小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

倉狩聡『かにみそ』-現代版カニ小説。-


かにが嫌いな人はいない。

倉狩聡『かにみそ』(KADOKAWA 2013年)の話をさせて下さい。




【あらすじ】

職に就いていない青年であるは、
流星群の翌朝、ごみと海藻が産卵する浜辺で蟹を見つけた。p.7
砂から始まり、野菜、魚、肉と食べる蟹に
私はあることを思いつく・・・(表題作「かにみそ」

父親が死んだ。
母親は幼いころに家を出てしまっている。
家に一人取り残された大学生・忍のもとにやって来たのは、
清野と名乗る、美しい女性だった。(「百合の火葬」

【読むべき人】
ニート、もしくはフリーター(「かにみそ」
・近年の若者が何考えてんのかわかんない人(「かにみそ」
・かにが好きな人(「かにみそ」
年上の女性ものが読みたい人(「百合の火葬」
喪服の女性ものが読みたい人(「百合の火葬」

【感想】
表紙のインパクトが半端ない。
厭でも目に入るし、忘れない、忘れられない。

デフォルメされた、
下の青年の虚無の表情と、
よだれだらだらの
きゅるんきゅるんの瞳の蟹の表情の、
対比がなんともいえない。絶妙。
個人的、小林多喜二蟹工船真横に並べたい小説ナンバーワンである。

越谷オサム陽だまりの彼女も手掛けた
西島大介さんのイラストであるけれど、
どちらの作品とも合っている。
うまく作用している。ように思う。

まぁこの表紙がずっと本屋で見て気になっていたから、
図書館で見た時うんまぁこの際に、と借りて読んでみた次第。

うん、まぁ割と面白かった。
ラノベすれすれの薄っぺらい内容かなーと思ってたけど、
全然そんなことなかった。
ニート小説と、喪服の年上女性もの小説
モラトリアムと、年上の女性モノ。
恐らく、男子大学生とかにダイレクトに刺さる小説なんじゃなかろうか。



以下簡単に、感想を述べる。
ネタバレを含む。
気に入ったのはやっぱ「かにみそ」かな。

・「かにみそ」:かにが人を食べるよ!!
表題作、且つ日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作である。
フリーターとニートを繰り返す青年の元に、
妖精よろしくミルモよろしく秘密のここたまよろしく、
がやってくるストーリー。

だけど、ただの「蟹小説」ではなく、
小林多喜二の「蟹工船」が「過酷な労働者小説」であったように、
本作は「モラトリアムニート小説」でもあったと思う。
対照的。

例えば私の両親は「善良な人間」p.8であり
共働き。
一方私はずっと家にいるが、
彼等はひとつとこおろに落ち着かない息子を責めたりしない。『お前が努力していることは分かっている、焦らずゆっくりやりたいことを探しなさい』と、雛を抱く親鳥のような鷹揚さをみせる。 p.9
自覚はしている。
もし私が親の立場なら、私のような子どもは嫌だ。何を考えているかわからない、凡庸な、気が向いたときに働き、そうでないときは癒えで無気力に過ごしている二十歳を過ぎた子どもなど p.9

私は中盤、
蟹のエサ費用捻出のためはじめたバイト先で、
女性社員・田淵と付き合う。
しかし事後、彼女は
「なんで!そんなことを言ってられるのは今だけよ!あなた、いつまでも親が生きていると思うの?そんなままで、どうやって暮らしを立てていくのよ!親がいつまでも甘やかしてくれると思ったら大間違い。人生そんなにぬるくないわ!」p.48
と怒り、
「・・・・・ぬるま湯でだらだら過ごすのに不満もないかわりに、向上心もないのね」p.48
返事をしない私に、
彼女は、猫の媚態をまねてすり寄った。
「嘘よ。怒った?ねえ、聞いて。あたしあなたが心配なの。できるかぎりのことをしてあげたいだけなのよ。だって、いつあでもそんなふうに生きられないでしょ」p.49
直後、私は田淵を絞め殺してしまう。

後に田淵は片親と判明し、発言の意図が垣間見えるが。

この、
二律背反が胸に迫った。

働かないことに対して、
何も言わない親に甘えていることを自覚しつつも、
他人に指摘されるのは琴線に触れる。


やりたいこともないしけれど、何もしたくないことはない。
鉛のようなモラトリアム。
共感。
多分と同じような若者は多いんじゃなかろうか。

そこにを入れるのが蟹である。
子どものような女性のような言葉で語りかけてくる蟹には、
耐えがたき本能、食欲がある。
その蟹を食べることで、私は生き生きとした衝動を取り戻す。

現代の、学生・若者を囲うモラトリアムを啓発する小説なのかもしれない。
だとすれば、
まぁ多少グロいシーンは有れど、本作は「ホラー小説」とは言い切るのはイケてない。
この話は奇譚であはっても、ホラーにするには無理があったように思う。p.244 貴志祐介の選評より

啓発書か、何かの類をした深い話。


裏表紙には「百合の火葬」を彷彿とさせる百合?のイラスト。

・百合の火葬;清野さんが百合を植えまくるよ!!
年上の女性モノである。
40前後の妙齢の美しい女性・清野が、
大学生・忍の一人暮らしにやってくる。

百合。
というのは、吉永小百合よろしく非常に美しい花ではあるけれど、
国生さゆり宜しく少し恐怖を覚えるのも確か。

その百合をちゃくちゃくと植える女、清野。
朝起こし味噌汁を作り夕飯まで用意。
だらだらする大学生を嫌味一つ言わず支える
溢れる母性。

けれどああだこうだあって、終盤、
百合の火葬を終え、清野と別れたあと忍は
明日からは自力で起きなくてはいけない。どうせ先輩の言う飲み会は合コンに決まっている。面倒だが、少しは身ぎれいにしておくか。p.233

「蟹」「モラトリアム」が作用しているように、
本作が「百合」「母性」を繋げようとしているのは確か。
けれどどうもその結びつきが弱いように思う。

増える百合が母性だったとして、作者は何を描きたかったのだろう。
母親から自立する若者?
時には人をも病ませる本能の母性?

どうもそこが掴めない。

それでも、「かにみそ」での蟹の描写がそうであったように、
「百合の火葬」の百合は細部まで書かれている。
庭にたくさんの百合が揺れる
美しく、
不気味な、

情景は、
目に浮かぶよう。

清野さんは妙齢の女性魅力たっぷりに喪服で現れ、美しいし、
中盤からはB級ホラー映画さながらの展開。

読んでいてつまらないこたぁない。
まぁまぁ面白い。




以上である。
かにみそは、
同時代の若者を描いているという点では、
現代の蟹工船ともいえるのかもしれない。

あとカニ食べたい。

こんな感じ。

LINKS:
越谷オサム『陽だまりの彼女』