小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

本谷有希子『嵐のピクニック』−現代日本メルヘンの13-


奇妙で、独創的で、鋭利で、チャーミングで、ロマンチックで、5gのガーリー。

1編1編そんな魅力的な世界がぎっしり詰まった短編集。

本谷有希子『嵐のピクニック』(講談社 2015年)の話をさせて下さい。



【ストーリー】※一番初めの短編「アウトサイド」
向上心がなく練習を全くしない私に対して、
ピアノの先生は初対面で優しい笑みを浮かべたが。
笑みはやがて疲れ、やつれていき・・・。

【詠むべき人】
本谷有希子の2作目を悩んでいる人
・絵本チックな小説を読みたい人
・メルヘン・メドヘン

【感想】※ネタバレなし
13編が収録された短編集。
短編、の中でもかなり短編。本作(解説を含んで)200ページ、最長の短編が22ページ。
そのためあっさりした後味のものが多いが、
どれも限られたページにぎっしり濃密に描かれている。濃縮還元万歳。
満足度高い短編集。

特に世界観が独創的。
例えば、終始カーテンのふくらみについて書いたもの(「私は名前で呼んでる」)、ボディービルダーへ転身する主婦の切なさ(「哀しみのウェイトトレーニー」)、サル山×チンパンジー(「マゴッチギャオの夜、いつも通り」)等等今まで読んだことのない短編ばかり。

読み終えて1週間以上たって、僕はまぁぼーっと目次だけ見たんだけれども、
タイトルだけで内容をどれも・すぐに・かんたんに説明できる。
それくらい、一つ一つが独創的で鮮烈。
ただ、そういったアイデアに終始するのではなく、緻密な心情や、予想外の結末、くすりとするギャグ、辛辣な価値観等「+アルファ」を丁寧にどれも織り込んでいる。
でもでも、どの作品も30ページに満たない。短い。てのひら。だから無駄に冗長であったり、不必要な設定等も見当たらない。
洗練されているんだと思う。
心地よい。

特に僕が好きなのは「アウトサイド」「Q&A」「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」。の3つ。
まず「アウトサイド」
疲れた末の、最後の、ピアノの先生の行動が強い。
たったp.16の3行でしかないんだけれども、今作で一番鮮やか。
同時に悲しくなる。切なくなる。苦しくなる。
行為に至る先生の心情と、「自らの変化等相手にとっては些細なことにすぎない」と知った私の心のヒビ。
その、
自分のことなど大して相手は気にしてないと知った時の誰もが思春期に味わった衝撃を伴っているから、
あのシーンは残るんだろうな。
高校の教科書に載ってもいいんじゃないかな。・・・まぁ載せられないだろうけれども。
次。「Q&A」
死に際の女性芸能人のQ&Aを収録した短編。
オチが強烈で、「くはっ」と笑わずにはいられない作品。なるほど、僕等乙女は寂しくないぞ。
ただ、前半p.118の彼女の辛かったこと、
後半p.124での23歳の家事手伝いからのQ&Aは、誰もが重い当たりがある、と思う。ちなみに僕は、ここを読んで慌てた。あわあわ。
恐らく今作を読めば、
テレビでインテリ風をぶうぶう吹かせて足を組んで話す美女をお見る目が変わったり、
待つことをやめたり、
何らかの小さな変化はある、はず。
最後。「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」
タイトル通り、何故私がくすりとするようなったか理由が書かれた短編。
まずその理由が面白いし、最後のまさしく「ちゃんちゃん♪」て感じの結末が僕は大好き。
ネタバレするので細かくは触れないが、
読めば「ビニールシートを見るたび、くすりとしてしまうように」なること必至。

以上である。
ちなみにどの作品も奇妙なんだけれども、何故どの作品もどこか「キュート」で「ガーリー」なんだろう。謎。
主人公が女性だから?
恋愛を描いた作品があるから?
いや、それだけじゃない、それだけじゃないんだよ。
その理由が僕にはわからない。
現代日本メルヘン。彼女の作品の魅力は、案外存外めちゃくちゃ深いのかもしれないな。



ちなみに本谷先生の作品で読んだことあるのは、これ。
本谷有希子『ぬるい毒』(新潮社 2014 年)
こちらの作品も面白いんだけれども、
『ぬるい毒』は他の女性作家でも似せた作品は書けると思う。
けれども今作『嵐のピクニック』は本谷先生にしか書けないと思う。
まぁどちらも良い作品には、変わりないんだけれども。ね。