小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

湊かなえ『贖罪』-女が背負う罪-


罪を贖え。
君だよ、君。
そう、女で生まれた、君。
まぁ・・・僕もなんだけどね。

湊かなえ『贖罪』(双葉社 2012年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】

15年前、空気が綺麗な田舎町で美少女小学生・足立エミリが殺された。犯人は逃亡中。
その男の顔を見た、当時一緒に遊んでいた四人・・・紗英真紀晶子由佳は、
15年後それぞれの人生を歩んでいたが・・・。
「あなたたちは絶対に許さない。犯人を見つけなさい。それができないのあら、私が納得できる償いをしなさい」(p.95)
エミリの母の宣告に、人生を狂わされていく。

【読むべき人】
・他人の気持ちを推し量ることが困難な人
・自分はワンランク上の人間だと自負する人
・復讐する人

【感想】
今作も、筆者の作品に多い連作短編集である。
・・・断言するのはちょっと危ない気もするけど、
まぁ章のナンバリングがないことと各章ごとに主人公が変わるので
そう称しても差し支えはあるまい。
今作も各章の主人公の独白で、物語の全貌が見える構成だ。

初めの四章は、発見した四人が主人公である。
その構成が見事。
一番初めの章「フランス人形」短編サスペンスとして単体としても楽しめる内容。
その次「PTA臨時総会」で、前章で謎がかかった部分をほぼ全て明確にする。解答編。
く「くまの兄妹」「とつきとおか」ではあまり詳細に語られなかった2人が主人公。
謎につつまれた残り二人の生き方を描きつつも、新事実を明かす。
そして最後の章「償い」で、エミリを殺したのは誰かそして何故彼女は殺されたのか・・・とうとう全貌が明らかになる。
初めにわかりやすいサスペンス
続いて所謂「解答編」
そして残り2人から語られる新事実
事件の全貌・・・。

続きが気になるよう順番が機能しているため、
1章60ページ余りあっても手が止まらない。
そして・・・・各章の名前。
「フランス人形」「PTA臨時総会」「くまの兄妹」「とつきとおか」「償い」。
関連性のなさが逆に気になって、ページを捲り続けてしまう。

勿論一章一章質も高い。
一人ひとりの迫真の独白が、見事。
タルトを通して、四人にとって事件がどういうものか示す描き方も面白い。
二人は成人して、大人として捉えなおそうとした。
一人は、死体を見た衝撃をそのまま引きずった。
一人は、無理矢理忘れた。

特に印象的だったのは、真紀の章。
序盤は誰もが思うはず。
「なんだこの女・・・やな女。
調べりゃドラマで小池栄子が演じているみたいだし悪女確定やんけ!!!!

でも終盤誰もが思うはず。
「真紀は悪くない!!!」
初めと終わりで真紀の印象が180度変わるのが凄い



ちなみに、僕が本作を読んで思ったのは
みんな、被害者意識ぶらさげてんな。
自分かわいそう自分かわいそう・・・。
明確に書かれているわけないが、登場人物全員こう思っている節がある。
「自分かわいそう」だから「かわいそうな自分は悪くない」。
だから終章まで皆罪に向き合うことが出来なかった。
でもこの被害者意識・・・というのは他人事ではない気がする。

僕は前社の上司に言われたことがある。
「被害者面してんじゃねーよ!!!」
仕事量、人間関係、その他いろいろでいっぱいいっぱいだった僕に、
この言葉ははじめあんまり響かなかったけれど・・・今なら少しわかる。
「自分かわいそう」する癖は僕にもある。
そしてそれは、最悪の逃げ。
だって「かわいそうな僕は悪くない」に繋がるから。
仕事の失敗も被るべき罰も全てが無意味なものになり、
僕は仕事を続ける強さを蓄積できなかった。

でも思うんだ。
多分女性の9割がたが「自分かわいそう」と思ってるんじゃないか。
同時に「自分は悪くない」
だからSNSで過剰に女性の権利を叫ぶ人が絶えないんじゃないのか。
庇護対象として生まれた以上女性はそういう意識を抱きやすいんじゃないか・・・・とも僕は思うんだけど。
そういった僕達女という性別が備える欠点を隠さず書いたのが本作ではないのかなぁ・・。



以上である。
連作短編集。
その順番とタイトルに作家の手腕が感じられた。
特にまっきーの章が僕は好き。
この小説を通して筆者は「自分かわいそう・・・」と常日頃思う女の欠点を指摘したかったのではないか。

そして・・・もし「自分かわいそう」すること=欠点「罪」ということが出来るならば、
僕達女性全員は罪を贖うべき存在であるのではないか。

エミリの死体はそれは死体か??
僕達の人生に換算すれば・・・日々積み重なる困難に置き換えられないか?
それに対して「自分かわいそう、だから自分は悪くない」で逃げてやいないか?
困難に向き合え。



ちなみに僕が湊かなえ作品で他に所有しているのはこちら。
湊かなえ夜行観覧車』(双葉社 2013年)
ドラマ化もしたよね。夏木マリが出てたことくらいしか覚えてない。
これも並行して家族の苦しみが書かれていて面白かったんだけど、
結末のカタルシスは『贖罪』そして『告白』のが上な気がするけど・・・どうだろ。

あー、あと、映画の「累」気になるんば。