小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

綿矢りさ『憤死』-著者随一の駄作-



読んだ僕が憤死しそうになった。

綿矢りさ『憤死』(河出書房新社 2015年)
の話をさせて下さい。



【ストーリー】(表題作)
小中の頃に仲良くしていた、醜い親友が自殺未遂をしたという。
見舞いに行った私は、理由を聞いたとき、ある言葉を思い出す。
「憤死」。

【詠むべき人】
・いない。
・これ読むなら
最近映画になった『勝手にふるえてろ』をまず読んでくれ。

【感想】※批判的な感想になります。大きなネタバレはしない。
綿矢りさ随一の駄作だと思う。
実はこの作者は割と好きで、『勝手にふるえてろ(文藝春愁 2012年)『かわいそうだね?』文藝春秋 2013年)『夢を与える』河出書房新社 2012年)『ひらいて』(新潮社 2015年)と読んできて、今作はじつはこの著者5冊目にあたる。
今までの4冊もまぁ多少僕の中でばらつきがあるといえども、比較的良作が多かったから今回も大丈夫だろうと思っていた。
いや、ぶっちゃけ後ろの文章に僕の好きな物語の分類「怖い話」と書いてあったから期待すらした。
甘かった。
読む前の僕を助走つけてぶん殴りたい。

まぁ、まず表題作の話をさせてくれ。
「憤死」というのは、「激しい怒りのうちに死ぬこと。」(参照:コトバンクである。
本作のp.114にもあるように、「世界史B」を選択した一握りの高校生のみが知る言葉である。ボニファティウス8世の死因として出てくる。「憤死と言ったらボニファティウス8世、8世といったらボニファティウス8世」の永久機関マジカルバナナが楽しめるほど、彼のとこしかでてこない。
まぁ、何故醜い親友が「憤死」に至る心情を延々書いているのが本作。
なのだけれども、これが非常にいまいちなのである。
緻密な心理描写が筆者の持ち味で僕もそこが好きなのだけれども、
今作は憤死した親友を、主人公の「私」を経由して描写している、つまりワンクッション置いているので、なんか薄い。
豪勢で憤死する親友と対比するために、「看護師」「バイト」「地味」と堅実で地味(しかしそのことに誇りを持っている)主人公を配置しているんだろうけれども、その主人公の心理描写が余計。いらない。長い。ぶっちゃけ君には興味ない。
しかも長い割に、中途半端で・・・終盤に「世界史」好きと唐突歴女宣言されても、いやはやなんとも戸惑った。
で。
この主人公に変にページを割いているので、物語の全体像がなんか見えない。ピンボケしている。
正直この主人公蛇足だったと思う。
醜い親友を主人公に据えて20ページほどの濃い短編にすべきだった。
「豪勢」「憤死」の親友と「地味」「堅実」私の対比が焦点であれば、3人称で描くべきであったと思う。
とにかく、38ページ無為に感じたそんな短編であった。
河出書房の編集者、まじ仕事してほしい。

今作は、他に2編の短編が収録されている。「トイレの懺悔室」「人生ゲーム」なのだけれども、決して両方良い作品とは言えない。
「トイレの懺悔室」。大きく分けて欠点は3つ。
1つ目。前半に出てきた祭りの描写全くいらないよね?「夏休み」だけでいいじゃんか。
2つ目。主人公達が少年である理由。綿矢先生しては珍しく「男」の主人公なのだけれども、描きなれていないせいかなんか違和感がする。
で、今作のような作品であれば「女」の方が気持ち悪かったと思うんだな。挑戦が無駄。
キャラもいまいち把握しづらかった。祭り描くなら彼等の特長・エピソードに割くべきなのは明白。
3つ目。結末のカタルシスが足りない。
「だから何?」って感じ。
もっと言うと途中までも「不気味な雰囲気」出そうと工夫が凝らされているんだけれども、慣れていないせいか、なんか全然伝わってこない。ホラーホラーしたいんだなという意図が見え透くのみ。
で最後の結末もいまいちなもんだから、
ぶっちゃけ僕は今作を読んで本をたたきつけたくなりました。
「人生ゲーム」。これは前述した2作よりはまだマシ。
ただ、大きな欠点1つ小さな欠点1つ。
大きい方。親友・コウキのピンチが及んだ時の主人公に違和感。親友のピンチであるなら、あの少年に何としてでも会おうとするのが普通じゃないのか。
「親友のため」とか言いながら会おうと全くしないのは、40代だからボケてきてんのかとすら思う。
小さい方。最後のシーン。少年へ向けた主人公の言葉。
いくら老人だからって「ございます」なんて敬語使わないと思うんだけど。
だいたい、こんなかんじ。
ゆうてそんな読書歴が深くない僕でもこれだけ欠点が挙げられるのであるから、
今作読む必要なんてナッシングだと思うんだな。

唯一面白かったのは、一番初めの掌編「おとな」。
不必要な文はほぼなく・・・まぁ6ページだし、不思議な余韻に浸れる。
他の3作品も6ページにしたら面白かったんじゃないかな。
綿矢りさ先生の掌編集出たら、絶対買うよ?僕。

以上だ。

本作は「怖い話」と書いてあったが、全く怖くないし、これ怖いと言う人がいるのならば、僕はそいつの神経が怖い。
あと、全体にホラー・怖い話に不可欠な「スピード感」がないのも致命的。
著者特有の「緻密な心理描写」が、悪く作用している。
あと表紙と中身もちぐはぐ。なんかもっとあったろう。こんなかわいい感じではなかろう。



ちなみに同じ河出文庫から出ている『夢を与える』の方が10倍怖い話だと思うね。
あれだけ終始絶望に満ちた少女の話はそうそうない。
小松菜々主演でドラマもやっていたはず。
綿矢りさの怖い話を読みたいのであれば、そっちを読むことを、僕は、強く薦める。