小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

京極夏彦『虚談』-小説上に虚ろな話を成立させる必要性はあるのか。-


虚の話をしようか。

京極夏彦『虚談』(KADOKAWA 2018年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
私は高校の同級生大垣に呼ばれ、
久々に居酒屋に足を運んだ。
彼が口にしたのは、卒業直前に火事で亡くなった清美の話で・・・(「レシピ」)

「幽談」「冥談」「眩談」「旧談」「鬼談」に続く、
京極夏彦の短編集「談」シリーズ第6弾。

【読むべき人】
「嘘」をテーマにした本を読みたい人
・不思議な短篇集をあっさり読みたい人
世にも奇妙な物語を読みたい人

【躊躇うべき人】
有耶無耶で終わる作品が嫌いな人

【感想】
シリーズ。
というのは、京極先生の短編集シリーズで、
それぞれテーマを定めて
それにそぐう30ページ前後の作品が収録されている。
僕はこのシリーズが実はかなり好きで、
シリーズ4冊の文庫本は手元にある。

その最新作が今年に出ていたことを知って、図書館で見つけてしまった。
今までの刊行ペースを見ると、文庫化するのは約3年後。
待ってられるか!!!
読んだ。

けど・・どうだろう。
正直微妙だった。
今までのシリーズ、特に冥談、幽談、眩談ではそれぞれ強く印象に残る一遍があった。
読んだ後は衝撃で、
なんか一日中その短編自体が頭の片隅にあるような。
そういった作品が、あった。

だが今作はそういった作品が、ない。
強いて言うならば最初の「レシピ」であろうが、
どうもパンチが弱い。



原因は今作のテーマにあると思う。
「虚」。
本当かどうかわからない。
実在するかどうかすらわからない。
記憶が正しいのかどうかわからない。

そういった「わからない」全ての短編を終わらせている。
ふざけんなよと思う。
一つ二つだけならいいが、全部って。

要するに全部「ほんとかどうかわかんない・・・」で終わるから、
短編の個性が際立たないし、
この作品の存在感自体が「虚」にすら感じられるのだろう。

あの京極先生がこんな短編集出すはずないよ。

あと・・・これは僕個人の感覚かもしれないが、
いささか文章が読みづらくなっているように感じた。
京極先生の作品と言えば、
句点が多い代わりにすらすら入ってくるような文体が特徴で、
すらすらと怪異を語るから人気だと思うのだけれども・・・
今作はどうも詰まっている印象を受けた。
なんか、頭に入ってこないというかなんというか・・・。
読み易いことには間違いないのだけれども。
『厭な小説』と比べて読みづらく感じた。



以下簡単に各編の感想を述べる。
読んでも差し支えない程度のネタバレ有。
一番良かったのは「レシピ」

「レシピ」:スイートポテトを作っている際に亡くなった彼女はその後・・・
スイートポテトが強いインパクトを残す短編。
最後の2ページで語られる展開には舌を巻いたが、
伏線が若干弱く感じた。
別にその日何してたかなんて知っててもおかしくないと思うんだけど。

「ちくら」:隠居した老人にどこまでもついていく愛人が出来たが・・・
描かれる「怪異」は一番良かったように思う。
今までありそうでなかった。
ただタイトルの答えは提示しても良かったのでは。

「ベンチ」:アルカイックスマイルを浮かべる「おじさん」が確かにいたのだ・・・
タイトル回収が見事な作品。
最後のシーンは今作で一番記憶に残った。

「クラス」:デザイン学校のクラスメイト、御木さんが妹の話をするが・・・
の存在をはぐらかすくらいで良かったのではないか。
全部嘘でしたー。ばーん。だとあまりにも安っぽいしくだらない。
タイトルもいまいち。

「キイロ」:田舎の男子中学生がはじめた宗教の真似事がやがて・・・
怪物もの。
「キイロ」は不気味だけど、でも「だから何?」感が強い。
同じ怪物ものならば、
「幽談」ガムガムガムばばぁのが圧倒的に強い。
怖いけど、キイロは描写に個性がないのだと思う。

「シノビ」:松戸の一軒家に住む劇団員が話すには、どうやら家に忍者がいるらしく・・・
筆者の忍者知識が邪魔をした印象。
忍者とか興味ない僕にとって、冒頭は苦痛だった。
本筋に絡むわけでもないし、別にいらなかったのでは。

「ムエン」:ある日私のもとに奇妙な手紙が届き・・・
家系図を1ページつけてほしかった。
一番「嘘」がうまく書けていた作品だとは思うがおもしろくは・・・。

「ハウス」:女性ライターの話には一つ、嘘がある・・・
半分まで読めばまぁ展開は分かる。
それでもケージに入ってよだれたらす親族を飼う不気味なヴィジュアルを期待していたのに、
特に何もなくあっさり終わるから、微妙。
シンプルにケージでよかったのではとすら思う。

「リアル」:人を殺した夢を見るようになり・・・
所謂夢水清志郎シリーズではやみねかおるが繰り返し口にした「赤い夢」と同じ発想。
もしくは胡蝶の夢」。
何が現実で夢かわからない・・・ってやつ。
それを殺人事件でやってみたよ〜って話。
誰を殺したのか何故そんな夢を見るのか等の真相を一切追わないので、
意味が分からない。時間の無駄。
この作者の一番稚拙な作品ですらあると思う。



以上である。
どうも今までの「談シリーズ」と比べると、
レベルが明らか下がっているように思う。
すでに読んだこんな作品を、文庫で買わなければならないのか。まじかよ。

これなら3年待てばよかった、と思ったのは言うまでもない。

LINKS:
はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の冒険 フランス陽炎村事件』
京極夏彦『厭な小説』