすことが出来るのかもしれない。
惜しむらくは、僕がその手段を心得ていないことだ。年数を指定して郵便物を送る方法は愚か、この商會の住所すら僕は知りやしない。
文学ガイドでもアライさんは単行本で読むことを勧めていて、僕は実際単行本で読んだわけだが・・・それはまぁ確かに単行本一択だわ。と思わざるを得なかった。
「21世紀」になぞらえて紹介された21冊の次の22冊目。は、衝撃の一冊である。
そしてその一冊をめぐる果てしない時間の仕組みを思うと、僕は・・・僕は・・・。
でも僕は、このギミックを知っている。谷川流『学校を出よう』*2の2巻目の、ナイフと同じ仕組み。これが分かる人にはもうモロネタバレなんだけれども、でもこのギミックに初めて触れた時は衝撃だった。
単行本は、その「時間のギミック」を120%楽しめる仕様になっている。文庫本で読んでもこんなの多分・・・あんまり、面白くないんじゃないかな。100%楽しめると思うけれども、100%であれば「学校を出よう!」よろしく今まで取り扱ったような創作物等山ほどありそうだし。
よって僕も、単行本での読了を勧める。まぁ古書で1000円・・・決して安くない訳ですけれども。
ちなみに、この目録の中で僕が一番読みたいなーと思ったのはスリーピング・シープ編『羊典』(書肆がすぱある 2003年)。理由は羊が好きなので。
以上である。
写真も付随した、未来の本の記録は、20年以上たった今でも決してその魅力は衰えることがなかった。むしろ時を経た分一層情緒が増している気がする。
決して手放したくない一冊。そして10年20年31年たって、この書籍自体の存在を忘れたころに再び、手に取って、もう一度読みたい一冊である。
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ガイドの感想
紹介されていた書籍の感想。本田鹿の子は本当おススメ。
団地ブックの感想。これ2-3合併号も買っているんですけど長らく積んでる。読みます。